文学に描かれた季節 冬 『門』夏目漱石

文学に描かれた季節 冬 『門』夏目漱石

『門』は、主人公宗助が、他人の妻を奪いとった過去の罪と対峙する物語です。このように書くと、宗助と運命との相克といったイメージがわきますが、そうではありません。過去、自分が犯した罪から救われることを願いながら、結局は何もできずに終わる人の姿がこの小説では描かれます。運命と戦うのではなく、状況に流されていく人の物語というほうが正しいかもしれません。 背景となる季節は秋から春。ことに冬が主な舞台となります。その中から冬を描いた文章をいくつか書き出してみます。 「円明寺の杉が焦げたように赤黒くなった。天気のいい日には、風に洗われた空のはずれに、白い筋の険しく見える山が出た。年は宗助夫婦を駆って日ごとに…