奈良井宿
「お武家様、今日のお宿はもうお決まりでしょうか。なんなら手前のところに泊まっていてもらえませぬか。お武家様」 「・・・」 「しつこいようですがお武家様。見てのとおり、最近、この界隈の街並みはすっかり寂れてしまいまして、京、大坂はもちろん、江戸からの客もとんと途絶えてしまいました。なんでも流行病で軒並み大店なんかも店仕舞いして国元に帰っているとか聞きます。番頭さんにまで暇を出していると聞き及んでおります。年明け早々、うちの宿にお泊り頂いたお客も僅かに八人。どうかお情けだと思うて今宵、お泊り頂けませぬか」 「亭主、左様に不景気か」 「はい、それはもう」 「相分かった。其の方の宿に案内いたせ」 「は…
2022/01/21 09:39