多摩全生園 北條民雄さん
いのちの初夜⑤(前日のつづきです)木立を透して寮舎や病棟の電灯が見えた。もう10時近い時刻であろう。尾田はさっきから松林の中に佇立してそれらの灯を眺めていた。悲しいのか不安なのか恐ろしいのか、彼自身でも識別できぬ異常な心の状態だった。佐柄木に連れられて初めて這入った重病室の光景がぐるぐると頭の中を回転して、鼻の潰れた男や口の歪んだ女や骸骨のように目玉のない男などが眼先にちらついてならなかった...
2024/05/18 22:25
2024年5月 (1件〜100件)
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