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2015/01/11

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  • やくもあやかし物語2・039『豊受神のオトヨさんと樺太ランチ』

    やくもあやかし物語2039『豊受神のオトヨさんと樺太ランチ』あ、ひいお爺ちゃんだ。そう思ったのは、目の前に現れた建物がひいお祖父ちゃんが勤めていた愛知県庁に似ていたから。愛知県庁は六階建ての鉄筋コンクリートなんだけど、部分的に七階になっていて、七階部分は名古屋城そっくりの和風の屋根になっている。目の前の建物は縦にも横にも県庁の半分の三階建。そして真ん中が四階建になっていて、お城の天守閣みたいな和風の屋根が載っている。「サハリン州郷土博物館なんだけどね、元々は樺太庁博物館なんだ」『子どもの頃に社会見学で来ましたよ!』交換手さんが御息所の姿で声を弾ませる。いつも冷静な交換手さんなんで、ちょっと新鮮。御息所は、いつもはにくたらしいんだけど、交換手さんの魂が宿っていると、とても清楚な美人さんだ。1/12サイズだけ...やくもあやかし物語2・039『豊受神のオトヨさんと樺太ランチ』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第125話《尾てい骨骨折・5》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第125話《尾てい骨骨折・5》さくら唄い終ると松子さんは照明やらパソコンをいじって「ワンモアプリーズ(•◡-)♡」とウインクされてもう一回。そして、晩御飯を勧められた。地下のスタジオから戻ると息子さんご夫婦も帰っておられて準備も整っていたので、断るのも失礼かと家にはスマホで連絡。お誘いに乗った。「かえって気を遣わせてしまったみたいね」「いいえ、友達のマクサや恵里奈とはしょっちゅうですから」お料理は気取らない多国籍料理だ。「いいえ、冷蔵庫のありあわせの無国籍料理。共働きの三世帯でしょ、時間もまちまちだし、長年やってるうちに、こうなっちゃった」感じとしては煮物と炒め物にサラダ。それが微妙にエスニック。これも各自の好みを聞いているうちに四捨五入して「手抜き」という絶対数で割ると、こう...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第125話《尾てい骨骨折・5》

  • 鳴かぬなら 信長転生記 173『擬態を解いて温泉に浸かる』

    鳴かぬなら信長転生記173『擬態を解いて温泉に浸かる』信長「三蔵法師さまとお弟子の方は村長さんのお屋敷をお使いください。あ、この近辺の地図も置いておきます。あとでまた寄りますからね(^▽^)!」それだけ言うと、チュウボウ(孫権)は笑顔で手を振って旅の一行に宿の割り振りを伝えに走った。一つ前の宿場から先行して、事前に一行の宿の手配をしていたんだ。いつものカメラをぶら下げ、気に入った風景やら人やらを撮りながらやっている。「孫策はいい弟を持ったッパ……」沙悟浄の姿で茶姫がこぼす。茶姫もなかなかな奴だ。愚兄の曹素に謀られて生まれ故郷の魏はおろか、手塩にかけた騎兵旅団も失い、国賊認定されて扶桑に亡命。その後、俺たちの偵察に付き合い、贋三蔵法師隊の沙悟浄に化けて行動を共にしてくれている。けして、本性の茶姫に戻ることは...鳴かぬなら信長転生記173『擬態を解いて温泉に浸かる』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第124話《尾てい骨骨折・4》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第124話《尾てい骨骨折・4》さくら寝ダメはきかなくなってきた。昨日は、スマホもパソコンも見ないで、8時頃にはベッドに入った。で、11時間以上寝たんだけど、それでも眠り足りない。さつきネエの話では、相変わらず寝言みたくゴニョゴニョ言ってるらしいけど、さすがにハッカののど飴を口に入れられることは無くなった。なんでも、看護師やってる友だちに話したら「寝てる人間の口に飴なんか入れたら誤嚥して窒息する恐れがある!」と言われたらしい。あやうく殺されるところだったんだぁ(^_^;)その友だちは、こう続けた。「尾てい骨の痛みが続くようなら、お医者さんに診てもらったほうがいいよ」お医者さんはぜったいイヤ!授業中の居眠りも常態化しつつあり、数学の先生も何も言わなくなった。尾てい骨は相変わらず痛か...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第124話《尾てい骨骨折・4》

  • 勇者乙の天路歴程 011『視界が開けると糺の森に似て』

    勇者乙の天路歴程011『視界が開けると糺の森に似て』森の出現に歩みを止めると、視界が開けてきた。駅からこっち、見えているのは幼稚園の園庭ほどでしかなく、その周囲は霞が立ち込めたように煙っていた。それが……目の前に森が出現すると、俄かに開けて視界が東京ドームほどに広がった。草原の左側には川が流れて、前方でYの字に分かれ、森はそのYの字に挟まれて奥に続いている様子だが霞に紛れてはっきりしない。Yの字によって三分割された地面は橋によって結ばれて往来は自由のようだ。Yの字の縦棒を跨ぐ橋に行って森を見晴るかすと既視感がある。「糺の森に似ています」ビクニの言葉で既視感はデジャブではなく記憶として蘇ってきた。子どもの頃は親父に連れられて、高校生の頃は友だちといっしょに、学校を出てからも友人たちと、職に着いてからは生徒を...勇者乙の天路歴程011『視界が開けると糺の森に似て』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第123話《尾てい骨骨折・3》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第123話《尾てい骨骨折・3》さくら目が覚めると、世界はハッカの香りに満ち満ちていた。目が覚めきるにつれ、香りの元が自分の口だと分かって驚いた。さつきネエがニヤニヤしている。「ちょっと、あたしに何かしたぁ?」「え、覚えてないの?」「なんのことよぉ?」「さくら、寝言でのど飴くれって言ってたんだよ」「え(˙ㅿ˙)?」さつきネエの話では、あたしは寝ながら口をパクパクやっていたらしい。で、最後にのど飴と言ったらしい……。「あら、声もどったのね」今度はお母さんに言われた。「え、そんなだったのあたし?」「覚えてないの?」「え、ああ、ううん……」いいかげんな返事をした。実のところ、昨日の秋分の日の記憶が飛んでいた。若年性健忘症……にしては、それ以前の記憶はしっかりしている。尾てい骨が痛いこと...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第123話《尾てい骨骨折・3》

  • 銀河太平記・212『先生のドッグタグ』

    銀河太平記・212『先生のドッグタグ』ダッシュシュビィーン!ズズーン!ドゴゴーン!ダダダダ!ビビビビ!パルス弾、実体弾、レーザー、ミサイル、ドローン、新旧様々な弾やエネルーギー波が飛び交う中で、壮絶な戦闘が繰り広げられている。静かの海は、月面の中では最も広く平坦な地面が広がっているところだ。それが静かに凪いだ海を思わせるところから古くから静かの海と呼ばれてきた。月は火星に先立つこと80年、21世紀の後半から開拓が進められてきた。南極条約に準じて、ベース以外では領土を設定しないことになっていたが、豊富な地下資源を目の前にして、紳士協定でしかない月面開発協約は空文化していた。各国は基地の概念を、それぞれのベースが置かれているクレーター全域に拡大し、月面の半分は事実上分割されていた。アメリカや漢明は50以上のク...銀河太平記・212『先生のドッグタグ』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第122話《尾てい骨骨折・2》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第122話《尾てい骨骨折・2》さくら昨日の学校はさんざんだった。教室の席に座る時は、家での体験があるので、尾てい骨を庇うように座れる。だけど授業中にノートをとろうとして顔を上げた拍子に姿勢が真っ直ぐになって、もろに尾てい骨に響く。さすがに家にいるときのように気軽に叫んだり唸ったりはできず、その分表情に出る。「佐倉、おれの授業、そんなにつまんないか?」数学の先生は、三度目に目が合ったときに言った。「いえ、そんなことはありません」「……だったらいいんだけどな」で、授業の後半、ムズイ公式の説明になって、またやらかした。論理的な思考が苦手なんで、説明はじっくり聞かなければ全然わからない。で、つい身を乗り出したところで、まともに尾てい骨に響いた。「……(>▲☆)!!」声にこそ出なかったけ...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第122話《尾てい骨骨折・2》

  • 巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・089『御神楽采女はあくびをかみ殺した』

    巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記089『御神楽采女はあくびをかみ殺した』「あら、本職だと思ってた?」鏡に映った御神楽さんが巫女服の襟を直しながら意外の声。結婚式場の仕事に来ると、たいてい同じ神主さん、同じ巫女さんなので、巫女の御神楽さんも本職だと思っていた。ボスの直美さんは仕事にきっちりした人で、開式の一時間前には式場の公民館に来て待機する。むろん、助手のわたしも写真館での機材の積み込みをやって、ホンダZでいっしょに来る。式場に隣接するスタジオで機材や照明のチェックが終わったら控室で待機。控室は他のスタッフとも共用で、御神楽さんとは一緒になることが多い。「だって、名札……」スタッフは館長以下全員が胸に小さな名札を付けている、わたしも直美さんも『須之内写真館』と名前の入った名札を付けている。名札を付け...巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・089『御神楽采女はあくびをかみ殺した』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第121話《尾てい骨骨折・1》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第121話《尾てい骨骨折・1》さくら今日は年に数回しかない不快な日だ。小学校の頃から思ってんだけど、なんで日曜と祭日の間の日って休みにならないのかなあ。仕事も勉強も三連休にして、明けてから集中した方が絶対効率がいい。先週は敬老の日のハッピーマンデーの三連休だったことと、もう一つの事情で、余計そう感じる。ここんとこ、由美(学級員の米井由美)と佐伯君のことで気が張っていたせいかもしれない。昨日は起きたら三時だった、午後の三時『わたしの日曜はどこへ行ったんだ!?』って感じ。それもすっきりした目覚めではなかった。なんだか頭がボーっとして、まだまだ寝たりない。シャワーでも浴びてすっきりしようと階段を降りたら、下から二段目で踏み外した。ウ……(>▲☆)しばらく声が出ないで、数秒たってから「...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第121話《尾てい骨骨折・1》

  • やくもあやかし物語2・038『廃墟と少彦名』

    やくもあやかし物語2038『廃墟と少彦名』あ……御息所が戸惑いの声をあげて視界が開けた。いつもだったら『ええっ!?』とか『ギョエー!?』とか品のない声を上げる御息所なんだけど『あ……』と上品な声。そう、今の御息所は交換手さんのスピーカーというかインタフェイスを兼ねているからね。今の上品な『あ……』は交換手さんの声なんだ。わたしもデラシネも「え?」と思ったよ。1941って番号を回したから、とうぜん1941年に飛んだんだと思ったよ。着いたところは、なんか、大きな工場の廃墟だ。昔は五階建てぐらいだったんだろうけど、所どころ床が抜けていて、最上階の屋根まで見通せる。壁もいたるところ抜けたり欠けたり、床はボロボロのコンクリートで、機械が据え付けてあったんだろう、土台が剥き出し。瓦礫やら草やらコケやらカビみたいなのも...やくもあやかし物語2・038『廃墟と少彦名』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第120話《牛乳が切れてまねき猫》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第120話《牛乳が切れてまねき猫》釈迦堂一葉(由紀子)「牛乳きれてるよぉ」亭主が平板な声で言った。若いころは落ち着いたバリトンに惚れたものだけど、今はただの鈍いオヤジにしか見えない。「さつきじゃないのぉ?スコットランド人を助けたとかなんとか言いながら冷蔵庫開けてたから」今日は日曜だ……けれど、亭主は図書館勤務なので仕事がある。今からコンビニに買いに行っては出勤に間に合わない……こともないんだけど面倒だ。「……インスタントコーヒーにしとくか」「ペットボトルのがあったわよぉ……」「……ないぞぉ」「ええ、ペットボトルのも空なの?」「さくらだなぁ、昨夜は遅くまで本読んでたみたいだからなあ」あいかわらず平板な声でそう言うと自分でスクランブルエッグを作り始めた。やや脂肪肝なので油を控えてレ...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第120話《牛乳が切れてまねき猫》

  • 鳴かぬなら 信長転生記 172『赤壁の織部と武蔵』

    鳴かぬなら信長転生記172『赤壁の織部と武蔵』織部「外していいか?」労務者用の出店から買ってきた弁当を見せると、前を向いたまま武蔵が訊ねる。この赤壁の築堤工事は規模が大きく珍しくもあるので、旅行者や近在の者たちが少なからず見物に来ていて、我々も大っぴらに偵察することができる。「ああ、いいよ。ほら、弁当食べて一息入れたら帰るとしよう」「よいしょっと……」カラコンを外すのに「よいしょ」は大げさなんだが、武蔵には随分なストレスなんだ。学院に転生してきた者はいずれもすこぶる付の美少女なんだが、武蔵は、ちょっと例外。双眼が鋭すぎる。三白眼だし。それで、三国志の偵察に当って、人前に出る時はカラコンをさせている。カラコンをした顔は鏡にでも映さなければ自分では見えないのだが、最初に着けた時の衝撃が大きく、今では装着しただ...鳴かぬなら信長転生記172『赤壁の織部と武蔵』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第119話《かまってられるか!》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第119話《かまってられるか!》さつきかまってられるか!正直な気持ちだった。けれど、トムと最後に会ったのはあたしだ。佐倉さつきの聖地である山下公園で、焼き芋食べながら一発かましたクサイやつ!なんだけど、その何倍もトムの性格の弱さをえぐってしまった。高坂先生も直々に電話されてきたことだし捨て置くこともできず、あたしは当たりをつけた。イギリス大使館の前……ビンゴだった!イギリス大使館は皇居の半蔵門から千鳥が淵公園沿いの一番町。名前からして高級な広大な敷地に建っている。高い建物は無く煙突のついた建物やテニスコートが並んで、アメリカ大使館や二番町のイスラエル大使館などのように厳しい警備や重苦しい雰囲気は無い。その閑静な大使館前にグデングデンになったトムが居た。「あ、あなた知合いですか。...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第119話《かまってられるか!》

  • 勇者乙の天路歴程 010『草原(くさっぱら)を行く』

    勇者乙の天路歴程010『草原(くさっぱら)を行く』「ビクニが来てくれて正解だったよ」「でしょ」これだけで通じた。歩けども歩けども草原。これが北海道あたりの草原なら趣もあるんだろうが、ただの草原。ちなみにルビを振るとしたら「くさはら」で、けして「そうげん」ではない。「ですよね、安達ケ原とか曽我兄弟が仇討ちをやった富士の草原(くさっぱら)のイメージですね」八百比丘尼だけあって、例えが古い。「新しいことも言えますよぉ」「ほう、どんな?」「安出来のオープンワールドゲーム。アンリアルエンジンとか使って高精細なんだけど、どこまで行っても同じ原っぱ」「あはは、あるねえ、某無双ゲームとか」「おまけに、ここは見通しがきかないから、うっかりしていると同じところに戻って来てしまいます。砂漠や吹雪の中を歩いていると、人が通った跡...勇者乙の天路歴程010『草原(くさっぱら)を行く』

  • 銀河太平記・211『姉崎先生の死』

    銀河太平記・211『姉崎先生の死』ミク「先生」「姉崎先生」額づいた姉崎先生に声をかける。ちょっと緊張する。在学中、こちらから声をかけるのは呼び出されて叱られる時ばかりだったので、こういうシチエ―ションでは条件反射で緊張が先に立つ。八年ぶりの後姿はピクリと動いたかと思うと、振り向くことなく、そのまま横倒しになった。ドサ「「先生!」」仰向けになった髭面には生気がない!直感で、命の火が消えかかっているのが分かる。すぐに呼吸と脈拍を調べる。「どうだ?」「バイタルが弱い、めちゃくちゃ弱い!」「救急要請するぞ!」ダッシュがハンベに呼びかけようとすると、先生の髭がピクリと動いた。「懐かしいなあ二人ともぉ……」「喋っちゃいけません、いま、救急車を呼びますから。取りあえず、酸素吸ってください」バッグから非番の時でも持ってい...銀河太平記・211『姉崎先生の死』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第118話《遅いんだよな、開票結果!》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第118話《遅いんだよな、開票結果!》さつき「ええ、まだ結果出てないの!?」二日酔いのぼさぼさ頭で起きだして、テレビのニュース番組を見て叫んでしまって、さくらが嫌味な視線が刺さる。「帝都の卒業生も二年たつと、こうなっちゃうかねえ」「え、なに?」返事の代わりに鏡を渡された。なるほど、ごもっとも。我ながらひどい顔だ。昨日はゼミの仲間といっしょにトムを慰めながら終電まで飲んでいた。イギリス……いや、スコットランド人の中でも、トムは思い切り優柔不断な奴だ。世論調査でも、スコットランドの独立に関しては94%の人たちが賛否いずれにせよ態度が明確だ。6%の人が賛否保留。これは分かる。近所や職場がみんな違う意見だったりすると、なかなか思った通りを口にできない場合もあるだろう。でもトムは違う。日...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第118話《遅いんだよな、開票結果!》

  • 巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・088『ロッカー整理』

    巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記088『ロッカー整理』「ねえ、これ、似てると思いませんか!?」終業式も終わってロッカーの整理をしていると、ロコが映画のパンフみたいなのを開いて近づいてきた。「あ、見たことある!」「お、さすがグッチですねえ!本放送は7月からだから、まだ知らない人が多いんですよぉ!」「え、そうなの(^_^;)?」昭和の学校に通って一年あまり。こういうことには気を付けている。通い慣れてしまうと、昭和も令和もそんなに違いは無い。両方とも同じ宮之森の街だし、同じ高校生だし。でも、実際には50年以上の時間の開きがあるので、うかつに「ねえ、あれだけど」「これなんだけど」という話は禁物。令和では普通だったり当たり前なことでも、昭和ではまだ出現していなかったり一般的じゃないことがけっこうある。たとえば...巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・088『ロッカー整理』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第117話《トーマス・ブレーク・グラバーの憂鬱》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第117話《トーマス・ブレーク・グラバーの憂鬱》さつきキイイイイイイ!!渾身の力でブレーキを踏む!…………もうちょっとで轢き殺すところだった(;゚Д゚)。数秒ハンドルに伏せた顔を上げられなかった。そして顔を上げたら、轢かれかけた本人がスタスタ歩いていく後ろ姿が目に入ったではないか!同じゼミのトム。「何か言ったらどうなのよ!飛び出してきたのあんたなんだから!!」思いのほか大きな声になった。トムは初めて気が付いたようにポカンと振り返った。「……どうしたの、さつき?」こいつ、まだ分かっていない。「急に車の前に飛び出してきて、挨拶もないわけ!?」「え、ボクが?」「あんたのボンヤリが原因でも、轢いたら車の過失になるんだからね!」「ボクが飛び出した?さつきの車の前に……?」「そうよ、あたし...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第117話《トーマス・ブレーク・グラバーの憂鬱》

  • 勇者乙の天路歴程 009『八百比丘尼』

    勇者乙の天路歴程009『八百比丘尼』先ほどと同様に膝に両手をついて、ゼーゼーと肩を上下させる静岡あやね。「どうしたんだ、静岡ぁ?」「あ、いえ……」左手は膝についたまま、右手だけハタハタとさせる。「わたし……静岡あやねじゃなくてぇ……」「え?」「ゼーゼー……八百比丘尼です」やっと上げた顔は、静岡あやねに性格真反対の双子の姉妹がいたらこうだろうというぐらいに明るい。「え……だって」「影響されやすいんです。八百年生きてきましたけど、その時その時、関りの深かった人や影響力のある人に引っぱられて、見た目がコロコロ変わるんです」「え、そうなの?」「はい、またじきに変わると思いますので、とりあえず宜しくお願いします」ペコリとお辞儀する姿も、さっきの静岡そのものだ。「あ、あの時のお辞儀は良かったですね。素直な喜びに満ちて...勇者乙の天路歴程009『八百比丘尼』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第116話《最後の七不思議・2》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第116話《最後の七不思議・2》さくら控室は12畳ほどの和室だった。正面の幅広の床の間みたいなところで、佐伯君は首までお布団掛けられれて、胸のあたりが盛り上がっている。胸のところで手を組ませてあるんだろうね。マクサが無言のままお焼香。手を合わせお香を一つまみくべて、もう一度手を合わす。みんなもそれに倣った。最後にわたしがお焼香し終えたとき、由美は初めて口を開いた。「もう、月の初めにはダメだって言われてたの。でも七不思議の話をしたら『オレもいっしょにやる』って言って痛み止めの注射だけしてもらって帝都に通ってくれた。聖火ドロボーの話、一番気に入っていたわ。最後は、これを超えるやつがトドメにあればな……って」由美が語る佐伯君の言葉は由美の口を借りた間接的なものだけど、声の響きは兄貴と...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第116話《最後の七不思議・2》

  • やくもあやかし物語2・038『番号を回したら樺太だった』

    やくもあやかし物語2038『番号を回したら樺太だった』『この番号を回してください……』交換手さんは簡単に言ったけど、10桁の番号は聞いただけでは憶えられないので、二回に分けて言ってもらってメモに取り、もう一回確認してからダイヤルに指をかける。ジーコジーコ……「やくも、おまえ、魔法使いには向いてないぞ」「え、どうしてぇ?」魔法使いになるつもりはないけど、デラシネの言い方はひっかかる。「たかが10桁の数字。一発で覚えられなきゃ、魔法の詠唱なんかできないよ」『だからして、わらわが付いておるのじゃ』「もう、御息所もぉ……ほら、間違えちゃったじゃない」もう一度、いちからかけ直し。「ちょっと、覚えにくい番号なのよねぇ……」47230のぉ……14226っと……ツーカシャカシャツーカシャカシャツーカシャカシャカシャ……メ...やくもあやかし物語2・038『番号を回したら樺太だった』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第115話《最後の七不思議・1》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第115話《最後の七不思議・1》さくら「起立」の声がかかって――アレ?――っと思った。いつものところからじゃなく、廊下側の後ろからだったし、声が違う。続く「礼、着席」の声で気づいた。いつもの米井さんじゃなくて、副委員長の加藤さんだ。米井さんは休んだことが無い。まして今日は七不思議の最後を取材しなきゃならない日だ。こんな日になんの連絡もなしに休むわけがない。わたしと米井さんは、夏休みにTデパートで佐伯君といっしょのところを見かけるまでは、ただのクラスメートだった。それがチェーンメールのことが問題になることで、その容疑者と思われ、怖い顔で文句言われた。でも、それがきっかけで、その容疑が晴れると共に友達になっていったんだ。それからは文化祭の『帝都の七不思議』を一緒に取り組むようになっ...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第115話《最後の七不思議・1》

  • 鳴かぬなら 信長転生記 171『赤壁・3』

    鳴かぬなら信長転生記171『赤壁・3』書籍範「婆さん、馬を下りろ、このお方は貴人だ!」栞ちゃんと変換する余裕もなく、悲鳴のように叫んでしまう。「ま、まことに失礼いたしました!」ここ何年もやったことが無い土下座の礼で詫びる。魏王様とか曹操様と呼ぶべきなのかもしれないが、様子を見ると現場監督か主任技師かと見まごうような軽い身なりでいらっしゃる。下手に御身分の分かる呼び方をしては障りがあるかもしれない!「いやいや、畏まらないでください。お察しの通りなんだが、いまはただ工事の進捗を見に来ただけです。仰々しい供の者も付けてはおりません。旅の途中で出会った工事関係者と思って下されればよろしいですから(^_^)」「ははぁ!」「どうぞお手を上げてください。そのように礼をされますと、我々も蹲踞の礼をとらなくてはならなくなり...鳴かぬなら信長転生記171『赤壁・3』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第114話《聖火ドロボー》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第114話《聖火ドロボー》さくら古い学校には伝説や言い伝えが付き物だ。佐伯君の乃木坂学院でもマッカーサーの机(『まどか乃木坂学院高校演劇部物語』に詳しく載っている)とか、どこにも通じない階段とかがあるそうだ。――さあ、六つ目よ!――下校時間も迫った5時過ぎ、米井さんのメールで、わたしたちは学校の玄関に集まった。「ここに、帝都女学院の六つ目の不思議があります!」ええぇ?わたしたちは玄関を見渡した。玄関に入って右側が事務室の窓口。左側には大きなショーケースがあって、優勝杯や優勝旗、なんかの感謝状や表彰状……この手のものは、うちぐらいに古い学校なら倉庫に一杯ぐらいある。その横に卒業生の彫刻家さんが寄付したというという制服少女の胸像と全身像、むかし制服改定の話が上がった時に寄贈されたら...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第114話《聖火ドロボー》

  • 銀河太平記・210『』

    銀河太平記・210『共同墓地』ミクちょっと息をのんだ。開拓初期に堀りつくした地下鉱山が史跡東京ドームほどの空洞になっていて、その空洞が丸ごと墓地になっている。印象は高校の修学旅行で傍を通った青山墓地。青々とした林の中に古色蒼然とした和式の墓石が並んでいる。医者であるわたしは基本的には生きた人間しか相手にしない。死者と関わるのは、検死で立ち会う、たいていはなりたてホヤホヤの死者。その先の葬儀や埋葬には立ち会ったことが無い。だから、墓地というのは今風のパルスコーティングした規格品が並んでいる無機質なイメージしかない。なんだけど、この共同墓地は、慎ましやかではあるけれど石でできた古典的な墓石だ。「うわぁ、地球から持ち込んだ墓石もあるぞぉ……」時代劇に出てきそうな墓石には『〇〇家』とか『△△家墓地』とか彫られてい...銀河太平記・210『』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第113話《たぬき蕎麦から見える日本の文化》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第113話《たぬき蕎麦から見える日本の文化》さくら帝都の学食の「たぬき蕎麦」はちょっと違う。ふつう「たぬき蕎麦」ってのは、かけ蕎麦の上に天かすが載っているものと決まっている。ところが、我が帝都女学院のそれは、かけ蕎麦にネギがドッチャリ入っている。120円と言う安さで、生徒に人気のメニュー。入学したころはびっくりしたけど、お手軽でビタミンたっぷりの優れもの。カウンターにはカイワレも載っていて自由に入れられる。別名「ビタミン蕎麦」とも言う。で、なんで、これが「たぬき蕎麦」なのか、食堂のオジサンはうんちくを垂れた。「ここの食堂任されたときに、なにか安うて特別なメニュー作ろ思て考えたんや。玉子は高いし、安うてボリュームあって、栄養のあるもん」「それがたぬき蕎麦なんですか?」「せや!」「...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第113話《たぬき蕎麦から見える日本の文化》

  • 勇者乙の天路歴程 008『始まりの駅から』

    勇者乙の天路歴程008『始まりの駅から』高校生の頃から五十余年乗り慣れたK電鉄、隣県に入るまでは複々線のはず。それが、列車が発車した後の鉄路は、いまどき我が県ではよほどの郡部にでも行かなければお目にかかれない単線だ。それに、駅舎が無い。ポツンと単式地上ホームがあるばかりで、ホームの前後には鉄路が伸びているが、左右は幼稚園の園庭ほどの地面が見えて、その先は草原のようなのだが、茫漠として灰色の闇に溶けている。景色が闇に溶けてさえいなければ、Nゲージのスターターセットを買って、取りあえず組み上げたという感じに近い。ホームには年季の入った行先案内板。そこには横長のT字の上に『始まりの駅』とあるのみで前後の駅名は書かれていない。そう言えば、ネットの都市伝説にあった『きさらぎ駅』というのがこんな感じだろうか。これが夢...勇者乙の天路歴程008『始まりの駅から』

  • 巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・087『春の大浜海岸』

    巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記087『春の大浜海岸』桜が見ごろになったら江ノ島か鎌倉に行ってみようということになった。その桜は令和でもまだ蕾は堅い。地球温暖化とか言われるけど、おおよそ昭和と変わらない。二月は初夏か!?と思うくらいの日があったけど、三月はけっこう寒くて、先日女バレの部室に寄って令和に戻った時なんか戻り橋を渡り終えたところでブルっと震えてしまった。いつだったか、お祖母ちゃんと話したことがある。「二酸化炭素の95%」「ええ、そんなに出してんの!?」出してるとは、人類がバカみたいに出してる二酸化炭素が全体の95%かと思った。「逆よ、95%が自然界から出てるのよ。生物の吐く息とか腐敗とか、火山の爆発とか、人類が出してるのは5%、せいぜい6%」「うっそー!」「その5%のうち、日本が出してるの...巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・087『春の大浜海岸』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第112話《水飲み機とついてくる足音!》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第112話《水飲み機とついてくる足音!》さくら誰も触らないのに水飲み機から放物線を描いて水が飛び出した!まるで透明人間が水を飲んでいるように(;'∀')!「東京大空襲で焼け死んだ人たちが、水を求めてやってくるのよ」米井さんは、怖そうなことを天気予報の解説のようにお気楽に言う。聞いた瞬間は「そうなんだ」だけど、数秒後に頭が理解して、俄然怖くなる。これは、あたしたち女子高生が、いかに人の話をいい加減に聞いているかの現れ。人が話したら、とりあず「はい」とか「そうなんだ」を息を吐くように無意識ってか、無神経に言う。これは「まず、お返事しましょう」という保育所時代から仕込まれた動物的な条件反射。そんで帝都で仕込まれた『明朗・闊達・品性』の指導の賜物。「人の話には、まず明るく素早く返事をし...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第112話《水飲み機とついてくる足音!》

  • やくもあやかし物語2・037『交換手さんの提案』

    やくもあやかし物語2035『交換手さんの提案』デラシネは言葉にしようと、二回息を吸って吐き出した。ハーーー思いを伝えようとしてるんだけど、言葉が見つからない。あるいは、言葉にしたとたん心か身体か、あるいは、その両方が壊れるか暴れるかしそうで踏み出せないみたいで、二度目は両手に顔を伏せてしまった。お母さんが言ってた――水泳の授業でね、なかなか飛び込めなかった――って――飛び込むと自分の中にいる魔性の者が蘇ってプールも学校も破壊してしまいそうだった――って。自分では「お母さんは魔法使いの子孫だからね、プールなんかに飛び込んだら、それが蘇ってプールも学校もめちゃくちゃにしてしまう!」とか言って、わたしにもそういうものがある的なニュアンスだったけど、あれは、根性なしの言いわけ。だいいち、お母さんと血のつながりは無...やくもあやかし物語2・037『交換手さんの提案』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第110話《帝都女学院七不思議・2》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第111話《四ノ宮青年の正体》さくらヘルメットを脱いだ顔に驚いた!それは渡辺謙を若くして、少しバタ臭くしたハーフっぽいイケメンなのだ。それに、耳がすこし大きい。思わず見つめてしまった。「ああ、自分ハーフエルフだから」ええ(゚Д゚)!?「妹はフリー〇ンていって、魔王をやっつけたあと、魔導書を集めながら仲間と北の国を目指してる」は、はあ……「四之宮クン、こないだはヴァルカン人とか言ってなかったぁ」測量技師のおじさんがジト目で言う。「アハハ、近ごろはスタートレック知らない子もいるからぁ」「な、なんだ(^_^;)」「信じたぁ(^・^;)」「びっくりしたぁ(^○^;)」「ここ昔はうちの屋敷があったんだ……」あっさり言った……え、エルフのお屋敷!?「……あの、聞いてる?」「あ、はい。もちろ...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第110話《帝都女学院七不思議・2》

  • 勇者乙の天路歴程 007『始まりの駅』

    勇者乙の天路歴程007『始まりの駅』駅まで全力疾走!発車まで2分を切っている。ここからなら歩いて8分、走って4分。もっとも還暦を過ぎてからは10メートル以上走ったことが無い。10メートルというのは、自宅最寄りの駅横の踏切。駅向こうの床屋に行こうとして上がったばかりの遮断機を潜ると、とたんに警報機が鳴りだした。戻るのも業腹で、それで走ったのが数年前だったか。今は踏切横のエレベーターで上り下りして、踏切そのものを忌避している。若いころでも3分は切れなかっただろう。それを2分は絶対無理なんだが、どうも体は身体能力のピークであった高校時代のそれを超えている。ゲームの一人称視点のように、見える自分は手足と、せいぜい胸元まで。腎臓結石の手術の後リハビリを怠ったので、左腹側部の筋肉が戻らなくて、そう太っているわけでもな...勇者乙の天路歴程007『始まりの駅』

  • 鳴かぬなら 信長転生記 170『赤壁・2』

    鳴かぬなら信長転生記170『赤壁・2』書籍範赤壁は魏と呉の境を流れる長江の上流にある。魏王曹操様のご提案で大法話が開かれる河原よりも上流にある。両岸には高々と天然の岸壁が聳え、その岩肌が赤みを帯びているので古くから赤壁と呼ばれている。むろん全てが岸壁では無くて、岸壁の切れ目や後退しているところには小規模の船着き場が設けられていて、下流域ほどではないが人の往来や物資の流れがある。大軍の渡河には向いていないが複数の切れ目から同時に侵攻させるか、あるいは上流・下流より船団を進めて兵を上陸させることは可能だ。ただ、優れた指揮官と軍師の存在があればのことだが。「あら、あなた、なにか工事をやっていますよ。音が聞こえる!」ドドドドガガガガガカーンカーンブルルルルー歳の割には耳と目の良いかみさんが声を弾ませる。かみさんは...鳴かぬなら信長転生記170『赤壁・2』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第110話《帝都女学院七不思議・2》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第110話《帝都女学院七不思議・2》さくらビー玉の群れは、ゾロゾロと北門の坂道を転がっていった。「「「「「ふっしぎー!!」」」」」みんなが、一斉に声を上げた。七不思議の最初、北門の重力異常の撮影に取り掛かっている。どう見ても北門の位置が低く、校舎側が高くなっているように見える。だのにビー玉の群れは、北門から校舎に向かって転がっていく。なんか遊園地のトリックハウスのようだ。「これは、トリックハウスの原理よ!」理系の成績トップの松坂莉乃が指を立てる。「いいこと、このアプローチの道幅、校舎側の方が細くできているの。他にも植木の高さを意図的に刈り込んで、校舎側が高く見えるようにしてあるのよ。このアプローチも微妙に曲がってるじゃん。そのへんにも秘密があると思う」「あたし試してみるで」バレ...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第110話《帝都女学院七不思議・2》

  • 銀河太平記・209『恩師の消息・2』

    銀河太平記・209『恩師の消息・2』ミク「先生、空港のメディカルゲートで引っかかって……」「検査の途中で抜け出してしまったんです。あ、こんなナリですが、公務ではないんです。任務中にミクに呼び出されて、軍服のまま飛び出してきたもんですから」「じつは……」空港からここまでの話をすると、オヤジさんは「そうですか」と腕組みしたまま立ち上がった。「この界隈は訳ありのもんが多くて……」そう言うと、オヤジさんは棚から博物館にでもありそうなごっつい台帳を取り出した。バサリ開くと、風が起こってお茶の湯気をたなびかせ、紙の匂いが立ち上がる。なんだか、伝説の昭和を舞台にした古典映画の中に潜り込んだみたいだ。「いっぱい書き込みがしてありますね……」「アフターサービスというか……お世話させていただいたお客さんとは、その後も付き合っ...銀河太平記・209『恩師の消息・2』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第109話《帝都女学院七不思議・1》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第109話《帝都女学院七不思議・1》さくらシリコン騒ぎで『ゴジラ』は観損ねてしまった。「またこんど連れてってやるから」そう言って、玄関で靴履くときは自衛官の顔に戻っていた。「なんかもう『対空戦闘ヨーイ!』って顔だよ」「それはいかんなあ」自分の頬っぺたをスイッチみたいに捻って、いつもの倍ほど緩い顔になって出て行った。「ま、辛抱しなよ。機密漏えいを未然に防いだんだからさ。ゴジラならブルーレイ出たら買ってきてやるから」「あたしは、映画館で観たいの!」「高校生は、そこまで贅沢言うもんじゃないの」「へいへい」「エイ!」さつき姉も一発気合いを入れると、ホンダZに乗って大学だかバイトだかに行ってしまった。で、いささかプリプリしながら学校へ。時間が無いので、いつもの裏路地を通って駅にいく。もう...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第109話《帝都女学院七不思議・1》

  • やくもあやかし物語2・035『デラシネに向き合う・2』

    やくもあやかし物語2035『デラシネに向き合う・2』「なあ、これってハイジのおかげなんだろ!?」ポコン!「イッテエなあもう」「今度言ったら、殺す」「わ、分かってるけどよぉ」これでもう五回目くらい。学校の庭で詩(ことは)さんが歩く練習をしている。介添えは王女さま、時どきソフィー先生。二人とも日本にいたころからのお友だち。先週、ハイジと男子が木登りしてて、調子に乗ったハイジがお猿みたいに落っこちた。その瞬間を、この窓から見ていた詩さんは、ビックリした拍子に自分の脚で立ち上がったんだ。その時、庭の端っこで見ていたデラシネが疾風みたいに飛んできてハイジを受け止めた。でも、デラシネはわたし以外には見えないから、みんな、ハイジは魔法かなんかで助かったと思っている。それと、詩さんが自分の脚で立ち上がったことと合わせて、...やくもあやかし物語2・035『デラシネに向き合う・2』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第108話《シリコンの秘密》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第108話《シリコンの秘密》惣一大容量メモリーには、とんでもないものが入っていた。どうしたものか案じた末に、ある処理をして、さつきに返した。「え、シリコンから取り出してないの?」「ああ、ちょっとヤバイものじゃないかと思ってな。多分近々警察が来る。提出を求められたら素直に出すんだ……いや、元通りバンパーに貼っておこう」しかし、この貼り直しが難しい(;'△')。どうやら交差点でぶつかりかけた車から、特殊な銃のようなもので吹きつけられている。貼りついた角度は速度を持った分、角度を持っていたし、飛沫も着いていた。うわ!?悩んでいるといきなり肩を押されてメモリーカード入りのシリコンは上手い具合に擦れてバンパーにくっついた。「ねえ、ソーニー、ゴジラ観に行こうよぉ。アカデミー賞取ったんだから...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第108話《シリコンの秘密》

  • 巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・086『女バレの部室』

    巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記086『女バレの部室』月に一度バイトのギャラをもらいに行く。いつもは学校の帰りに寄っていくんだけど、春休みだし、この三日間は入試業務で生徒の立ち入りは制限されてるんで、わざわざ行く。それでもいちおう制服。正門の前まで行って入れるんなら中庭とかで日向ぼっこしてもいいかなあと思ってる。直美さんは雑誌の仕事で居なくて、マスターにいただく。マスターとはあまり会話にならないのでお礼言って、受け取りにハンコ捺いて学校に向かう。よしよし。正門に入る前から部活の生徒が見えたんで安心して入る。校舎の入り口には『教職員以外立ち入り禁止』の張り紙がしてある。こういう張り紙は令和ではパソコンで打ち出した機械の文字だけど、昭和では手書きだよ。禁止の止の字なんか、最後の横棒にグッと力が入っていて...巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・086『女バレの部室』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第107話《大容量メモリー》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第107話《大容量メモリー》惣一船を降りるとアキバで潮っけを抜いて帰る。といっても一杯ひっかけるわけじゃない。ちょっと遠回りして秋葉原に寄る。ラジ館をメインにうろうろする。オレの乗っている艦は「あかぎ」という海自最大最新のヘリ搭載護衛艦で、やっと慣熟公試が終わったところである。新造艦の公試というのは、並の艦の倍はくたびれる。今日の潮抜きは長くなるかもしれない。ラジ館は、天下に名の知れたオタクのメッカだ。昔は名前の通りラジオから電子部品まで扱う電子部品や電器会社のアンテナショップが入っていたが、今世紀に入って漫画、トレーディングカード、フィギュアを扱う店ばかりになった。今年の上半期でかなりの新製品が出たので、楽しみに寄ってみた。イベントフロアーでは懐かしのウルトラマンショーをやっ...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第107話《大容量メモリー》

  • 勇者乙の天路歴程 006『出発』

    勇者乙の天路歴程006『出発』「ということでよろしくお願いします(^▽^)!」「わ!?」たった今まで静岡あやねが立っていたところに古代衣装がワープしてきた!「アハハ、いまの生徒さんの馬力で復活して、残りの『勇者の素』もダウンロードできちゃいましたよ」「あ……」胸元が明るくなったかと思うと、胸のところで青い光が明滅している。「では、インストール!」「あ、ああ……」ブルンブルブルブル!公園が回る、いや、わたしが回っている!「目をつぶって!酔っちゃうから!」「は、はひぃ!」子どもの頃、公園の回転遊具に乗せられて、みんなにぶん回された感覚が蘇る。そうだ、あの時もKちゃんが「いちろー!目をつぶってぇ!」と叫んでいたっけ。目をつぶって、これ以上は目をつぶっても酔ってしまうというところで、ようやく落ち着く。「はい、もう...勇者乙の天路歴程006『出発』

  • 鳴かぬなら 信長転生記 169『赤壁・1』

    鳴かぬなら信長転生記169『赤壁・1』書籍範大橋(だいきょう)さんには感謝するばかりだ。本来なら『大橋さん』などと気安く呼べるお方ではない。豊盃羽沙壽(ほうはいぱさじゅ)のオーナーで、自由都市豊盃で一目も二目も置かれる商人であるばかりでなく文化的リーダー。パサージュという新しい業態で、豊盃楼(豊盃ビル)を生き返らせ豊盃一お洒落な商業施設にしてくださった。お蔭で、閉店寸前だったわたしの店もパサージュの中央路に移って望外の繁盛。繁盛しすぎて老夫婦では回し切れなくなり、もう若い人に譲ろうかと思った時。わたしを店主にしたまま自分の店になさって、なんと家賃まで払ってくださる。「全部譲られてはお寂しいでしょ」と、店の一画を新聞と雑誌のコーナーにしてくださった。それに、大橋さんは呉の孫策公の妃である。元々は喬公の姫で喬...鳴かぬなら信長転生記169『赤壁・1』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第106話《車をあてがわれて妹を拾う》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第106話《車をあてがわれて妹を拾う》さつきあたし学生なんですけどぉ。思わず口ごたえしてしまった。原稿は、いつもパソコンで送るんだけど、月に二度ほど映画のチケをもらうのとギャラをもらいに出版社に顔を出す。ギャラは本来振込なんだけど、以前二度ほど振込を忘れられて危うくノーギャラで仕事をするところだったので、それからは手渡しにしてもらってる。で、なんで今さら学生であることを強調しなきゃならないかというと。「さつき君、しばらく車で仕事してくれない?」と、編集長に言われたから。車を使えってのは、評論のゴーストライターの仕事以外に取材とかの仕事が入るということで、ほとんど本業の記者と同じ仕事をしろと言われていることと同じだ。怖さ半分、興味半分だったけど、一番の問題はギャラだ。仕事だけ増え...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第106話《車をあてがわれて妹を拾う》

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第105話《お御籤に超吉ってあるんですか?》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第105話《お御籤に超吉ってあるんですか?》さくら「……戸籍謄本を見てしまったの」数分の沈黙のあと、米井さんが口にしたのは理解不能な一言だった。そして、そのあとまた沈黙になってしまったので訳が分からない。「じゃ、先生が話すけど、いい?」米井さんは黙って頷いた。口を開いたら自分が爆発してしまいそうで、何かを必死で堪えているのがわかる。「去年、乃木坂の文化祭に行って、米井さんは佐伯君と付き合うようになったの。それで、付き合いは順調に進んで、二人は、とてもいい友達になった……とても大事なね」ここまでは当たり前に理解できた。Tデパートで見かけた二人は、そのとても大事を通り越して、身内のようにお気楽な状態で、そういう関係に夢を重ねてしまうあたしたちには、つまらないものだった。「念のため、...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第105話《お御籤に超吉ってあるんですか?》

  • 勇者乙の天路歴程 005『静岡あやね』

    勇者乙の天路歴程005『静岡あやね』先生!中村先生!驚いて首をひねると、公園の生垣の向こう、こちらに走って来る女生徒。「ああ、よかった、間に、間に合ったぁ!」公園に入って来ると膝に両手をついてゼーゼー肩を上下させる。ええと……あ、そうだ二年三組の静岡あやねだ。「あはは、たいへんな勢いだねぇ」「ちょっと失礼します」わたしの前を横切ったかと思うと水飲み場の水道に向かう。片手で髪を庇ってグビグビ……教室では目立たない大人しい子だったけど、こうやって喉をあらわにして水を飲む姿は相応に健康的で色っぽい。「あ、すみません、お待たせしました」ハンカチで口を拭うと、こちらを向いて姿勢を正した。「屋上でボンヤリしてたら先生が見えて、ご挨拶しとかなきゃって」「ああ、そうか、それはそれは」こういう時は、きちんと正対してやらなけ...勇者乙の天路歴程005『静岡あやね』

  • 銀河太平記・208『恩師の消息・1』

    銀河太平記・208『恩師の消息・1』ミクゴールデン街は月面開発の初期にできたバラック街がもとになっているので、スリッパのあるメインストリート(と言っても道幅は車がやっと通れる程度)以外は狭いし込み入っているし、月に来て四年にしかならないわたしにはメインストリート以外はラビリンス同然。一緒に歩いている三等軍曹のダッシュも似たり寄ったり。まあ、それでも示してもらったあたりは記憶にあるので、なんとか……と思ったけど、甘かった(^_^;)「ええ、ハンベじゃこの先も道のはずだぞ」「マップなんて役に立たないわよ、かえって混乱するから見ない方がいいわよ」と言いながら、わたしも戸惑っている。周温雷のオッサンを案内してから間は無いんだけど、もう様子が変わっている。かつて路地だったところに大人のおもちゃの店ができてるし、荷物...銀河太平記・208『恩師の消息・1』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第104話《星に願いを……1》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第104話《星に願いを……1》さくら「わたしじゃないわよ!」チェ-ンメールをよこしてきたA子に学校で聞いた、むろん米井さんには分からないように。で、A子から、チェーンメールを送ってきた子を聞いて、その子にあたる。そんなことを五回繰り返して、元々の発信者E子にたどり着いた。村野美穂という一年のときの同級生だ。三つ隣のクラスにいる美穂に問い詰めたとき、美穂は不思議そうな顔で言った。「なに言ってんの。最初によこしたのさくらじゃんよ」絶句した。「え……?」「だって、ほらぁ」「そんな馬鹿な……」村野美穂が見せてくれた着信履歴は、確かにあたしのアドレスだった。あたしは軽いパニックになった。「そんな……あたし、こんなの送ってないし。それに自分が写りこんでる写メは、だれか他の人間が撮ったってこ...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第104話《星に願いを……1》

  • やくもあやかし物語2・034『デラシネに向き合う・1』

    やくもあやかし物語2034『デラシネに向き合う・1』詩(ことは)さんは大事を取って王立病院に検査入院したよ。ハイジ!?ハイジが木から落ちてみんなが悲鳴を上げて、わたしの部屋に来ていた詩さんは、王女さまといっしょに窓の外を見た。その時、詩さんは窓辺に手を突いてだったけど、自分の脚で立ったんだ。それは『アルプスの少女ハイジ』でクララが立ち上がった時みたいに衝撃的だった。すぐに、木から落ちた猿、いや、ハイジと一緒に王室医師のフレデリック先生が診て下さったんだけど「奇跡です!」と喜んでいたんだけど、念のための検査。「ハイジも検査かぁ(^▽^)/」喜んで手を挙げたハイジは頭をコツンとやられておしまい。――ありがとう、デラシネ――心の中でお礼を言うと、デラシネは顔を真っ赤にして行ってしまった。よかった、通じてはいるん...やくもあやかし物語2・034『デラシネに向き合う・1』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第103話《妹と書評と蒙古斑》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第103話《妹と書評と蒙古斑》さつき「さすがに蒙古斑は無くなったみたいだな」カチャリお父さんは握ったままのドアノブを戻して出ていった。娘とはいえ、スッポンポンの姿を見てしまったバツの悪さを上手くかわしていった。あたしは穿き替えのパンツつかんで、脱衣場に向かった。「ねえ、佐伯君のこと知ってんの?ねえ?」後ろから、さくらが付いてきてしきりに聞く。だけど、パンツ穿いてパジャマ着ながら思った。佐伯君のことは、さくら自身が米井由美とかいう子から直接聞くべきだ。第一に、あたしにはボランティアとは言いながら守秘義務がある。それにあたしから聞いたということになると佐伯君も米井さんも傷つくだろう。むろん、さくら自身も。さくら自身はけして人間関係の下手な子じゃない。でも得手不得手な相手がいるようで...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第103話《妹と書評と蒙古斑》

  • 巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・085『百歳の記念写真』

    巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記085『百歳の記念写真』今日は入試で学校は休み。思えば一年前、令和の宮之森を受けて、いろいろあって、昭和の宮之森に越境入学。いろいろあって越境したからいろいろ想いはあるんだけど。それは置いておいて、今日は須之内写真館のアルバイト。「記念写真て、普通は写真館のスタジオで撮りません?」ホンダZのハッチバックに機材を積みながら直美さんに聞く。てっきり、いつもの結婚式場かと思ったら、微妙に機材が違うので聞いたのよ。個人の記念写真、七五三とか成人式とか、なにかのお祝いで記念写真を撮るときは、たいていお客さんは写真館に来て、スタジオで撮る。「うん、百歳のお婆ちゃんだからね」「ああ……」「しっかりしてらっしゃるんだけど、お歳だから、ご家族も心配されてね」「ああ、なるほど(^_^;)...巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・085『百歳の記念写真』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第102話《チェーンメール》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第102話《チェーンメール》さくら「あのね、お姉ちゃん」マクサにも言わなかったけど、そのまま胸にしまい込めるほど佐倉さくらは人格者ではない。お風呂に入ろうとしてるお姉ちゃんに言った。「他に見てたやつがいるに決まってんじゃない。さくらが写ってる写真があるんだから、クールダウンしたら米井さんも分かるって」「だって」「こういうのは、騒がないことが一番なのよ」「でもねぇ……」「あたし、今日はボランティアで汗みずくなの。とりあえずお風呂に入らせて!」お姉ちゃんは、そそくさとお風呂に行った。なにか見落としが無いか、ヒントが無いか……メールやSNSの履歴を指で繰る。100回ほどスクロールして指が攣りかけたころ、スマホが鳴ってお手玉してしまう。ウワワワ(;'∀')……ええ!?なんと、米井さんと...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第102話《チェーンメール》

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第101話《え ちょっとなに?》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第101話《えちょっとなに?》さくら「え、ちょっとなに?」いきなり米井由美に手をひっぱられて廊下に連れ出され、そう言うのが精いっぱいだった。「さくらは、がさつで女らしくない!」と常々言われる。流行りの若者言葉は嫌いだ。「暑!」「眠!」「寒!」「やば!」などの『いぬき言葉』なんかは使わない。あ、世間で言う『いぬき言葉』は違う。世間で言うのは「お世話になっています」を「お世話になってます」という感じに言葉の途中の「い」を省略する『いぬき言葉』。カジュアル過ぎて、接客とか目上の人相手には失礼なので使ってはいけないんだそうだ。あたしがダメだと思うのは、言葉の最後に付ける「い」。文法用語では終助詞とかいうらしい。あたしが気になる「いぬき言葉は」単に終助詞の省略じゃない。「暑!」「眠!」「...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第101話《えちょっとなに?》

  • 勇者乙の天路歴程 004『高御産巣日神』

    勇者乙の天路歴程004『高御産巣日神』わらわは……身は……我は……余は……ううん、久々ゆえ、己が身の謂いようにも困るのう……口をきいたかと思うと、古代衣装は一人称を決めかねてブツブツ言うのみ。「しばし待ちや、これよりは令和の言の葉に変換いたすゆえ……」ブゥーンマブチモーターが回るような音がしたかと思うと、古代衣装の瞳がスロットマシーンのように回り出し、五秒ほどで一回り大きな瞳になって停まる。同時に表情もNHKの女子アナのように柔らかくなる。「おまたせいたしました。わたしは、この地に長らく住んでおります、タカムスビノカミと申します」「タカムスビノカミ……」記憶にはあるのだが……かなり古い神さまということしか浮かんでこない。「中村さんは社会の先生なので、お分かりになると思うのですがぁ……」「え、わたしのことご...勇者乙の天路歴程004『高御産巣日神』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第100話《モスラ~ヤ モスラ》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第100話《モスラ~ヤモスラ》さくら夏休みは、ほとんど成果とか成長とかからは無縁で終わってしまった。毎年のことだけど。でも、まったく無かったわけでもない。しいて挙げれば二個ある。一つがピーナッツを発見したこと。YouTubeを見ていたら偶然「発見」した。アカぬけきっていあない少女たちが、ピーナッツの「情熱の花」と「ふりむかないで」歌って踊っている。少女たちのユニットをピンクピーナッツっていうんだけど、彼女たちを通して元祖ピーナッツに目覚めた。ピーナッツには昭和の力がこもっていると思う。根拠はないよ。何年か前にナントカってデュオがピーナッツをリカバーライブ、お父さんが照れ隠しにあたしを連れて行った。「いやあ、娘が見たいって言うもんですから」という言い訳のため。落語で似たようなのが...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第100話《モスラ~ヤモスラ》

  • 鳴かぬなら 信長転生記 168『饒舌な孔明』

    鳴かぬなら信長転生記168『饒舌な孔明』信長――かまわぬ、講堂にお通ししなさい――頭の緊箍児(きんこじ)がささやいた。緊箍児は一言主(ひとことぬし)で、木偶の三蔵法師を操っている。その一言主が言うのだから、言うことに間違いはない。俺が孔明を出迎えて対応しているうちに講堂に向かったんだ。「いやあ、さすがは自由都市豊盃。噂には聞いておりましたが、豊盃寺、なかなかの名刹ですなあ」羽団扇を戦がせながら社交辞令を言う孔明。「良き寺というのは、秩序を具現させております。塔は釈迦牟尼の墓を現し、金堂は、僧や衆生が拠り所とする本尊仏と脇侍を祀ります。人は目に見える形を通して物事を理解します。それゆえ3Dのフィギュアに過ぎぬ仏像に拝跪するのですが、その精神性は塔によって担保されます。それを回廊をもって取り巻き聖域となし、そ...鳴かぬなら信長転生記168『饒舌な孔明』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第99話《ふたたびの始まり》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第99話《ふたたびの始まり》さくら女子バレーボールワールドグランプリで、日本代表は強豪ロシアを撃破した。そして、夕べはブラジルを破って波に乗っているトルコをも3セットで落とした!バレーなんて体育の授業でしかやったことないけど、同じ日本の女性として胸が熱くなった。恵里奈は、文字通り帝都女学院バレー部のセッターなので――見た!!見た!?勝った!!――と、顔文字も付けず興奮丸出しのメールを送ってきた。――やったね!日本の女は大したもんだ(≧∇≦*)/!――と返しておいた。それから気分よくお風呂に入って、頭にタオル巻き付けて洗面でガシガシ歯を磨く。鏡の前には当然若いということだけが取り柄の、たいして美人でも可愛くもない自分の顔が映っている。オデコのニキビも芯が抜けて峠を越えた感じ。よし...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第99話《ふたたびの始まり》

  • 銀河太平記・207『恩師を探してゴールデン街』

    銀河太平記・207『恩師を探してゴールデン街』ミク高機動車は軍用車両なんで、駐禁の制約なんかないんだけども、大人しくピタゴラス第二駐車場に停める。第二駐車場はゴールデン街最寄りの駐車場で利用者が多い。こんなところで軍用特権を使うと、微妙に不満を持たれ、その積み重ねが市民の不満をかってしまい、有事の軍事行動の障りになる。「派出所からまわるか?」「ううん、心当たりがあるから」パーキングメーターにハンベをかざして登録を済ませ、ダッシュと二人、駐車場の出口に向かう。「やっぱり裏筋からあたるのか?」「あ……なんとなくの勘」そう応えながら、この捜索はなるべく記録に残らない方法をとらなければと思っている。半年前に知り合った周温雷を思い出す。気持ちのいいオッサンだったけど、通信ケーブル点検のバイト中に姿を消した。ピタゴラ...銀河太平記・207『恩師を探してゴールデン街』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第98話《アイドリングな日々・2》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第98話《アイドリングな日々・2》さくら「お暑い中、わざわざの取材ありがとうございます」帝都ドールの社長さんは、70ちょっとぐらいの実直そうなオジサンだ。この年代はオジサンとオジィサンに分かれるけど、確実にオジサン。まだまだ元気で頑張ってますって現役オーラがムンムン。「ちょっとびっくりさせたかもしれませんけど、まだまだこれからです。お二人とも目をつぶって両手を出してもらえますか……」言われるままに、目をつぶってプレゼントをもらうように両手を出した。「「ヒャッ!」」はるかさんもあたしも似たような声を上げた。冷やっこくってプニプニしたものが手の上に置かれたから。目を開けて、もう一回「ヒヤッ!」と「エエ!?」あたしの手の上には心臓、はるかさんの手の上には腎臓が載っていた。「医療教育用...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第98話《アイドリングな日々・2》

  • やくもあやかし物語2・033『階段で怪我をした』

    やくもあやかし物語2033『階段で怪我をした』もう一段あると思って脚を下ろしたら一階の床だった。グニュみごとに足をグネってしまって立ち上がれなくなってしまった(;'∀')で、今日は授業も休んで、部屋で大人しくしている(^_^;)。月が改まると、出番を思い出した役者が勢いつけて舞台に現れたみたいに、急に春めいてきた。森の木々たちも、心なしフワフワして見えるし、植えて間もないヒメシャラも幼木ながらツヤツヤしくて、うっかり蝶々が留まったら、ツルンと滑ってしまいそう。昼休には、お仲間の生徒たちも外に出てノビをしたり大あくびをしたり。ああ、外に出たいなあ……出窓に腰掛けて独り言を言ってみたりする。プルルルル黒電話が優しく鳴って、松葉杖を軸に振り返って受話器を取る。「もしもし」『あ、交換手です。退屈しているようなので...やくもあやかし物語2・033『階段で怪我をした』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第97話《アイドリングな日々・1》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第97話《アイドリングな日々・1》さくらあたしは、このごろアイドリングのような毎日だ。『長徳寺の終戦ファーストレインボウ』の仕事以来、ドラマや映画の仕事が無い。かと言って、まとまった休みが取れるわけでもない。ワイドショーやトーク番組、ラジオの仕事などが単発で入っている。いわばアイドリング状態。この日は『プロフェッショナル日本』という番組のロケ取材だった。タイトルは地味だけど、関東ローカルで18ぐらいの数字を取っている。8月放送分からは全国ネットになる。その記念すべき第一回のレポーターに、あたしが選ばれた。むろんメインではない。メインレポーターは『はるかワケあり転校生の7カ月』でいっしょになった坂東はるかさん。『世界一のドール制作』というのが今回のテーマで、気楽なお人形さんの取材...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第97話《アイドリングな日々・1》

  • 巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・084『破られた卒業証書』

    巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記084『破られた卒業証書』え(;゚Д゚)(;゚ω゚)(゚ω゚;(゚Д゚;)(゚ω゚;)!?五人そろって驚いた。例えていうと、角を曲がったらバラバラ死体に出くわした感じ。死体になんか出くわしたことないけど、体中の体毛が総毛だって、お尻と足の裏がゾワってする感じ。こないだは作法室でMITAKAをやったんだけど、卒業式の今日は、仲間五人、教室で女子会をやっている。卒業式には、在校生の一部の参加で、わたしたちは関係ない。式の最中ぐらいに教室に集まって、学年はじめにもらった年間行事予定表を元に「入学式は……」とか「衣替えのころは……」とか「試験の最終日にぃ……」とか言って懐かしんでた。ただ単に「この一年振り返ってぇ」とか言うよりも、行事に則した方が記憶も思い出も生き生きしてくる...巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・084『破られた卒業証書』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第96話《さつき今日この頃・4》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第96話《さつき今日この頃・4》さつき恩華は四ノ宮家でアルバイトすることになった。忠八クンが雇うわけではない。以前よりは実家にいるとは言え冴えない文二の東大生。学校とアルバイト、そして、アパートと実家での二重生活に違いはなかった。お嫁さんの文桜さんのアイデアで、バイト料は忠八クンの親が出す。ちなみに忠八クンのバイトも、工事現場のガードマンから、実家である四ノ宮家の蔵書の整理と、PCによる電子管理化をやることに変わった。四ノ宮家には、10万冊余りの史料や書籍があり、その整理をやっていれば、おのずと日本とC国の近現代史が、国家機密のようなものまで分かるようになる。孫桜さんは考えた。恩華さんは経済的に安定し、史料・資料を整理している間に、きっと自分の国と日本との関わり方の過去と現在。...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第96話《さつき今日この頃・4》

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