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  • 家族とは

    夫婦最後の仕事 私と夫の主治医は一緒だ。すぐに時間外での受診予約が取れたようだ。翌朝、「午後から受診してくれるって先生が言ってるんだけど、お願いできますか?」と夫から電話がかかってきた。離婚届が頭をよぎる。前夫との離婚の時もそうだったが、決めるまでは割と早い。が、たかが紙切れ一枚。されど紙切れ一枚。ヤツを書いて提出するまでのメンタルの削れ具合はハンパじゃない。 私は、どちらかというと字を奇麗に書くタイプだが名前からして手が震えてミミズののたくったような字を書くのがやっとだった。左手で右手首を押さえながら書いても、だ。しかも名前と住所を書くだけで二時間かかった。 提出時に至っては意図して感情を飛…

  • 誰も悪くない

    戸惑い そのまま電話に出なければ良かったんだろうけど。私は弱い。元夫からの着信がまるで神様が差し伸べて下さった手のように感じた。 「もしもし。」 「よう。なんか色々あったみたいだな。大丈夫なのか。」 「はあ。」 我ながらなんという気の抜けた間抜けな返事なんだろうと思う。元夫はそれでなくても口数の少ない人だ。久しぶりの電話なのに何とも言えない沈黙が流れる。メールなんか打った自分がそもそも悪い。何も知らせなければ、思い出す事だってなかったはずだ。つくづく何をやってるんだろうなと思う。 「あの…すみませんでした。」 「何を謝ってるの?ああ、電話しないほうが良かったか。」 「いや!そういうんじゃなくて…

  • さようなら、好きな人

    最後の酒 帰りの飛行機で爆睡している夫を横目に財布を確認する。夫に渡したのはメインバンクの通帳とカードで、数十万だけ移しておいた別の銀行口座があった。ちゃんとキャッシュカードは入ってる。家を出る段取りを考えているうちにあっという間に空港に到着してしまった。行きは遠く感じても、帰りってやっぱり近いと感じるんだよなあと思う。それは自宅への帰路でも同じだった。こんなどうでも良い事がこの世の真理だったりする。 家に到着したのは21時位だったと思う。夫は爆睡していて機内食を食べてないし、私も断って食べてない。 「大事なものだけスーツケースから出しちゃうわ。」と言って、必要最低限のものをボストンバックに詰…

  • こたえあわせ

    空虚な抵抗 新婚旅行初日の出来事を数回に分けて書いた。正直なところ「初日にしてこの有様」だ。自分でもそう思う。が。こんな程度で事態が改善されるのであれば、そもそも私は自殺未遂をするほど追い詰められてないという話。翌日からは輪をかけて酷くなっただけだった。 胃のむかつきを覚えながら10時頃に目が覚めた。嘔吐するほどの二日酔いでなくて良かったと思う。テーブルには半分ほど空けた紹興酒のボトルと、結局は使ったミニバーのボトルやらビールの缶が散乱していた。腹立ちまぎれにやけっぱちになって夫と一緒になって飲んだところで、具合が悪くなってりゃ世話ないわなと歯を磨きながら思う。夫はまだグースカ寝ていた。 準備…

  • あなたの心はどこにいるの?-2

    貴方から見た世界は 慌ててスーツケースに衣類をしまって鍵をかけた所で、夫はようやく落ち着きを取り戻した。 「それでいいんだよ、それで…」 とブツブツと言っている。 私はボーゼンと立ち尽くしたまま 「そこまで言わなくても良いじゃない。酷い。」 と言ってしまっていた。唇が震えていた。 会話の成立しない世界。もうずっと。覚えてられないくらい前からずっとだ。 夫の前で泣く事だけは避けてきた。私は戦っていた。何かは分からない。とにかく泣いたらお終いだとだけ思って過ごしてきた。 けれど ツーッと涙が頬を伝う。 「ごめん、そういうつもりじゃなかったんだ。ごめんね。」 私の涙に気づいた夫が慌ててバスルームにタ…

  • あなたの心はどこにいるの?-1

    消耗戦 台湾の空港についてから何も飲むことが出来ないまま、九分への半日ツアーがスタートした。地図で少し見た感覚通り、高速を使って約1時間半はかかるとガイドは言う。ごく少数でのツアーだったので、夫が車内で飲酒をすることはなかった。同乗した家族連れが空港で買ったと思われる水を飲んでいる。 「良いな…」 台湾は想定外にカラッとしていた。そしてバイク通勤がメインの国であり、粉塵が思ったよりも酷い。カバンの中に数個だけ入っていたガムで何とか凌ぐ。クーラーが良く効いているので現地までは我慢する事が出来た。 九分と言えば、台湾一の観光スポットである。時期を外して来たがそれでもすごい人だ。基本的に急勾配で階段…

  • 終わりの始まり

    新婚旅行 「え?何だったっけ…」 「?新婚旅行の話だけど。ほら、九分行きたいって言ってたでしょ?このオプショナルツアーが良いと思うんだけどさあ。」 一週間の帰省から戻ってきてヤレヤレと腰を下ろしたところで、唐突に夫から話しかけられた。 記憶から抜け落ちてたのはこれかー!と思った。よりによって新婚旅行の計画をしていた事を忘れるとは。でも、この話ってこんなに仲が拗れる前の話じゃなかったっけ?いや、ツアー予約しちゃってたか…「行きたくない」と中にいる自分が騒いでいる。その一方で「もう新婚旅行ぐらいしか現状を打破する出来事はないのでは?」と囁いている自分もいる。 自殺未遂をしてから夫は毎回のように「今…

  • ターニングポイント

    外の景色、外の時間 私の実家は、こちらの在来線特急と新幹線を乗り継いだ先にある。東京駅まで来ると殆ど地元も同じだ。山手線から流れる景色を見ていると、張り詰めていた気が抜けていくのが分かる。両親に会って何を話そう、と思う。多量服薬による自殺未遂の場合、一番の後遺症は記憶の混濁や前後の記憶がなくなる事だ。おそらく我慢の限界が来て発作的にやった事なんだろうが、トリガーになった出来事はあったはずである。それが思い出せない。 自殺未遂の前、私たち夫婦は私の金銭管理についてかなり揉めていた。結果的に夫が私の通帳とカードを管理することになって、もう逃げだせないと絶望したのだと思う。いや、それだけだろうか?こ…

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