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おだやか読書日記 https://theblankpage.hatenablog.com

国内海外問わずミステリ小説が好きな管理人の読書日記です。稀にミステリ以外にも、怪奇小説やSF小説、ユーモア小説などを読んだりもします。

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2024/01/14

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  • 青崎有吾『地雷グリコ』(角川書店)

    収録作品 「地雷グリコ」 「坊主衰弱」 「自由律ジャンケン」 「だるまさんがかぞえた」 「フォールーム・ポーカー」 グリコ、坊主めくり、神経衰弱、ジャンケン、だるまさんがころんだ、ポーカー。誰もが知っている遊びに、独自のルールを加えることでオリジナリティー溢れる頭脳バトルが繰り広げられる連作短編集。 各賞を総なめし直木賞にもノミネートされている話題作とあって読んでみたが、これは相当面白かった。 主人公は女子高校生の射守矢真兎。表題作では文化祭での屋上使用権をめぐり地雷グリコなるゲームに挑む。ジャンケンで勝ったら階段を上るという遊びに、各プレイヤーが指定の段に地雷を仕掛けることができ、この地雷を…

  • エドワード・アンダースン『夜の人々』(新潮文庫)

    ベテランの囚人仲間二人と脱獄した若者ボウイ。彼らは思いつくままに次々と銀行強盗を繰り返しながら逃亡の日々を続けるなか、ボウイは恋人となるキーチーと出会う。 巻き込まれ型ではなく、冒頭から既に堕ち切った完全なる犯罪者が主人公のノワール小説。潔いくらいの悪党の逃亡劇と強盗の繰り返しの中で描かれる破滅的ながら叙情的でもあるアメリカ文学として非常に味わいのある作品だった。故にアクションやサスペンスといったインターテインメント成分はかなり控えめだが、本書にはそのような要素は必要ではなく、発表当時の1930年代における社会批判を描いた犯罪小説、またキーチーと出会ったことで揺れ動くボウイの葛藤を感じさせる青…

  • ラモーナ・エマーソン『鑑識写真係リタとうるさい幽霊』(ハヤカワ・ミステリ文庫)

    鑑識課写真係の主人公リタが女性が轢死した現場にやってくると、被害者女性の幽霊が「私は何者かに殺された。娘のところへ帰るのを手伝ってくれ、そして犯人を突きとめてくれ。さもなくば生き地獄にしてやる」とリタに付きまとい始める。ほかの人間に伝えてもおかしな奴だと言われるだけなのは目に見えているためリタは独自に捜査を始める。 幽霊が見え、会話もできる女性が主人公のミステリ。先日読んだ『死者は嘘をつかない』も同じく幽霊と意思疎通できる少年が主人公だったが、アプローチはだいぶ異なる。 鑑識課写真係として事件を調べる現在のパートに、幽霊が見えるリタの生い立ちを描いたパートが間に挟まれる構成で、この生い立ちのパ…

  • アガサ・クリスティ『ハーリー・クィンの事件簿』(創元推理文庫)

    収録作品 「ミスター・クィン、登場」 「ガラスに映る影」 「鈴と道化服亭にて」 「空に描かれたしるし」 「クルピエの真情」 「海から来た男」 「闇のなかの声」 「ヘレネの顔」 「死せる道化師」 「翼の折れた鳥」 「世界の果て」 「ハーリクィンの小径」 眼前で繰り広げられる人間ドラマを観察することを趣味としているサタスウェイト老紳士が視点人物となる。彼の前にクィン氏という謎の人物が現れることで、複雑な人間関係が絡んだドラマが発生する。 まずキャラクター設定が面白い。今まで読んできたポアロ、マープル、トミー&タペンスシリーズ、およびノンシリーズ作品とは違って、クィン氏という人物が非常に幻想的な存在…

  • アガサ・クリスティー『三幕の殺人』(クリスティー文庫)

    引退した俳優チャールズ・カートライトが主催するパーティで、招待客の一人である牧師が突然苦しみはじめ死亡する。毒殺が疑われたがカクテルには異常はなかった。その数か月後、別のパーティでチャールズの友人の医師が同じ状況で死亡した。チャールズとチャールズに惹かれる若い娘エッグ、演劇パトロンのサタースウェイトの三人は真相を探るべく二つの事件を調べ始める。 ポアロ・シリーズ長編九作目ながら、主役は三人の素人探偵、ポアロは脇役という異色作。正直、ストーリーの半分くらいは三人が赴くままに情報を集めるだけで大きな盛り上がりもなく退屈で、ポアロも一瞬顔を見せるだけである。 ところが、第三幕でポアロが再登場してから…

  • スティーヴン・キング『死者は噓をつかない』(文春文庫)

    『シャイニング』、『ミザリー』、『IT』など、言わずと知れたホラー小説の巨匠キング。興味はあったもののなかなか手に取らず、恥ずかしながらこれがキング初読である。 六歳の少年ジェイミーは死者が見え、会話もできる。そして死者は噓がつけない。この不思議な能力を持つジェイミーは、ある人物が死に、その死者と接触したことで不安に苛まれる日々を送ることになってしまう。 上に六歳の少年と書いたが、正確には二十二歳のジェイミーによる回想録である。すなわち、危険な出来事が起きても、少なくとも現在(二十二歳)まではジェイミーは死んではいないことが前提として読者にもわかる。しかし、ストーリー上のサスペンスの面白味がな…

  • 皆川博子『蝶』(文春文庫)

    収録作品 「空の色さえ」「蝶」「艀」「想ひ出すなよ」「妙に清らの」「龍騎兵は近づけり」「幻燈」「遺し文」 ハイネやダンセイニ、横瀬夜雨、齊藤愼爾などの詩句から材を取った八編の幻想小説集。 悲哀、淫靡、グロテスク、そして美しさが綯い交ぜとなる魅力が詰まった短編集で、そこに戦争という影が這い寄っている。 個人的ベストは主人公のわたしが、奉公先の奥様と秘密の儀式を行う「幻燈」。次点で同居する叔父の義眼と眼窩から溢れるグロテスクさ、住み込みの看護婦と関係を持つ淫靡さを少年の目から『楽園追放』の図と重ねる「妙に清らの」。 上記以外の作品も甘美とグロテスク、詩句が融合し流麗な文章となって胸に染み入り、読後…

  • 皆川博子『虹の悲劇 霧の悲劇 皆川博子長篇推理コレクション1』(柏書房)

    80年代にノベルス版で書下ろされた長編二作の合本。 どちらかというと幻想小説やその要素を含んだミステリを書くイメージが強かった皆川博子だったので、このようなミステリ作品を書いていたことは知らなかった。 『虹の悲劇』 佐世保や平戸など長崎を巡るツアーで、急遽内容を変更した長崎くんち祭で人雪崩事故が発生し、ツアー客の一人である斎田栄吉が死亡してしまう。添乗員の原倫介は、事故前夜に斎田が急に「帰りたい」と言い出したことを思い出し、斎田の息子である玉雄に告げる。原と玉雄は何者かが人為的に事故を起こさせて栄吉を殺害したのではないかという疑いを持ち調査を始める。 所変わって、佐世保市の美容室オーナー古鳥利…

  • 大阪圭吉『銀座幽霊』(創元推理文庫)

    収録作品 「三狂人」「銀座幽霊」「寒の夜晴れ」「燈台鬼」「動かぬ鯨群」「花束の虫」「闖入者」「白妖」「大百貨注文者」「人間燈台」「幽霊妻」 引き続き大阪圭吉を読了。こちらは10年程前に一度読んだが、内容は殆ど覚えていなかったため初読の気持ちで楽しめた。やはり大阪圭吉は良い。『とむらい機関車』と通読してみて改めてそう感じた。 思わずニヤッとしてしまうユニークなものから、やり切れない思いになってしまう湿っぽい結末を迎えるものまでバラエティに富んでいる。あえてお気に入りを挙げると、「三狂人」、「燈台鬼」、「動かぬ鯨群」、「大百貨注文者」、「人間燈台」、「幽霊妻」あたり。 「三狂人」は、脳病院の院長が…

  • 大阪圭吉『とむらい機関車』(創元推理文庫)

    収録作品 「とむらい機関車」「デパートの絞刑吏」「カンカン虫殺人事件」「白鮫号の殺人事件」「気狂い機関車」「石塀幽霊」「あやつり裁判」「雪解」「坑鬼」 10年ほど前に『銀座幽霊』を読んで以来久しぶりに大阪圭吉を読んだ。本格探偵小説としての味ももちろん感じられるが、個人的には犯行動機の意外性が光る作品を特に楽しく読めた。 「とむらい機関車」は毎週同じ時間、同じ場所で汽車が豚を轢死させてしまう謎を巡る一編。何故犯人は次々と豚を同じ汽車に轢かせるのかという真相が切なく締めくくられているのが良い。 「あやつり裁判」も動機が秀逸な一編だった。ある窃盗事件の裁判に突然現れた証人の女将。彼女の証言によって判…

  • ジョージ・シムズ『女探偵 ドーカス・デーン』(ヒラヤマ探偵文庫)

    収録作品 「四人委員会」「ヘルシャム事件」「無謀な男」「湖の秘密」「ダイヤモンドのトカゲ」「ピンの刺し跡」「謎の億万長者」「空き家」「戸棚の洋服」「ハーヴァーストック・ヒル殺人事件」「茶色の熊のランプ」「行方不明の王子」「貴賤結婚の妻」「リージェンツ・パークの家」「不倫相手」「ハンカチの袋」「バンク・ホリデーの謎」「茶色の紙切れ」「女王陛下の御前に」「名無しの権兵衛」 ヒラヤマ探偵文庫は、海外古典ミステリファンであればご存じの方が多いだろう翻訳者の平山雄一さんが個人で出されている叢書である。そのラインナップがまた凄くて、エバーハートやラインハートなどの有名作家の未訳作品から、ホームズ以前のマニ…

  • ホリー・ジャクソン『卒業生には向かない真実』(創元推理文庫)

    大学入学を控えているピップには二つの悩みがあった。ひとつは強姦を行いながら無罪放免となったマックス・ヘイスティングスをポッドキャストで糾弾したことで訴えられていること。そしてもうひとつが無言電話や匿名の不気味なメール、自宅の敷地内に置かれた首を切られた鳩や謎の落書き。ピップはこれらの行為が六年前の連続殺人事件の被害者に起きたことと類似していることに気づき、調査を始める。 『自由研究には向かない殺人』、『優等生は探偵に向かない』を経て、ついにピップの物語が幕を閉じた。 正直複雑な気持ちである。一作目である『自由研究には向かない殺人』はヤングアダルトミステリという触れ込みで紹介され、ピップの明るい…

  • 米澤穂信『愛蔵版〈古典部〉シリーズⅠ 氷菓・愚者のエンドロール』(角川書店)

    デビュー二十周年記念としてシリーズ長編『氷菓』『愚者のエンドロール』を合本化した愛蔵版第一巻。ともに十数年ぶりの再読だったためほとんど覚えておらず、初読に近い気持ちで読めて良かった。 そのほかにもオリジナルアニメを小説化した「プールサイドにて」、アニメBD-BOXに収録された漫画を小説化した「クリスマスは箱の中」、巻末付録として角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門受賞のことば、エッセイ 始まりの一冊も収録されており、非常に充実した一冊だった。 『氷菓』 何事にも省エネがモットーの折木奉太郎は、なりゆきで廃部寸前の古典部に入部することに。同じく古典部に入部したという同級生千反田える、奉太…

  • ルース・レンデル『女を脅した男』(光文社文庫)

    収録作品 「女ともだち」「女を脅した男」「父の日」「時計は苛む」「雑草」「愛の神」「カーテンが降りて」「ウェクスフォードの休日」「藁をもつかむ」「もとめられぬ女」「追いつめられて」 本格ミステリ度の高いウェクスフォード警部シリーズから心理サスペンス色の強いノン・シリーズまで、作風の幅が広いルース・レンデルの日本オリジナル短編集である。 ルース・レンデル自体ほとんど読んだことがなく、短編に関してはこれが初めてだったが、大変面白い一冊であった。「女ともだち」から「カーテンが降りて」まではノン・シリーズ短編、「ウェクスフォードの休日」から「追いつめられて」がウェクスフォード警部シリーズである。 意外…

  • P・A・テイラー『ケープコッドの悲劇』(論創海外ミステリ)

    ケープコッドのコテージで姪のベッツィとともに暮らす中年の独身女性プルーデンス。二人は互いに一人ずつ友人を招き避暑シーズンを満喫していた。しかし、最近引っ越してきた作家サンボーンが現れたことで何やら微妙な雰囲気に。その後、コテージ近くの小屋でサンボーンが殺害されているのを発見してしまう。そこには何故か、被害者が異常に嫌っていたイワシの缶詰が落ちていた。事件直前に被害者と言い争っていた青年ビルが逮捕されるが、ビルの雑用係であるアゼイ・メイヨはこの事実に納得がいかず、プルーデンスとともに真犯人の捜査に乗り出した。 古き良き本格ミステリといった感じで、個人的にとても好きな作品。探偵役のアゼイ・メイヨも…

  • 松本清張『空白の意匠 初期ミステリ傑作集(二)』(新潮文庫)

    収録作品 「一年半待て」「地方紙を買う女」「遠くからの声」「白い闇」「支払い過ぎた縁談」「巻頭句の女」「紙の牙」「空白の意匠」 一昨年、『なぜ「星図」が開いていたか 初期ミステリ傑作集(一)』を読んで松本清張の魅力を認識した。その後『ゼロの焦点』か『点と線』辺りの長編に挑もうかと思っているうちに傑作集の第二弾が出てしまったので、これ幸いと新刊を購入して早速読了。 まだ短編しか読んでいないが、やっぱり面白い。推理小説としてのキレと、男女間の思惑や会社組織に潜む悪意などを発端とする物語としてのコクがどの短編でも味わうことが出来た。傑作集だから当たり前かもしれないが、それにしても全てがこんなにも「読…

  • 辻真先『殺人小説大募集!!』(実業之日本社文庫)

    収録作品 「プロローグ あるアルバイト」「うふふふ・ふうふ」「狂気の凶器」「欠陥結婚」「未知への道」「故阿部ベア子」「うえっ!ディング・マーチ」「あくまで悪魔」「ボーナス・ウォーズ」「死ルバー死ート」「非密室の秘密」「エピローグ 盗作の捜索」 廃刊の決まっている雑誌なのに、突然新人賞の募集を行う編集長。彼の思惑とは…?笑いあり、トリックあり、奇想ありの十篇のミステリ短篇が楽しめる上に、プロローグとエピローグが加わることで編集長の企みとその結末が描かれる長篇ミステリとしても成り立たせている構成が見事な作品でした。辻作品は初めて読みましたが、読みやすくてあっと驚く展開や仕掛けがとても面白かったです…

  • ロバート・アーサー『ロバート・アーサー自選傑作集 幽霊を信じますか?』(扶桑社ミステリー)

    収録作品 「見えない足跡」「ミルトン氏のギフト」「バラ色水晶のベル」「エル・ドラドの不思議な切手」「奇跡の日」「鵞鳥じゃあるまいし」「幽霊を信じますか?」「頑固なオーティス伯父さん」「デクスター氏のドラゴン」「ハンク・ガーヴィーの白昼幽霊」 昨年刊行された『ロバート・アーサー自選傑作集 ガラスの橋』が好評を博したようで、本書はそれに続く短編集第二弾である。 『ガラスの橋』から一変、こちらはホラーとファンタジーの短編集で、勿論怖いお話もあれば、寓話的な温かみを感じさせるもの、ゴーストストーリーながらユーモラスなものなど、趣向を凝らした幅広い味わいが楽しめる素晴らしい全十短編であった。 因みに、表…

  • アン・クリーヴス『哀惜』(ハヤカワ・ミステリ文庫)

    ノース・デヴォンの海岸でアルコール依存症のサイモンという男の死体が発見される。男は主人公のマシュー警部の夫であるジョナサンが運営する複合施設でボランティアをしていたことが判明。その後、同じ施設の利用者である学習障害のある女性が誘拐される事件が発生。事件は同じ施設という共通点があり、マシューはこれらの事件には繋がりがあると考える。 何て素晴らしい小説だろう。正直派手さは無くて、かなり地味な小説です。しかし各登場人物の内面や別視点からの印象、関係性、思惑などが非常に丁寧に描かれています。さらにそれらのキャラクター描写が、謎解きミステリに対して必要不可欠の要素として見事に融合しています。各翻訳ミステ…

  • レックス・スタウト『編集者を殺せ』(ハヤカワ・ミステリ)

    仕事の多忙と体調不良で本が全く読めなかった期間が長かったので、あまり重すぎない古典ミステリを読みました。ものはネロ・ウルフシリーズの長編作品。 ウルフとはライバル関係のクレイマー警部がある事件の被害者宅にあった名前を羅列したメモについて意見を訊きたいと、珍しくウルフの事務所にやってきます。その六週間後、出版社に勤める娘をひき逃げで殺された男性が依頼にやってきて、娘が書いた手紙を見たウルフはクレイマーの持っていたメモに載っていた名前の男に殺された娘が雇われていたことを指摘します。アーチーがその男を追って行動していると、先回りされたかのように第三の殺人を目の当たりにしてしまう。 幻の小説の原稿を巡…

  • レックス・スタウト『母親探し』(論創海外ミステリ)

    作家の夫リチャード・ヴァルドンが亡くなり、使用人たちと暮らしていた妻ルーシーの家に赤ん坊が捨てられており、添えられた手紙によるとこの赤ん坊の父親はヴァルドンだという。ルーシーは赤ん坊の母親が誰なのか突きとめてほしいとウルフに依頼する。 ネロ・ウルフシリーズの長篇作品。 ネロ・ウルフシリーズは『料理長が多すぎる』しか読んだことがないうえ、本書はシリーズ後期作ということでキャラクターの造形や関係性などを把握しきれていないまま読んでしまったため、十分に楽しめたのかちょっと不安。 まず面白かったところは、アーチーとウルフのやりとりや、母親探しをするうちに接触した人物が殺されてしまい、母親探しだけでなく…

  • ジリアン・マカリスター『ロング・プレイス、ロング・タイム』(小学館文庫)

    タイムリープ✕ミステリ✕家族小説と帯に書かれているのを見て好みの作品だと思い手に取った。 期待通りのストーリー、期待以上の読後感だった。 息子が突然現れた謎の男を刺し殺して逮捕されてしまい、呆然としたまま眠ったジェンが目覚めると事件が起きる前の朝だった、というところから物語が始まる。この冒頭から「ああ、息子の殺人を食い止めるために奔走するループものだな」と簡単に想像がつくのだが、そうは問屋が卸さない。なんとその一日が終わるとさらに一日遡り、場合によっては数か月、数年一気に遡ることもあるのだ。このことからジェンは息子の殺人を止めるためには根源的な問題を解決する必要があり、目覚めた日は何かしら重要…

  • ジェイムズ・S・マレイ&ダレン・ウェアマウス『密航者』(ハヤカワ文庫NV)

    残忍な連続小児殺人事件で起訴されていたバトラーだったが、陪審員の評決不一致により無罪となった。世間の誰もが犯人として断じていたこともあり、十二人の陪審員はメディアや市民から非難や中傷を受け、さらに彼らの家族までもが標的となりはじめた。陪審員や彼らの家族を危険から守るため、陪審員のひとりであるマリアは無罪票を投じたのは自分であると発表する。 その後勤めている大学から休暇を言い渡され、双子の我が子クリストファーとクロエ、婚約者スティーヴとともに十二日間のクルーズに参加することに。世間の目を気にすることなく船旅を楽しんでいたマリアだったが、船内で切断された頭部が発見され、しかもその手口はバトラーの犯…

  • 出久根達郎『出久根達郎の古本屋小説集』(ちくま文庫)

    収録作品 古本屋のにおい 「猫じゃ猫じゃ」 「カーテンのにおい」 「書棚の隅っこ」 古本をあきなう 「おやじの値段」 「腹中石」 「紙魚たりし」 「背広」 「セドリ」 「えっぽどのこと」 思い出のページ 「本の家」 「焼き芋のぬくもり」 「金次郎の愛読書」 「江戸っ子」 「住吉さま」 「親父たち」 本の劇場 「そつじながら」 「赤い鳩」 「饅頭そうだ」 「送り火ちらほら」 最後の本 「シオリ」 「雪」 「東京駅の蟻」 「無明の蝶」 古本屋小説というのが面白そうで手に取った一冊です。恥かしながら作者の名前は初めて知りました。なんと直木賞まで受賞されている方だとは。さらに、元々古書店主ということで…

  • 一穂ミチ『スモールワールズ』(講談社文庫)

    収録作品 「ネオンテトラ」 「魔王の帰還」 「ピクニック」 「花うた」 「愛を適量」 「式日」 「スモールスパークス(あとがきにかえて)」 ネットの紹介で気になっていた一冊。普段あまり読まないタイプの作家さんなので自分に合うか少々不安だったのですが、買ってよかった!読んでよかった!いやぁ、とても面白かったです。個人的ベストは「魔王の帰還」。次いで「花うた」、「愛を適量」。「ピクニック」も捨てがたい。 「魔王の帰還」は身長190センチ近い体格の良さと岡山弁が強烈なインパクトを放つ姉・真央が、秘密を抱え出戻ってきたところから始まるお話で、高校生の弟の視点から語られます。姉のキャラクターが大好きで、…

  • 泡坂妻夫『11枚のとらんぷ』(創元推理文庫)

    あらすじ アマチュア奇術クラブがショーのラストに披露した〈人形の家〉。その仕掛けから飛び出すはずの女性が姿を消し、その後マンションの自室で撲殺死体となって発見された。その死体の周りには、同じクラブ員の鹿川が著した奇術小説集『11枚のとらんぷ』で使用されている小道具が毀された状態で散乱していた。 奇術師としても活躍していた作者だからこそ書くことのできた奇術×ミステリの傑作でした。 本書は三部構成になっていて、第Ⅰ部ではマジキクラブによるショーから死体発見まで、第Ⅱ部は作中作の『11枚のとらんぷ』、第Ⅲ部では世界国際奇術家会議へと舞台を移し解決編となります。 第Ⅰ部では奇術クラブの特徴的なメンバー…

  • 購入本 2/29

    今月の購入本まとめ(新刊購入のみ、読了本込み) ヴィヴィアン・コンロイ『プロヴァンス邸の殺人』(ハーパーBOOKS) ホレス・マッコイ『屍衣にポケットはない』(新潮文庫) ジョン・バカン『三十九階段』(東京創元社) フランク・グルーバー『レザー・デュークの秘密』(論創海外ミステリ) マイケル・ホーム『奇妙な捕虜』(論創海外ミステリ) 馬伯庸『両京十五日1 凶兆』(ハヤカワ・ミステリ) はやみねかおる『少年名探偵 虹北恭助の新冒険』(星海社FICTIONS) アガサ・クリスティ『二人で探偵を』(創元推理文庫) 辻真先『本格・結婚殺人事件』(創元推理文庫) アヴラム・デイヴィッドスン『エステルハー…

  • 森川智喜『動くはずのない死体 森川智喜短編集』(光文社)

    収録作品 「幸せという小鳥たち、希望という鳴き声」 「フーダニット・リセプション 名探偵粍島桁郎、虫に食われる」 「動くはずのない死体」 「悪運が来たりて笛を吹く」 「ロックトルーム・ブギーマン」 どれ一つとして同じような話はなく、様々な趣向を凝らした本格ミステリ短編集でした。 お気に入りは「フーダニット・リセプション 名探偵粍島桁郎、虫に食われる」、「動くはずのない死体」、「ロックトルーム・ブギーマン」。 「フーダニット・リセプション 名探偵粍島桁郎、虫に食われる」は、2人の高校生が誤ってコーヒーをこぼしてしまったミステリ作家の原稿を推理によって復元してゆくお話。このシチュエーション、ロジカ…

  • ヴィヴィアン・コンロイ『プロヴァンス邸の殺人』(ハーパーBOOKS)

    あらすじ 1930年、スイスで寄宿学校の音楽教師をしているアタランテは、疎遠だったパリ在住の祖父が亡くなったことで莫大な遺産と館を受け継ぐことになった。しかし相続にあたり、祖父が秘密裏に続けていた探偵業を引き継ぐという条件が付されていた。 引っ越しを済ませたアタランテの許に早速ひとりの依頼人が現れる。伯爵との結婚を控えた依頼人は、伯爵の前妻の死は事故死ではないという警告の手紙を受け、真実を調べてほしいという。アタランテは身分を隠し、依頼人とともに披露宴が行われる南フランスの伯爵邸へ向かうが、そこには一癖も二癖もある招待客や親族ばかり。さらに地所内で密猟者の刺殺体が発見されてしまう。 あらすじか…

  • 紫金陳『検察官の遺言』(ハヤカワ・ミステリ文庫)

    あらすじ 地下鉄で騒ぎを起こした男が持つスーツケースの中に入っていたのは元検察官・江陽の遺体だった。男は著名な弁護士・張超で、元教え子である江陽の殺害を自供し、警察の捜査によってその証拠も見つかったことで事件は解決したかに思われた。しかし初公判で張超は突如犯行を否定し、捜査は振り出しに。なぜ張は自供を覆したのか、もし彼の主張が事実ならば真犯人は誰なのか、張の目的は何なのか。江陽殺害事件を調べるうちに、12年前の事件に繋がりがあることが判明し、その事件の裏に巨大な悪の存在が浮かび上がる。 素晴らしかったです!以前この作者の『悪童たち』を読んだときにも感じましたが、現代中国の社会の奥に潜む闇を暴く…

  • ジョン・バカン『三十九階段』(東京創元社)

    あらすじ 第一次世界大戦が目前に迫る英国。南アフリカから帰国した青年ハネーの前に謎のアメリカ人スカッダーが現れる。彼はあるスパイ組織によるギリシア首相カロリデス暗殺計画を知ってしまったとハネーに語ると、数日後、ハネーの部屋で何者かに殺されてしまう。警察から殺人の疑いをかけられると同時に、スパイ組織からも狙われることを恐れたハネーは、逃亡の旅に出ることを決意した。 英国冒険小説の古典的名作が、エドワード・ゴーリーのイラストともに復刊!いつか読みたいと思っていた作品がこんな魅力的な形で復刊されたとなれば手に取らざるを得ないでしょう。 結論から言うと、とにかくハネーの冒険譚が楽しい。道行く先で出会う…

  • ファビアン・ニシーザ『郊外の探偵たち』(ハヤカワ・ミステリ)

    あらすじ 30年以上殺人事件とは縁遠い平和なニュージャージー州郊外のガソリンスタンドで店員が殺害された。保存中の現場に偶然出くわし子どもがお漏らしをしてしまったことがきっかけで、元FBIのプロファイラーで現在第5子を妊娠中のアンドレアは、今は落ち目の新聞記者ケニーとともに事件の調査を始める。すると、50年前に発掘された骨と今回の事件が関連していることがわかってきて……。 タイトルからもわかる通りニュージャージー州の郊外を舞台に、2人の探偵役が活躍するミステリです。色々なテーマが盛り込まれていてとても面白かったです。 まず、舞台がアメリカの郊外ということ。そこは中国系やインド系の人々が多く暮らし…

  • 方丈貴恵『孤島の来訪者』(創元推理文庫)

    『時空旅行者の砂時計』に続く〈竜泉家の一族〉三部作の第二弾。 あらすじ 今では無人島となっている幽世島(かくりよじま)では、45年前、島にいた13人もの人々が殺されるという凄惨な事件が起こっていた。その事件を題材にしたテレビ特番のロケを行うため、出演者やテレビクルーなどの男女9人が幽世島を訪れる。 その中の一人である竜泉佑樹は、このロケを利用して幼馴染の復讐をするため、ロケ参加者の内の3人を殺害する計画を立てていたが、ターゲットの一人である海野が何者かに殺害されてしまう。自ら手を下すことに拘る竜泉は、探偵役となり犯人を捜し始める。 タイムトラベルというSF設定を活かした前作も面白かったが、今回…

  • 方丈貴恵『時空旅行者の砂時計』(創元推理文庫)

    主人公の加茂冬馬は、肺病を患った妻が重篤な状態に陥り絶望していた。すると突然謎の声が聞こえ、妻を救うには彼女の祖先を襲った“死野の惨劇”を阻止する必要があるという。いわれるがままに2018年から1960年にタイムスリップした加茂は、妻の祖母の双子の姉・文香とともに死野の惨劇を防ぐべく奔走するが、次々と不可能殺人が起きてしまう。 これは大変面白い本格ミステリだった。主な舞台が1960年の屋敷ということもあって、クラシカルな雰囲気もたまらなく良い。 そして特徴的なのが、タイムトラベルを取り入れたSFミステリでもあるというところ。この設定を破綻することなく謎解きに生かされていて、終盤の真相解明シーン…

  • 北村薫・宮部みゆき/編『名短篇、ここにあり』(ちくま文庫)

    ミステリやSF、ホラー、文芸作品にいたるまで、北村薫と宮部みゆきの目利きが選び抜いた優れたアンソロジーでした。 収録作品 半村良「となりの宇宙人」 黒井千次「冷たい仕事」 小松左京「むかしばなし」 城山三郎「隠し芸の男」 吉村昭「少女架刑」 吉行淳之介「あしたの夕刊」 山口瞳「穴 考える人たち」 多岐川恭「網」 戸板康二「少年探偵」 松本清張「誤訳」 井上靖「考える人」 円地文子「鬼」 ユーモラスで思わず笑ってしまうお話があるかと思えば、恐ろしくてゾクッとする恐怖譚もあり、その中でも以下の作品は特に好みの作品だった。 先頭の「となりの宇宙人」は、ある日不時着した宇宙人をアパートの住人達が世話を…

  • 購入本

    楽天ブックスで買った本が届いた。 森見登美彦『シャーロック・ホームズの凱旋』(中央公論新社) 土屋隆夫『推理小説作法 増補新版』(中公文庫) はやみねかおる『少年名探偵 虹北恭助の冒険』(星海社FICTIONS) 紫金陳『検察官の遺言』(ハヤカワ・ミステリ文庫) 『ハヤカワミステリマガジン 2024年3月号』 森見登美彦氏が『熱帯』以来5年ぶりの新作『シャーロック・ホームズの凱旋』を上梓なされた。まちくたびれましたよ…。しかし、ようやく氏の新作が読めることは素直に嬉しい。登美彦氏のことだ、どうせまた、ヘンテコな世界でヘンテコなストーリーが展開されるのであろう。楽しみだ。 子ども時代はほとんど本…

  • 有栖川有栖『46番目の密室』(講談社文庫)

    何故だか自分でもわからないが、社会人になってからミステリは翻訳ものを多く読むようになり、国内作家も読むには読んでいるが、学生の頃よく読んでいた綾辻行人や有栖川有栖、法月倫太郎、二階堂黎人といった新本格作家はあまり手にしなくなっていた。しかし最近、無性にそのあたりの作家が恋しくなり、本棚の奥から色々と引っ張り出してきた。今回はその中から、火村英生シリーズの第一弾を選び、久しぶりの再読をした。 犯人もトリックもストーリーもほとんど記憶に残っていなかったので初読の気分で楽しめた。 これまで45もの密室トリックを発表してきた、密室の巨匠と謳われる推理作家真壁聖一。北軽井沢にある彼の別荘でおこなわれる毎…

  • 購入本

    楽天ブックスで買った本が到着。 ハビエル・セルカス『テラ・アルタの憎悪』(ハヤカワ・ミステリ/白川貴子 訳) S・S・ヴァン・ダイン『グリーン家殺人事件』(創元推理文庫/日暮雅通 訳) ホリージャクソン『受験生は謎解きに向かない』(創元推理文庫/服部京子 訳) スティーヴン・キング『シャイニング(上・下)』(文春文庫/深町眞理子 訳) スティーヴン・キング『ミザリー』(文春文庫/矢野浩三郎 訳) ジャン=クリストフ・グランジェ『通過者』(TAC出版/吉田恒雄 訳) 方丈貴恵『孤島の来訪者』(創元推理文庫) 山中峯太郎『亜細亜の曙』(河出書房新社) 長山靖生 編『モダニズム・ミステリ傑作選』(河…

  • アレイナ・アーカート『解剖学者と殺人鬼』(ハヤカワ・ミステリ文庫/青木創訳)

    あらすじ 監察医のレンは、殺人事件の報告を受け現場である沼地に向かうと、そこには腹部を切り裂かれた女の死体が水に浸かっていた。そばにあった被害者の服とともにあったのは一冊のホラー小説。実はこの事件の二週間前にも、水たまりでずぶ濡れになった若い女の腐乱死体が見つかっており、その口の中には本のページが数枚押し込まれていた。同じような状況であることに不安を抱くレンは仕事仲間の刑事ジョンとともに事件を追ってゆく。 一方、この猟奇的な殺人事件の犯人であるジェレミーは、週末に計画しているさらなる「狩り」を楽しみにしていた。 監察医のヒロインの視点で語られる章と、殺人鬼の視点で語られる章が交互に描かれて物語…

  • マージェリー・アリンガム『窓辺の老人 キャンピオン氏の事件簿Ⅰ』創元推理文庫

    アガサ・クリスティー、ドロシー・L・セイヤーズ、ナイオ・マーシュと並び、ビッグ4と称されるマージェリー・アリンガムが創造した探偵アルバート・キャンピオンが活躍する日本オリジナル編纂短編集。 収録作品 「ボーダーライン事件」 「窓辺の老人」 「懐かしの我が家」 「怪盗〈疑問符〉」 「未亡人」 「行動の意味」 「犬の日」 「我が友、キャンピオン氏」(エッセイ) 名前は知っているものの、アリンガム作品は今回初めて読んだ。てっきり本格的な謎解き一辺倒の作家かと思っていたのだけれど、冒険小説的なものやオチでついフフッと笑ってしまう愉快なものまで、ミステリを基本としながらも結構幅広い味わいがあって楽しかっ…

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