枕草子を読んできて(111)
九八うへの御局の御簾の前にて(111)2019.2.27うへの御局の御簾の前にて、殿上人日一日、琴、笛吹き遊びくらして、まかで別るるほど、まだ格子をまゐらぬに、御となぶらをさし出でたれば、取り入れたるがあらはなれば、琵琶の御琴を、たたざまに持たせたまへり。紅の御衣の、言ふも世の常なる、打ちも張りたるも、あまた奉りて、いと黒くつややかなる御琵琶に、御衣の袖をうちかけて、とらへさせたまへる、みでたきに、そぼより御額のほど白くけざやかにて、はつかに見えさせたまへるは、たとふべき方なく、近くゐたまへる人にさし寄りて、「なかば隠したりけむも、えかうはあらざりけむかし。それはただ人にこそありけめ」と言ふを聞きて、道もなきを、わりなく分け入りて啓するば、笑はせたまひて、「われは知りたりや」となむ仰せらるる、と伝ふるもをかし。...枕草子を読んできて(111)
2019/02/27 17:20