6月の風
いまは6月の風が吹いている。空は灰色の雨雲に覆われ、風はたっぷり湿っている。天気が気になる季節でもある。空を見上げることが多くなり、風や雲の存在が急に近くなる。雲がだんだん厚くなっていくのは、水でいっぱいに膨らんでいるからで、風がせわしなく吹いているのは、雲の膜を破って雨を降らそうとしているからだ、などと思い込んでいた頃もあった。雲の動きを見つめながら雲の形や色を、灰色のクレパスでノートに描き写してみたことがある。写しとってみると、それは雲ではなかった。雲は手に取ることも確かめることもできなかった。正確に写しとったつもりでも、ノートの雲はまるで別物だった。とても雲には見えなかった。風や雲のような茫漠としたものを手にとってみること、ものの本当の姿を捉えようとすることは、とても難しいことだと知った。草も木も潤...6月の風
2024/06/29 14:44