小説・「海のなか」(41)
前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** あの日から毎日気がつけば境内に腰を下ろしていた。なぜかそうしているだけで息をするのが楽になる。不思議な心地だった。相変わらずすることはなかったけれど、心は穏やかだった。わたしの目は気がつくと石段の方を眺めている。そこから聞こえてくるはずの足音はいつでもはっきりと蘇ってきた。息遣いまで聞こえてきそうなほど…。 なぜここまで夕暮れを心待ちにしているのだろう。待つのは辛くなかった。なぜか彼のことは信じられた。今日も、明日も必ず来てくれるだろう、と。青もこんな気持ちだったのだろうか。約束された訪れを待つ楽しみを、不思議な少年も味わ…
2023/05/29 12:30