シンディは「はぁ」と、わざとらしいまでの大きなため息をついてアリアを見据える。 「ねえ、アリア。あなたが王太子殿下と懇意にしているってうわさを小耳に挟んだのだけれど、本当?」 ドクンッと不穏に胸が鳴る。握りこぶしのなかにまで汗をかいた。 アリアは笑顔のまま首を傾げる。質問には答えない。答えられない。 「あなたはすぐ、そうやって……笑顔でごまかすんだから」 眉をひそめてシンディは…
いまにも雨が降り出しそうなどんよりとした暗雲が広がるある日、アリアは公爵本邸の応接室にいた。 (お話って……なにかしら) 継母のシンディに「話があるからすぐに会いたい」と言われて応接室で彼女を待ちはじめて三十分ほどが経った。 シンディが自分に会いたがっていることはメイドを通して聞いた。つい一時間ほど前のことだ。 (私と会う約束を忘れてしまった……わけではないだろうし) だとすれ…
アリアは彼の意図を読み取ることができず、目をつむるしかなかった。 (ずっと見つめていたら、四六時中サディアス様のことばかり考えるようになってしまいそう) それでなくても、気がつけば彼の姿が頭のなかに浮かんでいる。ここ最近はずっとそうなのだ。 きっと、以前にも増して彼がこの部屋を訪ねるようになったせい。手を握ったり、ときには抱きしめられたりする機会が増えたせい——。 まぶたを震わせて…
「私に差し上げられるものでしたら、なんでもお渡しいたします」 彼がなにを欲しているのか見当もつかなかった。それでもアリアはふたつ返事をした。サディアスに誠心誠意、応えたいと思った。 彼の手がおもむろに動く。ごつごつとした細長い指先が、唇に触れるか触れないかのところをすうっとたどった。 「きみの、唇」 アリアはきょとんとして、何度も瞬きをする。 唇は取り外せない。どうやって渡せば…
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