chevron_left

メインカテゴリーを選択しなおす

cancel
小谷の250字 http://blog.livedoor.jp/kotani_plus/

政治経済から芸能スポーツまで、物書き小谷隆が独自の視点で10年以上も綴ってきた250字コラム。

圧倒的与党支持で愛国主義者。巨悪と非常識は許さない。人間が人間らしく生きるための知恵と勇気、そしてほっこりするようなウィットを描くコラム。2000年11月から1日も休まず連載。

小谷隆
フォロー
住所
江戸川区
出身
豊橋市
ブログ村参加

2014/11/24

arrow_drop_down
  • ハル(182)

    社長にそう言われてからはいろんなことがトントン拍子に進み、僕とマキは翌年の初めに町内の教会で式を挙げた。新居には築3年ほどの、本来は別荘として建てられた家を会社が買い上げてあてがってくれた。 春にはイタリアとフランスへハネムーンに出かけ、戻ってくると僕

  • ハル(181)

    二つのカップを置いたテーブルをはさんでマキと向かい合った。丁寧に切ったりんごも盛られていた。いつも仕事から戻ると、マキの淹れてくれる喫茶店なみに美味しいコーヒーを飲みながら、何を話すわけでもなくこうして定時まで時間を過ごした。 マキは僕より2つ歳上の3

  • ハル(180)

    「おかえりなさい」 マキはハウスクリーニング会社の事務所で、導入したばかりのパソコンと格闘しているところだった。彼女は社長の長女で、会社の経理を任されている。「ホワイトハウスは今日で完了です」と僕は言った。「買い手がつくまでしばらく様子見です」「ご苦労

  • ハル(179)

    ハルとその夫の離婚が報じられたのは10月のことだった。夫と若手女優との不義が原因だと報じるメディアもあれば、ハルが結婚前から引きずっていた派手な男性関係が原因だと報じるメディアもあった。離婚にともなって都内の高級マンションと軽井沢の豪邸を売却するとも報

  • ハル(178)

    ダミーのベビーシッターは数日滞在しただけで赤ちゃんとともにまたマスコミを大騒ぎさせながら帰ってしまったけれど、そのあとハルもその夫もホワイトハウスを訪れることは一度もなかった。そのうちに豪邸を囲むメディアの人々の数も減っていって、秋風が吹く頃にはもとの

  • ハル(177)

    「ご苦労様です」 生まれたばかりの子を抱きながら言ったのはハルではなかった。軽井沢の家の周囲が騒ぎになっていると聞いて、ハルはマスコミを欺くダミーを兼ねたベビーシッターの女性を先によこしていた。赤ちゃんだけは本物だ。 少し赤ちゃんの顔を覗かせてもらった

  • ハル(176)

    その年の春、ハルは女の子を出産した。大物カップルのプリンセス誕生だけに、メディアは懐妊が噂された頃からハルやその夫である俳優をつけ回していた。 真夏には軽井沢の豪邸の周囲にも記者がたむろし、テレビ局はすれ違いさえやっとなほど狭い道に堂々と車を駐めてハル

  • ハル(175)

    どんな人が入るのかまではさすがに図々しくて訊けなかった。いずれにしても並大抵の経済力でないことは確かだった。ざっと外から眺める限り、建屋の部屋数は10以上あるかもしれない。ハウスクリーニングの会社としては大きなお得意さんになる可能性もある。「またちょく

  • ハル(174)

    あるとき、ホワイトハウスの正門になると思しき場所でスーツ姿の男性が二人、図面を持って打ち合わせでいたので、思い切って声をかけてみた。「ハウスクリーニングの会社です」と言って僕は名刺を差し出した。「ご用命の際はご連絡ください」「それはご丁寧にどうも」

  • ハル(173)

    いったいどんなものができあがるのだろうか気になって、近くの別荘へ仕事に行くときは必ずそこの様子を覗いていった。 春先から重機が何台も入ってあっという間に土地が造成されると、今度は敷地を取り囲むように高さ2メートルはあるコンクリートの壁がはりめぐらされた

  • ハル(172)

    こんな所どうにもしようがないし、ここに別荘を建てようなどという奇特な人がいるとも思えない。さてどうしたものかと悩んだのもほんの数日、なんとこの土地がけっこうな値段で売れてしまったのだった。 買い手は東京の建築デザイン会社だという。言い値でいいというので

  • ハル(171)

    殺伐とした部屋でぼんやりしていてもしかたないので、僕は会社が買い上げたという土地を見に行った。 そこほ大日向という地域で、浅間山がかなり近くに見える。稜線からつながるなだらかな斜面に、造成もされていない枯れ草の荒地が続いている。あちこちに、前の週に降っ

  • ハル(170)

    儲かる事業を考えろといっても、早い話、バブルが弾けて安く売り出された土地をどう活用するかという極めて限定的なミッションだった。 素人の僕にそんなことできるはずもない。だいいち大学だって文学部の史学科だったし、不動産の知識なんて皆無だった。 僕はなんと

  • ハル(169)

    マイがいなくなったあと、2人の新人が入ってきた。一人は地元の30代の主婦、もう一人は大学を中退した22歳の男だった。 そのタイミングで僕は社長に呼び出され、現場からはずされた。「君には新しい事業開発をやってもらいたい」 社長はそう言って僕に本社の社屋

  • ハル(168)

    「そんなことがあったの?」 小諸駅前の喫茶店でコーヒーカップを宙に浮かせたままミチコさんは言った。「ほんとはビクビクでしたけどね」「そんなとこで意気がったらためよ。何かあったらどうするの?」 ミチコさんは涙ぐんでいた。「あなた、もしかしてその子のこと

  • ハル(167)

    しかしよく見ると明らかに僕より年齢は遥かに若そうだった。なぜこんなやつに敬語を使う必要があるのか、と思った。「あまりひどいことをすると警察に」と言うか言わないかのタイミングで下腹に軽いジャブが入った。「滅多なことはせえへん方がええどぉ」と言って彼は僕

  • ハル(166)

    「隠し事したら面倒なことになるで」 そう言って男はニヤリと笑った。「知りません」と僕は言った。「調べはついとるんや。あんたがようけマイのこと世話してくれたいうのもな」と言って男は上着の胸ポケットに手を入れた。「マイとはやったんかい?」「何もありません

  • ハル(165)

    マイとはその後ドライブもしたし、中軽井沢の居酒屋で飲んだりもした。けれど帰り際に軽く唇を重ねるぐらいで、その先に発展することはなかった。 3月の初めにペアで仕事をしたのが最後で、マイは知らないうちに荷物をまとめて姿を消してしまった。その何日か後、見るか

  • ハル(164)

    「楽しかったよ。ありがとう」 助手席のマイは眠そうな声でそう言ったきり、静かな寝息を立て始めた。その横顔をたまにちらりと眺めながら、僕は曲がりくねった下り坂でハンドルをさばいた。「んなん、引き出しん中にあるやろ」 マイは寝言でそんなことを言った。彼女は

  • ハル(163)

    そのキスを終えたとき、マイは僕の胸に顔を埋めた。「ごめんね」「どうして謝るの?」「私ね、実はダンナがいるの。もうずっと別居してるけど。離婚してもらえてないのよ」「じゃあ僕も隠してたことを話すよ」 僕はミチコさんとの間に娘がいることを打ち明けた。「デ

  • ハル(162)

    マイとは公私ともに気が合って、休日には会社の車を拝借して一緒に出かけることもあった。菅平までスキーに行ったり、万座まで温泉に入りに行ったりもした。 プライベートのとき、マイはほとんどメイクをしなかった。髪の毛は金色ではあるけれど、薄いメイクのマイはお世

  • ハル(161)

    じっさい仕事中、僕はマイを師匠と呼び、マイは僕のことをデッシーと呼んだ。一緒に仕事を組むとき、僕が慣れないことで失敗してもマイは怒るどころか大笑いするばかりだった。ひとしきり笑い終えると、僕のしくじった所をあれよあれよという間にリカバーした。 その仕事

  • ハル(160)

    その中でただ一人、マイという21歳の女の子と仲良くなった。補導歴10回、逮捕歴2回を自慢する彼女は僕と同じ別荘管理会社に勤めている。 背中まで伸びた髪を金に染め、清掃の作業衣を着た細身で長身の彼女はレディースのヘッドそのものだった。顔立ちは決して悪くな

  • ハル(159)

    僕は年末には借りていた山荘も前の会社の寮も引き払い、別荘管理会社の提供するアパートに移った。アパートとはいってももとはどこかの保養所に使われていた建物で、部屋数は20もあり、それぞれ8畳もあって、床暖房まで効いていた。 他の部屋には関連する会社の従業員

  • ハル(158)

    「本気です」 実は次の仕事も決まっていた。散歩の途中で立ち寄ったコンビニに別荘管理会社の求人があって、それに応募して採用されていた。朝食もつくし、寮としてアパートも与えられる。そのことをサナダさんに説明した。「あんた正気? 世界に名の知れた会社から軽

  • ハル(157)

    「あんた宛の辞令持ってきたから」と言ってサナダさんは会社のマークが入った白い封筒を乱暴に差し出した。「ノウカイ行きよ。意味わかるよね?」「ノウカイ、ですか?」 能力開発部への異動ということだ。異動といえば聞こえはいいけれど、要は使えなくなった社員や問題

  • ハル(156)

    軽井沢の家は12月の半ばには引き払うつもりだった。引き払うといっても来たときに手で持ってきたものを持って帰るだけの身軽さだったから、いつでも出られる状態だった。 そうこうしているうちに雪が降った。夜半すぎに振り始めた雪は、朝までに20センチほど積もった

  • ハル(155)

    「ありがとう」 ミチコさんはそう言って、裸のまま身を起こすと、長くやめていたはずの煙草に火をつけた。「すごく気持ちよかった。久しぶりに女に戻れた気がするわ」「僕も6年前以来ですから」「私?」「そう」「嘘。もてそうなのに」「ミチコさんだって今も魅力的

  • ハル(154)

    ミチコさんとはその後2度逢ってランチをともにして、お茶を飲んだ。3度目にどうしてもと請われて寝た。軽井沢の隣町には周囲の田園地帯とはまるで別世界のラブホテル街があって、そこへミチコさんの車で乗りつけた。 ミチコさんは以前よりふくよかにはなっていたけれど

arrow_drop_down

ブログリーダー」を活用して、小谷隆さんをフォローしませんか?

ハンドル名
小谷隆さん
ブログタイトル
小谷の250字
フォロー
小谷の250字

にほんブログ村 カテゴリー一覧

商用