帽子が飛ばされるぅ~

帽子が飛ばされるぅ~

葉ずれの音が、ときおりざわついた。 横断歩道の赤信号で待つあいだ、見上げる。並木の緑がだいぶ深まってきていて、風にゆさぶられていた。 半袖のポロシャツに、長袖のパーカーを着せてもらっていた。それでも少し肌寒い。気温は二〇度ぐらいあるはずだが、風が強いせいだろう。平成三十年五月二十三日、空はくもっていた。 予報をネットでチェックし、 ――雨は降らないな。 昼過ぎに用が終わって帰るヘルパーさんに、電動車いすに移乗してもらって外へ出る。ひとりでぶらっと出かけたが、住宅地から大通りに出たところで、風が吹きあれたのだった。 ――やばいっ、帽子が飛んじまう。 押さえようにも、手がうまく動いてくれない。そん…