「闇が滲む朝に」🐑 章第1回 「巨大台風が去った秋に、何かが変わろうとしていた」

「闇が滲む朝に」🐑 章第1回 「巨大台風が去った秋に、何かが変わろうとしていた」

一寸先は闇でも、俺は生きている 俺はまだ、こうして生きている。 バイクを降りヘルメットを前の籠に入れながら森木徹は、ぽつりと言う。 9月から10月にかけて日本列島をモンスター台風が襲った。 かつて日本人が経験したことのない巨大な台風は、ここ数か月、ふさぎ込みがちな徹に追い打ちをかけるように、ビビりさせた。 車がほんの数分たらずで雨水にほとんど沈むなんて考えたことがあったろうか。家の一階が瞬く間に川の濁流に埋もる・・・。やっと二階に逃げて、ベランダから洪水におびえ、家が濁流に押し流される恐怖を必死でこらえながらSOSのタオルを振る。 人生の黄昏をやっと自宅で過ごせると安堵していたのに、突風に屋根…