変身。 (1)
「いつまでも、あいつめ、奥の間で何しとるんやろ、また……」土間で掃きそうじをしていた四十がらみの女が小声でそうつぶやき、唇をかんだ。右手にもった小ぶりのほうきは動かしたままで、家事仕事がしやすいのか、あちこち布切れでつぎはぎした草色のモンペをはいている。お勝手の引き戸は開け放ったままだ。七輪で焼いている川魚が、もうもうと煙を上げている。外からもろに、家の中が観えないよう、引き戸の上から暖簾がかかる。彼女はそれを引き上げては、ときどき戸外の通路を見やる動作をくりかえした。家は玄関が南向きの造作で、訪問客があれば、すぐに見つけられた。畑に植えた柿の葉が雨にぬれている。ゆうべから降っているらしく、さつまいもの葉っぱばかりでない。辺り一面、乾いたところはどこにも見られない。梅雨入りまじかだ。門扉のわきに植えたエニ...変身。(1)
2024/10/28 11:50