母、身罷る ＜後編＞

（前編からの続き） 受話器の向こうの妹の声が遠くなっていく。 母危篤の報せも、にわかに信じがたいというのに。亡くなった？亡くなったって……本当に？？ 「……もしもし？聞こえてる？」 妹の呼びかけに我に返った。うまく返答できない、言葉に詰まってしまう。 「ご、ごめん、急なことでちょっとその……、すぐには帰れないかもしれない」 混乱していた。そう伝えるのが精一杯だった。 「無理しないで。葬儀とか手配しなくち...

母、身罷る ＜前編＞

先々月、1月の終わり頃だったろうか。 なんとなく衣装ケースを整理していて見つけた母の手編みのセーターを、実に30年以上ぶりに引っ張り出し、連日着ていた。モヘア糸独特の細い毛羽立ちはだいぶ目立たなくなってしまったが、かのこ編みとなわ編みでデザインされた母オリジナルのセーター。淡いピンク、ライトブルーに近いパープル、ペパーミントグリーン…一本の糸が部分的にそれらの色に染められていて編み地は不思議な彩りとな...