水たまりの中の青空 ~第二部~ (二百十四)
繁蔵が役場を出ると、タクシー運転手が「あのお、すみませんが……」と、声をかけてきた。後ろからは村長の声が聞こえてきている。早くこの場を去りたい繁蔵としては迷惑な声かけだった。富雄に対して、お前が聞けとばかりに顎をしゃくり上げた。「竹田茂作さんのお宅は、どちらになりますか?」。思いも寄らぬ名前が繁蔵の耳に入った。茂作じゃと?まさか、さっきのタクシーなのか?この村に、一日の内に二台のタクシーが来ることなど、確かにありえぬことではある。運転手によると、小夜子は車酔いが収まらず、あっちだこっちだと指さすがその先に民家がないと嘆いた。少し離れた場所にある民家に声をかけるが、あいにくと誰もおらず確認がとれない。困りはてた運転手が「役場までもどっていいでしょうか」と、武蔵にお伺いをかけた。今日は終日貸し切りなので、賃走ではな...水たまりの中の青空~第二部~(二百十四)
2022/03/31 08:00