股下2ミリの攻防 ④

そして、いよいよ最終攻防の日がやってきた。まずは午前中に採寸をしてみる。やはり、一晩経ったので76センチ足らずになっている。でも、ー0.5ミリぐらいに改善されている。今度は午後いちに採寸をしてみる。午前中と変らない。まだまだ早いが予行演習でアイロンをかけてもらう。約1ミリ程度伸びた。つまり、76．05センチくらいだ。で、少しメジャーを緩めてみる。おおっ、ピッタリ76センチ。よし、いける！お客さんが来ら...

股下2ミリの攻防 ③

1ミリちょい足らなくても満足しないお客さん。1ミリ短くてもシルエットは変らないし、折りジワでそれくらいは短くなるし、気温湿度によっても長短変化する。正直、真面目に付き合ってられない。が、こんなお客さんの対応も勉強と思うことにして、というか、こっちも意地になり対応策の練り直しである。まずは、大先輩であるオーダーサロンの上村さんと、イージーオーダーのベテラン販売員の山川さんに相談をする。事情を聞いた超楽...

股下2ミリの攻防 ②

午後6時過ぎだっただろうか、いよいよそのお客さん登場である。2ミリ云々を気にされる方なので「神経質そうな感じなんだろうな」と思っていたが、あにはからんや、普通である。年齢の頃は、35、6といったところの、スーツの着こなしもまぁまぁの普通のサラリーマン。その様子を見て、「こりゃ、なんとかなるな」と思いながら、まずは、売場の責任者であることを告げお詫び申し上げ、修理した事にした（2ミリの調整修理などム...

股下2ミリの攻防 ①

紳士服の責任者の頃のお話。休み明けに出社すると、たいそう細かなクレームが私を待ち構えていた。バーゲンのスーツを買ったお客さんが、スラックスお直し後の寸法が短いとのクレームである。スラックスの長さには私もこだわる。スーツの着こなしには重要なポイントだ。なので、その長さについてのクレームならばわからないでもない、と思いながら担当にその内容を聞いてみる。すると、その内容。「2ミリ短いとおっしゃるんです」...

お隣のデパートの商品券

引き続きお中元ギフトセンターでのお話。10件程度のお届け先への商品記入も済み、代金を計算しお客さんに伝えると、お客さんが封筒から商品券を出されて「はい、これで」と。商品券を受け取り内容を確かめていたら、それはお隣のデパートの商品券。＊今は百貨店共通商品券が一般的だが、昔はそんなのなかった。あっ、と思ったが、「これお隣のですよ」と言えば苦笑いしながら、もしくは、恥ずかしそうに「あら、ごめんなさい」の言...

右翼団体の会長さん⑥

ブレザーを持って帰られて一週間、二週間経っても来店されない。やはり、ブレザー拙かったのかな？などと思うこともあったが、こちらから連絡するのも憚られたままさらに時は経つ。そうして半年くらい経過した閉店間近、次の催事準備でバタバタしてた頃、一本の外線が私に。その電話は長谷川さんからだった。「いやぁ、お久しぶりですね長谷川さん、お元気でしたか？」と電話に出て言うと、「それが、元気じゃないんよ」と。そう言...

右翼団体の会長さん⑤

そして1週間後、パイロットの制服みたいなブレザーが出来上がった。出来栄えは・・・そりゃ、きちんと縫製されているが、想像通り珍妙な出来具合であった。ダブルのブレザーだったらまだマシだったかもしれないが、それはシングルだったので珍妙さが際立った。なので、出来上がったのを見て。やっぱりこれ（袖章）はずして」なんて言わないだろうな？との不安がよぎる。が、まぁその時はその時だ。と思いながら出来栄えチェックを...

右翼団体の会長さん➃

さて、ブレザーを買っていただいたのは良いのだが、それについてきたとんでもない要望とは。サイズもばっちりで直すとこなし。すぐにお持ち帰りいただけるので、その準備をしていたその時、「これ、パイロットの制服みたいにしたいんじゃが、どうかね？」と。ん？パイロット？ちょっと頭の中が混乱したので、「パイロットの・・・制服・・・みたいに、ですか？」と確認すると。「ほうよ、袖んところに3本くらい、こう、金色の線が...

右翼団体の会長さん③

そして翌日。前日のことなどすっかり忘れて売場に立っていると、女性社員が「橋本さん、長谷川さんが来られてます」と。その名前から、昨日の騒ぎを思い出し、「え？なになに、またスラックスの裾でもほどけた？、まさか？」と思いながら長谷川さんのところへ向かう。その場所はエスカレーター横、長谷川さんの後姿が見える。後頭部までパンチパーマでチリチリの。急ぎ駆け寄りながら、何か怒ってる？と思いながら「長谷川さま、い...

右翼団体の会長さん➁

怒鳴り声がやんだそのひと息を待って「大変申し訳ございませんでした、今すぐお直ししますので」と言うと、「ちゃんとせえよ、ちゃんと。またこんとに（この様に）なったらこらえんど！」と言いながらその場でスラックスを脱ぎはじめる。いやいや、ここじゃまずい。パンツがもう半分出ている。「あっ、お客様、ご案内しますのでこちらで」と慌ててフィッティングルームへ案内すると「くっそめんどくさいのぉ」と言いながらフィッテ...

右翼団体の会長さん➀

前回のお話から6～7年経ったころのお話。外商部から紳士用品部に異動になって1年くらい経った頃。女子社員が「橋本さん、ミラ・ショーンのショップでお客さんが怒鳴ってます」と血相を変えて飛んできた。やれやれと思いながら行ってみれば、そこで怒鳴っていたお客さん。それはそれは「チンピラを絵に描くとこうなる」って姿なのであった。短めのパンチパーマに薄紫色のサングラス。喜平の金ぴかネックレスにブレスレットに、これ...

後輩からの怖い引継ぎ ③

クレーム対応はとにかく初動が大事。こちらから素早く駆け寄りお詫びせねばならない。なので、ギフトセンターへ来れれるのはエスカレーターを利用されるのか、それともエレベーターか。双方からのルートを注視しながら待機を続ける。そして「もしかしたら、今日は来られないかも」と思い始めた午後5時を過ぎた頃、竹下さんの姿がエレベータ方向に見えたのである。しかも、高倉健さんばりの“着流し姿”の。竹下さんには何度もご来店...

後輩からの怖い引継ぎ ➁

後輩からの怖い引継ぎから一夜明け、いよいよ出勤である。火打石でもあれば、安全祈願のため「カッチ！カッチ！」とでもやって見送って貰いたいものだが、残念ながら我が家にはそんなものはない。ネクタイをギュッと締め直して気合を入れての出勤であった。お店に到着後ただちに以下を確認する。➀私は竹下さんご来店まで片時も売場を離れることなく、さらにフリーハンドでなければならない。➁お持ち帰り商品等、竹下さんのお届け品...

後輩からの怖い引継ぎ ①

お中元お歳暮はデパートの稼ぎ頭と言っていいイベント。どこのデパートも催事会場をギフトセンターにして大勢のお客様の集客を図っている。今回の物語は、若かりし日そのギフトセンターの担当をしていた時のお話である。その電話は、久々の休日にくつろぎ、晩酌でほろ酔い気分になっていた時かかってきた。ギフトセンターの後輩の藤村くんからだ。「今日あの竹下さんから電話がかかってきて、むちゃくちゃ怒鳴られました」と。＊あ...

ろう細工に歯型がくっきり

食品売り場で尾道の某有名蒲鉾店の商品を扱っていたころのお話。アルバイトの店員が誤って「ろう細工」の見本品をお客さんに渡してしまった。その後、持って帰ったお客さんから当然苦情の電話が入る。社員が急ぎお客さんのところへお詫びに駆け付け、見せられたろう細工。そこにはくっきりと歯形がついていたそうな。口にするまでわからない「ろう細工」の出来、おそるべし。...

お客さんにひざかっくん

これは先輩がしでかしたお話。紳士服オーダー売場のカウンターに立っておられたお客さんの後ろ姿をみて、高校の同級生と思った先輩社員。後ろからそっと近づき、親しみ込めて「ひざかっくん」を入れた。入れられたお客さん。デパート売場でのまさかの「ひざかっくん」に驚いて「えっ？」と振り向く。振り向いたお客さんの顔を見た先輩は声に出して「あっ！」と驚く。その先輩、直後たいそう怒られたそうな。...