織田は、この作品でも、登場人物の内面に立ち入ることをことごとく避け、かわりに船、海、あらし、動物、その他生活用品等で彼らの「生活」を表現している。だがそれは、もはや人間関係そのものを媒介させうる社会的な「物」としてのそれではなく、自然の一部としての人間に対してきわめて並列...
中国江蘇省蘇州で日本人母子が中国人の男に刃物で切り付けられた事件で、男を阻止しようとして刺され死亡したバス案内係の中国人女性、胡友平さん(54)の葬儀が28日、市内の葬儀場で執り行われた。遺族は地元メディアを通じて、各方面から哀悼の言葉が寄せられ寄付の申し出もあったことに...
《三 ノイローゼ》 【要約】 ◎一つの事例(大学生S・20歳) ・幼児期は、子ぼんのうな父とやさしい母の長男として生まれ、経済的にも環境的にも恵まれて育ったが、弟が病死してから両親は「過保護」になり、健康のために転宅を繰り返した。Sは長男だったために、父の事業をつぐことは決...
《二 登校拒否》 【要約】 ・「登校拒否」は、最近わが国に多発している問題である。その特徴は「怠学」と対照的な傾向をもっている。 ①登校拒否は、家の中に閉じこもっているが、怠学は家の外を出歩く。 ②登校拒否児は知的に高く性格的にもよい子が多いが、怠学児は情緒不安定(ひがみ、...
《第十一章 情緒障害各論》 【要約】 《一 日常生活と情緒障害 ・・諺を中心として・・》 ・われわれは、日常生活において、一過性ではあるが情緒障害を起こすことがよくある。・自分の心の中で、もっともコントロールしにくいのが情緒である。だから、情緒をどのようにコントロールするか...
《第十章 教育と情緒障害》 【要約】 ・ここでは、教育と情緒障害の問題を要約し、学業不振の問題について考えたい。 ・現在の教育を成立させている基本的な理念、考え方の誤謬を情緒障害の立場から論じる。一教師、一学校の問題ではない。教育行政の問題でもない。一般の人たちが、教育に対...
《二 情緒の変容を利用する》 【要約】 ⑴自消作用を利用すること ・情緒の変容は、ある種の情緒の発動を自ら消す効果をもっている。 ◎ぐち:ぐちは一種の甘えであって退行の一種と考えられるが、一種のカタルシスが起こって、ある程度の不愉快な感情をやわらげる効果がある。(ぐちを聞い...
《第九章 情緒障害の予防(精神衛生)》 【要約】 ・要するに、C領域を成長することに成功すれば、かなりの情緒障害は防げるはずである。《一 C領域を成長させる》 ⑴経験を豊富にすることである。 ・C領域を育てるということは、情緒的な体験を豊富にさせてやることである。 ・現在の...
《三 情緒障害のメカニズム》 ・「情緒をとりまく心の構造図」(A領域=生理・心理的な領域、B領域=欲求・情緒、C領域=意欲・情操、D領域=知識 ・「情緒障害」のメカニズムを一言でいうなら「C領域が十分に成長していない状態である」といえる。 ・C領域が十分な厚みをもっていない...
《二 情緒障害の定義》 ◎情緒障害とは「情緒の現れ方の歪曲」である。 ・「現れ方」は、厳密には「情緒の動き方」「発動のしかた」という表現の方がよいかもしれない。 ・「歪曲」とは、次のような「動き方」を代表させた表現である。 ⑴普通一般の人なら、Aという刺激を受ければ、aとい...
《第八章 情緒障害の構造》 《一 情緒障害はふえてゆく》 【要約】 ・現代人のD領域は、社外の渉外的なことにのみ専念している社長のようなものである。自分の本来の仕事である部下や社員を調整したり指導したり、リードしたりする役割を捨ててしまった。したがって、その社員は、社長の意...
《七 攻撃》 【要約】 ・外からの刺激を受けて、自らの心情の中に、ある種の曲折が起こり、その結果としてそれらのものが表出される。そのことによって、自らの情緒的な不安定感・不快をいやそうとするメカニズムである。代償行為と合理化は、その表出される段階でやや積極的・能動的な色あい...
《四 合理化》 【要約】 ・代償行動のかわりに、いかにも合理的・論理的な言葉で、自分の不愉快さを避けようとし、自分の行動を正統化しようとする心の動きを合理化と呼ぶ。 ・合理的な見せかけであり、「屁理屈」「いいわけ」「責任転嫁」が相当する。 ・情緒的な決定であるから、刹那的・...
《第七章 情緒の変容様態》 【要約】 ・情緒は、周辺にある要素との関係の中でどのような動きをするか。本項では、危機場面における「働き方」の特性について述べる。 ・情緒の動きが、もっともよく観察されるのは、その人間が困った場面に出会った時である。困難な場面は、大別すると二つに...
《二 教えることと育てること》 【要約】 ・「教える」という働きと「育てる」という働きは、基本的に違った働きをもっている。 ・「教える」という働きは、ほとんど知識と技術を伝達することと解してよい。この働きを営むには、第三者の関係が、もっとも能率的で効果的である。(師弟関係)...
《第六章 情緒の力動》 《一 情緒をとりまく心の構造》 【要約】 ・心の中心部に、分析することの不可能な領域がある。心理的にコントロールすることもできない。「生理的・心理的な領域」(A領域と名づける)自律神経系と深い関係がある。夢の世界でこの領域をかいま見ることができる。(...
《第五章 欲求と意欲》 《一 欲求と意欲の違い》 【要約】 ・食欲・性欲・睡眠の欲求といった生理的な欲求と、獲得欲求(プラモデルが欲しい、100点が欲しい)、愛情欲求(かわいがられたい)は、基本的欲求と呼ばれ、人間の生得的にもっている欲求である ・基本的欲求(A)は、しばし...
《第四章 欲求と情緒》 《一 盾の両面》 【要約】 ・欲求と情緒は、盾の両面である。 ・情緒が現れるためには、そのベースに欲求がある。母親に家に「いてほしい」という欲求があって、それが阻止される(母親が家にいない)と、そこに「淋しさ」が生ずる。宿題を「怠けたい」という欲求が...
《二 感情の系列》 【要約】 ・もっともプリミティブなものは原情である。感覚をベースにして、物象の触発によって生ずる感情である。「人」とは無関係、欲求もきわめて希薄という点で、情緒とは違う。「人」による欲求阻止もないし、衝動的な行動が「他人」に向けられることもない。(自分と...
《第三章 情緒と情操》 《一 情操の特性》 【要約】 ・感情の中には、情緒・原情のほかに、情操といわれるものが含まれている。ドラマに感動したり、文学や音楽に感動したりする心をいう。情緒のレベルより、いちだんと成長した感情であるといえる。 ◎情操の特質 ⑴ドラマや音楽に感動す...
先月、入れ歯を支える左上一番奥の親知らずが痛むので、駅前のDクリニックで診てもらったところ、「かぶせものをしていますが虫歯のようですね。はずしてみます。」医師は麻酔注射をしてはずし、写真をとった。「虫歯が進んでいます。抜かなければなりませんね。」「血液サラサラの薬を飲んで...
自宅近くのデンタルクリニックで左下奥歯を抜いた。血液サラサラの薬を飲んでいるので、医師は極めて慎重である。「今日の気分はどうですか。血圧は高くありませんか?」「気分は普通です。血圧は120程度です」「では左下の奥の歯を抜きましょう」。抜かなければ、今後も虫歯が悪化してさら...
《第二章 情緒と風土》 【要約】 ・情緒は、民族や文化によって根本的な規制を受けるものではなく、人類に共通のものである。しかし、ある種の情緒が風土の影響で、濃淡をもっているという事実はある。(暑いインドでは太陽が憎しみの対象になっているが、日本ではありがたい、尊ばれる存在な...
《七 情緒のない世界》 【要約】 ◎人間から情緒というものがなくなれば・・・・。 ・他人をうらんだり、憎んだり、怒ったりすることがなくなれば「傷害事件」は起こらなくなる。 ・ねたましい、のろわしい、うらやましい、うらめしいといった情緒がなくなれば、三角関係の問題、夫婦げんか...
《六 情緒と生理現象》 【要約】 ・「病は気から」という考え方は、近代医学によって一度は否定されたが、病原菌による病気のほとんどが征服されるようになって、再び見なおされてきたようである ・ヒステリーは、少なくとも精神的な原因によって一時的な身体症状を起こすものと定義してよい...
東京新聞6月9日付け朝刊(25面)に「保護司殺害疑い再逮捕 滋賀県警 更正支援受ける35歳男」という見出しの記事が載っている。この記事を読んでわかることは、強盗事件を起こして2019年に有罪判決を受け、保護観察中だった35歳の男が、更正支援を担当していた60歳の保護司を殺...
《五 情緒の特性》 【要約】 ⑴ 没論理性:二通りの意味がある。 ①情緒は面前の刺激に直接的な反応として現れるのであって、論理的な思考の結果として、現れるということはあり得ない。 *怒りは、相手が、自分に悪意を抱いていると感じた時、その瞬間に現れる。 ②情緒は、論理...
《四 もう一つの情緒 ・・原情・・》 【要約】 ・人間には、もう一つの情緒がある。それは、人間によって触発されたものではない、怒りによく似たパニックと呼ばれるものである。 ◎怒りの条件 ・第一に欲求がある。第二に、欲求が阻止される。第三に、阻止した人に攻撃が向けられる。(反...
《三 快・不快》 【要約】 ・情緒を、内容的なものを中心にして分けると、快・不快に分けることができる。 ・くやしさ、怒り、淋しさ、悲しさはなどは、不快の情緒である。うれしさ、おかしさ、美しさ、めずらしさ、かわいさなどは、快の情緒である。快の情緒は、生理的な現象を伴うが、衝動...
《第一章 情緒の構造》 【要約】 《一 情緒の定義》 ・情緒とは「生理的な現象、および衝動的な行動・心情を伴う激しい感情」である。 ・情緒には、衝動的な行動を伴う「外むきの感情」(くやしさ、怒り、反抗、攻撃)と、衝動的な心情を伴う「内むきの感情」(悲しさ、淋しさ、恥ずかしさ...
《ともかくも、福岡地裁がどのような決定を出すのか、固唾をのんで見守りたい。》と書いたが、その決定は「第2次再審請求棄却」であった。 さもありなん、と私は思った。もし「裁判をやり直す」という決定を出した場合、《ただでは済まされない》からである。これまで事件の捜査に当たった...
《まえがき》 【要点】 ・「情緒障害」=「情緒の現れ方の歪曲」 ・(以下の記述には)いわゆる科学的データが少ない。人文科学に関する限り、数で処理された科学的データなるものは特別な場面や特別な条件下のものであり、部分的なものである。それを数多く集めてみても、それで生きた人間を...
東京新聞6月3日付け朝刊(20面)に、「死刑執行後再審なるか 2女児殺害『飯塚事件』5日決定」という見出しの記事が載っている。その内容は以下の通りである。 〈1992年、福岡県飯塚市で、小学1年の女児2人が登校中に行方不明になり、翌日、約20キロ離れた山中で遺体が見つかっ...
「幼児の言語発達」(村田孝次著・培風館・1968年)抄読・90
9 初期語連鎖から文へ・・・その形式面・・・ 【要約】 1語による談話(“1語文”)のつぎに、二つの語を連鎖した談話が現れてくる。しかしこれは本格的な文の段階にはいったことを意味せず、1語談話のいろいろな特性を残している。このような原始的な語連鎖から文形成の初歩への特異な...
「幼児の言語発達」(村田孝次著・培風館・1968年)抄読・89
■“対話”における母親の役割 【要約】 サンガー(Sanger,1955)は、何人かの母親の、乳児に対する音声による働きかけの細部を数ヶ月にわたり追跡観察した結果、母親、とくに“良い母親”は、子どもの目覚めている間は、ほとんど子どもに話しかけ、子どもを“音声にひたらせる”...
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織田は、この作品でも、登場人物の内面に立ち入ることをことごとく避け、かわりに船、海、あらし、動物、その他生活用品等で彼らの「生活」を表現している。だがそれは、もはや人間関係そのものを媒介させうる社会的な「物」としてのそれではなく、自然の一部としての人間に対してきわめて並列...
〈ところがある日、賀来子は電球を手にしてしきりに溜息をついてゐる基作をあやしんで、その電球をどうするつもりですかと訊いた。まさか玩具だとも言へず、古い電球を新しい電球にする法を思案してるねんと答へると、そんなことできるんですか。出来ィでかいな。すると賀来子はさうですかと暫...
さてすでに述べたように、織田作之助の方法意識の中には、ストーリー・テリングに対立するものとしての近代的リアリズムへの志向がふくまれていた。私はそのあらわれを「夫婦善哉」「素顔」「天衣無縫」といった作品にみたわけだが、その中でも「夫婦善哉」「素顔」と「天衣無縫」との間には異...
資本主義社会が発展していく中で、かつての封建中流階級は「庶民」として生き抜くために、他ならぬ「庶民」を徹底的にだましつづける他はなかった。いわゆる日本的なブルジョア合理主義とは、伝統的な仏教・儒教道徳としての「勧善懲悪」思想の裏返しとしてあるのであり、それゆえ両者における...
織田作之助は、いわゆる生活というものを平面的な流れとしてとらえる。そしてその流れは、多かれ少なかれ「運命」とよばれる一つの必然性によって支配されている、という認識がある。織田は「雪の夜」において、坂田というひとりの男が、瞳という娘に惚れるということをきっかけに、どこまでも...
周知のように、井原西鶴は江戸時代の封建社会体制をなし崩し的に崩壊せしめる、変革の可能性を裡に秘めた新興階級(町人)、つまり商業資本家の代表者として登場した。従って、井原西鶴の小説は、新興階級の封建社会に対する自己主張であり、中世的な美意識や、儒教道徳を拠りどころとする当時...
織田作之助におけるストーリー・テリングという方法は、「ストーリーの奇抜な変化に凝ったり」するようなものではなかった。 〈その頃、もう人に感付かれた筈だが、矢張り誰にも知られたくない一つの秘密、脱腸がそれと分かる位醜くたれ下がってゐることに片輪者のやうな負け目を感じ、これ...
織田作之助の「文学」における基本的方法をひとくちでいえば、それはストーリー・テリングという方法である。 〈おれの小説は一気に読める、と彼は豪語していた。いかにも彼の文体はキビキビして、鈍味がなく、素早い頭脳回転に渋滞のあとがなかった。しかし彼の頭脳は素早く回転すればする...
・・・夜を経なくっちゃ、太陽が登らないのだ。・・・(「夜の構図」) 織田作之助、太宰治、坂口安吾、石川淳、この順は彼らの世を去る順であった。そして中島誠は、この順を彼らの文学的資質の順としてみている。 〈必ずしも、淳、安吾、治、作之助の四人は同質の作家ではないだろう。...
さて、もう一度戦後の文学現象をながめてみたい。 1 志賀直哉・永井荷風・正宗白鳥・谷崎潤一郎らの大家の復活 2 上林暁・尾崎一雄・外村繁らによる私小説の復活 3 舟橋聖一・田村泰次郎・石坂洋次郎らの風俗小説 4 川端康成・田宮虎彦・井上靖らの中堅作家 5 織田...
またすぐれた文学を次のように規定している。 〈すぐれた文学とは、われわれを感動させその感動を経験したあとでは、われわれが自分を何か変革されたものとして感ぜずにはおられないような文学作品だといってよい。感動しうるためには、その作品はわれわれにとって再経験しうるものでなければ...
さて、ここで注意すべきは、科学も芸術もそのような対立をいわゆる「実践・・認識・・再実践・・再認識」という形でおこなうが、そのとき科学にとっての実践とは正に認識の実用化であり、芸術にとっての実践とはそのような対立の表現であり、その表現はおおむね非実用的なものであるということ...
ところで芸術がそのような人間の生活活動の意識的生産の中から生まれてきたということははたして自明のことであろうか。 思うに、人間がその生活において意識的生産と物質的生産を《同時に》行うとは、いいかえれば人間の生活は意識的生産と物質的生産との対立として存在するということでは...
ここでいう自己疎外とは、人間が絵を描こうと思って描きはじめるや否や、その描かれた絵が独立して、逆に人間を支配しはじめるというそうした人間と絵との関係、もしくは人間の意識活動の内的構造のことである。だがこうした自己疎外という現象は、単に人間の意識活動の中にあるばかりでなく、...
人間を人間たらしめているものは、その存在を存在たらしめている生産活動・生活活動に他ならないが、マルクスはそれを動物の生産活動と区別して「自由な」生産活動であると規定する。すなわち、動物が直接的な肉体的欲望に支配されて生産するのに対して、人間は肉体的欲望から自由に生産し、し...
【第五章 内閣】 ◎草案(修正該当部分) 第七十二条3 内閣総理大臣は、最高指揮官として、国防軍を統括する。 ◎修正案 第七十二条3を削除する。 《解説》 ・修正案においては、国防軍は存在しないので、この規定は不要である。 【第九章 緊急事態】 ◎草案 (緊急事態の宣言) ...
【第四章 国会】 ◎草案(修正該当部分) 第四十二条 国会は、衆議院及び参議院の両議院で構成する。 第四十九条 両議院の議員は、法律の定めるところにより、国庫から相当額の歳費を受ける。 ◎修正案 第四十二条 国会は、衆議院及び参議院の両議院で構成する。 2 参議院は非政党議...
【第三章 国民の権利及び義務】 ◎草案・1(修正該当部分) 第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力により、保持されなければならない。国民はこれを濫用してはならず、自由及び権利には責任及び責務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならな...
◎草案 【第二章 安全保障】 (平和主義) 第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない。 2 前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。 (国...
《日本国憲法改正草案・自由民主党》修正案・《2》 【第一章 天皇】 ◎草案(修正該当部分) (天皇) 第一条 天皇は、日本国の元首であり、日本国及び日本国民統合の象徴であって、その地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく。 (国旗及び国家) 第三条 国旗は日章旗とし、国...
■呼びかけと要求 《呼びかけ》 【要約】 呼びかけは、現前する人、あるいは現れることが期待される人に対して伝達する欲求に動機づけられる発声である。注意をひきつける効果の大小に重点が置かれており、音量あるいは音調が重要な役割をはたしている。レベス(Revesz,1956)は...
■感嘆発声 【要約】 初期の感嘆発声は、主として短母音または長母音の強い発出であり、情動の直接的な表出である。子どもの属する社会の言語音からの影響を受けておらず、生得的なものである。これは“一次感嘆発声”あるいは“自然感嘆発声”とよばれている(Revesz,1956;Le...
12 言語的伝達の諸型 ■サルの発声の型と機能 【要約】 京都大学の霊長類研究グループによる十数年間の研究成果が、最近、伊谷(1965)によってまとめられている。伊谷によると、ニホンザルの音声的伝達は機能的につぎの4種類に分類することができる。 ⑴ 叫び声(crying)...
■母親の初語識別 《初語識別》 【要約】 通常、初語は子どもとたえず接している母親によって発見される。母親は、純粋に情動的あるいは喃語的な発声に対しても、これを自分への呼びかけ、あるいは、何かを自分に要求する有意味的発声と解釈しがちである。客観的に有意味とはいえない空疎な...
11 初語 【要約】 “語”は、文のなかの構成分でなければならないから、初語は“語”ではないが、初期の談話は、語に似たまとまり方で1音節ないし2~3音節から成り、機能的にみても、将来の本格的な談話の中に移行していくものが多いから、“語”とよんでも誤りとはいえない。word...
6 言語的伝達の機能の初期分化 【要約】 ここへきてようやく言語的な行動の第1歩がはじまる。それは、言語形式に従う適応的な伝達の開始ということである。この期から、子どもは言語を利用して外界に適応する方法を徐々に、しかし積極的に習得していく。 まず、初語の問題をとりあげ、...
■言語理解の透明性 【要約】 音声は談話の聴取においては“透明”だといわれる。このことは、“話”という語がつぎのような広い意味範囲にわたって用いられる事実からも立証される。 まず、“話”という語は、言語行動の一形態としての意味に用いられる。 ⑴ 活動ないし能力(2歳児は十...
《自己行動調整機能の発達》 はじめ他者への伝達手段であった談話が、子ども自身が自己の行動を統制し組織化するための手段を分化すること、および、まえには二人のひとに分かれていた“話すー聞く”という機能が、のちに個人行動の中へ統一的に内化されること。この発達過程を分析する方法が...
9 言語理解 【要約】 言語理解は子どもの知的発達に大きな寄与をする。そのような寄与がどのように発達変化するか、その発達を規定する要因は何かについて考えてみたい。 ■ 談話の自己行動調整機能 自己行動に対する談話の調整機能の発達過程についての実験的研究の成果を検討する...
《代表過程と条件づけ》 【要約】 二つの事項間の任意的な関係は、言語的代表過程に限らず、非言語的過程にも存在する。接近連合、あるいは条件づけによって、連合される二つの事項の間に有縁性があってもなくても、両者間に結びつきが生じる。 連合における結合は、一つ一つが孤立してい...
《代表過程の二つの発達水準》 【要約】 代表過程とは、“代表するもの”と“代表されるもの”との間の分化である。ピアジェ(Piaget,1945)に従って、“代表するもの”を“能記”、“代表されるもの”を“所記”とよぶ。この二つの用語は、フランスの言語学者ソシュール(Sau...
■範疇化 【要約】 代表過程の発生と発達を具体的に考えてみる。認知に対して作用する代表機能は、要するに、客観的事象を意味的なものへと変形することであり、範疇化することである。 特定の1匹の動物が特定の“そのもの”としてではなく、“イヌ”という範疇(カテゴリー)ないし級(...
《ピアジェの見解》 【要約】 ピアジェ(Piaget,1933,1934,1945)は、知覚が行為的経験を媒介としてはじめて発達すると考えている。前述したマッチ箱場面(父親が1歳4カ月の女児の目の前でマッチ箱をあけ、そのなかに鎖を入れ、箱の口を少しあけたまま彼女にさし出す...
■認知と行為 【要約】 代表機能の最も単純で直接な水準は知覚である。知覚が行為的な経験とどのように因果的に関係しているかについて、二つの対立する見解がある。その一つは、人間の知覚は代表機能によって支えられるが、この機能は、人間においては視覚や聴覚とならんで一つの基本的で生...
■非言語的な経験 《“内言語”の非言語性》 【要約】 言語的代表過程が形成されるための要件の一つとして、マイクルバスト(Myklebust,1960) は、“内言語”なるものを考えている。“内言語”はビゴツキーの“内言”とは異なる概念である。“内言”は談話の内面化ないし思...
東京のデパートで開かれていた「大黄金展」の会場から1040万円の純金製茶碗が盗まれた。犯人Aはこの茶碗を古物買い取り店Bに180万円で売却した。古物買い取り店Bは同じ日に古物買い取り店Cに約480万円で転売した。 したがって、Aは180万円、Bは約300万円、Cは約56...
8 認知世界の形成 【要約】 子どもは、まず言語を学び、つぎにそれを基礎として意味的経験をするようになっていくのではなく、はじめに意味的経験をし、その経験を深めていく途中から、それを基礎として言語の影響を徐々に受けるようになっていくのである。意味的経験がなければ、言語の経...
■聴力 【要約】 談話を聞く場合、談話の全体が必ずしも遺漏なく聞きとれるということはなく、また、つねにそうである必要もない。その理由の一つは、談話の行われる状況、談話そのものの置かれている文脈、あるいは広い知識・経験などが、聴取欠損部を補うのに役立つということにある。この...
■音声識別と発声 【要約】 音声識別力が、子どもの漸次発達変化していく音韻とその体系化にそって発達することは明らかである。低い発達段階では、一部の音声だけを識別し他の音を無視するとか、特定の音声を彼自身の音韻範疇に従ってまとめたり相互交換したりする、ということが考えられる...
■音声識別と場面 【要約】 “言語理解”が言語以外の条件(場面)によっている場合が多い。 カリツォーバは、成人が談話を与えるとき、その音調が一定であり、また身振りや場面も一定であるときだけ、要求している条件(“理解”)反応を示すことを実験的に確認している(Kogan,1...