NO Happiness
あれから、約三年あまりの時が過ぎた。ウェイターの男は三十五歳になっていた。今も男は独りで、ずっと暮らしている。だが一月前、男はあの家をとうとう離れた。彼女との恍惚な時間の残骸と化した、あの寒々しく悲惨な部屋を。真っ暗な狭いキッチンで赤ワインを飲むと、それは血に見える。いつものようにウェイターの仕事を終え、帰宅してシャワーを浴びてタオルで髪を拭きながらキッチンで水をグラス一杯飲む。すると髪から水が滴り落ち、グラスの中の水と交じり合う。それが血に見える。電気は点いているはずなのに、まるでこの世界は色を喪ってしまったままだ。もう彼女は、この部屋を訪れることも、その窓を見上げることも、そのドアをkno…
2018/10/25 16:22