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敏洋 ’s 昭和の恋物語り https://blog.goo.ne.jp/toppy_0024

[水たまりの中の青空]小夜子という女性の一代記です。戦後の荒廃からのし上がった御手洗武蔵と結ばれて…

敏ちゃん
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住所
岐阜市
出身
伊万里市
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2014/10/10

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  • 青春群像 ご め ん ね…… えそらごと(二十)

    突然の振りにおどろいた真理子からはことばが出ない。まだ意思疎通がうまくいっていないふたりだったんだと、唐突すぎた声かけを悔やんだが、今さらどうにもできない。みずからの失策で暗闇にほうり込まれた彼だった。真理子にしても己の無言が、ひまわりの咲き乱れていた野原から一転して空っ風が吹きすさぶ荒廃した地へと変えてしまったことで暗澹たる気持ちを抱えていた。しかし、急に声をかけてくるから……と逃げ場を求めた。息苦しさを感じ始めた彼に「どうしたの、声が裏がえってたわよ。そうそう、ドライブウェイに乗って。わたし、プラネタリウムに行ってみたいから」と、貴子の声が明るく車中に響いた。(どうしてかしら、こんなにポンポンとことばが出るなんて。啓治さんの前だと、どうしても身構えちゃうのよね。だからかしら、真理子ちゃんを連れ出すのは...青春群像ごめんね……えそらごと(二十)

  • [ブルーの住人] 第五章:蒼い情愛 ~はんたー~

    (五)マシその昔、軍隊に喜んで入隊した男がいたってことだが、その間抜け野郎の気持ち、いたいほどわかるぜ。こりゃひょっとすると、『人でなしの国』も良いかもしれんぞ。どうせ人間一度は○ぬんだ。なにをして、どう○のうと同じさ。地獄があるわけでもなし。それにどうだい、なんの苦痛もなく○なせてくれる。キチンと、後始末もしてくれるんだし。下手に行き倒れや餓死で○ぬよりは、よっぽどマシってもんだ。[ブルーの住人]第五章:蒼い情愛~はんたー~

  • スピンオフ作品 ~ 名水館女将、光子! ~ (二 : 珠恵の決断)

    昭和5年の春に、名水館に降って湧いたような隠し子騒動が起きた。女将の珠恵には子がなく「養子を」という話が出ていたのだが、突然に夫の栄三が「今年17歳になる息子がいる」と告白したのだ。上へ下への大騒ぎの末に、親族一同の総意として、その息子を跡取りとして迎えることになった。「京都で板前修業をしている」という栄三の説明が決定打となった。親族会議の間終始無言を貫いていた珠恵が、その決定に異議を挟まず「申し訳ないことでした」と畳に頭をこすりつけた場面では、女性たち全員が「あなただけが責めを負うことはない、栄三にも責任がある」とかばってくれた。「済まないことです」。栄三もまた、珠恵にならって頭を下げた。しかし場の雰囲気としては「良くやった」と栄三を褒める空気が多かった。やはり養子を取ることに対する反発は大きかった。よ...スピンオフ作品~名水館女将、光子!~(二:珠恵の決断)

  • 原木 奇妙な、まったく奇妙なデート ~「抒情的間奏曲」より

    ー僕たちは互いに敏感に感じ合った。それでも申し分ない仲だった。僕たちはよく「夫婦ごっこ」をして遊んだ。それでもついぞ喧嘩はしなかった。僕たちは一緒に騒いだりふざけたり、やさしく抱き合ったりキスしたりした。・・・・・・・・・・・・彼女はいろいろ俺に教えてくれた。日曜日だというのに一人で映画館に入っているのは、恋人がいないのかそれとも今日のデートが突然のキャンセルか、そのどちらかだろう。どちらでもないとしても、共通点は、“淋しい”ということだ。“退屈”ということだ。そしてその映画がアニメだということは、毎日の生活に疲れているということだ。そう、これだけわかれば結構だ。俺は十分に相手を知った、幼馴染み以上に……彼女はムッツリと黙り込み、笑うことさえしない。俺は、ゲラゲラ笑ってやった。無理にも笑ってやった。そんな...原木奇妙な、まったく奇妙なデート~「抒情的間奏曲」より

  • 愛の横顔 ~地獄変~ (六)梅村正夫と申します

    わたくしは、名前を梅村正夫ともうしまして、生まれは石川県のいなかでございます。明治の終わりに、この世に生を受けました。十歳を少し過ぎたときに上京しまして、和菓子店でお世話になりました。とうじは住み込みの関係で、朝は午前四時から夜は午後九時ごろまで働いておりました。二十年間しんぼうしたら「のれん分けをしてやる」と言う、ご主人さまのありがたいお言葉を信じて一生懸命働きました。わたくしが申しますのもおこごましいのでございますが、こまねずみのように働きましてございます。ですので、当初は“チューちゃん”と呼ばれておりました。わたくしとしてはありがたくない呼称でございますが、ご主人さまのわたくしに対する愛情だと受け止めております。が、その呼称もわずか一年のことでございました。お目出度いことに、ご主人さまにお子さまがお...愛の横顔~地獄変~(六)梅村正夫と申します

  • 水たまりの中の青空 ~第三部~ (四百十六)

    雑多な商店の建ちならぶ一角に、その沢田商店はあった。まだ従業員はいないものの、早晩店をひろげて、富士商会並みとはいわずとも、2,30人ほどにしたいと、気概がある。ゆえに小バカにされた態度をとられると、つい癇癪を起こしてしまうと頭をかいた。とくに権力者から見下されるとがまんができないらしく、町内会の慣習に納得がいかないと突っかかることもあるようだ。「古くから住んで見えるお年寄りなんだから、顔を立ててあげなさいなって言うんですけどねえ」大きくなったお腹をさすりながら、豪快に細君が笑いとばした。その笑い声にこたえるかのように「あのときはひと晩留置所に留め置かれてまいりました」と、苦笑いをみせる。“ここも、かかあ天下なのか。ましかし、そのほうが家庭円満ってとこだな”ほほえましく見た武蔵だった。蒲田駅近くであり、羽...水たまりの中の青空~第三部~(四百十六)

  • ポエム ~焦燥編~ (death)

    冷たく吹く風の下で静寂を保つ海の世界にかくれているのはだれ?そびえ立つビル街の片隅で鼠と戯れる新聞紙その朝(あした)には雑踏の中で光の下へ運ばれることなく死んだのです(背景と解説)すみませんねえ、三週続けて「死」という概念が出てきて。いや、[ことば]も含めると四週か……。別に、自殺を考えていたわけではないのです。まあ、観念的にはそうだったかもしれませんが。臆病者なんですよ、わたしの、真の正体は。自分を写す鏡を求めていたのでしょうね、今でもそうかもしれませんが。だから、毎月のようにあちこちに出かけるのかもしれません。“独りだって、どうってことないさ”確かにそうなんです、どうということはないのです。でも、雑踏の中に自分を置くことを、意識してはいませんが、置きたがるのですよ。弥生遺跡に身を置き、そしてまた縄文遺...ポエム~焦燥編~(death)

  • 青春群像 ご め ん ね…… えそらごと(十九)

    それにしても、と誰もが思っている。「もっと可愛いらしいメガネがあるでしょうに」と、先輩の事務員が声をかけたことがある。視力が落ちた中学二年生のときにはじめて購入したメガネは、小ぶりのものだった。うすいピンク色がよく似合っていますよと店員にすすめられた。「でも……」と涙目で貴子にうちあけた。複数の男子に「メガネから目ん玉がとびだしてるぞ」とからかわれて、さらにはその中に初恋の男子がいたことから、メガネを外してしまったという。以来メガネは掛けていなかったのだが、就職を機に黒縁のめがねをかけることにしたと打ち明けた。貴子の誘導で真理子は後部座席に座った。助手席に貴子が座ることにたいして残念な思いがするが、内心ホッとする気持ちもある。そんな彼の気持ちを察してか、「あとで席を交代するから、今は我慢しなさい」と、貴子...青春群像ごめんね……えそらごと(十九)

  • [ブルーの住人]第五章:蒼い情愛 ~はんたー~

    (五)マシその昔、軍隊に喜んで入隊した男がいたってことだが、その間抜け野郎の気持ち、いたいほどわかるぜ。こりゃひょっとすると、『人でなしの国』も良いかもしれんぞ。どうせ人間一度は○ぬんだ。なにをして、どう○のうと同じさ。地獄があるわけでもなし。それにどうだい、なんの苦痛もなく○なせてくれる。キチンと、後始末もしてくれるんだし。下手に行き倒れや餓死で○ぬよりは、よっぽどマシってもんだ。[ブルーの住人]第五章:蒼い情愛~はんたー~

  • スピンオフ作品 ~ 名水館女将、光子! ~

    (ご報告)[水たまりの中の青空]のスピンオフ作品です。熱海の老舗旅館の女将である光子に光を当ててみたいと思いました。宿泊業についてはまったくの素人ですので、ひょっとしてまちがった設定となるかもしれません。もしもそのような事項がありましたら、架空の旅館として見過ごしてください。また、「女性蔑視だ!」とお考えになる筋立てがでてくると思いますが、当時の世相として書き込みました。現代には似つかわしくないことではありますが、ご容赦ください。---------(一)(光子という女)熱海老舗旅館[名水館]女将、合原光子。大正10年11月生まれの40歳。武蔵が30代半ばと見たが、大抵の者が見あやまる。特別の若返り対策をしているのではなく、日々を忙しく動き回りつつも気苦労の続いた生活から解き放たれたおかげと、知人友人に答え...スピンオフ作品~名水館女将、光子!~

  • 原木 文通 ~ハイネ「抒情的間奏曲」より

    ーあぁ美しい五月の月芽という芽が萌え出たとき僕の心にも恋が萌え出たー。・・・・・・・・・・・・・・拝啓最近は暖かい風が吹いてきました。それにつけても、僕の心を痛めていることが一つあります。それは、君の足がどんなに太ったことだろうか?ということです。餅の食い過ぎで、なんてことは言わせないゾ。マ、どんなに太っても、桜島大根にはならないでね、大根足。(これは失礼)。君の写真を見るといつもそう思うんだ。今度送ってくれる写真は、上半身だけにしてネ。そうでないと、僕、僕、…………(泣いてると思うだろう。ところが、笑いたいのをじっとこらえてるんだ。ククク……。ごめんね、そんなに泣かないでよ)。そうだ、君にプレゼントがあるんだ。年賀状も出さなかった、僕の罪をお許しください。貧乏な僕からの、ささやかなプレゼントを受け取って...原木文通~ハイネ「抒情的間奏曲」より

  • 愛の横顔 ~地獄変~ (五)講談

    「講談師、見てきたような嘘をつき」講談師のかたる講談、ご存じの方もおられると存じます。なんでも江戸時代の大道芸のひとつだった辻講釈が始まりだと聞いたことがございます。軍記物やら政談などを主とした歴史読み物を、張り扇でもって釈台を叩いてリズム良く語る話芸だとか。まさにそれでございます。張り扇は使われませんが、ご自分の声でもって、「タタタン」とその代わりをされるのでございました。身振り手振りを交えての熱演でした。しかしその話に皆さんが引き込まれていたのは確かでございました。ご老人がひと息吐かれる度に、皆さんもひと息吐くといった具合でした。そしてお話が終わると同時に、ご老人と同じようにがっくりと肩を落とされたものでございます。まあ何にしろ、これで終わった、ご老人が退席されるものと、みなさん一様にほっとした表情を...愛の横顔~地獄変~(五)講談

  • 水たまりの中の青空 ~第三部~(四百十五)

    終業を告げるベルがなると同時に、五平が会社をとびだした。いたたまれなくなったのだ。〝こんどこそほんとうに、俺の居場所がなくなるぞ。忘れてたよ、GHQも、いつまでも日本にいるわけはねえんだ〟どんよりとした曇り空が、五平のこころをさらに落ちこませる。となりのビルから出てきた会社員が、五平に、「どうも」と頭を下げる。そのとなりの洋品店の娘が「もうお帰りですか?」と、にこやかな笑顔を見せてくれる。せわしなく行き交う通行人は、無表情にとおり過ぎる。もう少し行けば百貨店だ。そしてそのとなりがくだもの屋で、もうすこし先に行くと花屋もある。こんやは無性に人恋しい。しかしキャバレーでのどんちゃん騒ぎはしたくない。しっぽりとした酒が飲みたい。気のゆるせる相手を前にして、静かにただしずかにお猪口でゆっくりと、さしつさされつを楽...水たまりの中の青空~第三部~(四百十五)

  • ポエム ~焦燥編~ (超人の国)

    ”荒々しい瞬間の暴力が飲み込んでしまう”そしてその飲み込まれた世界は、誰も居ない浜辺でたった一人で泳いでいるわたしを、もう一人の私が見ている所。”ぴかぴか光っているものは、一時の為に生まれたもの。本当のものは、滅びることなく後世に伝わります”人間の愛とは、いわゆる前者のようなものでしょう。彼は幸せ者です。わたしに○された-ただその一点で、わたしの心にわたしを知る人の心にいつまでも記憶されるのですから。後世にまで伝わるのですから、たとえ記憶の片隅のことだとしても。”わたしが後世のことなぞかまっていたらだれが今の世の人を笑わせますか”この世から笑いという笑いが消え哀しみという哀しみが消え去る━そう、「人でなしの国」そしてそれが、「超人の国」でしょうSuchislife,willoncemore!=byNiet...ポエム~焦燥編~(超人の国)

  • 青春群像 ご め ん ね…… えそらごと(十八)

    とつぜんに、昨年のとんでもない勘ちがい女に出くわした結婚披露宴が思いだされた。冗談まじりの「披露宴で相手を探したら」という新郎のことばを真に受けた、大きく肩を出したフリル付きのドレス姿で出席した女性のことだ。新婦がかすむほどの深紅色に、出席者全員が眉をひそめた。新郎側の親戚だとかで、行きおくれてしまった三十代半ばなのよと聞かされた。そんな愚行を犯すわけにはいかない。(引きずっちゃいけないのよ。あたしのことなんだから、二人には関係のないことなのよ)。ドレッサーに映る己に言い聞かせて、唇に赤い線を引いた。交差点での信号待ちで、話に興じながら歩く三人グループの十代のファッションに、貴子が噛みついた。胴長短足の日本女性にはミニスカートは似合わないという持論を滔々と話しはじめた。西洋の女性が似あうのは長い足と細さを...青春群像ごめんね……えそらごと(十八)

  • [ブルーの住人]第五章[蒼い情愛]~はんたー~

    (四)ぜいたく裁判官は、おれに○刑だと宣告した。その理由を、前途有望なるふたりの若い男女を○したからだという。未来に大きな夢をいだいていたであろうふりの○害は、重い罪だという。じゃ、おまえはどうなんだ!このおれにだってゆめがある。おれいがいの、なんにんを○した?○刑とした?法律をたてにとって、人を公然と○しているくせに。○?なんだ、そりゃ。生きるってのは、どういうことだ?案外、いまこそ生きてるのかもしれないぞ。こんな立派な鉄筋のビルだ。雨風をしのげて、窓からは太陽をおがめるし、月だってのぞける。お星さまだってみえるんだ。一日三度のおまんまが食べられるし、仕事だってさせてくれる。時間になったらキチンと休憩もとらせてくれる。まったくぜいたくな生活だぜ。[ブルーの住人]第五章[蒼い情愛]~はんたー~

  • スピンオフ作品 ~ 名水館女将、光子! ~

    (ご報告)[水たまりの中の青空]のスピンオフ作品です。熱海の老舗旅館の女将である光子に光を当ててみたいと思いました。宿泊業についてはまったくの素人ですので、ひょっとしてまちがった設定となるかもしれません。もしもそのような事項がありましたら、架空の旅館として見過ごしてください。また、「女性蔑視だ!」とお考えになる筋立てがでてくると思いますが、当時の世相として書き込みました。現代には似つかわしくないことではありますが、ご容赦ください。---------熱海老舗旅館[名水館]女将、合原光子。大正10年11月生まれの40歳。武蔵が30代半ばと見たが、大抵の者が見あやまる。特別の若返り対策をしているのではなく、日々を忙しく動き回りつつも気苦労のつづいた生活から解き放たれたおかげと、知人友人に答えている。十四歳の折に...スピンオフ作品~名水館女将、光子!~

  • 原木 父と息子の物語り ~ハイネ「小曲集」より

    僕は一度もあなたの心を動かそうとはしなかった。愛を乞い願ったこともなかった。ただあなたの息のかかるところで、静かな生を営みたかった------------------------------------------------━お母さん……━お母さん……=………………。━どうして返事をしてくれないの。僕はここに来てるんだヨ。お母さん、お願いだ、返事をしてください。≡息子よ、私だ、お父さんだ。今、お母さんはネ、病魔と闘っているのだョ。━でも、でも、僕は淋しいんだ。お母さんの声が聞きたいんだ。お父さん、お願いです。会わせてください≡ねぇ息子よ、どうか聞き分けの良い子になっておくれ。今、お母さんは誰とも会えないのだョ。━嫌だ、嫌です。僕はお母さんとお話したいんだ。≡息子よ、お父さんを悲しませないでおくれ。息子よ...原木父と息子の物語り~ハイネ「小曲集」より

  • 愛の横顔 ~地獄変~ (四)夢:後

    足もとに目をやりますと、なにやら蠢いております。トカゲのようなゴキブリのような、そんな気味の悪いものがわたしの足指やら、ええっ!手指の間やらをはいずり回っております。わたしの体を這っているのでございます。ナメクジのような、ウジ虫のような、……うわああぁ!お腹といわず、胸といわず、股間もでございました。お待ちください、それだけではないのです。じつは、おぞましいことに、口のなかからも出てくるのでございます。湧きでてくるのでございます。あ、あろうことか……。あ、ありえません。わたしの顔を持った、大便にたかる銀蝿が、口といわず鼻といわず、耳からも飛びだすのでございます。ああ、も、もうし訳ありません。もうこれ以上のことは、わたしには申し上げられません。失礼いたしました。ここでやめては、なんのことかおわかりにならない...愛の横顔~地獄変~(四)夢:後

  • 水たまりの中の青空 ~第三部~ (四百十四)

    日本橋に会社をうつして三年目のことだ。武蔵が五平を、社員たちのまえで怒鳴りつけた。闇市での商売のおりには、目くばせを受けながらのことはあった。しかし今回は、いきなりだった。武蔵の真意をはかりかねて、といってそれを問いただす勇気もでずに、ただただいじけてしまった自分が情けなかった。「タケさん、すまない。慢心してたよ、オレッちは」二階の開け放たれている社長室にまで五平のどなり声が聞こえてきた。なにごとかと階下をのぞくが、受付に客らしき人物はいない。ただオロオロとしている、まだ入りたての若い娘が見えるだけだ。顔をおおって泣いている。五平が叱りつけたのかと階下におりてみると、五平は電話の相手に声を荒げていた。あきれ顔の徳子に、「専務があんなに怒鳴るとは。あいては筋もんか?」と、武蔵が聞く。徳子の説明によれば、忙し...水たまりの中の青空~第三部~(四百十四)

  • ポエム ~焦燥編~ (その死)

    病死というわけでもなく自然死というわけでもなく他殺死でも事故死でもないその死……ギラギラと灼けつく太陽その下の砂漠で水を失ってもひとが生き得る時間は?太陽も月もなく雨も風もないそんなときいつまで孤独に耐えられる?その死……無音の部屋のなかでの光が失われたなかでの飢えと渇水によるその死……(背景と解説)事象は理解してもらえると思いますが、心象は不可解ですよね。正直のところ、わたしにも分かりません。ただ単に言葉を羅列しただけのことなのか、それとも意図を持って配置したことなのか、分からないんです。罰?を意識しているのでしょうか。飢餓地獄?と考えても見たのですが、違和感がありますし。当時は、地獄に意識があったようなのです。無音と闇、地獄でもないみたいですし。二十歳前後というのは、自分のことなのに、さっぱり分かりま...ポエム~焦燥編~(その死)

  • 青春群像 ご め ん ね…… えそらごと(十七)

    いっそ会社内でと見わたすと、格好のふたりがいた。ではどちらが……と考えたときに、岩田がまっ先に候補にあがったが、真面目すぎるのよねと打ちけす気持ちがわいた。つぎに彼では?と考えてみたが、あまりに違いすぎる性格に思えてしまった。考えあぐねた末に、真理子自身の気持ちを確かめることにした。「もしもよ。もし真理子ちゃんが誰かとデートするとしたら、どんな子がいいかな」特定の人物をさすのではなく、理想の男性像として聞いてみることにした。しかし真理子の口からは「あたしなんか、だめです。そんなこと、考えられません」と、真理子の策略に気づいているのか?と疑いたくなることばが返るだけだった。しつこく問いただしては貴子にたいする警戒心が生まれてしまうと考えて、しばらくは話題にしなかった。そんな折に、もうひとりの事務員が平日に休...青春群像ごめんね……えそらごと(十七)

  • [ブルーの住人]第五章[蒼い情愛]~はんたー~

    (三)絶叫その部屋は、閑とした部屋。つめたい空気だけがおともだち。潜在的な○に対する恐怖感を感じさせたが、ややもすると○への恐怖感を超越しがちでもあった。“地獄ってのは、あるのか?ふん、あるわけないか”“地獄がない、とは…言えないか…”“意識が遠のく…とだえる…それが、○か?”恐怖の究極…不安と絶望と、そしてやはり恐怖。そしてそのどれもに、絶叫をともないそうだ。絶叫――なんにんが○刑の宣告を受けて、こうやって執行の日を待った?なんにんが、落ち着いて○を待ったんだ?待った、のか!ほんとに、待ったのか!![ブルーの住人]第五章[蒼い情愛]~はんたー~

  • [宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり! (四十七)

    (闘い終えて二)口ごもりながらも納得のいかぬムサシに対し、「ムサシさま。あなたさまの剣技は、ムサシさまならではのものでございます。並みのお侍ではご無理でございましょう。さらに申し上げますれば、宍戸梅軒さまとの試合においては、お刀を投げ捨てられたとか。武士の魂であるお刀をです。これ一つ取りましても、『武士たる者の所行か』となりまする。そして吉岡一門との決闘における二刀流然り、更にはこのたびの櫂を削られての木剣然りでございます。戦国の世ならばいざ知らず、太平の世に向かいつつあるこのご時世でごさいます。どうぞお察しを」と、番頭が深々と頭を下げた。「いやしかし、佐々木小次郎を倒せば良いのではなかったのか。ならば、どうすれば……。まともに闘って勝てる相手でもなし」絞り出すような小声のムサシに、番頭は頭を下げるだけだ...[宮本武蔵異聞]我が名は、ムサシなり!(四十七)

  • 原木

    来週より、中学時代にはじまった創作活動時の、作品を載せていきます。本来なら手直しをして、キチンとした作品に仕上げるべきなのですが、タイトルにもあるように、そのままの作品とします。タイトルの「原木」とは?、①製材される前の、伐採した状態の木材。(Wikipedia)②加工をする前の、もとの木。(国語辞典)③丸太や杣角(そまかく=材の縦面を斧などで粗く落とした木材のこと)を指す。(住宅用語)「源流」とすべきか?とも思ったのですが、大げさすぎる気もします。物事の始まりとか、水源とかいった意味ですよね。余談ですが、日本国(日本列島沿岸部)の水源は、沖縄県八重山郡与那国町と定められているようです。幼稚園時代から小学校卒業まで、短期間の引っ越しをくりかえしました(経緯を「ボク、みつけたよ!」に載せています)。そんな状...原木

  • 愛の横顔 ~地獄変~ (三)夢:前

    わたしはここに告白いたします。父と娘のあいだの愛の哀しさを、どうしても告白せずにはいられないのです。ここにおいでの殆どの方々が、おぞましさを感じられることでしょう。が、わたしにしてみれば恐ろしいことながらも、快楽でした。無上の歓びと申しましても過言ではありますまい。わたしは十有余年の間というもの、告白の機会をうかがいつつ、今日まで口をつぐんできたのでございます、はい。娘の命日であるきょうののこの日に、お集まりの皆さまがたに是非ともお聞きいただきたいと思いまして。わたしと致しましては、このことを決して罪悪だとは思っていないのでございます。が、この一週間というもの、いやなそしておぞましい夢を、毎晩のように見つづけたのでございます。その夢というのが、なんとも身の毛もよだつものでございまして。ゆめ━それは地獄の夢...愛の横顔~地獄変~(三)夢:前

  • 水たまりの中の青空 ~第三部~ (四百十三)

    「タケさん。いっそ、」「いやだめだ、それは」五平に二の句をかたらせることなく、即座に否定した。「勘ちがいするなよ。あいつの資質云々じゃない。まだ早いってことだ。小夜子の準備がどうのというのじゃなく、世間さまが認めてくれない。小商いならいざしらず、富士商会はいっぱしの会社だ。それもこの業界では、いっちゃあなんだが、ナンバーワンだろうが。第一だ。次期社長の加藤五平だからの結婚話なんだ」「しかし社長……」と、五平には納得できない。わかとのことからではない。社内的にどうなんだ、と思ってしまう。「乗っ取った」。そのことばが頭からはなれない。〝いっそ、佐多を……〟と、頭をかすめた。しかしそれとて、社員たちの非難の声はあがるだろう。そう思ってしまう。武蔵も五平の危惧感はわかっている。五平が継ごうが、佐多をむかえいれよう...水たまりの中の青空~第三部~(四百十三)

  • ポエム ~焦燥編~ (ことば)

    いま、ことばを忘れてしまった。いま、為す術を失った。ただ、ベッドの上に座りボンヤリとテレビに見入る。……書く気が失せてる……最近、どうしてだか分からないが、女というものを単なるセフレとしか考えられなくなった。二十歳……大人への登竜門煙草を吸った酒も飲んだパチンコもしたなにかしら“大人”ということばの奥に恐ろしいものが隠されているようなそんな気がしてならない若さは悲しいけれど哀しみの心を捨てたくないことばで自分を飾りたくないことばで自分を守りたくない(背景と解説)前回の詩を思うと、まだ、己を美化しようとしている気がします。ですが、そこまで疑うと、自分を殺してしまいそうで……。本心だと、隠すことのない心情だと、思いたいです。確かにこの時期は、小説から離れていました。日記を読み返しても、ありませんし。どころか、...ポエム~焦燥編~(ことば)

  • 青春群像 ご め ん ね…… えそらごと(十六)

    昨夜のことだ。ひと月以上も前に別れを切り出された相手から「やり直そうよ」と、貴子に電話が入った。なによ今さらと答えつつも、未練の気持ちがある貴子に異はない。「あの娘は連れてくるなよな」と詰問調に言われると、心内ではそうよねと納得しているのに「わたしの妹なのよ」と反発してしまう。キスもできないじゃないかと反駁されると、黙らざるを得なかった。激しい口論の末に、悲しみとも怒りともつかぬ思いが貴子の中に充満した。その思いが彼に向けられたものなのか己に向けられたものか、それすら分からぬままの朝を迎えた貴子だった。とにかく少し考えてみるからと電話を切ったものの、真理子をひとりにするわけにはいかないと考えてしまう。前の職場で受けた傷がまだ癒えていないのだ。二十代後半ばかりの女性社員の中にただひとり、十五歳の地方出身者の...青春群像ごめんね……えそらごと(十六)

  • [ブルーの住人]第五章[蒼い情愛]~はんたー~

    (二)繋がりその○刑囚は、冷たい銀のフォークの眼差しで、裁判官の胸を突き刺した。「あんたに、なにがわかる!」。こころのなかでつぶやいた。ひとり、○刑を宣告された現実をかみしめる○刑囚。うす暗い、四方を冷たいコンクリートで閉ざされた部屋。便器と文机と、そしてキチンと畳まれたせんべい布団一式。俗界につながる、唯一の楽しみの窓は、頭上高くにある。太陽がのぞきこむ少しの時間と、空の一部のみを見るという哀しみ。いっそ、なければいいのに。いやいやいまの○刑囚にはそのことよりも、その窓があるということが、忌いましい。その窓が、○刑囚の俗界に対する未練心を、郷愁をかきたてさせることが腹立たしい。いっそ、なければいいのに。もし…窓がふさがれたら…やはり腹立たしい。青空…雲…流れる…流浪…涯て…老い…○思い浮かぶことばが、○...[ブルーの住人]第五章[蒼い情愛]~はんたー~

  • [宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり! (四十六)

    (闘い終えて一)闘い終えて。佐々木小次郎との闘いにおいて勝利したムサシは、今度こその思いで小倉屋に戻った。賞賛の声で迎えられるものと信じていたムサシに対し、主の出迎えはなかった。表から入ろうとするムサシに対し、慌てて手代の一人が小声で「裏手にお回り下さい」と告げた。怪訝な面持ちのムサシを待っていたのは、あれこれと世話を焼いてくれた番頭だった。破顔一笑で近寄るムサシに対し、「ムサシさま。誠に残念ではございますが、御指南役のお話は流れてしまいました」と、苦渋の表情を見せつつ告げた。「話が違うではないか。佐々木小次郎を倒せば、今度こそ間違いなく剣術指南の道が…」呻くようなムサシの声を、番頭が冷たくさえぎムサシである。育ての親のごんた同様に、後ろで縛っているだけだった。長く伸びた折には、小刀でもってざっくりと切り...[宮本武蔵異聞]我が名は、ムサシなり!(四十六)

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