第3374日目 〈永井荷風「元八まん」を読みました。〉
永井荷風に「元八まん」という随筆がある。それを教えられたのは御多聞に洩れず平井呈一の文章であった。典拠を確かめるために該書を引っ張り出そうとしたが、あいにくダンボール箱の山の後ろの本棚にそれはあって出してくることができない。ただその文章が牧神社版『アーサー・マッケン作品集成』のどの巻かの解説であったのはまちがいない。創元推理文庫の『恐怖』でたしかめると、その文章は第2巻『三人の詐欺師』所収「赤い手」解説の一節であった。 かいつまんで申せばマッケン文学の特質の1つとして、世紀末ロンドンを隈なく歩きまわり、目にする風俗を捉えた一種の都市綺譚、の趣を呈すところがある。それが平井翁をして荷風の『濹東綺譚』や『日和下駄』、そうして「元八まん」などを想起させる、というのだ。思い出してみればわたくしが荷風散人の文学へ一歩足を踏み入れ、断続的ながら今日まで読み続けてきているのはこうした指摘に導かれて..
2022/04/30 02:00