☆『石となった死』(香原志勢・著、弘文堂、1989年)☆何の因果か心疾患を持って生まれてきた身上ゆえに、若い頃から「死」というものを身近に感じて生きてきた。もう少し正確にいうと、そんな想いとともに生きてきたはずだと思っていた。がしかし、そう思い込みたかっただけなのかもしれない、と最近は思い直している。たしかに健常者と比べれば不自由なことも多々あったし、そもそも病因が生命に直結している心臓にあるということで、死との距離感が近いと感じても不思議はない。他人事のように客観視すれば、そのように思い込みたい気持ちも理解できそうだ。しかし、歳を重ね、実際に老いが加速しはじめ、身体や生活面での不自由度も現実的に日に日に増してくると、若い頃に身近に感じていた死というものが、何と観念的で実態(あるいは実体)の伴わないものだ...観念論を超えて「死」を想起させる往年の名著―『石となった死』