表面は沸騰するも芯は冷ゆ み
インバウンドの群に気圧(けお)された夏 み
水着を干したまま帰ってしまった み
引き抜いた草の根が乾く旱天(かんてん) み
避暑の地へ岬回りのバスの揺れ み
蚊取線香のホーロー看板だ み
黒塀に『尋ね猫』貼る浴衣の子 み
鰻重が出てこず、漬物おかわり み
プールから出て血管の透ける胸 み
鹿の子(かのこ)の無表情の表情が好き み
猛暑日に泥鰌鍋(どじょうなべ)喰う江戸っ子よ み
お昼は『簡単』に冷やし中華でも み
江戸風鈴 ペアグラス 木端微塵(こっぱみじん) み
野菜室に冷酒(れいしゅ)を2本 ガタガタ み
超写実主義に色鉛筆の裸婦 み
江ノ電にサーフボードが長すぎる み
「寝冷えした」と鼻声の電話が来る み
『ムラサキ』と呼ばないでね 『ラベンダー』よ み
三角のスイカにおまじないの塩 み
隣席の扇子、汗の臭いを撒く み
百日紅(さるすべり)は庭箒(にわぼうき)もピンク色 み
夏負けに鏡は「どちらさま?」と問う み
湯畑の煙が竦(すく)む炎天下 み
フェラーリもオーバーヒート気味に灼く み
野外授業に固執し熱中症 み
強引に雨の季節に七夕よ み
日本銀行券(にっぽんぎんこうけん)が欲しい小暑 み
電車待つ脹脛(ふくらはぎ)、蚊の刺され痕 み
鮎釣りの前泊の夜半(よわ)、雨催い み
雨傘よりも日傘が相合傘 み
「もう帰るわ」という目で団扇(うちわ)を置く み
黒百合よ市民らとリスクを語れ み
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表面は沸騰するも芯は冷ゆ み
夕日照るビルのガラスに帰り花 み
畑から脱走したか茶の花よ の
この頃は客人はなし敷松葉 み
雨の舗道は銀杏落葉(いちょうおちば)に滑る み
露寒(つゆざむ)やさっき見たのは何だろう み
群時雨(むらしぐれ)、我が町の名はひらがなに み
柘榴(ざくろ)をブロック塀へフォーシームや み
サンルームに冬浅く眠り老いる み
頭から食べて柳葉魚(ししゃも)の尾が残る み
伴走のロープが緩む秋惜しむ み
引いた牛蒡(ごぼう)を銃口に詰めてやれ み
夜霧にハイビームの影はマドロス み
やや寒し、今日は頭が回らぬ日 み
秋深き5時にコミュニティバスを待つ み
AI(えいあい)に真理を託す文化の日 み
脚注に言い訳のある『星月夜』 み
キーを挿しシングルルームに秋の灯 み
うわさの猪(い)の目のイヤリングの魔除け み
いちゃもんをつけながら喰う通草(あけび)の実 み
子らの自転車、黄落(こうらく)を撒き飛ばせ み
愁訴(しゅうそ)に合はぬ風邪薬(かぜぐすり)、処方さる み
蜜柑山(みかんやま)の急坂(きゅうはん)から町と海 の
冬めけば書く手紙みな不備(ふび)・不悉(ふしつ) み
新松子(しんちぢり)、投げよと捥(も)いだ手の臭(にお)い み
神渡しが逆風になる方角 み
サフランの花を見て想うラ・マンチャ み
金塊のごと冷(ひ)ゆるバター一斤(いっきん) み
新北風(みーにし)に乾いた髪が肩を刷(は)く ま
ブロッコリ切れば菜虫(なむし)がギャッと出る み
透明人間はブルッと立冬 み
生けるのか 捨てるのか 台子(だいす)に芒(すすき) み
駆除された熊の手 富裕層の胃に み
鵟(のすり)よ、『邪(じゃ)』の対は『正(しょう)』か『別の邪(じゃ)』か み
秋収め、とっくのとうに嘘はばれ の
文化祭、今年もお化け屋敷です が
コンビニへロックアイス®を買う夜寒(よさむ) み
乗継ぎの寸暇(すんか)に新蕎麦(しんそば)を啜(すす)る み
漢字のみ。檸檬(れもん)、榲桲(まるめろ)、榠樝(かりん)の実 み
行違(ゆきちが)う特急は行楽の秋 み