2020年、東京郊外のスナップショット ー 三宅唱『ケイコ 目を澄ませて』
ボクシングジムの会長の体調の悪化に対して医師は、変化が目に見えるようになればそれは既に手遅れであること、変化は落ちた雨粒が石に穴をあけていくように、少しずつ見えない形で進行していくことを伝える。 音が凄まじく作り込まれた映画となっている。音が空気の振動だとすれば、この映画における音はその表現力によって、噂話や壁越しに聞こえてくる怒鳴り声だけでなく、熱量や緊張、不安など、その場に漏れ出た感情による空気の揺れをも伝える。そして、カメラは固定されほとんど動かない。あたかも定点観測するように、2020年東京都郊外荒川近く、ケイコの限られた行動範囲における、目には見えない形で進行する変化をその空気を捉え…
2022/12/28 14:08