こんな夢を見た。 日差しの眩しい初夏の朝だった。わたしはなぜか石川市のリュウキュウ松が立ち並ぶ海岸に立ち、ぼんやりと海を眺めていた。4年前に沖縄市に移り住んだわたしは、県北部に行くときには太平洋側を走る国道329号線を使うので、沿道のこの辺りにはなんとなく土地勘がある。アラモードというケーキ屋さんの1個50円のブローニーには、去年からずいぶんとはまっている。だけれども、なのだ。必ず目にするはずの火力発電所の2本の煙突も、夫の好きな中日ドラゴンズがキャンプをしていた市営球場も、いやそれどころか、それらが建設されていたはずの埋め立て地そのものが、すっぽりと姿を消している。 石川(現具志川市石川)の火力発電所 おやっと思って石川岳の方へ目をやると、がれきを割って続く一本道を、鉄の塊のようなトラックが、土ぼこりをもくも...第1話夢
「ははは、アキさん、それとっても贅沢な夢だって。ブーテンさんと、リンスケさんにフォーシスターズ。いま、そんなステージがあったらチケットとれませんよ、絶対に」昨晩見た夢の話をすると、倉敷さんはやはり大笑いをした。今日は仕事が早く終わったと開店時間の30分前にふらっとやって来ては、いつも通りカウンター席の一番奥に座っている。「誘えばばよかったですねー、倉敷さん、リンスケさんの大ファンですからねー」カウンターの中で生ビールの樽をサーバーにセットしながら、わたしも面白おかしく受け応えする。夫のユージは奥の厨房で野菜を切りながら会話に耳を澄ましているようだ。ここは「サンバ居酒屋オ・ペイシ」というブラジル料理店。「オ・ペイシ」とはポルトガル語で魚という意味で、沖縄市の中央パークアベニューという商店街のビルの一階にある。テー...第2話7月16日(金)ドリームショップグランプリ
パルミラ通りにあった頃のFMコザ 「みんな元気かーい!さあ、『イカリのイカクサーイ音楽』が始まるぜぃ!」地元で活動するギタリスト、桃原イカリさんがDJを務めるのは、FMコザで毎週土曜日、夕方6時から放送されている音楽トーク番組。FMコザは今年の4月にFMチャンプラーから名前が変わったミニFM局だ。「今夜のゲストは中央パークアベニューのブラジル料理店、サンバ居酒屋オ・ペイシのアキさんでーす!」「こんばんはー、みなさん。ボア・ノイチ・ジェーンチ!」そして、わたしはこの番組に月1回のペースで呼んでもらえることになった。ラテン音楽をかけるコーナーで、ブラジルの話をして欲しいとのことで。わたしとしても、ようやく今年から開催しようと準備している沖縄サンバカーニバルの告知ができるので、まさに渡りに船だ。放送スタジオはお店から...第3話7月17日(土)FMコザ①
サンバ居酒屋オ・ペイシ お店のオープンとともに結成したのが、サンバチーム「オ・ペイシ・キ・ヒ・ダ・コザ」。コザの笑う魚という意味で、夫が「不思議の国のアリス」に登場する猫の名前をもじってつけた。ふざけた名前だと言う人もいるけど、楽しい感じがしてわたしは気に入ってる。チームのマークはピンク色の笑っている魚。胸びれで口元を押さえている。その練習会は毎週日曜日、午後1時から。場所はラジオで告知した通り、お店の前の遊歩道。アベニューは車道を挟んでその両側にアーケードが架けられていて、その下には幅5メートルと、まずまず広い遊歩道が続いている。2年前のワールドカップ決勝戦の時には、ここに大型のテレビを出し、サッカーファン50人を集めてブラジルを応援したものだ。さて、練習会には見物客が来くることもあるので、少しでもお店の売り...第4話7月18日(日)サンバチーム
嘉手納基地に降りたつ米軍哨戒機国体道路より撮影 お店の製氷機から氷をすくってアイスボックスに詰め込むと、夫が運転する中古の日産セレナは嘉手納基地のフェンスに沿って国体道路を進んでいく。飛行機の進入路を横切る時に、助手席に座るわたしからは着陸態勢の哨戒機がサンルーフいっぱいに見えた。嘉手納ロータリーから国道58号線(ごっぱち)に入り、大湾の交差点で一旦左折。地元のスーパー、サンマートに寄って、詰め放題300円のお惣菜弁当をふたつ買う。レジのおばちゃんから、「いっぱい詰めたねー」と今日も笑われる。再び車を走らせ県道6号線に入り、坂を下って琉舞道場の看板を左へ。行き止まりまで進めば、そこに広がるのはユーバンタの浜。東シナ海が見張らせる小さいが美しいビーチだ。「さあ、着いたぞー、ゆっくりしよー」夫はハッチバックを開けて...第5話7月19日(月)イチマブイ
開店の準備をしている午後5時少し前。お店のドアが勢い良く開くと、幸江さんが入ってきた。したり顔でカウンターの前まで大股で歩いてくると、座りもせずに両手をドンとついて、「アキさん、決定!決定よ!沖縄サンバカーニバル、ゴーサインが出た!」大城幸江さんは、アベニューの通り会の事務員をするかたわら、2000年から現在も続いているドリームショップ・グランプの事務局の仕事もしている方だ。「日曜日の夜六時以降の時間帯、持ち時間は30分、場所は空港通り全面、盛り上がったら来年も開催、でも、だめだった今年限り」「ほんとですか、やりましたねー、ありがとうございます」「ユージさんも聞いてるー」「聞いてましたー、ありがとうございます」仕込みの最中の夫は、それでも厨房から顔を出すと、菜箸片手におおげさに一礼してみせた。今日の午後、11月...第6話7月29日(木)カーニバル開催決定
シャッター街にお店を出したんだから、さぞかし大変な思いをしてるんだろうと言われるけど、まあ、確かにこの4年間、山あり谷ありだったかな。2000年9月、ドリームショップ1号店としてオープンした時には地元のマスコミ各社が大きく報じてくれて、連日満席御礼といった盛況ぶりだった。それに合わせて名古屋からブラジル人ミュージシャンを呼んできて、2週間だけだったけどライブを開催したら、これまた大当り。そういったいろんな相乗効果があって、その年の年末までは、びっくりするぐらいの売り上げがあった。ただし、いま思えば、それはブラジル料理やサンバが、ただ単に物珍しかっただけの話。あの店は1回行けばいいやという感じで、年が明けたころからお客さんはどんどん減っていって、すぐに売り上げゼロの日がやってきた。来ても1日ひと組だけだったり。そ...第7話7月30日(金)ペイ・デイの夜
結局、昨日の夜、リサちゃんがナーナーを迎えに来ることはなかった。夜中の3時まで起きていたわたしは「あの女、どこほっつき歩いてるんだ」と何度もつぶやいたけど、ナーナーの寝顔を見るのも楽しかった。女の子がうちにいるのもいい。ただし、朝起きるとおねしょをしていた。やられたね、でもかわいいもんだ。その朝の10時になって、ようやくリサちゃんから電話があった。「ごめんなさい。店が終わったあとも色々あって。ほんとすみません」「まあいいわ、お互い様よ。で、いまから迎えに来るの」「それが、ちょっといけないんです。イベントには必ず行きますから、それまで預かってくれませんか」「どうしたの、預かるくらい別にいいけど、もしかして、やっぱり男」「すみません、でも今回は、あのー、マジなんです」マジって、この前練習に来ていた彼氏のことなのね。...第8話7月31日(土)中央パークアベニュー
1908年第1回ブラジル移民781人を乗せた笠戸丸沖縄からは325人が乗船うちはブラジル料理のお店なので、もちろんブラジル人のお客さんは少なくない。ジャニースのようにアメリカ軍関係者と結婚して基地に住んでいる人がほとんどだけど、基地とは関係のない日系ブラジル人も来てくれる。日系人は見かけは日本人と変わらないので、日本語ができる人だと、最初はブラジル人ってことはわからない。でも、料理の注文の仕方や「ブラジルはどこにいたんですか」なんて具体的な質問をされると、わたしの方からも「お客さん、ブラジルの方ですよね」ということになる。とはいえ、10年以上前に日系人の就労ビザの取得が緩和され、群馬県にはブラジル人街ができたなんてニュースを聞くたびに、沖縄にもどんどん日系人が来そうなもんだけど、これがほとんど来てないらしい。か...第9話8月5日(木)沖縄とブラジル
今日のイベントは沖縄市商工会議所の親睦会、というか立食パーティー。ドリームショップ・グランプリは商工会議所が主体となった企画だったので、この4年間、何かとイベントに呼んでもらっている。そりゃー、幸江さんがいうように客寄せパンダかもしれないけど、毎回、きちんと出演料がもらえるのでほんとありがたい。会場はコザ運動公園の体育館。役所関係の100人、200人といった大きな立食パーティーはここで行われることが多い。夏でもてびちの入ったおでんや、ブタの丸焼きがなどがドンと並ぶ。今年はコザ市と美里村が合併し沖縄市が誕生した1974年から、ちょうど30周年。沖縄市商工会議所は、団体の発足自体は戦前に遡(さかのぼ)るんだろうけど、本土復帰して新しい日本の法律の適用を受けてから創立30周年ということらしい。今回は5時に市長の簡単な...第10話8月6日(金)YMCA
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