水たまりの中の青空 ~第三部~ (四百五十六)
自宅にもどり、千勢からきょうの武士を聞くにつれ、すやすやと眠っている武士を見るにつれ、小夜子のこころにまた、たゆたう想いがうまれた。〝武士のいまは、千勢だけが知ってるのよね。つかまり立ちした、ヨチヨチ歩きをした、ことばを発した。千勢のことばでしか、わたしは武士を知らないんだわ〟いま。家のあちこちにあった武蔵のにほいが、日いち日とうすれていく。おとといは玄関からにほいが消えた、そして廊下のかべからも。「ガラガラ」と音をたてて、武蔵がかえってくる。ドタドタと音をたてて。千勢が走ってくる。「騒々しいぞ、千勢。せめてパタパタにしてくれ」。そう武蔵が言う。ところが二階からは、ドカドカという音をたてて、こんどは小夜子が下りてくる。苦笑いをしながら、こりゃだめだと肩をすくめる武蔵だ。「おかえり!」。そのひと言に、武蔵の...水たまりの中の青空~第三部~(四百五十六)
2024/12/31 08:00