[淫(あふれる想い)] 舟のない港 (十一)軽いスィング調の音がながれるなか、
軽いスィング調の音がながれるなか、オーダーをメモったウェイトレスが意味深な表情を平井に投げかけながらオーナーのもとに戻った。「いつもとちがう雰囲気の楽曲だね。ここのオーナー、マイナーな奏者が好きでさ。フランシスコ・キコのピアノとか、レイモンド・コンデのサックス、ドラマーだとジーン・クルーパあたりかな。日本人のさ、ナベサダとかシャープ&フラッツの原信夫なんかも、たまにだけど聞かせてくれるんだよ」軽口をたたく平井にたいし、「この雨だしね。軽い曲のほうが、お客さんたちにはいいだろう」と、オーナー自らが運んできて、平井に対しこたえた。男は、平井のたいくつな世間話など耳にはいらず、「ああ、そう」とことばをかえしていた。兄のとなりから見つめている痛いほどの彼女の視線が気になり――内装やら壁にかけてある写真類、そしてカ...[淫(あふれる想い)]舟のない港(十一)軽いスィング調の音がながれるなか、
2025/01/31 08:00