小説「傾国のラヴァーズ」その25・痛々しい彼
午後になっても、高橋さんには呼ばれない。「海原、一応泊まれる用意だけはしてこい」と言われて、トランクに荷物を詰めて会社に戻ったが、まだ連絡がなかった。ようやく高橋さんから電話が来たのは夜で、近くの居酒屋の個室で、彼と高橋さんとやっと契約になった。俺ではなく、月曜の担当の先輩が彼らを迎えに行った。「すみません。僕が予定を取り違えていたばかりに、今日は一日中ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」彼の謝罪から始まった。高橋さんも何か言いあぐねているようだったし、彼に至っては、ほとんど俺と目を合わせてくれない。ただ、今日からよろしく、と張りついた笑顔で言ってはくれた。しかし、契約の方は無事に済んだ。場は和やかだったが、俺以外はみんな時間が気になっているようだったので、早々におひらきとなった。彼と一緒に帰るのは...小説「傾国のラヴァーズ」その25・痛々しい彼
2023/03/31 21:49