考察・村上春樹著『品川猿の告白』 名前を盗む猿
短編集「一人称単数」より、『品川猿の告白』を考察します。 こちらの短編集はエッセイのような文体で、主人公も著者自身と思われるような語り口で物語が進んでいきます。しかし、明らかに現実では起こり得ない展開が待っていますので、現実(エッセイ)と非現実(フィクション)がシームレスに移行していく不思議な物語も楽しめます。 こちらの短編集のテーマは全体として「一人称単数」のタイトルに表れているように「私とは誰か?」というアイデンティティの模索です。 ”テーマ?そんなものはどこにも見当たらない。ただ人間の言葉をしゃべる老いた猿が群馬県の小さな町にいて、温泉宿で客の背中を流し、冷えたビールを好み、人間の女性に…
2023/02/26 12:08