思い出の連載小説『吉村くんの出来事』(21) 最終回
それぞれの退場休暇が終われば出勤してくる人間に、課長はなぜ電話をかけてきたのだろう。吉村は、熊本から帰ってきたばかりの疲れた頭で考えていた。(契約のことで、また不備でも探し出したのか)それとも、辞めさせることができなかったので他局へ放り出す算段でもしているのか。蒲団にくるまっても真意が分からないために苛立ちを感じていた。となりの部屋では、久美と乳児が休んでいる。何時間置きかに授乳させる久美とは、寝床を別にすることで互いの睡眠を確保する方法をとった。眠れないまま転々としていると、苛立ちの原因がもう一つあることに気付いた。どんな用件があったにせよ、家庭にまで電話をしてきたことへの不満だった。久美から報告を受けたとき、ほんとうは家の中まで押し入られたような嫌悪を覚えたことを、いまになってはっきりと思い出していた...思い出の連載小説『吉村くんの出来事』(21)最終回
2024/01/31 00:17