星の世界をゆく
いままでに見た、いちばん心に残った夜空の星は、標高1800メートルの山頂で見た星空だった。美しいとか素晴らしいというよりも、圧倒されたと言った方がいいかもしれない。星が幾重にも重なって輝いている透明な壁のようだった。手を伸ばせば触れることができそうで、それでいて無限に深く澄み渡っているのだった。星ではない何か、空を覆いつくしているもの、空そのもの。昼でもない夜でもない、もうひとつの、はじめて見る空の形だった。夜に向かって山に登るな、という山登りの鉄則は知っていた。だが、目当てにしていた麓の山小屋が雪崩をうけて潰れていた。もはや引き返すこともできない。そのまま山を越えることにしたのだった。すでに陽も沈み、登るほどに夕闇が追いかけてきた。山頂に着いたときは、すっかり夜の幕が下りていた。冷たい風が吹き抜けていく...星の世界をゆく
2025/01/30 10:03