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  • 2024年10月関西旅行:白鶴美術館、中之島香雪美術館

    これは先週日曜日の記録。土曜日に、どうしても見たかった展覧会をクリアできたので、次の候補を訪ねることにした。■白鶴美術館秋季展・開館90周年記念展秋季の部『観古-いにしえをみる』(2024年9月25日~12月8日)1934(昭和9)年5月、白鶴酒造七代嘉納治兵衛(雅号鶴堂・鶴翁、1862‐1951)の寄贈品500点をもとに開館した同館が開催する、開館90周年記念展。白鶴美術館、私の最後の訪問は、いま調べたら、2016年の秋季展『大唐王朝展』のようだ。ネットで調べるとJR神戸線の住吉駅からバスがあるという。実際に住吉駅に下りたら、そうだ、駅前じゃなくて、少し離れた大通りからバスが出るんだった、という記憶がよみがえった。1階展示室は日本の美術品多めで、古墳時代の銅製の鈴(三環鈴、四環鈴)、大きな勾玉、法隆寺伝...2024年10月関西旅行:白鶴美術館、中之島香雪美術館

  • 2024年10月関西旅行:大津市歴博、福田美術館ほか

    これは先週土曜日の記録。朝イチ、続々と天孫神社前に向かう大津祭の曳山を後にして、大津市歴博に向かった。■大津市歴史博物館第96回企画展『石山寺-密教と観音の聖地-』(2024年10月12日~11月24日)紫式部が「源氏物語」の着想を得たといわれ、「枕草子」などにも登場する文学の寺として知られる石山寺。近江屈指の古刹・石山寺の歴史と仏教文化を紹介する。1階ホールには大河ドラマ『光る君へ』の大型パネルが飾られ、常設展示室内では、特集展示『源氏物語と大津』(2024年1月10日~2025年2月2日)も開催中。この際、大河ドラマに乗ってしまおうという企画だろう。だが企画展の内容はかなり地味で、第1室の前半はほぼ文書ばかり。それも密教の教義や儀軌に関する固い内容ばかりで「文学」の要素は薄い。後半は仏像・仏画が多数出...2024年10月関西旅行:大津市歴博、福田美術館ほか

  • 2024年10月関西旅行:大津祭2024巡行前

    10月13日(日)の朝、大津祭の曳山は朝9時に天孫神社に集合すると聞いていたので、8時前にホテルをチェックアウトして町に出てみる。まだ人が集まらない曳山もあるが、既にお囃子方が乗り込んで、準備万端の曳山もある。たまたま、源氏山が動き始めるところだったので、天孫神社まで着いて歩いた(今年の一番籤である)。綱の引手は源氏香マークの揃いの半纏。四つ角で90度方向転換する「辻廻し」。祇園祭では巨大な山車もビルの谷間に埋もれてしまうが、まわりが2~3階建ての住宅ばかりなので映える。大津祭の曳山は三輪車スタイルで、かなり力づくで前輪を持ち上げて方向転換させていた。そして、曳山が集合する朝の時間帯は、特に車の流れを止めないのだな。曳山優先で、後ろをゆるゆる着いてくる自動車もいて面白かった。天孫神社へ向かう道で見つけた神...2024年10月関西旅行:大津祭2024巡行前

  • 2024年10月関西旅行:大津祭2024

    彦根から宿泊地の大津へ移動。今年は早くから旅行の計画を立てていたこともあって(どうせカレンダーどおりの連休しか休めないだろうと思って)大津祭宵宮の土曜日に、大津のビジネスホテルを取ることができたのである。JR大津駅に下りると、駅前に大津銘菓や記念品を売るテントが出ていて、意外にも賑やかだった。私はフレンドマート(平和堂)でお寿司とビールを購入してホテルへ。部屋で簡単に食事を済ませて、そろそろ暗くなったところで町へ出ていく。ホテルから一番近かった石橋山。ここのお囃子は比較的ゆったりしたリズムで典雅な趣き。笛の音が耳に残る。大津祭は「聞く」お祭りなのである。その先、孔明祈水山はもう少しリズムが早く、鉦と太鼓が華やか。口で「ぴーひゃら、ぴーひゃら」と合いの手を入れるのが面白かった(他の山でも聞いた)。西宮蛭子山...2024年10月関西旅行:大津祭2024

  • 2024年10月関西旅行:竹生島宝厳寺ご開帳

    先週は職場のイベントやあれやこれやで多忙を極めた。私的な時間が全く取れなかったわけではないのだが、ブログを書く気力が残っていなかった。そんな状態だったが、三連休はかねてからの計画によって、関西方面で遊んできた。今回の最大の目的は、開創千三百年記念・竹生島宝厳寺観音堂本尊秘仏御開扉(2024年10月12日~10月21日)である。実は、5月には辯才天堂の本尊秘仏大弁才天の御開扉(2024年5月18日~27日)があったのだが、行き逃してしまった。今月は観音堂本尊・千手観世音菩薩の御開扉である。私は2009年に西国三十三所の特別御開扉があったときに拝観しており、好きな観音さまなのでお会いしたかったのだ。1週間前くらいに計画を固めて、長浜から観光船に乗ろうと思ったら、希望の便が全て埋まっていて慌てた。彦根発のオーミ...2024年10月関西旅行:竹生島宝厳寺ご開帳

  • 2024都会のヒガンバナ

    今年も近所の小学校のまわりにヒガンバナが咲いた。東京近郊では9月中旬~下旬が見ごろの花だと思っていたので、10月に花を見るのは、少し遅い気がする。真夏のような猛暑がいつまでも続いていたので、そのしわ寄せを受けているのかもしれない。これは門前仲町駅そばの植え込みで見たもの。日本のヒガンバナは種を作らず、分球で増えるらしいのだが、誰かが植えたのだろうか?10月に入って、かなり仕事が立て込み気味だが、10月も11月も関西旅行の予定を入れているので、それを糧に頑張りたい。2024都会のヒガンバナ

  • 紫式部日記も特別公開/一生に一度は観たい古写経(五島美術館)

    〇五島美術館館蔵・秋の優品展『一生に一度は観たい古写経』(2024年9月3日~10月14日)今期は『紫式部日記絵巻』の特別展示(10月5日~14日)を待っていたので、今日、ようやく行ってきた。展示室1がかなり混んでいたので、順番を変えて、展示室2から見ることにした。おそらく『紫式部日記絵巻』は展示室2に出ているのだろう、と思っていたのだが、予想は外れた。展示室2は、大東急記念文庫創立75周年記念特集展示・第2部「絵巻・絵本」と題して19件を展示する(ちなみに同特集展示・第1部「古文書・古記録」は、今年5月11日~6月16日に行われた。このときはメインの展示が近代日本画だったので見逃してしまった)。大東急記念文庫、漢籍や国書の稀覯本のイメージが強かったのだが、実は近世文学・江戸資料に優れているのだな。それに...紫式部日記も特別公開/一生に一度は観たい古写経(五島美術館)

  • 百合はどこから/夏と秋の美学(根津美術館)

    〇根津美術館企画展『夏と秋の美学-鈴木其一と伊年印の優品とともに』(2024年9月14日~10月20日)江戸琳派の異才・鈴木其一と、琳派の祖である俵屋宗達に始まる工房の優品を中心に据え、美術作品によって初夏から晩秋まで移ろう季節の情趣を楽しみながら、そこにうかがわれる美意識の諸相に迫る。展示室に入ると「夏の訪れ」→「真夏の情趣」→「夏から秋へ」→「涼秋の候」と、季節の移ろいを意識して作品が並べられていることが分かる。しかし連日の猛暑に苦しめられたこの夏を思うと、冷泉為恭が『時鳥図』や『納涼図』に描いたように、衣をしどけなく着崩したり、釣殿で水面を渡る風に吹かれたりする程度で、夏がしのげた時代は、もはや別世界に思われる。本展の見どころの1つとなっているのは鈴木其一筆『夏秋渓流図屏風』。江戸絵画らしからぬ、迷...百合はどこから/夏と秋の美学(根津美術館)

  • 怪物も怨霊も大集合/浮世絵お化け屋敷(太田記念美術館)

    〇太田記念美術館『浮世絵お化け屋敷』(2024年8月3日~9月29日)歌川国芳や月岡芳年の名品をはじめ、妖怪や幽霊を描いた浮世絵約170点を紹介する。前後期で完全展示替えだったので、前期に続いて後期も見てきた。いや楽しかった!浮世絵といえば、伝統的にコレクターに愛されてきたのは美人画や役者絵だと思うが、いま一番人気があるのは、スペクタクルな怨霊・妖怪画ではないかと思う。会期末にあたるこの週末、小さな美術館は大混雑で。若者や外国人の姿も多かった。後期の見ものは歌川国芳『相馬の古内裏』。一度見たら忘れない、背を丸めて覗き込む巨大な髑髏が巨神兵みたいなやつ。しかし私はこの原作にあたる山東京伝作『善知鳥安方忠義伝』は、いまだ機会がなくて読んでいない。昨年、歌舞伎座で見た『新・陰陽師』に将門の復権を企む滝夜叉姫が登...怪物も怨霊も大集合/浮世絵お化け屋敷(太田記念美術館)

  • 付藻と松本/眼福(静嘉堂文庫美術館)

    〇静嘉堂文庫美術館特別展『眼福-大名家旧蔵、静嘉堂茶道具の粋』(2024年9月10日~11月4日)三菱第2代社長・岩﨑彌之助とその嗣子で第4代社長の岩﨑小彌太の父子二代によって収集された茶道具の名品展。静嘉堂としては8年ぶりの茶道具展で、将軍家、大名家旧蔵の由緒ある茶入や名碗をはじめ、著名な茶人たちの眼にかなった、格別の名品が一堂に会する。ギャラリー1は、建窯の油滴天目(デカい)に始まり、灰被天目、井戸茶碗、楽茶碗、織部、高取などが1~2点ずつで、茶碗の種類を学ぶ教科書の趣き。私は、いわゆる井戸茶碗は、持ち重りしそうであまり好きでないのだが、つるっとした玉子手茶碗(銘:小倉山)は触ってみたいなと思った。ギャラリー2は茶入。それぞれ仕覆やら木箱やら、大量の付属品が一緒に並んでいて面白かった。本展は、すべて展...付藻と松本/眼福(静嘉堂文庫美術館)

  • 鉄道と家族の現代史/中華ドラマ『南来北往』

    〇『南来北往』全39集(中央電視台、愛奇藝他、2024年)「南来北往」は、あちこち、せかせか動き回ることをいう成語である。ドラマの始まりは1978年、主人公の汪新は中国東北地方の寧陽駅の管区内で「乗警」として働き始めたばかりの若者。私は80~90年代によく中国旅行に行っていたのだが、長距離列車に乗ると、必ずこわもての乗警(鉄道警察官)が乗っていて、身分証や切符をチェックにまわってきた。今は知らないが、なつかしい。汪新(白敬亭)は幼い頃から父親と二人暮らし。父親は列車長で、鉄道関係者の社宅のようなところに住んでいる。機関士見習いの牛大力、牛大力の憧れである服務員の姚玉玲らもご近所住まい。汪新は、中学の同級生だった馬燕(金晨)のことをいつも気にかけていた。馬燕の父親・馬魁は経験豊富な乗警だったが、あるとき犯人...鉄道と家族の現代史/中華ドラマ『南来北往』

  • 伴大納言絵巻上巻を見る/物、ものを呼ぶ(出光美術館)

    〇出光美術館出光美術館の軌跡ここから、さきへIV『物、ものを呼ぶ-伴大納言絵巻から若冲へ』(2024年9月7日~10月20日)休館を控えたシリーズ展もいよいよ最終章になってしまった。本展は、同館が所蔵する2つの国宝、『伴大納言絵巻』と古筆手鑑『見努世友』をはじめ、やまと絵、風俗画、仏画、文人画から古筆まで、書画コレクションの粋を展観する。私は2016年の展示以来となる『伴大納言絵巻』をゆっくり見たくて、日曜の朝イチに入館しようと計画を立てていた。ところが家を出るのが遅れて、到着したのは開館の10分後くらい。展示室内が見るからに混雑していたので、あっマズい!と思った。ところが、人混みを突っ切って先に進むと、奥はまだ人がいない。みんな、冒頭の若冲と江戸絵画で滞留しているのだ。私のお目当て『伴大納言絵巻』は、第...伴大納言絵巻上巻を見る/物、ものを呼ぶ(出光美術館)

  • お伊勢参り2024:松浦武四郎記念館

    お伊勢参り旅行最終日、地元の友人が朝から車を出してくれることになって、三人で松浦武四郎記念館へ。東京を発つ前にいろいろ調べたのだが、公共交通によるアクセスがかなり限られる立地で、今回はあきらめようと思っていたところ、念願が叶ってうれしい。稲穂の揺れる田園風景をドライブして無事到着。■松浦武四郎記念館企画展『武四郎の晩年』(2024年7月26日~9月29日)「北海道の名付け親」として知られる松浦武四郎(1818-1888)は伊勢国一志郡須川村(現・松阪市小野江町)生まれ。同館は、松阪市(旧三雲町)が、松浦武四郎の功績を偲び、松浦家で代々大切に保存され、寄贈を受けた武四郎ゆかりの資料を展示する博物館として1994年に開館したもので、今年が開館30周年になる。2022年にリニューアルされたこともあり、映像やビジ...お伊勢参り2024:松浦武四郎記念館

  • お伊勢参り2024:外宮、下宮界隈

    お伊勢参り2日目は久居駅で友人2人と落ち合って伊勢市に向かうはずだったが、友人たちは改札で待っていたのに、私は先にホームに降りており、ひとりで予定の列車に乗ってしまうというアクシデント。それでもなんとか外宮の入口で落ち合うことができた。■式年遷宮記念せんぐう館朝からすでに暑いので、下宮の入口にある展示館で少し涼んでいくことにする。伊勢神宮の歴史、特に式年遷宮と御装束神宝の調製にかかる技術を紹介する展示館。下宮正殿東側の原寸大模型が見どころで、実際には近づけない距離から細部を観察することができる。欄干に「五色の座玉(すえたま)」が置かれていることを初めて知った。調べたら、伊勢神宮と丹後の籠神社(このじんじゃ)にしかないそうだ。「伊勢神宮のふるさと」とも呼ばれる籠神社、成相寺に行ったときに寄ったことがあるかも...お伊勢参り2024:外宮、下宮界隈

  • お伊勢参り2024:本居宣長記念館、石水博物館

    三連休はお伊勢参り旅行へ。初日は夕方、友人たちと落ち合う間ではひとりで観光。名古屋から近鉄週末フリーパスを使って松阪へ向かった。駅に下りると「ベルタウン」という不思議なかたちの商業施設が目についたが、人影は少なかった。観光ルートをたどって、松阪城跡にある本居宣長記念館へ。■本居宣長記念館令和6年秋の企画展『もののあはれを知る~宣長とひもとく「源氏物語」~』(2024年9月10日~12月8日)今年の大河ドラマにちなんだ『源氏物語』がテーマとは言いながら、展示品はほぼ文献資料で、華やかな絵画や服飾資料はないので、辛気臭いだろうなあと思ったが、意外と面白かった。『源氏』を読むには一語一語の意味を正しく理解すべき、というような提言があって、古典研究の基本的な方法論は、この頃から変わっていない気がした。読みたい本を...お伊勢参り2024:本居宣長記念館、石水博物館

  • お伊勢参り2024お酒と食べたもの

    三連休を使って、友人と二人で、三重県に住んでいる元の同僚に会いに行った。初日は夕方、久居駅で落ち合って、藤ヶ丘食堂へ。とり焼・とり鍋・から揚げのお店。地元の家族連れが次々にやってきて、焼き網のセットされたテーブルで、さっと食べて帰っていく。家庭料理の延長みたいな素朴な美味しさで大満足。2日目は3人でお伊勢参り。外宮、内宮を参拝した。お昼は伊勢市駅近くのまめやさんで、伊勢めひびうどんをいただいた。伊勢地方では、刻みめかぶをめひびというのだな。伊勢うどんは、さすが本格派。私は東京人だが、たまに食べたくなるのである。内宮参道の赤福本店でひとやすみして赤福をいただく。赤福氷も期待していたのだが、大混雑・大行列を見てあきらめた。今回は、久居グリーンホテルに2泊。「お茶漬け朝食」が売りで、初日は松阪牛入りしぐれ茶漬け...お伊勢参り2024お酒と食べたもの

  • おいしい町歩き/東京の喫茶めし(ぴあMooK)

    〇ぴあMooK『東京の喫茶めし』ぴあ2024.8東京の喫茶の名店と名物メニュー、スパゲッティ、サンドイッチ、カレー、オムライス&オムソバ、モーニング、さらにスイーツは、パフェ、ホットケーキ、プリンアラモード、あんこ、コーヒーゼリー、クリームソーダなどを紹介する。全体にマホガニー色(深みのある赤)を基調とした写真ページが多いのは、取り上げられているお店の内装トーンがそうなのだろう。若い頃から喫茶店に行く習慣はほとんどなかった。大人になると、チェ-ン店のカフェが急速に普及してきたので、安いし入りやすいし、時間のかからないチェーン店ばかり利用していた。それが最近になって、その店にしかないメニューと雰囲気を求めて、レトロな喫茶店を訪ね歩く楽しさがだんだん分かってきた。と言っても、本書掲載のお店で、私が実際に訪ねた...おいしい町歩き/東京の喫茶めし(ぴあMooK)

  • 陶芸家の息子/昭和モダ-ン モザイクのいろどり(泉屋博古館)

    〇泉屋博古館特別展『昭和モダ-ンモザイクのいろどり板谷梅樹の世界』(2024年8月31日~9月29日)昭和のモザイク、特に興味ないなあ…と思っていたが、本展が取り上げるモザイク作家・板谷梅樹(いたやうめき、1907-1963)が、陶芸家・板谷波山(いたやはざん、1872-1963)の息子であるという情報をネットで見て、興味が湧いて、見て来た。エントランスホールに展示されていたのは、縦長の巨大なモザイク壁画。遠景には三角形に立ちあがった富士山、雲海と山並み・森林を挟んで、清流が手前に向かって流れている。近代水道発祥の地・横浜市の依頼で制作され、日展に出品されたのち、横浜市水道局に納められた『三井用水(みいようすい)取入所風景』(1954年)という作品である。その後、1987年に近代水道100周年を記念して開...陶芸家の息子/昭和モダ-ンモザイクのいろどり(泉屋博古館)

  • ファンダムの可能性/実験の民主主義(宇野重規)

    〇宇野重規;聞き手・若林恵『実験の民主主義:トクヴィルの思想からデジタル、ファンダムへ』(中公新書)中央公論新社2023.10宇野先生の著書は『〈私〉時代のデモクラシー』『民主主義とは何か』などを読んできたので、だいたいどのような内容が展開するか、想像ができた。本書は、まず19世紀の大転換期を生きたフランスの貴族トクヴィルが、1831年にアメリカに旅行し、まさに民主主義がゼロから作られていく様子を目にして考えたことの検証から始まる。旧著『民主主義とは何か』でも紹介されていた論点である。トクヴィルは「平等化」という概念を手がかりに19世紀の世界を覆うことになる趨勢を読み解こうとした。平等化は必然的に個人主義をもたらし、人々は孤立化する。そこで社会を解体から救う、もう一つのベクトルが「結社=アソシエーション」...ファンダムの可能性/実験の民主主義(宇野重規)

  • 神さまの乗りもの/神輿(國學院大學博物館)

    〇國學院大學博物館企画展『神輿-つながる人と人-』(2024年6月29日~9月16日)国学院大学が所蔵する祭礼を描いた屏風、絵巻、刷り物などから「神輿とは何か?」を紐解き、さらに「祭りの力」についても考える。絵画資料が多くて、視覚的におもしろかった。展示パネルによれば、神輿が歴史の舞台に登場するのは、天慶8年(945)志陀羅神などの神輿が摂津の国から移動したときのことだという。図録の解説はもう少し詳しくて、『続日本紀』によれば、天平勝宝元年(749)宇佐八幡宮の八幡神は東大寺の大仏建立を助けたいとの託宣を下し、約1ヶ月かけて平城京へ上京したが、神輿を使用したかどうかは明確でない。神輿の明確は記事は、『本朝世紀』天慶8年(945)7月28日の条になる。はじめは志陀羅神など3基の神輿と記されていたものが、自在...神さまの乗りもの/神輿(國學院大學博物館)

  • 深川江戸資料館を訪ねる

    〇深川江戸資料館(江東区白河)門前仲町の住民になって8年目、ようやくご近所・深川江戸資料館を見てきた(コロナ禍でなかなか機会がなかったのだ)。こじんまりした施設ではあるけれど、天保年間頃の深川佐賀町の町並みの「情景再現、生活再現展示」が見どころである。私が展示場に入ったときは夜の設定で、夜空に月が浮かんでいた。舂米屋の土蔵の隣り、長屋の屋根でぶち猫が眠っている。その下は三味線のお師匠さんの住まいという設定。八百屋の店先。青物だけでなく、卵やコンニャクも商う。棒手振りの住まい。深川らしく、桶の中には貝がゴロゴロ。私は子供の頃、夏休みになると、深川森下町の従兄弟の家(母親の実家)に泊まりにいくのが楽しみだったが、昭和40年代でも、朝早くアサリ売りが町を歩いていた。「ア~サリ~シ~ジミ~」という売り声を覚えてい...深川江戸資料館を訪ねる

  • 理想の推し活/高畠華宵が伝えてくれたこと(弥生美術館)

    〇弥生美術館開館40周年生誕祭!『大正ロマン・昭和モダンのカリスマ絵師高畠華宵が伝えてくれたこと』(2024年7月6日~9月22日)1階展示室では、大正末から昭和初期にかけ、絶大な人気を誇ったイラストレーター・高畠華宵(1888-1966)の作品を展示。私はさすがに華宵の人気をリアルに知る世代ではないのだが、2015年の『橘小夢展』を見に行ったとき、常設エリアの華宵に関する展示があまりに面白かったので松本品子編『高畠華宵』を買って帰り、ますますその魅力に引き込まれてしまった。華宵の描く少年・少女は、いずれも訴えるような三白眼が印象的で、現実離れした美形だが、肉体が生々しい実感を持っている。女性は、意外とむっちりした肉付きが魅力的。このイラストは手塚治虫の『リボンの騎士』に影響を与えているんじゃないかと思っ...理想の推し活/高畠華宵が伝えてくれたこと(弥生美術館)

  • 夏はお化けと幽霊画/2024幽霊画展(全生庵)他

    ■全生庵『谷中圓朝まつり幽霊画展』(2024年8月1日~8月31日)昨年は猛暑の盛りに出かけて消耗したので、今年はどうしようかと様子を見ていた。会期の最終日、じりじり近づく台風10号を控えて、東京は曇り空だったので、思い切って出かけてみたら、若い女性のグループをはじめ、ずいぶんお客さんが多かった。展示作品は、昨年と同じものもあれば、入れ替わっているものもある。鏑木清方の『幽霊図』は茶托に載った蓋つきの茶碗を差し出す女性。俯いているので髪型しか見えない。白い着物の袖口から淡いピンクの襦袢(?)が覗いている。この「顔を見せない女の幽霊」シリーズが私は大好き。渡辺省亭『幽女図』は、煙の立つ火鉢の向こうで背けた顔に袖を当てている。池田綾岡『皿屋敷』は、菊を描いた襖の陰に座って、袖で顔を隠す女性。そばには行灯。この...夏はお化けと幽霊画/2024幽霊画展(全生庵)他

  • 娯楽作で学ぶ現代史/映画・ソウルの春

    〇キム・ソンス監督『ソウルの春』(角川シネマ有楽町)話題の韓国映画を見てきた。1979年12月12日、全斗煥と同志の秘密組織ハナ会グループが、粛軍クーデター(12.12軍事反乱)によって政権を掌握する顚末を描く(登場人物の名前は微妙に変えてある)。チョン・ドゥグァン少将(全斗煥)は、10月に起きた朴正煕暗殺事件の捜査本部長として強大な権力を手中にしたが、陸軍参謀総長はこれを警戒し、信頼のおけるイ・テシン少将を首都警備司令官に任命するともに、ドゥグァンを首都ソウルから遠ざける人事を計画する。危機感を抱いたドゥグァンは、参謀総長の罪をでっちあげて部下に拉致させ、同時に大統領から参謀総長取り調べの承認を得ようとしたが、大統領は疑念を抱いて認可を与えない。進退きわまったドゥグァンは、大統領の指令を無視し、実力行使...娯楽作で学ぶ現代史/映画・ソウルの春

  • 東西の名品を愛でる/空間と作品(アーティゾン美術館)

    〇アーティゾン美術館『空間と作品』(2024年7月27日~10月14日)おもしろい展覧会だという噂は聞いていたが、これほどとは思わなかった。「美術品が在ったその時々の場を想像し、体感してみること」をテーマに、和洋(+中華?)の絵画・立体作品140点余りのさまざまな鑑賞方法を提案する。はじめに「祈りの対象」では広々とした展示室に置かれた2体の円空仏。「依頼主と」はピサロの『四季』連作4点。何の変哲もない農村の四季風景なんだけど、とてもよかった。ある銀行家がダイニングルームに飾るために発注したそうだが、毎日見るならこういう穏やかな絵がよいね。「持ち主の存在」は、同館のコレクションの中でも有名なピカソの『腕を組んですわるサルタンバンク』で、かつてピアニストのホロヴィッツが所蔵していたという。本展は、このあとも旧...東西の名品を愛でる/空間と作品(アーティゾン美術館)

  • 長浜・総持寺の千手観音立像とギャラリートーク(東京長浜観音堂)

    〇東京長浜観音堂『千手観音立像(長浜市宮司町・総持寺)』(2024年8月1日~9月1日)令和6年度第2回展示の千手面観音立像を拝見し、8月17日に開催されたギャラリートーク(浅井歴史民俗資料館・秀平文忠氏)を聴いてきた。秀平さんのお話は、2023年11月にもお聴きしたことがあるが、そのときの肩書きは「高月観音の里歴史民俗資料館学芸員」だったので、異動されたのだな、と思った。浅井歴史民俗資料館、行ってみたいけれど、車がないと、かなり難しそうな立地である。今回お迎えしている千手観音立像は、平安時代(12世紀)の作と見られ、後世の修理の結果、「泥地古色彩」と呼ばれる黒っぽいお姿をしているが、よく見ると、小さな金箔の残りが散見される。丸顔で柔和なお顔立ちは、平安後期に流行した定朝様式を踏襲しているとのこと。長浜の...長浜・総持寺の千手観音立像とギャラリートーク(東京長浜観音堂)

  • 歴史物語としての魅力/吾妻鏡(藪本勝治)

    〇藪本勝治『吾妻鏡-鎌倉幕府「正史」の虚実』(中公新書)中央公論新社2024.7『吾妻鏡』は、鎌倉幕府の公式記録として1300年頃に編纂された史書で、治承4年(1180)に源頼朝が伊豆で挙兵してから、文永3年(1266)に第6代将軍宗尊親王が京都に送還されるまでを各将軍ごとに漢文編年体で記している。鎌倉幕府の草創から中期までの事蹟を記した、ほぼ唯一のまとまった文献であり、現在一般にイメージされる鎌倉時代の歴史像は『吾妻鏡』によって形成されてきた。私はこの時代にそれほど詳しくはないけれど、一昨年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』を楽しんで見ていたので、『吾妻鏡』にはこう記載されている、という解説には、けっこう気を配っていた。ところが、近年の研究によれば、『吾妻鏡』の本質は、多くのフィクションをまじえて構築された...歴史物語としての魅力/吾妻鏡(藪本勝治)

  • 2024年7-8月展覧会拾遺

    ■五島美術館館蔵・夏の優品展『一味涼爽』(2024年6月22日~7月28日)「夏」と「涼」をテーマに、夏の情景を詠んだ古筆、日本画に表された消暑風景、清雅な禅僧の墨跡などを紹介。陶磁器に季節はなさそうだが、青磁や青花には涼しさを感じる。南宋・龍泉窯の『青磁鳳凰耳瓶』は、この種の瓶の中で最も大きい作例とのことで圧倒された。■日本民藝館特別展・朝鮮民族美術館設立100年記念『柳宗悦と朝鮮民族美術館』(2024年6月15日~8月25日)1924(大正3)年、浅川伯教・巧兄弟と柳宗悦が、京城(現在のソウル)に朝鮮民族美術館を設立してから100年の節目に当たることを記念し、その足跡をたどり、当時集められた品々を中心に、設立募金関連資料や開催された展覧会の資料を交えて展示する。大展示室だけでなく、2階の各展示室は、全...2024年7-8月展覧会拾遺

  • 第1季からパワーアップ/中華ドラマ『唐朝詭事録之西行』

    〇『唐朝詭事録之西行』全40集(愛奇藝、2024年)2022年に公開された『唐朝詭事録』の続編である。前作はまあまあ楽しめたが、エピソードによっては退屈なものもあり、私は「ハマる」ほどではなかった。それが今回は激ハマりしてしまった。今回は前作の登場人物そのままに「降魔変」「仵作之死」「風雪摩家店」「千重渡」「通天犀」「雲鼎酔」「上仙坊的来信」「供養人」の8つのエピソードで構成されている。まず「降魔変」の舞台は長安。大唐第一の絵師・秦孝白は成仏寺に降魔変の壁画を描いていたが、壁画の魔王が抜け出して人を襲う怪事件が起きる。大理寺少卿の盧凌風は、魔王との対決で重傷を負い、墓守に左遷されていた蘇無名が呼び戻される。最終的に事件は解決し、公主と太子を狙った国家転覆の陰謀を未然に防ぐことができたが、乱戦の中、盧凌風は...第1季からパワーアップ/中華ドラマ『唐朝詭事録之西行』

  • 最高級コレクション/美麗なるほとけ(根津美術館)

    〇根津美術館企画展『美麗なるほとけ-館蔵仏教絵画名作展-』(2024年7月27日~8月25日)根津美術館の仏画作例は「日本の私立美術館の中では最高レベルといってよい質と量を誇っています」と自ら言い切る自慢のコレクション。本展は、特に美麗な名品や希少性が高い作例などにしぼった、いわばコレクションの粋を展示する。冒頭は「院政期の仏画」で『普賢十羅刹女像』と『大日如来像』。前者は、向かって左向きの白象の前に二童子、後ろ(右)に唐装の十羅刹女が従う。先頭の羅刹女だけヘアスタイルが違って巻髪らしい。企画展『古美術かぞえうた』にも同名の仏画(鎌倉~南北朝時代)が出ていたが、こちらは平安時代の作。『大日如来像』は本展のポスター等にもなっているもの。朱隈を施した肌が輝くように美しく、全体に品のいい暖色系でまとまっている。...最高級コレクション/美麗なるほとけ(根津美術館)

  • 細川家の歴史とともに/Come on!九曜紋(永青文庫)

    〇永青文庫令和6年夏季展『Comeon!-九曜紋見つけて楽しむ細川家の家紋-』(2024年7月27日~9月23日)武器武具から調度品、染織品、掛軸の表装にいたるまで、大名家の伝来品にみられる九曜紋を幅広く展示し、細川家と九曜紋の関わりを紹介する。同館初となる家紋をテーマとした展覧会。昨年、同館所蔵の『長谷雄草紙』全巻公開展が開催されたとき、紀長谷雄邸に停められた牛車に描かれた九曜紋は「交通安全のお守りの役目の紋様だった」ということを初めて知った。以来、九曜紋のことが気になっていたので、うれしい企画だと思った。大きな円を小さな8個の円が取り囲む九曜紋は、太陽、月、火・水・木・金・土の五惑星、日月食や彗星に関係するとされる羅睺星・計都星を表すと言われ、細川家では、2代忠興が織田信長より九曜紋を拝領したと伝えら...細川家の歴史とともに/Comeon!九曜紋(永青文庫)

  • 思い出の陶磁器コレクション/日本・東洋陶磁の精華(出光美術館)

    〇出光美術館出光美術館の軌跡ここから、さきへIII『日本・東洋陶磁の精華-コレクションの深まり-』(2024年7月20日~8月25日)休館を控えた展覧会の第3弾は、同館コレクションの核とも言える日本と東洋の陶磁を展示する。本展の展示趣旨に「陶磁器は各国・地域で相互に影響を与えながらも、自然環境や文化・伝統などを背景に独自のフォルムやデザインを生み出していたことがわかります。出光美術館の陶磁器コレクションでは、これらを介した人々の交流、情熱を感じることができます」とあるのが嬉しかった。そう、私はこのような視点を、同館の展覧会を通じて学んできた。本展は冒頭に中国・朝鮮・日本の陶磁を代表する作品を数点ずつ並べている。中国の『青花龍文壺』(明・宣徳年代)は三本爪の龍のほかに鬼面(キールティムカ)4面が描かれている...思い出の陶磁器コレクション/日本・東洋陶磁の精華(出光美術館)

  • 源氏物語絵巻・橋姫を見る/尾張徳川家の至宝(サントリー美術館)

    〇サントリー美術館『徳川美術館展尾張徳川家の至宝』(2024年7月3日~9月1日)尾張徳川家に受け継がれてきた重宝の数々を所蔵する徳川美術館のコレクションから、国宝『源氏物語絵巻』『初音の調度』に加え、歴代当主や夫人たちの遺愛品、刀剣、茶道具、香道具、能装束などを展示し、尾張徳川家の歴史と華やかで格調の高い大名文化をする。『源氏物語絵巻』は、徳川美術館が絵15面・詞28面(蓬生、関屋、絵合(詞のみ)、柏木、横笛、竹河、橋姫、早蕨、宿木、東屋の各帖)、五島美術館が絵4面・詞9面(鈴虫、夕霧、御法の各帖)を所蔵する。東京在住が長い私は、五島美術館所蔵分は何度も見ているが、徳川美術館所蔵分は、なかなか見る機会がない。今回は「柏木三」「横笛」「橋姫」「柏木二」が出るというので、あまり記憶にない「橋姫」を狙うことに...源氏物語絵巻・橋姫を見る/尾張徳川家の至宝(サントリー美術館)

  • 日本橋でウズベク料理ディナー

    今日から私はお盆休み。その直前、昨日は職場の暑気払いで、一昨日は友人と会食した。中東好きの友人が見つけてきた「アロヒディン」というお店。トルコ料理、ロシア料理、そしてウスベク料理のコースがあるというので、どれも魅力で迷ったが、オーナーの出身国であるウズベキスタンの料理のコースにした。野菜多め、塩味のナンが美味しかった。プロフというウズベキスタンの炊き込みご飯。柔らかく煮込んだ(?)ニンニクを添える。トルキスタン系の国で食されている串焼きのシャシリク。手前のつくね状の串焼きは羊肉。スパイシーで美味。暑い日で、飲み放題コースだったので、冷たいお酒(カクテル)をがぶがぶ飲んでしまったが、最後は暖かいお茶にライスプリン。シナモンというか、ニッキの粉がかかっていて、八ッ橋を思い出した。気に入ったのは、マリブミルクと...日本橋でウズベク料理ディナー

  • 門前仲町グルメ散歩:2024夏・初かき氷

    日曜日、あまりの暑さに耐えかねて、買いもの帰りに深川伊勢屋で今年初のかき氷をいただいた。氷いちご(練乳添え)にソフトクリームをトッピングした私の定番。いちごシロップと練乳とソフトクリームをごちゃまぜにして食べると、ジャンクな駄菓子屋の氷菓子っぽくて美味しい。幸せ。ブログを遡ったら、昨年の初かき氷は7月下旬、一昨年は7月初めだった。今年の夏が涼しくて、氷を食べたくならなかったわけでは全くなくて、お店の営業時間が短くなったのと、私の出勤日が増えて、なかなか立ち寄る暇がなかったのだ。氷と糖分を補給すると、炎天下に出ても、しばらくは耐えられる。夏の憩いのひととき。門前仲町グルメ散歩:2024夏・初かき氷

  • 2024埼玉鶴ヶ島・脚折雨乞(すねおりあまごい)

    今年は埼玉県鶴ヶ島市の脚折雨乞が行われると知って見て来た。4年に一度、なぜかオリンピックイヤーに行われる神事だが、2020年はコロナ禍で中止になったので、8年ぶりだという。300人の男衆が竹と麦わらで作られた巨大な龍神をかついで練り歩き、最後は池に入って解体される。私は2007年度から2009年度まで鶴ヶ島市民だったので、2008年にこの神事を見物している。今回、16年ぶりに見に来た。東武東上線の若葉駅で下りるのも、たぶん16年ぶりではないかと思う。北側はあまり変わっていなかったが、南側は整備されて、大規模なマンションが増えた。15分ほど歩いて、神事の舞台である雷電池に到着したのは15時少し過ぎ。「ただいま龍神は国道407号線を渡っています」というアナウンスが流れていた。やがて池を挟んで向かいの雷電社のあ...2024埼玉鶴ヶ島・脚折雨乞(すねおりあまごい)

  • 高雄曼荼羅、前期は胎蔵界/神護寺(東京国立博物館)

    〇東京国立博物館創建1200年記念・特別展『神護寺-空海と真言密教のはじまり』(2024年7月17日~9月8日)824年に正式に密教寺院となった神護寺創建1200年と空海生誕1250年を記念して、約230年ぶりの修復を終えた国宝『両界曼荼羅(高雄曼荼羅)』など、空海ゆかりの宝物をはじめ、神護寺に受け継がれる貴重な文化財を紹介する。京都・高雄の神護寺は大好きなので、本展を楽しみにしていた。昨年5月、久しぶりに神護寺を訪ねたら、ちょうど『金銀泥両界大曼荼羅』(高雄曼荼羅、江戸模写本)の特別公開が行われていて、修復を終えた原本『高雄曼荼羅』は、東博と奈良博で公開予定という情報を得た。そして今年5月、奈良博の『空海KUKAI』展で見ることができたのは『金剛界』だったので、東京は『胎蔵界』の出ている前期(812まで...高雄曼荼羅、前期は胎蔵界/神護寺(東京国立博物館)

  • 豆知識もいろいろ/唐三彩(松岡美術館)

    〇松岡美術館『唐三彩-古代中国のフィギュア-』(2024年6月18日~10月13日)「唐時代には、唐三彩俑や加彩俑と呼ばれる、カラフルで生命力に溢れる造形のフィギュアをお墓に入れる風習がありました」というのは、本展のイントロダクション。フィギュアか…と思ったけど、まあ間違ってはいない。いずれも唐代の、人物や牛・馬など40件弱の陶俑が展示されていた。はじめに目に入ったのは、官人、武人、婦人などの人物俑。『三彩官人(一対)』は、褐釉の衣の武官(冠にヤマドリ=羽根でなくて鳥そのものの飾りが付いている)と緑釉の衣の文官のペアらしかったが、なぜか上衣の丈が短くて、股引を穿いたような両脚がにゅっと伸びており、文官がこの格好はないだろう、と思う。どちらも武官なのかな。『黄釉加彩楽人』は全6体のすべて女性の楽人俑のセット...豆知識もいろいろ/唐三彩(松岡美術館)

  • 古さと新しさ/中華ドラマ『金庸武侠世界・鉄血丹心』

    〇『金庸武侠世界・鉄血丹心』全30集(騰訊視頻)仰々しいタイトルになっているが、原作は永遠の名作『射鵰英雄伝』である。私は2003年(李亜鵬)版で中国ドラマ・武侠ドラマの世界に足を踏み入れ、2008年(胡哥)版、2017年(楊旭文)版を見てきたので、これが4作目になるが、やっぱり面白いと思う。南宋末年、江南の牛家村に暮らす郭嘯天と楊鉄心の両家は金兵に襲われる。郭嘯天は命を落とし、身重の妻は草原に流れ着いて郭靖を生む。楊鉄心は行方知れず、身重の妻は金の六王爺・完顔洪烈に見初められ、その庇護の下で楊康を生む。そして18年後、郭靖と楊康の物語が始まる。…というのが導入のあらましなのだが、このドラマは、初回から郭靖と楊康が成年の姿で登場し、さらにそれぞれの伴侶となる黄蓉、穆念慈との出会いまで描いてしまう。二人の両...古さと新しさ/中華ドラマ『金庸武侠世界・鉄血丹心』

  • 関東大震災に先立つ経験/災害の日本近代史(土田宏成)

    〇土田宏成『災害の日本近代史:大凶作、風水害、噴火、関東大震災と国際関係』(中公新書)中央公論新社2023.720世紀初頭は、世界的に大規模な自然災害が相次いだ時期だった。災害は他国にも報道され、国境を超えた義援、救援、調査研究などが整備されていった。本書は、まず序章で1902年のプレー山噴火(カリブ海フランス領)を簡単に紹介する。約3万人の死者を出した大災害で、フランス公使の本野一郎から、主要国はフランス政府に弔辞と義援金を送っているので我が国も送るべき、という連絡が入り、外相の小村寿太郎は天皇に意見を具申した。こうやって日本は文明国の外交を実地に一歩ずつ学んでいったわけである。本書に取り上げられている国内外の災害は以下のとおり(◆=日本)◆1905年秋、日本の東北地方で大凶作◇1906年4月、アメリカ...関東大震災に先立つ経験/災害の日本近代史(土田宏成)

  • 掘れば化石の宝庫/恐竜大国 中国(安田峰俊)

    〇安田峰俊著;田中康平監修『恐竜大国中国』(角川新書)角川書店2024.6まるで縁のなかった分野の著書だが面白かった。現在、世界で最も多くの恐竜が見つかっているのは中国なのだという。中国国内で骨格の化石が見つかり、2020年12月までに学名がついた恐竜は合計322種、近年はおおむね10種の新種が毎年報告されている。私は、そもそも恐竜学という学問の対象が、ある程度、固定化した段階にあると思っていたので、中国に限らず、毎年、そんなに多くの新発見が相次いでいるということが新鮮な驚きだった。私が頻繁に中国旅行に出かけていたのは、1990年代から2000年代なのだが、あるとき、ツアー参加者の中に「私は恐竜のタマゴに興味があって、中国ツアーに申し込みました」というおじさん(おじいちゃん?)がいた記憶がある。変わったお...掘れば化石の宝庫/恐竜大国中国(安田峰俊)

  • 2024年7月関西旅行:和歌山県立博物館、和歌山市立博物館

    前日は大阪・堺駅前のホテルに宿泊。朝イチに南海電車で和歌山へ。■和歌山県立博物館世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」登録20周年記念特別展『聖地巡礼-熊野と高野-.第I期:那智山・那智瀧の神仏-熊野那智大社と青岸渡寺-』(2024年6月15日〜7月21日)同館は、2004年7月に世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」が登録されてから、20周年の節目を迎えることを記念し、今年は5期にわたって熊野・高野の文化財をテーマとした展示を行う。第1期は、熊野三山のうち今なお神仏習合の景観を留める那智山、熊野那智大社と青岸渡寺を取り上げる。5期全部見たいなあ…と思いながら、とりあえず第1期を見に来た。展示規模は小さめ(全43件、企画展示室のみ)だが、熊野那智大社に伝来する最古の神像=女神坐像(平安時代)など、興味深いものを見...2024年7月関西旅行:和歌山県立博物館、和歌山市立博物館

  • 2024年7月関西旅行:東洋陶磁美術館、大阪歴史博物館

    ■大阪市立東洋陶磁美術館リニューアルオープン記念特別展『シン・東洋陶磁-MOCOコレクション』(2024年4月12日~9月29日)4月のリニューアルオープンからずっと気になっていた記念特別展をやっと見に来ることができた。基本的には以前の構造を残しながら、現代的なエントランスホールが増築され、展示ケースや照明も整備された。ウェブページに「自然光に近く陶磁器本来の魅力が最もよく引き出せるとされる『紫』励起LED照明を導入」という説明があるが、確かに青磁は青磁らしい、粉青は粉青らしい色味の美しさを感じることができて感激した。美術館の「リニューアル」って必ずしも成功しない例を見てきたので、これは本当にうれしい。大阪市、ありがとう。施工業者はどこなんだろう?なお、この朝鮮陶磁のネコちゃんがキャラクターに採用されたら...2024年7月関西旅行:東洋陶磁美術館、大阪歴史博物館

  • 2024年7月関西旅行:大山崎山荘、大阪中之島美術館ほか

    関西旅行、初日の夜は京都市内に適当な宿が見つけられなくて、JR山崎駅前のホテルに泊まった。まわりは静かな住宅街だったが、駅前にコンビニもあって不自由はしなかった。■水無瀬神宮(大阪府三島郡島本町)2日目は、せっかく山崎に泊まったので、朝の散歩がてら、後鳥羽院に敬意を表して水無瀬神宮に参拝に行く。ちなみに山崎駅は京都府だが、水無瀬神宮は大阪府なので、知らないうちに県境を越えていた。境内では多数の風鈴を吊るした「招福の風」行事が行われていたが、全く風が無くて、チリンとも鳴っていなかった。■大山崎山荘美術館愛知県陶磁美術館コレクション『中国やきもの7000年の旅-大山崎山荘でめぐる陶磁器ヒストリー』(2024年6月1日~9月1日)これも予定になかったのだが、せっかくなので大山崎山荘美術館を初訪問。阪急大山崎駅が...2024年7月関西旅行:大山崎山荘、大阪中之島美術館ほか

  • 2024年7月関西旅行:京博、龍谷ミュージアム、京都文博

    ■京都国立博物館常設展示三連休初日の土曜日は、まず京博へ。特別展の間(はざま)なので、常設展が見られると思うと楽しみでわくわくする。3階の「陶磁」は茶入がミニ特集らしかった。乾山の『色絵氷裂文角皿』を久しぶりに見た。隣りの「考古」には埴輪がたくさん。この秋、東博の特別展にも来てくれるのかな?と思って眺める。兵庫県たつの市出土の須恵器の壺には、小さな人物(相撲をとっている)や動物がたくさん貼り付けられていて、中国の土器みたいだった。2階「絵巻」の『法然上人絵伝』は「あまり公開される機会のない巻をご紹介します」というだけあって、記憶にないものだった。巻2は出家のため上京した法然(勢至丸)が忠通の一行に出会って問答するところ。巻18は女人往生を説いた法然のもとに女性たちが集うところ。巻38は法然の死去に臨んで、...2024年7月関西旅行:京博、龍谷ミュージアム、京都文博

  • 2024祇園祭・新町通曳き初め

    三連休は関西で遊んできた。初日の13日は京都の博物館巡りを予定していたが、調べたら新町通りで山鉾の惹き初めがあるというので行ってみた。少し早めに山鉾町エリアに入って、うろうろする。大きな鉾は既に姿を現しているが、まさに設営中の山も多かった。私の好きな蟷螂山。昨年、前祭の宵々山に訪ねたら、Tシャツも扇子も完売だったことを思い出して、今年こそはと期待して行ってみたら「祭礼授与品の頒布は14日10時からです」の貼り紙。うう、今年もご縁がなくて残念。四条通りの函谷鉾で「タペストリー」だか「ゴブラン織り」だかの文字を見つけて立ち止まる。そうだ、16世紀の西洋風の図柄の毛織物を懸装品に使っている鉾だったな、と思い出して、久しぶりに鉾に上がっていくことにする。見学料金1,000円は諸物価値上がりの折、かえってお手頃に感...2024祇園祭・新町通曳き初め

  • 謎解きは半歩ずつ/中華ドラマ『慶余年2』

    〇『慶余年』第2季:全36集(上海騰訊企鵝影視文化伝播有限公司他、2024年)2019年の第1季から待つこと5年、ようやく続編が公開された。私は配信開始から少し遅れて視聴を始めたので、第1季と比べて評価を受けていることは、漏れ聞こえていた。しかしそれは期待値が上がり過ぎた結果で、公平に見れば、十分おもしろかったと思う。南慶国の勅使として北斉国に送られた范閑は、その帰路、二皇子の使者・謝必安から二皇子の謀略の次第を聴かされ、同僚・言冰雲の刃を受けて倒れる(ここまでが第1季)。范閑死すの報せは、たちまち南慶国に伝わるが、これは范閑と言冰雲が仕組んだ芝居だった。范閑はひそかに南慶国に潜入し、二皇子に捕えられたと思しい、亡き滕梓荊の妻子を探すが見つからない。范閑は再び勅使の列に戻り、生きていたことを明らかにして堂...謎解きは半歩ずつ/中華ドラマ『慶余年2』

  • 2024夏の花

    暑い暑い。東京の夏は長いが、夏の始まりの7月が一番暑い気がする。先々週(かな?)東中野の黎明アートルームに行ったときに路地裏で見かけたノウゼンカズラ(凌霄花)。たぶん夏の花の中で、私がいちばん好きな品種。漢字表記も美しい。そういえば、途中まで見て中断してしまった中国ドラマ『以家人之名(家族の名において)』の男性主人公の名前が凌霄だった。「霄(そら)を凌(しの)ぐ」の意味になるのだな。これは東中野の山手通りの歩道の道端に咲いていた芙蓉。こんな道端に堂々と咲いているのを見たのは初めてで、ちょっとびっくりした。これは我が家の近くの小さな緑地で、毎年、花をつける大輪の黄色いユリ。詳しい名前はよく分からないのだが、コンカドール(イエローカサブランカ)だろうか?※昨年の様子。2024夏の花

  • 政治的分断の構造/ネットはなぜいつも揉めているのか(津田正太郎)

    〇津田正太郎『ネットはなぜいつも揉めているのか』(ちくまプリマ―新書)筑摩書房2024.5著者は、2020年9月、アニメ『銀河英雄伝説』のリメイクについて「男女役割分業の描き方は変更せざるをえない気がする」云々とツイートしたところ、批判的なリプライが次々に押し寄せる事態になってしまった。しかし、2、3日もすると次第に鎮静化した。この「炎上」体験談をマクラに、アニメや漫画の表現に対する批判と「表現の自由」をめぐる対立について、著者はメディア論の立場から考察する。広告などのメディアがそれを見た人にどのような影響をもたらすかは分からないし、誰か(たとえば女性、マイノリティ)が不安を引き起こす表現はないほうがよいとしても、万人が納得できるラインは存在しない。だが、これだけソーシャルメディアが普及した時代に「表現の...政治的分断の構造/ネットはなぜいつも揉めているのか(津田正太郎)

  • アメリカ式に学ぶ/台湾のデモクラシー(渡辺将人)

    〇渡辺将人『台湾のデモクラシー:メディア、選挙、アメリカ』(中公新書)中央公論新社2024.51996年に総統の直接選挙が始まり、2000年には国民党から民進党への政権交代を実現させた台湾は、英国エコノミスト誌の調査部門が主催する「民主主義指数(DemocracyIndex)」の2022年度版では、アジア首位の評価を得ているという。最近の台湾を見る限り、この評価に全く異論はない。しかしこの国では、戦後長きにわたって国民党統治による権威主義体制が続いていた。台湾の民主化の歩みは序章に簡単にまとめられているが、まず地方政治において非国民党の政治勢力が勃興し、野党・民進党が誕生し、国民党非主流派の李登輝がレールを敷いた民主的な選挙によって政権交代が起きた。民主化勢力が選挙キャンペーンに工夫を凝らすことで、国民党...アメリカ式に学ぶ/台湾のデモクラシー(渡辺将人)

  • 2024年6月展覧会拾遺

    ■府中市美術館『BeautifulJapan吉田初三郎の世界』(2024年5月18日~7月7日)大正から昭和にかけて、空高く飛ぶ鳥や飛行機から見下ろした視点による鳥瞰図のスタイルで数多くの名所案内を描いた吉田初三郎(よしだはつさぶろう、1884-1955)の世界の魅力に迫る。吉田初三郎の名前は、2005年の江戸博『美しき日本』、2016年の近美『ようこそ日本へ』など、ツーリズムをテーマとした展覧会で何度か見てきた。本展は総合的な回顧展ということで、鹿子木孟郎に学んだ油彩の風景画なども展示されているが、本領はやはり鳥瞰図スタイルの名所案内図である。明るく楽しい雰囲気を演出するため、かなり大胆なデフォルメを施したものが多い。子供の頃の学習雑誌に載っていたSF的な未来都市図に通じるところもあるように思った。京王...2024年6月展覧会拾遺

  • 東京都知事選挙2024

    東京都知事選挙が始まっている。今度こそ小池都政を終わらせたいので、投票するなら蓮舫候補だろうと思っていたが、1回くらい演説を聞いてから投票しようと思って、日曜日、銀座四丁目交差点の街頭演説を聴きに行った。はじめに立憲民主党の福山参議院議員、枝野衆議院議員が応援演説。福山さんも悪くないけど、枝野さんの演説には、いつも惚れ惚れする。滑舌がよくて聞きやすく、内容もある。枝野さん、大学卒業後は銀座四丁目の弁護士事務所で働いていたのか。枝野さんの演説中、曇り空から小雨がパラつき始め、傘を差すほどではなかったものの、壇を下りるとき、司会から「日本一の雨男とも言われています」と突っ込まれていた。蓮舫候補は、若者支援を政策の第一に掲げている。それは正しい判断だと思うけれど、「もう少し高齢者支援にも言及したほうがよい」とい...東京都知事選挙2024

  • マイセン窯もあり/鍋島と金襴手(戸栗美術館)

    〇戸栗美術館『鍋島と金襴手-繰り返しの美-』展(2024年4月17日~6月30日)久しぶりに陶磁器が見たくなって渋谷に出かけたら、東急本店(2023年1月31日閉店)の建物がきれいに消えていて驚いた。むかしは渋谷区内に住んでいたので、このへんは徒歩圏だったのだが、私の知っている昭和の風景は、少しずつ消えていくんだなと感慨深かった。さて、本展は、鍋島焼と伊万里焼の金襴手に見られる「繰り返し」デザインに注目する。鍋島焼は、佐賀鍋島藩から徳川将軍への献上を目的に創出されたやきもの。洗練されたデザインが数多見られ、唐花文や更紗文などの「繰り返し」文様もそのひとつ。異国から持ち込まれた更紗の文様に影響を受けた、鍋島の『色絵更紗文皿』(数種類あり)はどれも愛らしかった。使われている色は、青、緑、黄、赤だが、青が基調で...マイセン窯もあり/鍋島と金襴手(戸栗美術館)

  • アイスショー"Fantasy on Ice 2024 静岡千秋楽"ライブビューイング

    〇FantasyonIce2024ライブビューイング(静岡:2024年6月23日、13:00~、新宿ピカデリー)アイスショーFaOI(ファンタジー・オン・アイス)、今年はBツアーに羽生結弦くんが出演しなかったので、Aツアーに比べるとSNS上は格段に静かだった。それでも神戸、静岡の6公演(土曜2公演+日曜1公演)は、しっかり客席が埋まっていてよかった。お子さんや年配の方が多くて、いつものFaOIと雰囲気が違うという声や、地元向けの招待枠があったのではないか、という推測も流れていたが、それもいいと思う。私が初めてFaOIを見たのは2010年の新潟で、トップスケーターのクールな演技を、おじいちゃんおばあちゃんが、家族と一緒にニコニコしながら見ていたのを覚えている。なるほど、地方開催のアイスショーって、こういう「...アイスショー"FantasyonIce2024静岡千秋楽"ライブビューイング

  • 同時代を描く/FROM それぞれの日本画(郷さくら美術館)

    〇郷さくら美術館『第4回FROM-それぞれの日本画-』(2024年5月25日~6月23日)以前から気になっていた郷(さと)さくら美術館に初めて行ってみた。本展は、これからの日本画壇を担う作家たちが、2020年に結成した「FROM」というグループの作品展。押元一敏、川﨑麻央、木下めいこ、武田裕子、田島周吾、長澤耕平、野地美樹子、山浦めぐみの8名の作品が2~3点ずつ展示されている。ポスターにもなっていたのは、川﨑麻央さんの『韋駄天』で、これがとてもカッコよかったので会いに行った。展示室に入ってすぐに展示されていて、カッコよかった。作品は三幅対(ぜんぶ韋駄天)で、彼は中尊である。全くタイプは違うのだけど、次にいいなあと思ったのは、押元一敏さんの『創世』。無機質な岩の重なりをリアルに、少ない色数で描く。墨画のよう...同時代を描く/FROMそれぞれの日本画(郷さくら美術館)

  • かわいくないが可愛い/犬派?猫派?(山種美術館)

    〇山種美術館特別展『犬派?猫派?-俵屋宗達、竹内栖鳳、藤田嗣治から山口晃まで-』(2024年5月12日~7月7日)犬と猫を題材とした名品を紹介する展覧会。そろそろ会期が後半なので、混雑も落ち着いたかなと思って出かけたら、びっくりするほど混んでいた。何かイベントでもあったのか?と訝ったが、単純にイヌとネコの魅力が、大勢の人を引き寄せているらしかった。本展には、けっこう個人蔵の作品が出陳されている。宗達の『犬図』は後ろを振り返るブチの仔犬。あれ?府中市美術館で見なかったかな?と思って図録を確認したら、同じように振り返るポーズだけど、こっちの『狗子図』は白犬だった。蘆雪の『菊花子犬図』はポスターにも使われており、大人気。長年の蘆雪ファンとしては、彼の仔犬の「可愛さ」が認知されてきて、とても嬉しい。しかし私が好き...かわいくないが可愛い/犬派?猫派?(山種美術館)

  • 2024年6月鎌倉散歩:長谷寺、鏑木清方記念美術館

    ■長谷寺(鎌倉市長谷)先週末、鎌倉のアジサイが見たくなって、混んでるだろうなあと思いながら出かけた。横須賀線と江ノ電は、覚悟をしていたほどには混んでいなくて、目的地の長谷寺に到着した。短い石段を上がって、山の中腹に開けた高台の本堂に詣でる。もちろんご本尊は、長谷寺式十一面観世音。ということは、奈良の長谷寺と同じ真言宗豊山派なのかな?と思ったら、こちらは浄土宗系の単立寺院だった。しかし伝説によれば、養老5年(721)徳道上人は楠の霊木から2体の観音さまを造り、そのうち1体を大和国の長谷寺にまつり、残りの1体を海に流した。その1体は15年漂流し、天平8(736)年、相模国長井の浜(横須賀市長井)に打ち上げられ、現在の場所に運ばれて、鎌倉の長谷寺が創建されたのだという(江の島・鎌倉ナビ)。2022年には、鎌倉...2024年6月鎌倉散歩:長谷寺、鏑木清方記念美術館

  • 板谷波山と小杉放菴/出光佐三、美の交感(出光美術館)

    〇出光美術館出光美術館の軌跡ここから、さきへII『出光佐三、美の交感波山、放菴、ルオー』(2024年6月1日~7月7日)休館を控えた展覧会の第2弾は、同館の創設者・出光佐三(いでみつさぞう、1885-1981)と同時代を生きた作家たちにスポットライトを当てる。陶芸家の板谷波山(1872-1963)と画家の小杉放菴(1881-1964)は佐三と親しく交流した。さらに佐三が作品の蒐集に意を注いだ2人の画家、ジョルジュ・ルオー(1871-1958)とサム・フランシス(1923-1994)の絵画も展示する。板谷波山は、葆光釉という独特の技法で有名だが、私はあれが好きではないので、あまり積極的に見てこなかった。今回、初めて50件を超える作品を一気に見たら、いろいろ発見があった。地味な植物をうんと大きく描いた『彩磁八...板谷波山と小杉放菴/出光佐三、美の交感(出光美術館)

  • 京都からパワーアップ/歌と物語の絵(泉屋博古館東京)

    〇泉屋博古館東京企画展『歌と物語の絵-雅やかなやまと絵の世界』(2024年6月1日~7月21日)泉屋博古館、今度はやまと絵か、楽しみだなあ~とわくわくしながら見に行った。第1展示室、『石山切(貫之集下)』は記憶になかったもの。私の好きな定信の筆だが、薄紫の料紙に折枝文と、薄茶の料紙に飛鳥文がにぎやかすぎて、文字が読みにくいのが残念。『上畳本三十六歌仙絵切・藤原兼輔』の解説には「紫式部の曽祖父」の注記つき。まあそうだけど。よく肥えていて、首がない。続いて、松花堂昭乗の『三十六歌仙書画帖』(近世らしく親しみやすい風貌)と『扇面歌・農村風俗図屏風』を見て、あれ?と思った。この展覧会、2023年7月に京都の泉屋博古館で開催された同名の展覧会の巡回展(?)だったのである。まるで忘れていた。ただし、いま京都の展示リス...京都からパワーアップ/歌と物語の絵(泉屋博古館東京)

  • 「面白い」を追いかける/老後は上機嫌(池田清彦、南伸坊)

    〇池田清彦、南伸坊『老後は上機嫌』(ちくま新書)筑摩書房2024.6生物学者の池田清彦先生とイラストレーターの南伸坊氏の語り下ろし(おそらく)の対談。私は南伸坊さんの著作は、もう30年以上愛読しているが、池田清彦さんのことは初めて知った。生物学だけでなく、進化論、科学論、環境問題、脳科学などを論じた著作が多数あり、昆虫採集マニアでもあるという。お二人は1947年生まれの同学年で、今年76歳になる。老人どうしの対談だが、若い者や最近の世相にあまり怒っていないのがいい。他人と違っても、自分の好きなもの、「面白い」と思うものを追い続けていると、こうなるのかもしれない。実は、書店で試し読みをしているとき、南伸坊氏が澁澤龍彦について語っている箇所に行きあたって、本書を買うことに決めた。南さんは、高校生の頃、印象派の...「面白い」を追いかける/老後は上機嫌(池田清彦、南伸坊)

  • 解体される民主主義/「モディ化」するインド(湊一樹)

    〇湊一樹『「モディ化」するインド:大国幻想が生み出した権威主義』(中公選書)中央公論新社2024.5インドについては、ほとんど何も知らない自覚があったので、最近、近藤正規さんの『インド:グローバル・サウスの超大国』(中公新書、2023.9)を読んでみたばかりである。同書は、現在のインドの強み・急成長の理由を解き明かしつつ、山積する政治・社会問題の数々も指摘していた。ちょっとインドに(怖いもの見たさの)興味が湧いたところで、本書の存在がネットで話題になっていたので読んでみた。タイトルからも分かるとおり、本書はインドの「問題局面」にテーマを絞っている。「世界最大の民主主義国」と呼ばれてきたインドは、モディ政権のもとで、急速に権威主義化している。スウェーデンの民主主義の多様性(V-Dem)研究所は、2020年3...解体される民主主義/「モディ化」するインド(湊一樹)

  • 落川・浄光寺の十一面観音立像とギャラリートーク(東京長浜観音堂)

    〇東京長浜観音堂『十一面観音立像、薬師如来立像、阿弥陀如来立像(高月町落川・浄光寺)』(2024年5月18日~6月16日)令和6年度第1回展示の十一面観音立像を見てきた。一回り小さな薬師如来立像と、さらに小さな阿弥陀如来立像という、あまりない三尊形式だった。お寺の名前だけでは気がつかなかったが、お顔を見て、あ、これは!と思った。昨年、「観音の里ふるさとまつり」のバスツアーで拝観させていただいた観音様である。解説に「肉身部には肌色を塗り」とあるけれど、胡粉に朱でも混ぜているのだろうか。眉・目・髭を墨で描き入れ、唇は赤く、童子のような愛らしさがある。薬師如来と阿弥陀如来も黒目と髭が描き加えられており、生き生きと親しみやすい表情をしている。十一面の頭上面もなかなかよい。6月8日は、高月観音の里歴史民俗資料館の学...落川・浄光寺の十一面観音立像とギャラリートーク(東京長浜観音堂)

  • ひとつとや~で始まる/古美術かぞえうた(根津美術館)

    〇根津美術館企画展『古美術かぞえうた名前に数字がある作品』(2024年6月1日~7月15日)かぞえうたのように数字をたどりながら、気軽に楽しく鑑賞できる古美術入門編。近年、同館は、さまざまなかたちで古美術の魅力を紹介する展覧会を開催しているが、これはまた新機軸である。はじめは「姿や技法を示す数字」で陶磁器や漆工・金工が中心。『青磁一葉香合』に始まり、名前に含まれる数字が徐々に大きくなっていく。『染付二匹鯉香合』は、青色で鱗を描かれた鯉と白い鯉が上下にくっついているのだが、一瞬、腹のふくれたフグかと思った。『青磁三閑人蓋置』は、三人が外側を向いて背中合わせに手をつないでいるのが不思議。画像検索すると、外向きが一般的だが、例外的に内向きの三閑人もあるようだ。三角香炉→四方鉢→六角水注→八角鉢…と、角(かど)を...ひとつとや~で始まる/古美術かぞえうた(根津美術館)

  • 2024年6月パレスチナ・デー@東京ジャーミー

    代々木上原のモスク「東京ジャーミー」で開催された「パレスチナ・デー」に行ってきた。昨年12月に初めて参加して、珍しいパンやお菓子をGETできたので、またやらないかな~と思ってチェックしてみたら、今日6月8日(土)開催と分かったので、さっそく行ってきた。前回は行ったのが遅い時間で、売りものがあらかた捌けていて残念だったので、今回はお昼前に到着した。1階のバザーで食べものばかり購入。下段の大きなチーズパン(バジル入り)は、家に帰ってから今日のお昼にしたが、食べ応えがあった。上段左の肉まんを売っていたのはマレーシアの女性たちだったかな。ロビーではパレスチナに関する簡単な解説ツアーをやっていて、若者がたくさん耳を傾けていてよかった。前回は1階を見ただけで帰ってしまったのだが、あとで2階のベランダにもお店が出ていた...2024年6月パレスチナ・デー@東京ジャーミー

  • 金融業界の謀略戦/中華ドラマ『城中之城』

    〇『城中之城』全40集(中央広播電視総台、愛奇藝他、2024年)見たいドラマが少し途切れていたので、豪華な配役に惹かれて本作を見始めた。上海の陸家嘴金融貿易区という「金融城」を舞台に、銀行、証券、信託、投資、不動産等に関わる人々を描いたドラマである。陶無忌は、程家元ら同期とともに深茂銀行に入社し、銀行員生活のスタートを切った。彼の憧れは、同行副支配人の趙輝だった。就職活動中の恋人・田暁慧とともに、早くお金を稼いで家を買い、結婚することが目下の目標だった。突然、深茂銀行上海支店支配人の戴其業が、不慮の交通事故で亡くなった。葬儀で顔を合わせたのは、かつて大学で戴其業に金融学を学んだ四人の中年男性。四人のうち、趙輝、蘇見仁、苗彻の三人は、深茂銀行の同僚でもあった。出世頭は副支配人の趙輝だが、愛妻・李瑩を亡くして...金融業界の謀略戦/中華ドラマ『城中之城』

  • アイスショー"Fantasy on Ice 2024 幕張&愛知"

    ○FantasyonIce2023in幕張、初日(2024年5月24日17:00~)/in神戸、千秋楽(2024年6月2日13:00~、ライブヴューイング)アイスショーFaOI(ファンタジー・オン・アイス)、今年は久しぶりに幕張公演のチケットを取ることができた。調べたら、2019年、ゲストがToshl(龍玄とし)さんだったとき以来である。我が家からのアクセスもよいので、15時頃まで在宅で仕事をして、おもむろに幕張へ向かった。出演スケーターは、羽生結弦、ステファン・ランビエル、ハビエル・フェルナンデス、田中刑事、山本草太、アダム・シャオ・イムファ、デニス・バシリエフス、中田璃士、宮原知子、青木祐奈、上薗恋奈、パパシゼ(ガブリエラ・パパダキス&ギヨーム・シゼロン)、パイポ―(パイパー・ギレス&ポール・ポワリエ...アイスショー"FantasyonIce2024幕張&愛知"

  • 21世紀に続く戦後処理/日ソ戦争(麻田雅文)

    〇麻田雅文『日ソ戦争:帝国日本最後の戦い』(中公新書)中央公論新社2024.4日ソ戦争とは、1945年8月8日から9月上旬まで満州・朝鮮半島・南樺太・千島列島で行われた第二次世界大戦最後の全面戦争である。日本の敗戦を決定づけただけでなく、東アジアの戦後に大きな影響を与えた戦争であるにもかかわらず、実は正式な名称すらない。確かに「日ソ戦争」という名前は初めて聞いたような気がする。はじめに日ソ開戦までの各国の思惑を概観する。アメリカはソ連の参戦を強く望んでいた。スターリンは、ドイツを倒したら対日戦線に加わるとほのめかすことで、米英を対独戦に集中させた。そして、いよいよドイツ軍の主力が壊滅すると、ヤルタ会談においてソ連の参戦が確約される。ローズヴェルトがスターリンの参戦条件(戦後の利権)を飲んだのは、ソ連の参戦...21世紀に続く戦後処理/日ソ戦争(麻田雅文)

  • 訴訟社会の伝統/訟師の中国史(夫馬進)

    〇夫馬進『訟師の中国史:国家の鬼子と健訟』(筑摩選書)筑摩書房2024.4訟師とは、近代以前の中国で人々が訴訟しようとするとき、これを助けた者たちである。大半の読者にとって「訟師」とは初めて聞く言葉であろう、と著者は冒頭に述べている。確かに私も聞いた記憶がない。ただ、2023年制作の中国ドラマ『顕微鏡下的大明之絲絹案』(天地に問う)で程仁清という人物が「状師」を名乗っていたので、中国語のサイトで調べたら「状師。又称訟師」と出て来たことは記憶にあった。なので、実は本書を読みながら、ずっと脳内で訟師には程仁清(を演じた王陽)のイメージを当てていた。訟師の評判はよくない。真実を嘘とすり替え、無実の人に濡れ衣を着せ、必要のない訴訟を起こして大儲けをする社会のダニで、訴訟ゴロツキ(訟棍)とも呼ばれていた。しかし例外...訴訟社会の伝統/訟師の中国史(夫馬進)

  • 東京建築祭2024:丸の内+日本橋

    〇東京建築祭(2024年5月25日~5月26日)この週末、東京の多彩な建築を体験し、まちの魅力を再発見する「東京建築祭」が初めて開催された。うれしかったのは、有料のガイドツアーやイベントもあるが、25日・26日の週末には、多くの建築が無料・予約不要で特別公開されていたことである。私は25日(土)は大手町・丸の内・有楽町エリアを、26日(日)は日本橋・京橋エリアを歩いてみた。・25日:東京ステーションホテル~明治生命館~新東京ビルヂング~国際ビルヂング~堀ビル「特別公開」と言っても、一部区画のみのアッサリした公開もあるのだが、明治生命館は、資料・展示室もあり、会議室、執務室、応接室など文化的価値の高い主要室をじっくり見学させてくれた。実はふだんから土日に公開されていることを初めて知った。このエリアは美術館め...東京建築祭2024:丸の内+日本橋

  • 2024年5月関西旅行:日本の仮面(国立民族学博物館)他

    ■国立民族学博物館みんぱく創設50周年記念特別展『日本の仮面-芸能と祭りの世界』(2024年3月28日〜6月11日)関西旅行最終日は朝から万博記念公園へ。早めに着いたので「平和のバラ園」で色とりどりのバラを眺めてなごみ、開館時間と同時に特別展示館へ入場する。本展示では、仮面の役の登場が印象的な各地の芸能や祭りの様相を中心に、あわせて仮面の歴史、仮面と人間の関係などを紹介し、仮面と人々の多様なかかわりについて考える。1974年に創設された民博だが、東京在住の私が初めて参観したのは、1990年の『赤道アフリカの仮面』展ではなかったかと思う。以来、民博と言えば仮面、の印象がある。今回は日本の仮面なので、アフリカや東南アジアの仮面のような、解釈不能のインパクトはないかな、と思いながら見ていった。伎楽、能楽、神楽な...2024年5月関西旅行:日本の仮面(国立民族学博物館)他

  • 2024年5月関西旅行:空海(奈良国立博物館)

    〇奈良国立博物館生誕1250年記念特別展『空海KUKAI-密教のルーツとマンダラ世界』(2024年4月13日~6月9日)ホームページの開催趣旨は「空海の生誕1250年を記念して、奈良国立博物館の総力を挙げた展覧会を開催します」という宣言から始まる。え、奈良博がそこまで言い切る展覧会は珍しいのではないか。公式SNSも「かつてない空海展」を標榜し、見た人からは「すごい」「圧巻」「言葉にならない」という感想が次々に流れていたので、かなり期待を高めて見に行った。午前中は京博の『雪舟』を見て、昼食抜きで奈良へ移動。入館待ちだったら嫌だなあ、と思っていたが、並ばずに中に入れた。いつものように東新館の2階に上がって、展示室の入口を覗いたところで驚愕。いつもの展覧会では、ここに目隠しの壁があって、右方向の順路へ誘導される...2024年5月関西旅行:空海(奈良国立博物館)

  • 2024年5月関西旅行:雪舟伝説(京都国立博物館)

    〇京都国立博物館特別展『雪舟伝説-「画聖(カリスマ)」の誕生-』(2024年4月13日~5月26日)「※『雪舟展』ではありません!」というチラシの注意書きが話題を呼んでいるという記事を見た。そんな注意書きあったっけ?と思ったら、確かに裏面に書いてある。しかしオモテ面には平然と「みんなの憧れ、みんなのお手本」「大好き!雪舟先生!」とあるのだから、相変わらず京博の宣伝は巧い。本展は、主に近世における雪舟受容の様相を辿ることで「画聖」と仰がれる雪舟への評価がいかにして形成されてきたのかを検証する。雪舟の国宝6件(通期展示)を含め、雪舟筆/伝・雪舟筆作品が20件(展示替え有)、しかし本展の4分の3以上は、雪舟に影響を受けた後世の画家たちの作品で構成されているのだ。土曜の8:30頃に行ったら、入場待ち列がどんどん伸...2024年5月関西旅行:雪舟伝説(京都国立博物館)

  • 2024年5月関西旅行:龍谷ミュージアム、MIHOミュージアム、京都文博

    ■龍谷ミュージアム春季特別展『文明の十字路・バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰-ガンダーラから日本へ-』(2024年4月20日~6月16日)今年のゴールデンウィークは東京でじっとしていたので、そろそろ混雑の波も引いた頃かと思い、週末に金曜有休1日を足して、関西方面で遊んできた。初日は京都駅から、龍谷ミュージアムに直行。アフガニスタンのバーミヤン遺跡には多くの石窟と2体の大仏が残されていた。それらは2001年3月にイスラム原理主義組織・タリバンによって爆破されてしまったが、かつて日本の調査隊が撮影した写真や調査資料を基に、壁画の新たな描き起こし図が完成した。本展は、この新たな描き起こし図の完成を記念してその原図を展示し、中央アジアで発展した弥勒信仰が、東アジアへと伝わって多様な展開を遂げる様子を紹介する。『バ...2024年5月関西旅行:龍谷ミュージアム、MIHOミュージアム、京都文博

  • 2024万博記念公園・ローズフェスタ

    週末に有休1日を付けて、2泊3日で関西方面に出かけてきた。例によって、駆け足で滋賀~京都~奈良~大阪を大回り。今日は大阪の民博と大阪日本民芸館を見てきた。両館の間にあるのが「平和のバラ園」で、ちょうど花盛り!東京や横浜にもバラ園があるが、見たことのないような花の量に圧倒されてしまった。万博記念公園には何度も来ているのに、こんな場所があることを初めて知った。1970年の万博開催時、世界9か国から平和を願って贈られたレガシーのバラが発祥らしいのだが、ホームページに「2019年4月にリニューアルオープン」とあるのを見ると、整備されたのは最近なのかもしれない。バラ以外の植物もあり。小雨がぱらつく天気だったが、花は喜んでいたかも。「ローズフェスタ」は6月初旬まで続くそうだ。訪ねたところの記事は、これから少しずつ。2024万博記念公園・ローズフェスタ

  • 休館カウントダウン/復刻開館記念展(出光美術館)

    〇出光美術館出光美術館の軌跡ここから、さきへI『復刻開館記念展仙厓・古唐津・オリエント』(2024年4月23日~5月19日)冒頭の掲示を読んで、え!と衝撃を受けてしまった。特設サイト「出光美術館の軌跡ここから、さきへ」にも掲載されているとおり、「1966年秋、東京・丸の内の帝劇ビル9階に開館して以来、皆さまに親しまれてきた出光美術館は、ビルの建替計画に伴い、2024年12月をもって、しばらくのあいだ休館する運びとなりました」というのである。この特設サイトの公開は3月26日だが、全く気づいていなかった。同館は、今年4月から10月まで、美術館のこれまでの歩みを4つの展覧会に分けて振り返りながら、コレクションを代表する作品の数々を展示予定だという。本展は、1966年の開館記念展の出品作品と展示構成を意識しながら...休館カウントダウン/復刻開館記念展(出光美術館)

  • 2024年4-5月展覧会拾遺(その2)

    ■サントリー美術館コレクション展『名品ときたま迷品』(2024年4月17日~6月16日)「生活の中の美」を基本理念とするサントリー美術館コレクションの「メイヒン」を一堂に会し、さまざまな角度から多彩な魅力を紹介する。会場の冒頭に展示されているのは、本展のポスターにも写真が使われている『鞠・鞠挟』一組(江戸時代)。蹴鞠の鞠を漆塗の木枠に吊るしたものである。これは名品扱いか迷品扱いか不明だが、2019年の『遊びの流儀遊楽図の系譜』で見た記憶がある。『泰西王侯騎馬図屛風』(前期)『かるかや』『酒伝童子絵巻』など、屏風と絵巻は文句なしの名品揃い。光悦の『赤楽茶碗(銘:熟柿)』は、同館所蔵であることを忘れていたので、たじろいでしまった。和洋のガラス工芸も楽しかったが、薩摩切子には緑色が少ないという解説が気になった。...2024年4-5月展覧会拾遺(その2)

  • 2024年4-5月展覧会拾遺(その1)

    すっかり書き漏らしてしまったものも多いのだが、連休前後に行ったものを中心に。■根津美術館特別展『国宝・燕子花図屏風デザインの日本美術』(2024年4月13日〜5月12日)最終日の今日、ようやくチケットが取れて見て来た。恒例の国宝『燕子花屏風』の展示に加え、取り合わせにも選りすぐりの名品が並ぶ。伊年印『四季草花図屏風』はやっぱりいいなあ。草花の愛らしさ・美しさが完璧。ん?見慣れないものがある?と思ったのは『桜芥子図襖』(大田区龍子美術館)で、4面の金地襖の上半分は満開の桜の枝で覆われていいる。下半分には紅白の芥子のほか、アザミ、スミレ、タンポポなどの草花。伊年印、宗達工房の作品だが、川端龍子は妻子のための持仏堂と仏間の仕切りに用いていたそうだ。展示室5は「地球の裏側からこんにちは!-根津美術館のアンデス染織...2024年4-5月展覧会拾遺(その1)

  • 三味線の美音を浴びる/文楽・和田合戦女舞鶴、他

    〇シアター1010国立劇場令和6年5月文楽公演(2024年5月11日、11:00~)急に思い立って、5月文楽公演を見て来た。昨年10月末に国立劇場が休館になってから、東京の文楽公演は、さまざまな劇場を代替に使用している。今季は、昨年12月公演に続いて、シアター1010(せんじゅ)での開催。北千住駅前でとても便利な立地だった。1等席にあまりいい座席が残っていなかったので、2等席(2階の最後列)を取ってみた。視界はこんな感じ。文楽の舞台を「見下ろす」のは初体験で、どうなんだろう?と思ったが、音響は問題なかった。舞台の奥まで見えてしまう(舞台下駄を履いた人形遣いの足元とか、腰を下ろして待機している黒子さん)のは、もの珍しくて面白かったが、初心者にはあまりお勧めしない。ただ、舞台の上に表示される字幕が自然と視界に...三味線の美音を浴びる/文楽・和田合戦女舞鶴、他

  • これこそスタンダード/茶の湯の美学(三井記念美術館)

    〇三井記念美術館『茶の湯の美学-利休・織部・遠州の茶道具-』(2024年4月18日~6月16日)同館の「茶の湯」展覧会は、久しぶりのような気がして調べたら、2022年の『茶の湯の陶磁器~“景色”を愛でる~』以来、2年ぶりだった。大河ドラマ関連展や明治工芸もいいけれど、やっぱり、同館コレクションの深みと厚みを感じるには、スタンダードな「茶の湯」展が一番だと思う。本展は、利休・織部・遠州3人の美意識を、利休の「わび・さびの美」、織部の「破格の美」、遠州の「綺麗さび」と捉えて構成されている。展示室1の冒頭には、伝・利休所持『古銅桃底花入』。桃底(ももぞこ)は、細口で、耳がなく、高台がなく、畳付の部分が内側に丸く窪んだ、無紋のものをいうらしいが、ネットで検索した画像よりもずんぐりと小型で、首のまわりに簡素な雲紋が...これこそスタンダード/茶の湯の美学(三井記念美術館)

  • 民事警察の人びと/中華ドラマ『警察栄誉』

    〇『警察栄誉』全38集(愛奇藝他、2022年)中国の視聴者レビューサイト「豆瓣」で、2022年ドラマの最高得点を獲得した作品だが、なんとなく自分の好みでないような気がして手を出さずにいた。今年4月、『甘くないボクらの日常~警察栄誉~』のタイトルで日本向けのDVD-BOXが発売されたが、ラブコメ路線を想像させる宣伝ビジュアルに対して、いや、そういうドラマじゃないし、という不満のコメントをSNSで見かけた。それで、逆に興味が湧いて、視聴を始めたのである。舞台は架空の都市・平陵市(ロケ地は青島)、ほどほどに発展した地方の中級都市の設定である。八里河派出所に4人の新人警察官が実習生として配属された(日本でいう派出所より規模が大きく、食堂もあり、おそらく20~30人が勤務している)。王守一所長は、警察の伝統に従い、...民事警察の人びと/中華ドラマ『警察栄誉』

  • 地域の仏像、埴輪、近代洋画/令和6年新指定国宝・重要文化財(東京国立博物館)

    〇東京国立博物館・本館特別1-2室、11室特別企画『令和6年新指定国宝・重要文化財』(2024年4月23日~5月12日)連休の1日、特別展『法然と極楽浄土』を見ようと思って行ったのだが、会期の短いこの展示を優先することにした。「新指定国宝・重要文化財」の展示は、コロナ禍の近年、開催時期や展示室を変えていたが、以前の方式に戻ったようである(→令和5年の記事)。文化庁のホームページによれば、今年は、美術工芸品6件を国宝に、美術工芸品36件を重要文化財に、さらに1件の美術工芸品1件を登録有形文化財に登録することが、文化審議会から答申された(2024年3月15日)。本展は、この国宝・重要文化財指定予定品を紹介しるものである。本館1階、11室(彫刻)の入口に「令和6年新指定国宝・重要文化財」の大きな掲示が出ていたの...地域の仏像、埴輪、近代洋画/令和6年新指定国宝・重要文化財(東京国立博物館)

  • 蔵出し図録もお楽しみ/洋風画という風(板橋区立美術館)

    〇板橋区立美術館『歸空庵コレクションによる洋風画という風-近世絵画に根づいたエキゾチズムー』(2024年5月3日~6月16日)今日から始まった展覧会をさっそく見て来た。この春の板美は、いつもの江戸絵画ではなくて『シュルレアリスムと日本』展(2024年3月2日~4月14日)から始まったのだが、これは京都で見たので、東京展は見送ってしまった。さて本展は、歸空庵コレクションから選りすぐりの作品を展示し、近世絵画に新鮮な風を送り込み、これまでにない表現を切り拓いた洋風画の魅力に迫る。展示リストによれば、全73件のうち1件だけが板美の所蔵で、あとは歸空庵コレクション(同館寄託)である。うち19件は、新たに寄託されたものだという。私は何度も同館に通っているので、もちろん見たことのある作品が多かった。しかし滅多に見られ...蔵出し図録もお楽しみ/洋風画という風(板橋区立美術館)

  • 水道橋でイタリアンとワイン飲み放題

    今年の連休は遠出の予定が入っていないかわり、近場で友人と旧交を温めている。昨日はむかしの職場仲間と水道橋駅前の「ワイン処Oasi(オアジ)」へ。これまで和食ディナーを2回体験しているが、今回はイタリアンで3時間飲み放題つきのコースだった。自家製サングリア2種(赤と白)、ワイン、ワインカクテルなどをたっぷり楽しんだ。話題は「膝が痛い」「耳が遠くなった」「老後の生活資金をどうするか」など、完全に高齢者のお悩み談義。それでも趣味や推し活に励む余裕があるのは幸いである。5年後や10年後も、こうやって元気な仲間と楽しい時間を過ごせるといいなあ。水道橋でイタリアンとワイン飲み放題

  • 風俗画、肉筆浮世絵、春画まで/浮世絵の別嬪さん(大倉集古館)

    〇大倉集古館特別展『浮世絵の別嬪さん-歌麿、北斎が描いた春画とともに』(2024年4月9日~6月9日)本展は、いわゆる版画ではなく肉筆浮世絵に焦点をあて、17世紀の初期風俗画と岩佐又兵衛から始まり、菱川師宣、喜多川歌麿や葛飾北斎をはじめとした数々の著名な浮世絵師たちの活躍を、肉筆美人画を通じて幕末までたどる。また、艶やかで美しい春画の名品も合わせて紹介する。大倉集古館には、そんなに熱心に通っているわけではないが、浮世絵をテーマにした展覧会は珍しいように思う。いま「これまでの展覧会」のリストをざっと見てみたが、関連するのは2007年の『江戸の粋』くらいだろうか。実は、今回の展示先品(約90件)、「大倉集古館」と記載されているのは1件しかなく、あとは他館からの出陳でなければ「個人蔵」なのである。大倉家の私的な...風俗画、肉筆浮世絵、春画まで/浮世絵の別嬪さん(大倉集古館)

  • 受け継がれる美意識/王朝文化へのあこがれ(五島美術館)

    〇五島美術館春の優品展『王朝文化へのあこがれ』(2024年4月6日~5月6日)同館の春の優品展は、だいたい古筆や歌仙絵が中心で、大型連休に合わせて国宝『源氏物語絵巻』が展示される。近年、混雑は嫌で『源氏』原本の展示期間を避けていたのだが、今年は久しぶりに展示期間に訪ねてみた。今日は朝からお茶会もあって、第1展示室に入ろうとしたら、びっくりするほど混んでいた。幸い、第2展示室はまだ人が少なかったので、順番を変えて、こちらから見ることにした。同館が所蔵する『源氏物語絵巻』全点に復元模写も添えられて展示されていた。原本と復元模写を並べて見たのは久しぶりで、おもしろかった。柱や梁・縁側など家屋の描写が意外としっかりしていて狂いがないと感じた。「鈴虫」「夕霧」に描かれた男子は冠を被っているが、復元模写では額の部分が...受け継がれる美意識/王朝文化へのあこがれ(五島美術館)

  • 2024黄金週はじまる

    2024年の大型連休が始まった。コロナ禍も一段落して、久しぶりの海外旅行を計画しようかとも思っていたのだが、時機を逸してしまった。新幹線は全席指定だし、ホテルはどこも高いし、その上、1ドル=158円を突破する円高…。結局、連休はじっとして、5月の中旬以降の週末に、関西の展覧会めぐりに行ってこようと思っている。近所の小さな公園(臨海公園)の緑地帯の野草。亀戸天神のフジ。今日行ってみたら、花の残っている枝はわずかで、もう遅かった。ホームセンター「コーナン」江東深川店の垣根のツツジ。今日は衆議院補欠選挙の投票日で、私の選挙区・東京15区は、満足のいく結果で嬉しかった。このところ、うんざりするような選挙戦を見せられてきたが、終わりよければ全てよしと思うことにしよう。2024黄金週はじまる

  • 古墳、治水から現代の再開発まで/大阪がすごい(歯黒猛夫)

    〇歯黒猛夫『大坂がすごい:歩いて集めたなにわの底力』(ちくま新書)筑摩書房2024.4私は東京生まれで箱根の西には暮らしたことがないが、ときどき大阪の本が読みたくなる。著者は大阪南部、岸和田市育ちで、大阪に拠点を置くライター。60年以上、ずっと大阪で暮らしてきたという自己紹介を読んで、ああ、こういう人もいるんだなあ(むしろ、こういう人生が標準的?)と感慨深く思った。はじめに「水の都の高低差」では、7万年前の氷河期から、約7000年前の「縄文海進」を振り返り、生駒山地・大阪平野・上町台地・大阪湾など地形の成り立ちを確認する。上町台地の高低差を実感できる「天王寺七坂」は、今年の正月、生國魂神社そばの真言坂を歩いたことを思い出した。大阪平野を生み出した淀川は、古来、洪水で人々を悩ませてもきた。仁徳紀には「茨田堤...古墳、治水から現代の再開発まで/大阪がすごい(歯黒猛夫)

  • ゆるくて、やさしい中国/古染付と中国工芸(日本民藝館)

    〇日本民藝館『古染付と中国工芸』(2024年3月30日~6月2日)古染付とは、明代末期の中国・景徳鎮民窯で、日本への輸出品として作られたやきものを言う。だが、染付(そめつけ)という柔らかな和語の響きからも、私はこれが中国産であることを忘れてしまいがちだ。今回、玄関に入ると、左手の壁には「大空合掌」の泰山金剛経拓本と鄭道昭の山門題字。右手には殷比干墓、楊淮表記摩崖(なんのことやらメモだけ取ってきて、調べながら書き写している)。見上げると、大階段の2階の壁には『開通褒斜道刻石(かいつうほうやどうこくせき)』の拓本が左右に並ぶ。そうか、古染付って中国の工芸だったな、と気づいて、なんだか嬉しくなる。大階段の踊り場中央には、呉州赤絵(漳州窯)の『人物山水文皿』。赤いチェックのような文様で縁取られた中型の皿で、人物と...ゆるくて、やさしい中国/古染付と中国工芸(日本民藝館)

  • 現地調査から見えるもの/中国農村の現在(田原史起)

    〇田原史起『中国農村の現在:「14億分の10億」のリアル』(中公新書)中央公論新社2024.2著者の専門は農村社会学。20年にわたり、中国各地の農村に入り込んでフィールドワークを実践してきた経験をもとに本書は書かれている。中国の農民とは、どういう思考様式を有する人々なのか。はじめに著者は、歴史的経緯を振り返って言う。欧州では13世紀頃まで、日本は150年前まで封建制が存在していた。ところが中国は紀元前3世紀で「封建制」は終焉を迎え、皇帝が直接、民に向き合う「一君万民」的な政治体制が形成さあれた。皇帝の意思を代行するのは官吏である(建前としては実力があれば=科挙に合格すれば、誰でも「官」になれる)。官僚が派遣される最末端単位は「県城」で、周辺の農村を統括した。農民は県より上の政府に直に接する必要はない。ここ...現地調査から見えるもの/中国農村の現在(田原史起)

  • 虚構の遊楽世界/大吉原展(藝大美術館)

    〇東京藝術大学大学美術館『大吉原展』(2024年3月26日~5月19日)「江戸吉原」の約250年にわたる文化・芸術を、海外からの里帰りを含む美術作品を通して検証し、仕掛けられた虚構の世界を紹介する展覧会。備忘のために書いておく。私がこの展覧会の開催を知ったのは年末年始くらいだったかと思う。いまネットで検索すると、同館が2023年11月30日に公開したプレスリリースが残っている。おもしろそうだなと思う反面、ショッキングピンクのポスターとウェブサイト、「江戸アメイヂング」という軽いノリの副題には、やや不安を感じた。さらに2月1日付けのプレスリリースでは、花魁道中を見物できる「お大尽ナイト」というVIPチケットの発売が取り上げられている。これを知ったときは、かなり嫌な感じがした。遊郭文化の記憶が今も一種の観光資...虚構の遊楽世界/大吉原展(藝大美術館)

  • 地獄極楽図の隠れた名品/ほとけの国の美術(府中市美術館)後期

    〇府中市美術館企画展・春の江戸絵画まつり『ほとけの国の美術』(2024年3月9日~5月6日)3月に前期を見た展覧会、2回目は半額割引の制度を利用して、後期を見て来た。冒頭の京都・二尊院『二十五菩薩来迎図』が撤収かな、と勝手に思っていたら、ここはそのまま。次の一角、敦賀市・西福寺の『観経変相曼荼羅図(当麻曼荼羅)』など、地方に伝わった仏画の逸品が並んでいたところが、ガラリと展示替えになって、金沢市・照円寺の『地獄極楽図』18幅が、まさに所狭しと並んでいた。噂には聞いていたけれど、色鮮やかで(むしろケバケバしくて)圧が強い。作者も制作年も不明だが、江戸時代終わり頃の作と見られている。18幅の構成は、はじめに源信和尚図。数珠と尺(?)を持って斜め右向きに椅子に座る図は、典拠の図像があるようだ。黒い衣にやたら派手...地獄極楽図の隠れた名品/ほとけの国の美術(府中市美術館)後期

  • ICE STORY 2nd “RE_PRAY” TOURディレイビューイング

    〇「YuzuruHanyuICESTORY2nd“RE_PRAY”TOUR」宮城公演ディレイビューイング(2023年4月13日16:00~、TOHOシネマズ日本橋)土曜日、羽生結弦くんの単独公演をディレイビューイングで見てきた。見ていた時間だけ、魂が別世界に跳んでいたような気分で、感想がうまく言葉にならないのだが、書いてみる。プロに転向した羽生くんが「プロローグ」「GIFT」という単独公演を成功させてきたことは知っていた。私は、FaOI(ファンタジー・オン・アイス)をはじめ、彼の出演するアイスショーをずっと見てきたけれど、単独公演は、コア中のコアな羽生ファンのためのものだから、私はいいかな、と言う気持ちで遠慮していた。しかし今回、3度目の単独公演となる「RE_PRAY」ツアーは、そのキービジュアル(羽生く...ICESTORY2nd“RE_PRAY”TOURディレイビューイング

  • 同時代の日本画を見る/第79回 春の院展(日本橋三越)

    〇日本橋三越本店『第79回春の院展』(2024年3月27日~4月8日)先週末の話になるのだが、日本橋の三越デパート前を通りかかったら「春の院展」という大きなポスターが出ていた。私は小学生の頃、近所の絵画教室に通っていた。大きな画用紙(学校で使うものの倍サイズだった)にクレヨンで絵を描く教室だったが、先生は日本画家だった。私の祖母と、先生のお母さん(和装小物や裁縫道具を商うお店=糸屋を経営していた)の間に近所付き合いがあったこともあって、その後、先生が名古屋に引っ越してしまったあとも、ずっと「院展」の招待券をいただき続けた。日本美術院展覧会(院展)は、公益財団法人日本美術院が主催運営する日本画の公募展覧会である。むかしの院展は上野の東京都美術館で開催されていたのに、今はデパートが会場なのかしら、と思ったら、...同時代の日本画を見る/第79回春の院展(日本橋三越)

  • 「花だけ」と「人と花」/花・flower・華 2024(山種美術館)

    〇山種美術館特別展『花・flower・華2024-奥村土牛の桜・福田平八郎の牡丹・梅原龍三郎のばら-』(2024年3月9日~5月6日)この時期恒例となっている、花の名品を一堂に集めた展覧会。見慣れた作品が多いので、今年はこの作品がこの位置か、という会場構成の違いが、ひとつの楽しみになっている。今年はぱっと目に飛び込んできたのが小茂田青樹の『春庭』。振り返ると奥村土牛の『木蓮』(深い紫色が上品で美しい)があった。視界の端に土牛の『醍醐』が見えて、おや今年は会場の前半に展示なんだ、めずらしいな、と思った。ゆっくり見ていくうちに、今年は、春→夏→秋→冬という季節のめぐりに従って作品が配置されていることにやっと気づいた。夏のセクションには福田平八郎の『牡丹』(屏風)。大坂中之島美術館で見てきた中にも類似の作品があ...「花だけ」と「人と花」/花・flower・華2024(山種美術館)

  • 金屏風の四季と生きものたち/ライトアップ木島櫻谷(泉屋博古館東京)

    〇泉屋博古館東京企画展『ライトアップ木島櫻谷-四季連作大屏風と沁みる「生写し」』(2024年3月16日~5月12日)大正中期に大阪天王寺の茶臼山に建築された住友家本邸を飾るために描かれた木島櫻谷の「四季連作屏風」を全点公開するともに、リアルな人間的な感情を溶かし込んだ動物画の名品を紹介する。先週末は日本画が見たい気分だったので、とりあえずこの展覧会に来てみた。最初の展示室に入ると、ほの暗い空間の三方の壁に、金地彩色の六曲一双屏風が5作品。『雪中梅花』『柳桜図』『燕子花図』『菊花図』。ここまでが1917~18年に制作された「四季連作屏風」(冬-春-夏-秋の配置なのだな)で、さらに1923年制作の『竹林白鶴』が並んでいた。ほかに今尾景年の墨画淡彩の軸がひっそり掛かっていたけれど、実に贅沢な空間。木島櫻谷という...金屏風の四季と生きものたち/ライトアップ木島櫻谷(泉屋博古館東京)

  • 静養と密談の空間/戦後政治と温泉(原武史)

    〇原武史『戦後政治と温泉:箱根、伊豆に出現した濃密な政治空間』中央公論新社2024.1扱われている時代は終戦の1945年から1960年代半ばまで、主な登場人物は、吉田茂、鳩山一郎、石橋湛山、岸信介、池田勇人などで、そんなに古い話ではないのだが、なんだかとても奇妙な物語を読んだ気がした。この時代、首相たちは、箱根や伊豆などの温泉で、重要な政治的決断を下していたというのだ。想像したこともなかった。戦後、吉田茂は、大磯にあった養父・吉田健三の別荘を本邸とするとともに、御殿場の樺山愛輔別邸「瑞雲荘」を第二の本邸とし、マスコミを嫌って東京に戻らず、野党からも批判された。その後、吉田は箱根を気に入り、新町三井家の小涌谷別邸に滞在するようになる。三井別邸での面会を許されたのは、限られた政治家や学者、官僚、親しい女性だけ...静養と密談の空間/戦後政治と温泉(原武史)

  • 2024年3月関西旅行:東大寺~新薬師寺~大和文華館ほか

    ■華厳宗大本山東大寺(奈良市雑司町)関西旅行3日目は奈良スタート。早朝の奈良公園を大仏殿に向かう。廻廊の中門から中を覗くと、左(西)側の桜が、朝陽を受けてピンク色の雲のように輝いていた。大仏殿の北側の、のんびりした裏参道を歩いて二月堂に登る。ご朱印は「南無観」をいただいた。書いてくれた方が、隣りのページを見て「あ、仁和寺に行かれたんですか。僕は京都なんですけど行ったことがないんですよ」と気さくに話しかけてくれた。それから手向山八幡宮、若草山の脇を通り、春日大社の森の中を南下。高畑の住宅街に通じる「上の禰宜道」には、春日の禰宜(神官)たちが高畑の社家町から春日大社へ通った道だという案内板が立っていた。■新薬師寺(奈良市高畑町)久しぶりに来たくなって、寄ってみた。このあたり、一時期はもう少し観光客の姿があった...2024年3月関西旅行:東大寺~新薬師寺~大和文華館ほか

  • 2024年3月関西旅行:大覚寺~仁和寺~東寺ほか

    ■旧嵯峨御所大本山大覚寺(右京区嵯峨大沢町)新年度が始まったら、連日多忙で記事が書けていないのだが、これは先週末の関西旅行2日目の記録。京都駅から市バス28系統に乗って、大覚寺に向かった。あまり乗ったことのない路線で、四条通りをひたすら西へ進み、松尾大社前で北上して嵐電嵐山駅前を通り、大覚寺まで約1時間。車窓の観光が楽しかった。大覚寺を訪ねるのは久しぶりで、ブログ内検索をかけた結果では、2009年以来らしい。そんなに来ていなかったかな?お堂エリア・大沢池エリア・霊宝館に、それぞれ料金設定がされていたので、お堂と霊宝館をお願いした。霊宝館では春季名宝展『源氏物語と嵯峨野古典文学めぐり~王朝・雅人の世界』(2024年3月22日~4月22日)を開催中。「源氏物語」や「大鏡」などの江戸写本が展示されており、「花鳥...2024年3月関西旅行:大覚寺~仁和寺~東寺ほか

  • 2024年3月関西旅行:醍醐寺から山科散歩

    ■醍醐寺(伏見区醍醐)3月最後の週末に金曜有休をプラスして、関西へ2泊3日の花見旅行に行ってきた。当初の計画では、東京の開花を見届けてから関西へ赴くはずだったが、今年のサクラは全くの予想外れ。関西方面もあまり期待はできないかなあと思いつつ、京都へ向かった。JR山科駅から醍醐寺へ。拝観料は三宝院(庭園)・霊宝館・伽藍の3点セットで1500円。これは2018年と同じだった。まず露店の並んだ参道(桜馬場)の奥の伽藍に向かう。朱塗りの仁王門の前には、満開ではないが、ほどほどに花の開いた紅枝垂れ桜。よかった!仁王門を潜ると桜園なのだが、ここはまだ咲いていない。五重塔を見上げ、金堂、不動堂などに参拝し、納経所である観音堂に立ち寄る。観音堂の先にある大きな池のまわりには、色味の異なる数種類のサクラが重なり合って咲いてい...2024年3月関西旅行:醍醐寺から山科散歩

  • 練馬区立牧野記念庭園を初訪問

    今年度の有給休暇が余っていたので、3月最後の木金を休みにすることにした。今日は大横川のお花見クルーズでも楽しむか!と考えていたのだが、まだ桜が全く咲いていないので予定変更。気になっていた練馬区立牧野記念庭園を訪ねてきた。牧野富太郎博士の名前は、もちろん昔から知っていたが、強い関心を持ったきっかけは、昨年の朝ドラ『らんまん』である。牧野記念庭園は、牧野博士の邸宅跡地につくられたもの。想像していたより狭い印象だったが、少しずつ、たくさんの種類の植物が植えられている。草花だけではなくて、メタセコイヤやホオノキの大木もあって目を見張った。ウメやサクラも風情のある古木だった。ウメはもう花が終わっていて、サクラ「仙台屋」(高知市内にあった仙台屋という店から名づけられた)はまだ咲いていなかった。入口のオオカンヒザクラは...練馬区立牧野記念庭園を初訪問

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