蒼い影(4)
飯豊山脈を遥か彼方に眺望する様に、遠い昔となった青春時代を語り合うちに、健太郎と節子の二人の間には確かに存在した、互いに抱いた浮き雲の様な淡い恋を覚えたころを、夫々が思いを巡らせているとき、突然、鳴り響いた携帯で、二人は夢を見ているような雰囲気も中断されてしまった。健太郎が携帯電話を取り出して返事をすると、通話の相手は彼の村で美容院を経営している秋子さんであった。彼女は一人身であるせいか世話好きで、時々、娘の理恵子を連れて訪ねてきては、各部屋をこまめに掃除してくれたり、庭の花壇を手入れしてくれ、その合間には、彼女を取り巻く人達の評論や愚痴を話して気を晴らして行った。彼女は、節子さんと同じ郷里で確か高校2年先輩であったと思うが、今は離婚して中学3年生の一人娘の理恵子と二人で暮らしていた。秋子さんは、彼の遠慮...蒼い影(4)
2024/02/26 03:50