水たまりの中の青空 ~第二部~ (百二十八)
翌朝、台所から小夜子の明るく弾んだ声が聞こえてきた。ベッドの中でまどろむ武蔵の耳に、心地よい。「いやあねえ、三河屋さんったら。何もないわよ、なにも。声が弾んでるですって?そりゃ、体調がいいからよ。何か始めたかって?ふふふ……、ひ、み、つ。なーんてね。今ね、着物を新調してるのよ。それを着てね、パーティに出席するの。アメリカ将校さんのお宅でね。うーん、会食みたいなものかなあ。女優さんみたいでしょうねって、ふふふ、そんなこと。口がうまいのね、三河屋さんは。だめよ、これ以上は要らないわ。じゃ、お願いね」大きく伸びをして時計を見やると、七時を回っている。「おっと、こりゃいかん。寝坊してしまった」慌てて飛び起きると、「おおい、小夜子ー!」と、呼んだ。「まずい、まずいぞ。社長の俺が遅刻なんて、示しがつかん。小夜子ー!」。何の...水たまりの中の青空~第二部~(百二十八)
2021/08/31 08:00