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  • 天音しおんを俺は好きである

    俺の知人が女優をやっていて、時々その舞台を観に行くことがある。今夜も仕事をジェンガのように積み上げて定時でさっさと帰り、舞台へ足を運んだ。 この知人というのは、売れてるか売れていないかといったら、売れていないのだろうと思う。いや、売れてるってどれくらいからよ?と聞かれても困る。上原亜衣は間違いなく売れてるだろうけれど、天音しおんはどうだ、と聞かれても答えに窮する。それと一緒だ。天音しおんはニッチなジャンルの巨頭である。俺の知人もまた、同じようなものだ。 会場は町の外れの場末のバー。 カウンターの席に腰を下ろして、周りの客を見遣る。色んな顔がある。まだ若い学生から、俺のようにくたびれたオッサン、…

  • 休みの真ん中でいきていくために

    三連休の真ん中の日。何をすることもなく、昼過ぎまで惰眠を貪り、夕刻になってようやく、のそのそと家を出る。家を出て、どこへ行くというあてもない。ただこの町のあいまをこそこそと歩くだけだ。暗くなるのを待って、隙間をこそこそ歩く。ゴキブリか。どこかで誰かにつぶされるのが、多分俺の人生の最後だ。 南の空に花火が上がっている。どこかで花火大会をやっているらしい。聞くところによると、あの花火というのは――特に、こんなにも遠くから見える大きな花火というのは――ひとつ打ち上げるだけで数万円から数十万円かかるらしい。俺は花火には美しさを覚えない。しかし一発打ちあがるごとに、「あ、五万円」やら「うわぁ、これで五十…

  • うぇいっ!?

    夜を待った。 午後5時半。近くの蕎麦屋へ。タコの唐揚げと秋刀魚の塩焼きをつまみながら、生ビールと焼酎を呷る。この店の蕎麦は中々美味いけれど、時間がかかるのが欠点だ。時計を見て、あまり時間がなかったので、蕎麦は頼まずに店を出た。 紺色に染まり始めた東の空。西の空は、まだ紅の彩りが残っている。まだ夜までには少し時間があるようだ。そのまま、近くのバーへ流れ込む。 季節の果物を使ったフレッシュ・フルーツカクテルに心を惹かれる。カウンターの中のバーテンダーにそう声をかける。と、返ってきたのは、 「どの果物にしますか?」 という問い掛け。何があるのか、と目で問う。 「いまですと、スイカ……は終わっちゃった…

  • ガールズバーではない

    帰りに時々俺はバーへ行く。バーへ行って酒を飲む。家で飲むのに比べて何倍もの金をかけて、家にあるような酒を飲む。薄暗いバーの雰囲気が好きだ、というのは建前で、本音はカウンターの内側にいるお姉さんが目当てだ。独身のオッサンは、お姉さんを好む傾向がある。 とはいえ、俺も大人。ウェイ系の大学生のように下品に絡むようなことは間違ってもしない。大人は静かに酒を飲む。バーとは、羽ばたくことに疲れた鳥たちが羽を休める、止まり木なのだから。 止まり木に羽を休めながら、ロック・グラスの氷を透かして、彼女の姿をぼんやりと視界に入れる。「今日もカワイイね!」と心の中でガッツポーズを取る。しかし決して話しかけはしない。…

  • えい、ちくしょう

    夜が来る。俺はいつもの夜をそうやって迎えるように、酒を飲む。夜というのは酒を飲まずには過ごせないものだと思う。 高校生の頃、夜にはコーヒーを飲んでいた。それはブラックコーヒーで、だから当時の俺は疑うことなく中二病真っ盛りだったわけだ。えい、ちくしょう。(この、「えい、ちくしょう」というのは、「カラマーゾフの兄弟」の中でよく出てきた感嘆詞だ。どこかしこで使われていたので、きっとここで使っても、間違いではないだろう) そうやって慣れないコーヒーを飲みながら、だんだんと酒を覚えていった。ビールから焼酎へ、やがてウイスキーへ至る。 王道というべきか、悪道というべきか、それは分からない。しかしとにかく、…

  • 日常の土曜日

    今日は本屋へ行った。統計学の本を探すためだ。なぜ統計学かというと、別に理由はない。なんとなく、暇つぶしが欲しかっただけだ。 『直感的統計学』。 そういうタイトルの本を見つけた。パラパラとめくる。すごく簡単そうだ。こういう、あまり頭のよろしくない人に向けた本を、俺は探していた。なぜかというと、明確な理由がある。俺の頭があまりよろしくないからだ。 なにせ高校生の頃には真っ赤なシャツに黒のジャケットという痛々しい姿で家の周りをウロウロしていたし、大学生の時にはかっこいいと思って手首にバンダナを巻いて過ごしていた。陰でリストカット常習者と呼ばれていたことを知るのは、それから5年後の同窓会でのこと。ちな…

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