「答えのない時代に、共に答えを作る」をモットーに仏典を読んでいきます。
牟子『理惑論』(4)序伝④ たいしゅ その しゅがくなるを きき えっして しょりを こう太守其の守学なるを聞き、謁して署吏(1)を請ふ。〔蒼梧の〕太守は、〔牟子が〕学問に非常に優れているという話を聞き、〔牟子を〕訪ねて役人になるよう頼んだ。 【署吏】役人として任命されること。 ときに とし まさに さかんにして しがくに せいなり時に年方に盛んにして、志学に精なり。〔しかし、牟子は〕年若く、血気盛んで、学問を極めたいという希望に燃えていた。 また せらんを み しかんの い なく ついに つかず又、世乱を見、仕宦の意無く、竟遂に就かず。また、世の中が乱れているありさまを目をして、仕官しようと…
牟子『理惑論』(3)序伝③ ぼうし つねに ごきょうを もって これを なんずるも牟子常に五経(1)を以て之を難ずるも、牟子は、〔彼らに対して〕つねに〔儒教の経典である〕五経(『易経』・『書経』・『詩経』・『礼記』・『春秋』)を用いて道術士たちを批判したが、 【五経】儒教において尊重される五つの経書。『易経』『書経』『詩経』『礼記』『春秋』をいう。 どうか じゅつし あえて これに あたうる なし道家術士(1)、敢て焉に対ふる莫し。道教の道術士たちは、あえてその批判に応えようとはしなかった。 【術士】方術士。ここでは神仙術を扱う者のこと。 これを もうかの ようしゅ ぼくてきを ふせぐに ひす…
牟子『理惑論』(2)序伝② このとき れいてい ほうご てんか じょうらんし是の時霊帝(1)崩後、天下擾乱(2)し、この頃、霊帝が崩御されたことにより、世の中が乱れてきていたが、 【霊帝】後漢の第12代皇帝。 【擾乱】入り乱れて騒ぐこと。 ひとり こうしゅうのみ やや やすらかにして独り交州(1)のみ差安かにして、交州だけはまだ平穏が保たれていたので、 【交州】現在の北ベトナムおよび中国の広東・広西の一部の古称。 ほっぽうの いじん みな きたって これに あり北方の異人、咸な来って焉に在り。北方の道術士たちはみんな、〔交州に〕移動してきて、この地に住み着いていた。 おおくは しんせんの へき…
牟子『理惑論』(1)序伝① りわくろん理惑論世の人々の「無理解」を鎮めるための書 いちに いう そうご たいしゅ ぼうし はくでん一に云ふ、蒼梧(1)太守(2)牟子(3)博伝一説には、蒼梧の太守であった牟子博による注釈書 【蒼梧】蒼梧郡。かつて中国南部に存在した郡で、現在の広西チワン族自治区あたりを指す。交州(現在の北ベトナムおよび中国の広東・広西の一部の古称)に属する。 【太守】郡の長官。ただ、『理惑論』の冒頭に記された牟子の半生を見る限りは、牟子が蒼梧郡の長官であったという記述は見られない。 【牟子】中国古代の思想家。生没年不明だが、『理惑論』の冒頭にある牟子の伝記には、後漢の第12代皇帝…
僧祐「序」(9)【完】 かねて せんかいに したがい ろんを まつに ふす 兼ねて浅懐に率い、論を末に附す。 僭越ながら、〔わたくし僧祐も〕鄙見を述べさせていただいた。巻末に『弘明論』(後序)として載せたものがそうである。 こいねがわくは けんあいを もって かすかながら えいたいを たすけん 庶くは涓埃(1)を以て、微かながら瀛岱(2)を裨けん。 どうか願わくは、ほんの一滴のしずく、ひと粒のほこりのような〔ちっぽけなこの作品〕によって、わずかであっても大海の水量が増え、泰山の標高が増すことにつながらんことを。 【涓埃】しずくとちり。『周書』には「涓埃之功」(けんあいのこう)という用例がある。…
僧祐「序」(8) その こくい じゃを きり けんげん ほうを まもる あれば 其の刻意邪を剪り、建言法を衛る有れば、 〔その選んだ基準としては、〕論主の主張が、邪説を刈り取るものであったり、仏法を守ろうとする言葉が書かれてあれば、 せい だいしょうと なく まったく とらざるは なし 製大小と無く畢く採らざるは莫し。 作品が長編であろうと短編であろうと関係なく、悉くすべてを収録した。 また ぜんだいの しょうしが しょき ぶんじゅつは 又、前代の勝士が書記文述は、 また、前代の優れた人たちの記録や著述などについても、 さんぼうに えき あれば また みな へんろくし 三宝に益有れば、亦皆編録…
僧祐「序」(7) ゆう まつがくを もってすれども こころざし くごに ふかし 祐、末学を以てすれども、志弘護に深し。 わたくし僧祐は、まだまだ浅学の身ではあるが、〔仏法を〕広め、守ってみせるという意気込みに関しては、誰にも劣らない。 せいげん ふぞくをして こころに ふんがいす 静言(1)浮俗をして、心に憤慨す。 だから、うわべだけの偽物の言葉や、〔欲望まみれの〕浮わついた俗世間に対して、どうしても腹が立ってしかたない。 【静言】実質を伴わない表現上だけの言葉。下心のある言葉。 ついに やくしつの びかん さんせいの よかを もって 遂に薬疾の微間、山棲の余暇を以て、 そこで、病気療養の合い…
僧祐「序」(6) まさに じゃくしょくの ともがらをして ぎべんに したがって ながく まよわしめ 将に弱植の徒をして偽弁に隨って長く迷はしめ、 なぜなら、知識のない者たちに、偽りだらけの理論を教え込むことによって、〔彼らを〕一生迷わせてしまうことになるし、 とうちの ともがらをして じゃせつを おうて ながく おぼれしむ 倒置(1)の倫をして邪説を逐ふて永く溺れしむ。 また、非常識な者たちに、〔彼らにとって心地よい〕破天荒な理論ばかりを聞かせて、〔彼らを〕一生勘違いさせてしまうことになる。 【倒置】順番をさかさまにして置くこと。主に言語表現のひとつとして使われるが、ここではものの順序を逆にす…
僧祐「序」(5) それ かったんは よるに なくも はくじつの ひかりを ひるがえさず 夫れ鶡旦(1)は夜に鳴くも、白日の光を翻さず。 たとえ 〔夜明けを告げる〕ミミキジが夜中に鳴いたとしても、陽の光がさすことはないし、 【鶡旦】ミミキジ。ニワトリのように、夜明けを告げて鳴く美しい鳥。 せいえいは いしを ふくむも そうかいの いきおいを そんする なし 精衛(1)は石を銜むも、滄海(2)の勢を損する無し。 セイエイが石を口に含んで〔いくつもの石を東海に落としたとしても〕、大海の勢いが弱まることはない。 【精衛】古代中国の伝説上の鳥。夏を司る炎帝の娘が東海で溺れて死に、白いくちばしと赤い足を持…
僧祐「序」(4) しゅぶんの こくじゅは すなわち こばんで いきょうと なし 守文の曲儒は、則ち拒んで異教と為し、 古典の解釈ばかりしている儒学者たちは、〔仏法を〕拒んで「異国の教えだ」と言い、 こうげんの さどうは すなわち ひきて どうほうと なすに いたりては 巧言の左道は、則ち引きて同法と為すに至りては、 言葉巧みに取り入るだけの道家たちは、〔仏法に〕近づいてきて「同じ教えだ」と言う。 こばむに ばっぽんの めい あり ひくに しゅしの らん あり 拒むに抜本の迷有り、引くに朱紫の乱有り。 〔仏法を〕拒んで〔「異国の教えだ」と言う〕のは、〔仏法に対する〕根本的な誤解があるからであり、…
僧祐「序」(3) だいほう とうりゅうしてより とし ほとんど ごひゃく 大法東流してより、歳幾んど五百(1)、 偉大なる仏法(仏の教え)が東方(中国)に流布してから、そろそろ五百年になろうとしている。 【歳幾んど五百】後漢の明帝の時代(57~75年)に仏教が中国に伝来したとする伝説に基づく。この伝説は『弘明集』巻第一に収録されている『理惑論』にも記載がある。『弘明集』の成立は518年。 えんに おのおの しんぴ あり うん また すうたい あり 縁に各々信否あり、運亦た崇替あり。 その〔約五百年の間で、仏法に〕出会った人間は数知れないほどいるが、そのなかには信仰心を起こした者もいれば、起こさ…
僧祐「序」(2) しかれども みち だいなれば しん かたく こえ たかければ わ すくなし 然れども、道大なれば信難く、声高ければ和寡し。 しかし、〔仏の〕真理(道)が偉大であればあるほど、信じることは難しくなり、〔仏の〕名声が高ければ高いほど、共存はありえなくなる。 しゅみ しゅんにして らんぷう おこり ほうぞう つんで おんぞく しょうず 須弥(1)俊にして藍風起り、宝蔵積んで怨族生ず。 須弥山は厳しくそびえ立っているから、暴風がつねに吹き荒れ、宝物庫には財宝が山のように積まれているから、盗賊がつねにつけ狙う。 【須弥】須弥山(しゅみせん)。仏教の宇宙観において、世界の中心にあるとされ…
僧祐「序」(1) ぐみょうしゅう まき だいいち 弘明集 巻第一 〔仏法を世の中に〕広め、明らかにするための書 第1巻 りょう ようと けんしょじ しゃく そうゆう せん 梁(1)楊都(2)建初寺(3)釈(4)僧祐(5)撰 梁の首都・建康にある建初寺の僧侶・僧祐が撰述した。 【梁】502~557年。南北朝時代の南朝の国。 【楊都】建康(現在の南京)の別名。 【建初寺】揚子江(現在の長江)以南で初めて建てられた仏教寺院。 【釈】「釈子」の意。名前の前につけて、仏教徒であることを表す。 【僧祐】生没445~518年。梁の時代の僧侶で、仏教の戒律に精通し、梁の武帝からも厚い信頼を得ていた人物である。…
Buddhist Narratology Laboratoryについて
はじめまして。もものりと申します。 このたびは、当ブログにお越しいただき、ありがとうございます。 ブッディスト・ナラトロジー・ラボラトリー(仏教物語研究室)では、 過去の叡知である仏典をひもときながら、 「答えのない時代」を生きるわたしたちによる、 答え探しの旅をつづけていきたいと思います。 これがどんな「旅物語」になるのか、予想もつきません。 それでは、よろしくお願いします。
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