承前です。向田邦子さんのスカートの寝押しのエッセイの続きを紹介します。スカートの替えもなかったが、ほかにも無いものだらけの女学生生活であった。間に戦争がはさまっていたから、食べるものがなかった。五年生の時はじめて習った「お料理」は、さつまいもを使った茶巾絞りである。教材に使うからといって、さつまいもを半分、学校へ持ってゆくことを母に頼む時、うしろめたい気がしたことを、いま思い出した。教室には一本の花もなかった。学校の花壇も掘り返されて、いも畑になっていたし、先生方も国民服にゲートルである。敵性語である英語は、ずい分早くから授業が無くなっており、英語の先生は肩身せまそうに、事務など手伝っておられた。東条首相の知り合いだというだけで、お作法の先生が時めいており、真善美といっしょに東条首相のおはなしというのを聞...明日の命も知れないという時に、心から楽しく笑えたのである。女学生というのはそういうものであるらしい。