愚花
一人の男が、空ろな眼をして柵の間からその奥を見詰めている。午前三時過ぎ、ひっそりと鎮まり返った新興住宅地の一軒家の前で、男は何かを想い詰めた様な顔をして囁く。「育花(いくか)…育花……育花……」鼻息を荒くして苦しそうに喘ぎ、男は一階の窓の向こうに映る人影を柵の隙間から覗きながら下半身を頻りに摩る。男は「育…花…っ」と力なく叫ぶと男の器から、白濁の種が落ち、その下にあったプランターの土の上に蒔かれた。 それから、四年の月日が流れた。中秋の名月の晩、一人の男が、帰る道すがらふと、ある一角に目を留めた。今までは何にも生えていなかった枯れた葉ばかりがそのままになっている長方形のプランターの中央部に、小…
2018/09/26 01:30