2020年、東京郊外のスナップショット ー 三宅唱『ケイコ 目を澄ませて』
ボクシングジムの会長の体調の悪化に対して医師は、変化が目に見えるようになればそれは既に手遅れであること、変化は落ちた雨粒が石に穴をあけていくように、少しずつ見えない形で進行していくことを伝える。 音が凄まじく作り込まれた映画となっている。音が空気の振動だとすれば、この映画における音はその表現力によって、噂話や壁越しに聞こえてくる怒鳴り声だけでなく、熱量や緊張、不安など、その場に漏れ出た感情による空気の揺れをも伝える。そして、カメラは固定されほとんど動かない。あたかも定点観測するように、2020年東京都郊外荒川近く、ケイコの限られた行動範囲における、目には見えない形で進行する変化をその空気を捉え…
難解なフィル・ティペット(Phil Tippett)による2022年作『マッドゴッド(MAD GOD)』の内容を読み解いていきます。ネタバレがあまり関係ない映画ではありますが、気になる方は見た後に読んでください。 繰り返されるバベルの塔 この映画の監督が実写映画における特殊効果の第一人者であること、この映画においてあらゆる時代の実写映画が引用されていることを考えれば、冒頭に映されるバベルの塔は実写映画の塔だと考えられる。アルケミストが上の世界の監督の送ったアサシンの記憶を覗き見た時、そこに映されるのはアサシン達が他の人間を殺戮していく映像となっている。それは、特殊効果を使った映画がその他過去に…
アトラクション性と光 ー オードレイ・ディヴァン『あのこと』
オードレイ・ディヴァン(Audrey Diwan)による2021年作『あのこと(Happening)』について。 シンプルな物語構造によってサスペンスを維持する、『ゼロ・グラビティ』のようなアトラクション映画であり、そのアトラクション性によって中絶が違法だった時代のフランスで妊娠した学生の孤独な戦いを観客に体験させる映画。ロングショットかつ長尺ワンカットの撮影によって、カメラが主人公の主観と同期したような映像になっていて、さらに主演のアナマリア・バルトロメイの演技が凄まじく、その発する感情や感覚、意志をも主人公と一体化したかのように体験させられる。 中絶が合法化される1975年以前のフランスが…
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