バレンタイン・デイ すれ違う二艘の船
そのスカイラウンジはホテルの最上階にあった。私はそこに座ってしばらくバルト海を見下ろしていた。ラウンジはオフィスビルの延長のようなしろものであり、落ち着ける空間ではなかった。しかし、数日前に予約した部屋に下りて行くまえに、私には心の準備が必要であった。 この晩の一か月前、四年間半お付き合いをさせて頂いたスカンジナビア航空のパイロットから別れを切り出された。 ようやく腹を括って、八階の部屋へ降りてドアをノックした。ドアがゆっくりと開かれ、部屋に一歩招き入れられた時、私は一驚した。 部屋のところどころに燭台が置かれ、各燭台の上では灯りが自在に演を舞っている。テーブルの
2022/02/21 08:09