2025年3月
【エモい】まだ蒸し暑さが残る夏の19時。茜色と紺色の混じる空を見上げている。「カラスさん飛んでる」「太陽さんばいばい」「雲乗りたい」膝に抱く2歳児が笑顔を見せる。ーーこの子は今心を育てているんだな。そう気づいた瞬間、猛烈に熱いものが胸の内に込み上げてきた。少し興奮めいていながらも、小刻みな振動が情緒をゆする。空気を吸えば懐かしい匂いがして、一瞬でも音量がさがった世界の奥、心臓の音が近くに聞こえた気がする。ーーああ、この感情をもしかして『エモい』と言うのかな。エモいエモいって言葉、うまいこと意味を掴めなかったけれど、ああ確かにこれはエモい。うん、エモーショナル。こういうときに使うんかな。エモい、って。新しい表現に出会って心が浮き足立つ。人生30年以上生きてきてるけど、まだまだ知らないことだらけだ。この子が育...ご武運を
新生児期からほぼ完全母乳で育てていたのだが、2歳半を超えたあたりで授乳回数や時間がガクンと減った。卒乳は本人に任せることにしていたが、身体も大きくなり食事の量も増える中、授乳0回の日も増えてきた。そろそろ卒乳か。長かったな。呑気に思っていた矢先のある寝かしつけの夜だった。「オッパイバイバイなの」2歳児、唐突に言い出す。「本当にバイバイなの?」「うん」「オッパイもう飲まないの?」「うん、バイバイ」「そっか」『そろそろ』『そういや最近減ったな』と思っていたものが、ある日突然終わる。哺乳瓶や抱っこ紐もそうだった。そういえば最近出番が少ないなと気づいた瞬間、もう君は一歩も二歩も先をスタスタ歩いている。その後ろ姿に成長の喜びと、ほんの少しの寂しさを感じながら、慌てて追いかける。長い付き合いだったオッパイも、お別れの...愛しさと寂しさの間
夫の友人が亡くなった。長い付き合いの友人で、結婚前も後も夫婦ぐるみで親しくしていた。独身男性によくある自由奔放な食生活を送っているタイプだったのもあり、結婚が決まったときは夫も私も喜んだ。私たち夫婦にとって、弟みたいな存在だった。自宅での自死だったらしい。今年の春先に体調を崩して会社を休んでいたが、復帰したとも聞いていた。「暖かくなったら釣り行こうぜ」夫と電話で話していた矢先の訃報だった。混雑するバイパスを抜けて、首都高に飛び乗る。道中の車内は、雨のせいもあってかいつもより静かだった。都心に向かう道は少し混雑していたが、充分に流れてはいた。「なんでそっち選んじゃったんだろうな」聞こえるか聞こえないかの声量で夫は言う。見たことのない横顔だった。なんと声をかければいいかわからず黙っていた。夫もそれ以上何も言わ...箱崎にて
2025年3月
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