恋せよ乙女、恋愛最前線~井出友紀子-6~

「もっと仲良くなってからね」 友紀子は、小さい子供を諭すように雅人に言い聞かせた。 「ちぇっ。。面白くない」 わざと不貞腐れた顔をして、友紀子を困らせてみようとするが、彼女には全く相手にされていない。 話題はいつの間にか、職場仲間の話になっていた。友紀子は自分の同僚が、行きつけのレストランの従業員に一目ぼれをしたため、頻繁に同僚が援護射撃で同行している話や、帰宅時に自転車シェアリングをして帰る友達の話を披露した。 「これは、そのレストランに行ってる子なの」 彼女はスマートフォンを取り出し、楽しそうに食事をしている写真を雅人に見せた。 一目ぼれをしたというだけあって、その男性は体格が良く運動を長…

恋せよ乙女、恋愛最前線~井出友紀子-5~

友紀子に言われた方向に目をやると、男性が3人、女性が1人の計4人が楽しそうに喋っていた。仕事仲間なのか、社会人サークルの仲間といった感じだ。男性はファッションの方向が、みんなバラバラだ。会社帰りのスーツもいれば、自分を格好よくみせるファッションをしているものもいる。お酒が回った男性3人は、1人の女性にちょっかいを出しているが、女性も嫌だと言いながら、嬉しそうだ。 「○○ちゃんの脇見せてよー」 と、男性の一人が女性に冗談交じりに言った。 「えー、嫌に決まってんじゃん」 「いいじゃん、今日ノースリーブなんだから腕上げたら、どっちみち見えちゃうじゃん。ちょっと腕上げてよ」 「絶対ヤダ。見せない」 彼…

恋せよ乙女、恋愛最前線~井出友紀子-4~

東京駅を挟んで丸の内の反対側に位置する八重洲口は、いくつもの高層ビルが立ち並び丸の内側と違い近代化された感雰囲気がある。 気にしていた雨は、傘に当たる雨音から先ほどより少しは大人しくなったことが、分かった。友紀子は雅人の傘の中に入るが、今回は雅人にもたれかかることはせず、彼と同じ歩調で歩いてる。 折角の雨なのに、さっきみたく彼に触れようと思うと、少し緊張しちゃって触れられない。いつもみたくうまくいかないわ。あと、雅人も私に触れてこない。もしかして、折り畳み傘がばれたのかしら。 友紀子は、自分の気持ちがもどかしくなり、早く目的地について欲しいと思うようになった。このジレンマから解放されたい。次の…

恋せよ乙女、恋愛最前線~井出友紀子-3~

店を出ると、天気予報通り、雨が強く降っている。傘を持ってきて正解だった。 「やっぱり、雨降っちゃったね。次の店はここから歩いて10分弱だからちょっと我慢してね」 雅人はネイビー色のどこか高級感を醸し出している傘を開いた。その傘は、大きくて大人でも1.5人くらいは入れそうなほどだ。友紀子はトートバッグの中にある折り畳み傘を掴んで出そうとしていたが、そっと傘をバッグの中に戻した。 「友紀ちゃん、傘は？結構降ってるよ」 「雅人君、ごめん。傘会社に忘れちゃって、入れて」 「傘忘れたの？今日は降るって言ってたじゃん」 ブツブツ文句を言う雅人を無視して、友紀子は彼の傘の中に強引に入り込んだ。 「いいじゃん…

恋せよ乙女、恋愛最前線~井出友紀子-2~

会話が多かったというと、それは事実ではないだろう、食事でカニを選択する時点で会話が少なくなることは、容易に想像ができていたはずだ。 しかし、不器用ながら真剣な眼差しでカニをほぐしている雅人を見ていると友紀子は、幸せな気分になった。会話はないが安心できる空気が雅人から感じられるのだ。 「どうしたの？手疲れちゃった？」 雅人は、友紀子の食事が止まっていることに気がついて声をかけてくれた。 「ううん、そんなことないよ。ねぇ、今までどんな恋愛してきたの？」 友紀子は、雅人の過去の恋愛話を聞こうとする。 デートで、過去の恋愛話は、一般的だろう。抵抗がある人もいるが、デートでの定番の話題の一つだ。 「うー…

恋せよ乙女、恋愛最前線~井出友紀子-1~

友紀子の腕時計は、19時10分を指していた。約束の19時を10分ほど過ぎている。友紀子は、雅人に送れる旨とお詫びの連絡をLINEで送り、歩き続けた。井出友紀子の東京での生活は10年以上であるが、どうしても東京駅で迷ってしまう。八重洲口と丸の内側を行き来できない。地下の連絡通路は、東京駅に詳しくない人にとっては、簡単には見つけられない。友紀子は、滅多に東京駅には来ないので、彼女も詳しくない人の一人に違いないだろう。雅人が待つシーフード店は、丸の内側にあるので、友紀子が今いる八重洲口からは、見つけにくい連絡通路を通過しないといけない。しかし、待ち合わせの時間はとっくにすぎている。これ以上、初デート…