3泊4日の関西展覧会めぐりから帰宅したところだが、書いていないレポートが溜まっているので、まずは東京編から。 ■東京国立近代美術館 企画展『下村観山展』(2026年3月17日~5月10日) 関東では13年ぶりの開催となる下村観山(1873-1930)の回顧展。狩野派、大和絵、琳派、中国絵画そして西洋絵画まで、東西の伝統的な絵画表現を徹底的に学んだ画家なので、もちろんとびきり巧いんだけど、私はあまり好きな作品がない。金屏風多し。それから、岡倉天心をはじめ、ちょっと嫌な雰囲気の爺さん(一休禅師とか日蓮とか)を描いた作品が多いことも気になった。同時開催のコレクション展にも、平櫛田中作の岡倉天心像(鶴…
府中市美術館で開催されている、春の江戸絵画まつり『長沢蘆雪』(2026年3月14日~5月10日)が大評判である。後期は、平日に一回見に行ったあと、今週末が最後なのでもう一回見に行ったら、相変わらずの人気で、入場まで30~40分並んだ。ただし、中に入るとそんなに不愉快な混雑ではなかった。 今日は展示作品以外について紹介。府中のお菓子屋さん・青木屋が作っているという蘆雪サブレ。かわいい、かわいいと見た目を愛でていたが、ひとつ食べたら美味しいので、ぺろっといただいてしまった。 蘆雪最中は、無量寺のある串本町の和菓子屋さん儀平の商品。パリッとした皮に存在感があって美味しかった。お店のサイトを見たら、和…
〇『木挽町のあだ討ち』(2026年) 気になっていた日本映画をようやく見てきた。公開からだいぶ時間が経っているので、ネタバレ込みで紹介しておこうと思う。江戸時代後期の文化年間、木挽町の芝居小屋「森田座」では仮名手本忠臣蔵が千秋楽を迎えた。大入満員の観客が芝居小屋から吐き出され、雪景色の街中へ散っていく。無頼者の作兵衛が目をとめたのは、女と見まごう美少年。この少年、美濃遠山藩士・伊能菊之助は、父の仇である作兵衛をずっと追っていたのである。たちまち始まる仇討ちの斬り合い。大勢の人々が見守る中、ついに菊之助は作兵衛の首級を上げ、喝采を浴びた。 それから一年半後、同じ遠山藩士で菊之助の縁者を名乗る男、…
今日5月6日は、蔦屋重三郎の菩提寺である誠向山正法寺で「蔦屋重三郎第290遠忌法要」が行われるというので参列してきた。正法寺は、昨年末、大河ドラマ館と合わせてゆかりの地巡りをしたときに一度訪ねている。ただ、そのときは巡回バスを利用したので、立地がよく分からなくて検索してしまった。地下鉄の浅草駅から、少し遠いが歩いていける距離だった。寛政9年(1797)5月6日没だから、年忌としては290回忌になるのだな(来年は没後290年)。 参列者は100名くらいだったろうか。座席には麦茶の紙パックが用意されていてありがたかった。はじめにご住職による法要が行われたが、私は日蓮宗の法要は初めてで、少し物珍しか…
1400年を生き抜いた異文化/イスラームが動かした中国史(海野典子)
〇海野典子『イスラームが動かした中国史:唐宋代から鄭和の大航海、現代回族まで』(中公新書) 中央公論新社 2025.12 中国の社会や文化に大きな影響を与えてきたムスリム(イスラーム教徒)、とりわけ回族について、7世紀から現代までの中国の歴史を紐解く。まず冒頭に、中国のムスリムの主要な集団3つ:①回族(漢語を話すムスリム)②新疆のテュルク系ムスリム ③サラール族・東郷族・保安族 が示され、彼らの歴史に入っていく。 中国の西域には、遅くとも紀元前2世紀にはイラン系の人々が住み始め、7世紀にはユーラシア各地から多様な人々が唐に到来した。胡人と呼ばれた人々には、大食や波斯出身者が含まれていたという説…
今年も深川伊勢屋で柏餅を買ってきていただいた。以前、5月5日に買いに行ったら、大行列だったことがあるので、早めにGET。草柏餅(つぶあん)とみそ柏餅(みそあん、皮は白に見えるが黄色)の2種類である。 昨年のブログを見たら、同じように伊勢屋さんの柏餅を買って食べていた。冬物カーテンを洗濯して、部屋の掃除に励んでいたことも同じ。まあ、だいたい5月の連休の年中行事なのである。明日は少し遠出してこようかな。
〇『方圓八百米』全20集(騰訊視頻、2026年) 久しぶりに現代ものの犯罪ドラマが見たくなって視聴。残酷な殺人シーンもあるが、全体としては登場人物の人間関係とそこから生まれる葛藤に重点を置いたドラマだった。 時代は1990年代末、方圓(周囲)800メートルと言われる豊陽小鎮は、炭鉱を産業とする小さな田舎町だった。あるとき、石炭採掘場で若い女性の焼死体が発見される。ベテラン刑事の陳紅兵は、市警から応援に派遣された女性刑事の劉娜とともに捜査に当たる。遺体のそばには、記念硬貨とガラスの破片が遺されていた。また、激しい燃焼を引き起こす、過マンガン酸カリウム(過錳化鉀)が散布されていることが分かった。 …
〇根津美術館 開館85周年記念特別展『光琳派:国宝「燕子花図」と尾形光琳のフォロワーたち』(2026年4月11日~5月10日) 「フォロワー」は、追随者、信者、門人、弟子の意味であるが、昨今、SNSの普及ですっかり日常生活に入り込んだこの単語を、展覧会のタイトルに使ったのは巧いな、と感心した。本展では、尾形光琳に直接あるいは間接に連なるフォロワーたち、渡辺始興(1683-1755)、深江芦舟(1699-1757)、立林何帠(生没年不詳)、尾形乾山(1663-1743)を取り上げ、琳派の歴史に新しい光を当てる。 はじめに登場するのは渡辺始興で、光琳の『燕子花図屏風』の隣に、始興の同名の作品(クリ…
書画と茶道具も一緒に/名品を彩るアンティーク・テキスタイル(五島美術館)
〇五島美術館 館蔵・春の優品展『名品を彩るアンティーク・テキスタイル』(2026年4月7日~5月10日) 更紗作品の受贈を記念し、名物裂と更紗の手鑑を一堂に揃え、古筆や茶道具の名品とともに表具裂や仕覆、袱紗、包み裂、袋物などを展示し、名品を彩った中国・インド・西欧などの舶来染織を中心に日本独自の鑑賞文化を紹介する。――という展覧会だが、私はタイトルだけ見て、へえ今季はテキスタイル(織物)か、珍しいけどあまり面白そうじゃないな、と思っていた。ところが展示室に入ったら、歌仙絵がある、南宋絵画がある、平安時代の古筆がある、ということで「名品を彩る」が全く誇張でないことが分かって恐縮してしまった。 冒…
久しぶりに会う友人と、神田の「アルミーナ(ALMINA)」で食事をしてきた。シェフはパレスチナ人で、ハラルフードを100%使用しているという。 あまり広くないお店だが、お客さんは、ヒジャブをしたお姉さん、西洋人家族、日本人グループなど、国際色豊かだった。比較的、日本人にも受け入れやすい味付けで、どの料理も美味しかった。アルコールメニューがないので、ざくろジュースとぶどうジュースをいただいたが、これも美味。 ごちそうさまでした!
新しい魅力も発見/花・Flower・華 2026(山種美術館)
〇山種美術館 特別展『花・Flower・華 2026-横山大観の桜・川端龍子の牡丹・速水御舟の梅-』(2026年2月28日~5月10日) 同館では、毎年この時期に、花あるいは桜をテーマにした特別展を開催している。入館してすぐに目に入ったのは、縦長の画面に白いアヤメかカキツバタの群生を描いた作品。川端龍子の『花の袖』だった。この位置には、春を代表するサクラを描いた作品が来ることが多い気がしていたので、珍しいなと思った。花はアヤメ?カキツバタ?と悩んでいたら、庭のイチハツを描いたものという解説が付いていた。 あらためて、その隣からは春の作品が並ぶ。左列には、伊東深水『吉野太夫』、松岡映丘『春光春衣…
〇松岡美術館 『千古躍動 漢から唐までの中国陶磁』(2026年2月25日〜5月31日);『笑い滴る 春と夏の日本画名品選』(2026年2月25日〜5月31日) 季節の日本画が見たくなって訪ねたのだが、順路に従って、まずは中国陶磁の展示室から。後漢時代の灰陶や緑釉陶から唐時代を代表する三彩まで「墳墓を彩った品々」を展観する、と案内にあった。そうか、三彩馬や三彩神王が墳墓の副葬品であることは認識していたけれど、可憐な婦人像・少女像もそうなのだな。印象に残ったのは、後漢の緑釉犬。類例は、国内外の博物館で見たことがあって、丸顔・丸耳(時には垂れ耳)・大きい目の愛嬌のある子が多いと思っていたのだが、この…
〇『逐玉』全40集(愛奇藝他、2026年) 今、人気沸騰中の中国ドラマ『逐玉』を見てみた。人気沸騰しすぎて、いろいろ批判も湧いているようだが、テンポがよく、展開に意外性もあって、ふつうに面白かった。 舞台は架空の王朝・大胤(雰囲気は宋代)。林安鎮に住む樊長玉は、父母を亡くし、幼い妹の長寧と二人暮らし。隣家の趙大叔・趙大娘夫妻に助けられながら、父親に習った豚殺しの業で日銭を稼いでいる。豚殺しとは、市場で買った豚、あるいは子豚のうちに買って育てた豚を捌いて、生肉、または簡単に料理した肉を売る商売である。 ある冬の日、樊長玉は、雪の中に倒れていた美青年を見つけて背負って帰る。青年は言正と名乗り、怪我…
〇永青文庫 春季展『熊本城-守り継がれた名城400年の軌跡-』(2026年4月11日~6月7日) 2016年4月の熊本地震から10年を迎えるにあたり、最新の復旧状況とあわせ、名城の「いま」と「むかし」を紹介する。 最初の展示室は武具と華麗な屏風が中心で、兜の頂に長いヤマドリの尾羽をピンと立てた甲冑二領が目立っていた。初代熊本藩主・細川忠利所用の『銀札啄木糸射向紅威丸胴具足(ぎんざね たくぼくいと いむけくれないおどし まるどうぐそく)』と、二代・細川光尚所用の『栗色革包紫糸威二枚胴具足(くりいろかわづつみ むらさきいとおどし にまいどうぐそく)』で、クラウドファンディングによる修理完了のお披露…
先週、両国の江戸東京博物館に行ったついでに、足を延ばして亀戸天神社に寄った。境内の藤がそろそろ見ごろだと聞いたので。 広い心字池にかぶさる藤棚は、どこを見ても満開で素晴らしかった。 4月~5月の連休に関西旅行に出かけるときは、京都・宇治の平等院か、奈良の春日大社の藤を見てくるようにしている。しかし関西の藤に比べると、亀戸天神の藤は花房が短いように思う。品種が違うのかもしれない。 今年の連休は旅行を予定していないので、東京で藤の盛りを見ることができてよかった。このあとも、ツツジ、アヤメ、アジサイと忙しい。
〇江戸東京博物館 常設展+特集展示『名所江戸百景』(2026年3月31日~4月26日)+特集展示『武家のプライド-江戸博甲冑コレクション-』(2026年3月31日~5月10日) 大規模改修工事のため、2022年4月から長期休館していた江戸博がリニューアルオープンしたので見て来た。調べたら、毎月第3水曜日(シルバーデー)は、65歳以上は観覧無料になるという。へえ~私は昨年、該当者になったところで、4月からフルタイム勤務を辞めて水曜フリーになったので、この制度を利用してみることにした。 水曜の朝、博物館の入口では複数の係員の方が「今日はシルバーデーです~」という案内をしていた。やはり、この日をねら…
“REALIVE” an ICE STORY project, ディレイビューイング
〇「Yuzuru Hanyu “REALIVE” an ICE STORY project」ディレイビューイング(2026年4月14日18:30~、TOHOシネマズ日本橋) 4月11日と12日、利府のセキスイハイムスーパーアリーナで行われた羽生結弦くんの公演(2日目の録画)をディレイビューイングで見てきた。この公演の情報が初めて流れたのは今年1月。私は3月末と4月初めで白内障手術の日程を調整したあとで、3月のアイスショーnotte stellata は慎重に避けたのだが、こっちは完全にバッティングしてしまい、チケット争奪戦への参加をあきらめるしかなかった。しかし、幸い、ディレイビューイングが組…
今日は朝から近くの眼科医院に行って、白内障手術の術後検査を受けてきた。無事に保護眼鏡を外してよいと言われ、1週間ぶりの洗髪と洗顔を許された。天気がよいので昼から買いものに出かけたら、通り道の下の牡丹園の花が見ごろになっていた。 この道は、しじゅう通っているので、牡丹園があることも知っていたが、こんな花盛りを見たのは初めてで感慨深かった。牡丹は百花の王と言われるほどの豪華な花だが、盛りの時期は短くて、すぐ萎れてしまう印象がある。 ちなみにこの一帯は牡丹町という。牡丹園の案内板には「牡丹を栽培する屋敷が多かったという昔の面影とこの公園のある地名から、ここに牡丹園をつくりました」と書かれていた。ネッ…
〇馬伯庸;池田智恵訳、立原透耶監訳『長安のライチ』 文藝春秋 2026.3 昨年、日本でも公開されて話題になった中国映画『長安的荔枝』の原作小説である。私は先にドラマ版を視聴し、次に映画を見たら、かなり違いがあったので、原作はどっちに近いんだろう?という興味もあって読んでみた。その結果、ドラマも映画も、それぞれ原作を大幅に改変していることが分かった。 主人公の李善徳は、大唐・長安の上林署に勤める下級役人。上司と同僚たちの陰謀で「嶺南からライチを輸送するライチ使」を押し付けられ、勅使として広州へ下る。この基本設定は、ドラマも映画も小説も同じ。嶺南五府経略使の何履光と、その掌書記の趙辛民は、李善徳…
〇堤邦彦『大江戸怪談事情:『耳嚢』の怪異をひもとく』(歴史文化ライブラリー) 吉川弘文館 2026.1 『耳嚢(耳袋)』は、勘定奉行・南町奉行も務めた根岸鎮衛(ねぎし しずもり/やすもり、1737-1815)が約30年にわたり書きためた雑話集で、怪談奇談の宝庫として知られている。『耳袋』の時代は、古代中世の説話、伝承、唱導話材の枠組みが崩れ、巷の不思議な噂に置き換わる、まさに怪談文芸の転換期だった。本書は、そうした日本人の精神史を念頭に『耳袋』の魅力的な怪異譚を取り上げ、紹介していく。 私は怪談奇談好きなので、学生の頃、平凡社の東洋文庫版『耳袋』を全編読んだはずだが、ほとんど忘れてしまった。本…
昨夜は激しい雨だったので、早咲きの花はだいぶ散ってしまったが、まだまだ春爛漫の風情を楽しめる桜の木は多い。今日は曇り空だったが、富岡八幡宮の境内には、近隣の個性的なお店が露店を出していて楽しかった。深川リキュルラボ/海琳堂のテントでは、ジャスミン茶とほうじ茶の茶梅酒を試飲させてもらった。これは門仲パン屋さんのバナナブレッドをテイクアウトしたところ。 仙台堀川沿いの桜並木は両岸とも満開。こんな絶景なのに、ほとんど人がいない。江東区、桜の絶景スポットがありすぎではないかと思う。 清澄庭園の入口の向かいに本誓寺という寺院がある。桜の名所として地元民に愛されていると聞いたので来てみた。これは自由に立ち…
〇飯野亮一『晩酌の誕生』(ちくま学芸文庫) 筑摩書房 2023.11 SNSで「おもしろかった」という感想を見かけて、気になって読んでみた。飯野亮一さんは食文化史の研究者で、以前にも『居酒屋の誕生』を読んでお名前を覚えていたので、その本かな?と思ったら、これは別の著作(ちくま学芸文庫のための書き下ろし)だった。前著は上方産の「下り酒」とか、オールシーズン燗酒とか、酒そのものに関する知識が印象的だったが、本書は酒の飲み方、酒のつまみが中心となる。江戸の晩酌文化を語る都合上、灯火の変遷や町木戸の習慣にも話題が及ぶのも興味深い。 本書の執筆は、新型コロナウイルスの感染流行期間に重なったそうだ。当時、…
白内障手術から1週間、やっと洗髪と洗顔の許可をもらった。保護眼鏡も外していいと言われたが、落ち着かないので、安い伊達眼鏡を買って掛けている。パソコンやスマホを見るには全く支障がないが、少し離れた風景には焦点が合わないので、外歩きは不安。とはいえ、以前の眼鏡は全く合わないので、早く左目の手術を終えて眼鏡を作り直したい。 この季節、私の部屋の窓からの眺めはこんな感じ。大横川沿いの遊歩道は、平日なので人通りがほとんどなく、どこの山里かと思うほど「人に知られぬ花」が咲き誇っていた。 川を隔てた向かい側のサクラ並木。 ここは「ヤマタネ」の本社で、土曜日は敷地内に露店が出て「さくらまつり」が開催されていた…
今週は月曜に白内障の手術を受けたので、眼帯を外したあとも、ずっと保護眼鏡(度なし)を掛けている。しかしPC画面を見るには全く支障がないので、在宅でガッツリ仕事をしていた。溜まっていた展覧会レポートも少し書いておこう。 ■國學院大学博物館 企画展『性別越境の歴史学-男/女でもあり、女/男でもなく-』(2025年12月6日~2026年2月23日) 「あいまいな性」を許さなくなった明治以降の感覚を問い直し、日本文化における性の多様性を明らかにする。縄文時代の土偶などの考古資料、文学作品や絵巻、それに祭祀や芸能の民俗資料など、多面的なアプローチがぎゅっと詰まっていて面白かった。神話や説話における「性別…
60歳を過ぎてから、どんどん目が悪くなっているという自覚はあった。昨年、私より少し年下の同僚二人(どちらも男性)が「白内障の手術を受けた」「自分も」と話しているのを聞いて、私も眼科に行ってみるか、と考えるようになった。 ネットで近所の眼科を探して、年明けに診断を受けに行ったら、案の定「白内障ですね。手術をしたほうがいい」と言われた。ちょうど1月~2月中旬まで、大きな予定がなくて休暇が取りやすそうだったので「ぜひ」とお願いしたら、すでに3月中旬まで予約がいっぱいだという。ようやく昨日、右目の手術を受けてきた。 手術後は眼帯を付けると言われていたので、薄手のガーゼの眼帯を想像していたが、丸く膨らん…
〇府中市美術館 春の江戸絵画まつり『長沢蘆雪』(2026年3月14日~5月10日) 同館サイトの記述によれば、2001年秋に『司馬江漢の絵画 西洋との接触、葛藤と確信』を開催し、2005年の『百花の絵』以降、毎年春に江戸絵画を中心とする展覧会を開催することになり、途中から「春の江戸絵画まつり」と呼ぶようになったという。私のブログでは、2013年からこのキャッチフレーズが記録されている。しかし、担当学芸員の金子信久さんの定年に絡むのか、本展の開催直前に「このシリーズは今回で幕を下ろします」という情報が流れてきた。残念だが、始まりがあれば終わりがあるのが世の常である。 最後の「春の江戸絵画まつり」…
2026年3月大阪:妙心寺展(大阪市美)、とりマニア(逸翁)他
■大阪市立美術館 興祖微妙大師六百五十年遠諱記念特別展『妙心寺 禅の継承』(2026年2月7日~4月5日) 広島出張帰りに大阪で1日だけ遊んできた。まずは行きたかった妙心寺展へ。京都の西郊に位置する妙心寺は、花園法皇の離宮御所を建武4年(1337)に関山慧玄(かんざんえげん、無相大師)を開山として禅寺に改めたのが始まり。第二世は、関山の唯一の弟子・授翁宗弼(じゅおうそうひつ、微妙大師)で、初期の妙心寺を整備して基礎を作った。本展は、授翁の650年遠諱を記念し、桃山絵画など日本美術の白眉ともいうべき妙心寺の至宝を通じて、妙心寺の禅の系譜を紹介する。 本展に先立ち、2月23日に東京に日経ホールで開…
この数年、毎年同じ時期に広島出張に出かけている。仕事だから観光の時間はないが、昼と夜に美味しいものを食べるのが楽しみ。お好み焼きは外せないが、これは「としのや」さんの府中焼きである。広島県府中市のご当地お好み焼きで。豚バラ肉の代わりにひき肉を使うのが特徴で、もやしを入れないのが一般的だという。 帰りの新幹線では、名物駅弁「もみじ弁当」をいただいた。12月に食べた「広島大学弁当」もまた食べたかったんだけど、残念ながら売っていなかった。 これは広島大学のマスコットキャラクター「ひろティー」。着ぐるみだとふつうの表情なのだが、ぬいぐるみだと、何か怒っているのか不満なのか、眉をひそめた表情なのがかわい…
〇太田記念美術館 『表装-肉筆浮世絵を彩る』(2026年3月6日~3月29日) 表装文化の研究者・濱村繭衣子氏を監修に迎え、太田記念美術館の600点を超える肉筆浮世絵コレクションから、優れた表装をともなう約40点を厳選し紹介する。「表装」とは、絵画や書の保存・鑑賞のために、裂地や紙を用いて掛軸や巻物などに仕立てることだが、本展公式サイトが述べるとおり、展覧会で解説されることや図録に掲載されることはあまりない。だが、私はむかしから表装に関心があって、自分の好みで鑑賞することを楽しんできた。と言っても、これまで見てきたのは、主に古筆や墨蹟、歌仙絵など、あまり自己主張の激しくない作品の表装なので、浮…
〇『太平年』全48集(中国中央電視台他、2026年) 久しぶりに本格的な歴史ドラマを見ることができて大満足。舞台は「五代十国」と言われる中国の分裂時代で、絶え間ない戦乱と異民族の侵攻、飢餓と殺戮が日常になっていた。開封(汴京)で出会った三人の若者、呉越国の王子・銭弘俶(銭九郎)、のちに後周を立てる郭威の養子・郭栄、のちの宋太祖・趙匡胤は、いつか「太平年景(平和な時代)」を実現し、一杯の熱酒を飲みたいと夢を語り合う。 「五代十国」とひとくちに言うが、中原に興亡した五つの王朝、梁→唐→晋→漢→周(慣例で全て後を冠する)が皇帝を名乗り、十国は皇帝に封じられた地方政権(大王)だった。呉越国では、大王が…
〇板橋区立郷土博物館 没後160年記念展『高島秋帆~高島平のはじまり~』(2026年1月24日~3月15日) 東京在住の江戸絵画ファンなので、毎年この時期は、府中市美術館と板橋区立美術館の企画展を楽しみにしている。ところが、先日、SNSで板橋区立郷土博物館の『高島秋帆』展が面白いという情報を見た。3月14日から始まった板橋区立美術館の『焼絵』展とハシゴできるのはこの週末しかない。ということで、さっそく行ってきた。美術館には何度も足を運んでいるが、500メートルも離れていない郷土資料館を訪ねるのは初めてのことになる。 まず2階の特別展示室へ。高島秋帆(1798-1866)は、長崎の町年寄の家に生…
アイスショー”notte stellata 2026”2日目公演
〇羽生結弦 notte stellata 2026(2026年3月8日、16:00~) 今年も幸いなことに、アイスショーnotte stellataのチケットを取ることができたので、2日目(日曜日)の公演を見てきた。3年連続の現地観戦なので、この時期の仙台地方が寒いことは承知の上で、しっかり防寒対策をして出かけた。 2024年は大地真央さんとのコラボの「カルミナ・ブラーナ」、初披露だった「ダニー・ボーイ」。2025年は野村萬斎さんとのコラボで「MANSAIボレロ」と「SEIMEI」。いったい、これらを超える企画があり得るのか?と思っていたら、今年のゲストは、東北ユースオーケストラだという。私は…
〇台東区立書道博物館 『明末清初の書画-八大山人生誕400年記念-』(2026年1月4日~3月22日) 東京国立博物館と台東区立書道博物館の連携企画第23弾は、漢民族が統治する明から満洲族の清へと王朝が交代した激動の時代「明末清初(17世紀前後)」にスポットライトを当てる。 私は先に東博の『明末清初の書画-乱世にみる夢-』(2026年1月1日~3月22日)の前後期を見てきた。はじめに王朝交代(しかも漢民族から異民族)の先例「宋末元初」の作品が少しだけ出ていた。2つの王朝交代は似ているようで異なることが多く、宋元交代は既存の文化システム(たとえば宋の宮廷画院)の崩壊を生むが、明清交代は文化システ…
〇大倉集古館 特別展『出光美術館所蔵 茶道具名品展』(2026年2月3日~3月22日) 出光美術館が所蔵する名品の中から、多種多様な茶の湯の美術約70件の作品を展示する。何十年も通い続けていた出光美術館が、ビルの建替えのため休館に入ったのは2024年12月。1年ぶりにコレクションの数々に再会することができて嬉しかった。 「茶道具名品展」と聞いて、もっぱら茶碗や茶入、釜や水指を思い浮かべていたのだが、展示品はもう少し広く、はじめに「床飾り」の掛け物が少し出ていた。二字書『行忍』(伝・兀庵普寧)は記憶になかったが、伝・牧谿の『踊布袋図』や仙厓さんの『花見画賛』の飄々とした味わいは、ああ出光らしいコ…
先週末の日曜日(3/1)急に暖かくなったので、早咲きの桜を見に行った。まずは日本橋あじさい通りのオカメザクラ。細い枝に濃いピンクの小さな花がぽやぽやと咲き揃ったところは、綿菓子か桜でんぶのよう。 写真撮影をしているのは外人さんが多くて、中国語、韓国語のほかにも、さまざまな外国語が聞こえた。 続いて木場の大横川沿いのカワヅザクラを見に行く。こちらはオカメザクラよりも花が大きい。すごくピンクの濃い種類(これがカワヅザクラ?)と少し白っぽいピンクの花の樹が混じっている。どちらもきれい。 樹が若いのか、そういう種類なのか、呆れるほど花つきがよい。 今年も楽しませていただき、ありがとうございました。さあ…
最古の彩色絵巻に再会/歌仙 在原業平と伊勢物語(三井記念美術館)
〇三井記念美術館 特別展・生誕1200年『歌仙 在原業平と伊勢物語』(2026年2月21日~4月5日) 2025年が在原業平(825-880)の生誕1200年にあたることにちなみ、業平と『伊勢物語』を題材に生み出された絵画・工芸等の作品を集め、そのイメージの広がりの豊かさと、造形の魅力を探る。東京では、昨年秋にも根津美術館で『伊勢物語』展が開催されたばかりだが、私は王朝物語の中で『伊勢物語』がダントツに好きなので、同じテーマの展覧会が何回あっても差し支えない。しかも本展のサイトをチェックしたら、和泉市久保惣記念美術館の『伊勢物語絵巻』(第4段:西の対)が出ている(2/21~3/15)と分かって…
〇和田静香『中高年シングル女性:ひとりで暮らすわたしたちのこと』(岩波新書) 岩波書店 2025.12 著者は「中高年シングル女性」の当事者だというが、私もそうである。なので以前から、このカテゴリーについて書かれたルポや評論は、わりあい気にして目を通してきた。古くは酒井順子氏の『子の無い人生』とか、飯島裕子氏の『ルポ貧困女子』とか。しかし、過去の著作が、20~30代、せいぜい40代の単身女性を論じていたのに対して、2020年以降、より高齢のシングル女性に注目が集まっているという。 本書は「中高年シングル女性」を、同居する配偶者やパートナーがいない40歳以上の単身女性(独身、離婚、死別、非婚/未…
2月は出張が2回入り、そのあと、久しぶりに本格的な風邪をひいて悩んでいたら、あっという前に月末になってしまった。明日から今年度の最後の1か月に突入である。 風邪はほぼ治ったので、溜まっていた記事を少しずつ書いていきたい。しかし4月からは、いろいろ生活を変えるつもりなのに、不確定要素が多くて落ち着かない状況である。 とりあえず、ほどほどにお酒は飲んでいる。先日、サービスで試飲させてもらった金亀の梅酒、美味しかった!
〇鎌倉歴史文化交流館 企画展・没後800年『北条政子-鎌倉を生きた女性たち-』(2025年12月13日~2026年2月28日) この展覧会が見たかったので、久しぶりに鎌倉に行ってきた。1225年(嘉禄元年)7月11日、北条政子が69歳でその生涯を閉じてから800年を記念する企画展。北条時政の長女として伊豆国に生まれた政子は、流人・頼朝と出会い、やがて将軍の御台所となる。頼朝の死後は「後家」(家長権の代行者)として幕府を支え、3代将軍実朝の死後は「尼将軍」として動乱の鎌倉を導いていく。 本展は、政子が実際に何をおこなったかという事実とともに、同時代の人々がそれをどう見ていたか、後世の評価がどのよ…
金沢という町には、ほとんど縁がなかったのだが、この数年、仕事の関係で年1~2回訪問する機会が続いている。とにかく食べるものにハズレがない。初日は、金沢駅の「加賀白山そば」で軽めの昼食。前回は能登牛コロッケそばだったので、今回は白えびかきあげそばとお稲荷さん。人気店なので行列ができていたが、回転が早いのですぐ入れた。 そして近江町市場近くの貸し会議室へ。ちょっと時間があったので、市場の中をうろうろしてみる。人目が集まるのは大きなカニだが、 私は、むしろ八百屋の店先が彩り豊かで気になる。源助大根は石川県金沢市の伝統野菜「加賀野菜」の一つだそうだ。東京では見たことがない。 初日の夜は、金沢の皆さんの…
〇川戸貴史『商人の戦国時代』(ちくま新書) 筑摩書房 2025.8 戦国時代史はあまり得意でないのだが、本書は面白かった。気になる記述のページを折っていたら、折り込みだらけになってしまった。本書は戦国時代の経済活動、特に商人の活動に注目する。中央権力が衰退し社会秩序が動揺した時代だからこそ、新たな「自由」を求める人々の活動が活発化した。しかし中世の旧秩序が完全に崩壊したわけではなく、両者のせめぎ合いが展開した。 旧秩序の代表が「座」と呼ばれた特権的商人集団で(ただし「座」の定義は、近年見直しが進んでいるという)、中世的な文書主義・先例主義に基づき「商売道の古実」を主張して、既得権益を確保してい…
〇ドラマ2003年版『射鵰英雄伝』第1話~第3話(新文芸座) 肖戦主演『射鵰英雄伝:侠之大者』(2025年)の日本公開を記念して、2003年版ドラマの第1話~3話を映画館で上映するという、1回限りの企画の話を聞いて見てきた。客席は4~5割の入りだったけれど、最後に拍手が起きたりして、私のほかにもこの作品が好きな人がいるんだなあと嬉しく思った。 2003年版または張P版と呼ばれるドラマ『射鵰英雄伝』は、金庸の武侠小説を次々にドラマ化していた張紀中氏がプロデューサーをつとめた作品。中華圏で爆発的なヒットとなっただけでなく、日本にも輸入されて多くのファンを獲得した。私は、当時、スカパー(専用アンテナ…
朝起きてカーテンを開けたら雪景色だったので、びっくりした。地方暮らしから東京に戻ってきて10年近くなるが、これだけ見事な雪景色を見たのは初めてだと思う。 しかし今日は衆議院選挙の投票に行かなければならないし、雪景色の写真も撮りたかったので、勅食後、早々に出かけることにした。10年くらい前に札幌で買ったダウンコートを引っ張り出す。断熱効果がありすぎて、ふだん東京で着るには不向きだが、こういう天気には最適なのである。 富岡八幡宮の境内。伊能忠敬像も雪を被っていた。 清澄白河の霊巌寺。松平定信の墓所。 霊巌寺の寺紋は「丸に三階松」なのだな。雪を被って、雪持ち松になっていた。 ところで、深川不動尊参道…
〇五島美術館 館蔵『茶道具取合せ展』(2025年12月16日~2026年2月11日) 毎年この時期に開催される同館の館蔵・茶道具取合せ展。最後に見たのが2023年だから、3年ぶりに見に行った。冒頭の単立ケースに展示されていたのは、『井戸茶碗(美濃)』と『粉引酢次茶碗(呉竹)』。前者は標準的な茶碗より、高台が細くて高い感じがした。後者は歪みが大きくて、見る角度によって印象が大きく変わる。どちらも渋い。 壁に沿った展示ケースは書跡の軸から始まっていた。武野紹鴎の消息は、墨の濃淡が明快かつリズミカルで気持ちいい。隣りは豊臣秀吉のお祢宛の消息。紹鷗の筆跡が左へ傾く癖があるのに対して、秀吉は右に傾いてい…
見に行った展覧会が溜まってきたので棚下ろし。 ■千葉市美術館 企画展・開館30周年・千葉開府900年記念『千葉美術散歩』(2025年11月1日~2026年1月8日) 千葉市美術館が在る千葉という「場」をテーマとした展覧会。よく分からずに行ったのだが、大変おもしろかった。ジョルジュ・ビゴーの描いた稲毛の海岸、県庁や図書館、千葉寺など、描かれた千葉の風景だけでなく、戦前、旧制千葉中学校で行われた洋画教育とそこから巣立った画家たち、戦後のアートシーンの拠点となった画廊や美術家グループなど、知らなった歴史をたくさん学んだ。県立千葉高校には美術館(記念館)があり、本展に明治~昭和期の作品28点を出品して…
〇泉屋博古館東京 『生誕151年からの鹿子木孟郎(カノコギ タケシロウ):不倒の油画道』(2026年1月17日~4月5日) 近代の日本洋画に本格的な「写実」表現をもたらした鹿子木孟郎(1874-1941)の足跡をたどる特別展。なぜ切りのいい生誕150年記念でなかったのかはよく分からない。本展のキャッチコピーは「写実絵画をもう一度」だが、私は明治~昭和前期の写実絵画が大好きなので、願ったり叶ったりの展覧会だった。鹿子木の名前は、2022年に泉屋博古館東京のリニューアルオープン記念展で『加茂の競馬』を見てから強く意識するようになった。 鹿子木は現在の岡山市生まれで、松原三五郎(1864-1946)…
〇『大生意人』全40集(愛奇藝、2025年) 清朝末年、古平原は徽州(安徽省)の農家の倅だったが、科挙を受けるために上京した際、古平原の名前を呼ばわり「母親が病気だ!」と告げる声を聞いて取り乱し、試験会場を騒がせてしまう。その罪により、極寒の流刑地・寧古塔に送られて、5年が過ぎていた。 寧古塔を統括するのは、荒くれ者の徐管帯。古平原は、その才覚を重宝がられて、徐管帯の下で使い走りをしながら、脱走の機会をうかがっていた。そして、ついに実行に移す。追って来た徐管帯から古平原を救ったのは、寧古塔に馬の買い付けに来ていた山西商人の常四爺。瀕死の古平原は、常四爺の娘の常玉児の看病で命を取り留め、彼らの本…
〇永青文庫 早春展『アジアの仏たち-永青文庫の東洋彫刻コレクション-』(2026年1月17日~3月29日) 永青文庫の設立者である細川護立が蒐集した中国彫刻、インド彫刻を7年ぶりに転換するという。7年前、2019年の展覧会『石からうまれた仏たち』はもちろん見ている。今季の展覧会を見てきたあとで、7年前のレポートを読むと、当たり前だが、だいたい同じ作品が同じように展示されていることが分かる。 4階の大展示室はインドの神々から。実は、同館がこんなにインド彫刻を持っていることをすっかり忘れていて、新鮮な気持ちで眺めた。同館コレクションは、ポスト・グプタ朝からパーラ朝(7~12世紀)に東インドで制作さ…
〇静嘉堂文庫美術館 『たたかう仏像』(2026年1月2日~3月22日) 静嘉堂文庫所蔵の「たたかう仏像」といえば、浄瑠璃寺旧蔵の十二神将立像である。本展では、その十二神将が久しぶりに展示されると聞いたので楽しみにしていた。しかしポスターなどのメインビジュアルになっている塑像は、なんだか違う。開催趣旨をよく読んだら、十二神将立像とあわせて、神将像の鎧のルーツである中国・唐時代の神将俑を丸の内で初公開するとあった。明器(副葬品)である神将俑を「たたかう仏像」の仲間にするのは無理があるんじゃないか?という思いが頭をかすめたが、深くは拘らないことにした。 展示は絵画資料から始まり、中国の神将像・鎮墓獣…
門前仲町で暮らし始めて、そろそろ9年になる。春夏秋冬お世話になっている和菓子屋の深川伊勢屋さん(本店)が、建て替え工事のため2月6日で営業を終了し、2月16日から少し離れた仮店舗で営業することになった。 そろそろ現店舗は最後になるかもしれないと思ったので、お茶をしに行ってきた。あんみつと迷ったのだが、久しぶりにちょこパフェ。アイスクリームたっぷりで、あまりお洒落でない、なつかしい見栄えが好き。 お会計のとき、仮店舗の案内と、仮店舗で使える100円クーポン券を渡された。よく見たら1回1,000円以上のお会計に使用可とあったので、伊勢屋さんでそんなに使わないなあと思ったけれど、ランチ営業を続けてく…
〇日本民藝館 『抽象美と柳宗悦』(2026年1月6日~3月10日) 柳宗悦(1889-1961)の晩年にあたる1950年代は、日本の美術界で抽象美術が大きな注目を集めた。柳も抽象美についての論考を発表し、雑誌『民藝』での抽象紋特集に発展した。本展は、特集に掲載された抽象紋の工芸を軸に構成し、柳が見た「抽象美」とは何かを探る。 ということなのだが、テーマは「抽象美」と思って、身構えて入っていくと、玄関ホールにおなじみ、『開通褒斜道刻石(かいつうほうやどうこくせき)』の拓本が展示されていたりする(左幅のみ?)。意味ある文章を刻んだ碑文の拓本なのだが、独特の字体で、しかもかなり摩滅しているため、抽象…
〇根津美術館 企画展『綾錦(あやにしき):近代西陣が認めた染織の美』(2025年12月20日〜2026年2月1日) 同館コレクションから、能装束や古更紗など、近代の西陣で認められた染織の粋を展観する。根津美術館では数年に1回くらいのペースで染織をテーマにした企画展を開催しており、あまりこの分野が得意でない私も、だんだん楽しみ方が分かってきた。 今回、会場には染織工芸品のほかに『綾錦』という冊子が展示されていた。これは、かつて西陣織物館(現・京都市考古資料館)が10年にわたって開催した展覧会の中から、特に優れた作品を選定して出版した染織図案集だという。図案が版画で再現されているのだが、え?紙?こ…
〇大谷亨『中国TikTok民俗学:スマホからはじまる珍神探訪』(NHK出版新書) NHK出版 2025.12 本書の冒頭にある自己紹介によれば、著者は厦門に暮らす日曜民俗学者で、日本語教師のかたわら、休みになれば各地へフィールドワークに出かけ、「民間信仰」の調査に取り組んでいるという。いや、分かりやすいけど、ふつうに中国民俗学の研究者を名乗っていいのではないかと思う。ただしその研究スタイルは、前世代の民俗学者とは、かなり異なっている。著者が活用するのは、ショート動画の投稿サイトである中国版TikTok(=抖音 Douyin)。そこには、農村の奇祭や旅芸人の記録など「仮に柳田国男が見たとしても大…
〇中條献『アメリカ史とレイシズム』(岩波新書) 岩波書店 2025.10 読み終えたあと、すぐに感想を書きたい本もあれば、書きたくない本もある。これは完全に後者だった。本書は、アメリカという国家を「セトラー・コロニアリズム」に基づく社会と定義し、その歴史を検証する。一般的なコロニアリズム(植民地主義)の支配においては、植民地が独立国家となることで、支配されてきた人々が基本的な主権を回復できるが、セトラー・コロニアリズムでは、セトラー(入植者)が創設した国家のもとで支配と排除が継続する。誠に厄介な話である。 15世紀末、コロンブスのアメリカ到達に続き、ヨーロッパは、南北アメリカ、続いてアフリカを…
極上上吉の1年間/2025大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』
〇NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺(つたじゅうえいがのゆめばなし)~』全48回 私がこのブログで大河ドラマについて書くのは、2017年の『おんな城主直虎』以来、8年ぶりである。この間、楽しんだ作品はいくつかあるが、作品との出会いを書き残しておきたいと思うほどではなかった。森下佳子さんの脚本は、ファンから「鬼」と呼ばれるほど情緒を揺さぶられるのだが、その背後には、資料や情報を読み込んだ上での知的な構成があって、そこが私の好みに合うのだと思う。 制作発表があったのは2023年4月だというが、正直ピンと来なかった。主人公の蔦重こと蔦屋重三郎(1750-1797)の名前は知っていたが、私は、…
福富コレクションの名品/LOVE いとおしい…っ!(山種美術館)
〇山種美術館『LOVE いとおしい…っ!』(2025年12月6日~2026年2月6日) 恋人同士の燃え上がるような愛、親子や夫婦など家族への愛、生まれ育った故郷への愛、身近な動物への慈しみの愛など、さまざまな愛のかたちを描いた日本の近代・現代絵画を中心に取り上げ、紹介する特別展。年末の12月21日に山下裕二先生の講演会『描かれた愛-鏑木清方、北野恒富を中心に』 を聞いたのだが、このときは展覧会を参観するヒマがなく、年が明けてから、あらためて見て来た。本展の見ものは何と言っても、福富太郎コレクション資料室の名品、鏑木清方『薄雪』、北野恒富『道行』、池田輝方『お夏狂乱』の出品だろう。山下先生の講演…
〇板橋区立美術館 戦後80年『戦争と子どもたち』(2025年11月8日~2026年1月12に日) 戦時中から終戦直後にかけて制作された、子どもを主題とする作品や、子どもたちに向けた絵本、教科書、紙芝居などの大人が提供した印刷物、さらには子どもたち自身が戦時下に描いた作品を紹介し、これらの「子ども」をめぐる美術を、その時代背景とともに読み解くことで、激動の時代に美術家たちが子どもたちに向けていた眼差しとはどのようなものであったのかを検証する。 年末に山種美術館で開催中の『LOVE いとおしい…っ!』のイベントで、山下裕二先生のお話を聞く機会があった。鏑木清方、北野恒富など、展覧会に関連する作家、…
年末の台湾旅行のレポートを書き終えたので、ようやく今年の話題に移る。今年も1月3日に正月特別開館の深川江戸資料館で獅子舞を見て来た。今年も、まずは再現された江戸の街並みを訪ね回ったあと、火の見櫓前で、立ったり座ったり倒立したりのパフォーマンスを演じる。どこかの家のお座敷に通された想定だ。 その後、テンポのいい砂村囃子に乗せて、カチカチ歯を打ち合わせて、観客(特に子供)の頭を嚙む仕草を見せる。本気で怖がって泣き出す子供がいるのが、可哀そうだけど微笑ましい。 今年は資料館の隣の霊巌寺にも立ち寄った。ここに松平定信の墓所があることは、以前から知っていたが、あまり親しみを感じる人物ではなかったし、霊巌…
12月27日から29日まで、2泊3日の台湾旅行に行ってきた。2025年は故宮博物院が開館100周年に当たるため『甲子万年』と題した超ド級の特別展が開催されると分かったのは10月初め。特別展は台北の故宮本館と、嘉義の故宮南院の両方で同時開催され、南院には北宋の巨幅山水画3幅が出るという。これは見たい、と思ったものの、この秋は仕事が多忙で、なかなか休みが取れなかった。なんとか年末に…と思っていたら、最終勤務日の12月26日にも広島出張が入ってしまった。 年末はもう無理?と思って調べたら、台北故宮の特別展は1月4日までやっている。ふむ、では年初に行くか、とも思ったのだが、南院の「神品」北宋山水画の展…
2泊3日の台湾旅行はあっという間に最終日。朝食後、ホテルをチェックアウトする。これは玄関ロビーのクリスマスツリー(鏡に私の姿が映っていたのはAIで補正した)。 大した荷物はないので、そのまま故宮博物院(本館)に直行。最終日は3日間でいちばん天気がよかった。この日(12月29日)は月曜で、本来なら休館日だが、特別開館日に当たることを事前にチェックしていた。 9:00の開館と同時に展示エリアに入館。滞在可能時間が3時間弱しかないので、今回は見たい展示室だけをピックアップする作戦である。 【105, 107】「甲子万年:国立故宮博物院開館100年記念特別展」(2025年10月10日~2026年1月4…
初訪問の故宮博物院南院の続き。S203室の北宋山水画を見たあとは、3階の入口に戻って順番に見ていくことにした。 【S301】「導覧大庁」 【S302】「甲子万年:国立故宮博物院開館100年記念特別展」 故宮博物院の選りすぐりの名品を展示する「甲子万年」展、南院で展示されているのは北宋山水画だけではなかった。『眉山蘇氏三世遺翰』は、蘇軾、父の蘇洵、弟の蘇轍、息子の蘇過の手稿を集めたもの。これは蘇軾。 汝窯の青磁水仙盆をはじめ、陶磁器の優品も見ることができた。 ちなみに『眉山蘇氏三世遺翰』は1月13日までで、その後3月までは、顔真卿の『祭姪文稿』が展示されるらしい。うわああ…見に行きたい…。 【S…
台湾旅行2025年末【2日目その1】故宮博物院南院(北宋山水画)
2日目は、故宮南院の「甲子万年」展、とりわけ、この日が展示最終日となる北宋山水画の「神品」を見るため、嘉義へ向かう。台北駅8:21発の高速鉄道で1時間半ほどの快適な列車旅を楽しみ、嘉義駅に到着した。空港のように広くて未来的な駅でびっくりしたが、外に出ると、バス案内(客引き?)のおばちゃんやお兄さんが待っていて、のんびりした雰囲気だった。毎時30分発のBRT7212系統に乗車。接続が悪くて40分くらい待ってしまったが、混んでいると乗れない場合もある(別の系統に案内されていた)ので、早めに並んで正解だったかもしれない。 10分ほどで故宮南院に到着。しかしバス停で下りても、どっちにいけばいいのか全く…
初日続き。中正紀念堂を出て、徒歩で国立台湾博物館に向かう。2020年の正月に来て以来なので6年ぶりになる。前回のレポートには「もっぱら建築意匠に注目」と書き残しているが、歴史系と自然科学系の融合した博物館で、展示もけっこう面白かったことを覚えている。2月の台湾旅行では立ち寄れなかったので、今回はぜひ再訪したいと思っていた。 小雨がちの曇り空だったが、土曜の午後ということで、国内外からの参観客で賑わっていた。入場券売り場で「65歳以上は割引になる。シニアか?」と聞かれた。お~そうか、2月の台湾旅行ではまだ対象外だったが、その後シニアになったので「イエス」と答えると、特に証明書の提示を求めもせず、…
早朝5時、暗いうちに家を出て羽田空港に向かう。もう少し遅い時間の出発でもよかったのだが、ぎりぎりに決めたので、フライトを選べなかった。10か月ぶりの松山空港に到着。ちょっときれいになっている?と思ったら、2025年10月に展望デッキなどのリニューアルが完成したそうだ。中山駅近くのホテルに荷物を置いてフリーになったのが12時過ぎ。機内食でお腹はふくれているので、このまま観光に出かけることにする。 今回、台北の街歩きができるのは初日のみなので迷ったが、最近、家近亮子氏の『蒋介石』を読んだこともあって、中正紀念堂を訪ねることにする。前回見学したのは2020年頃だったかな?とぼんやり記憶を探っていたの…
ブログ内を検索したら、クリスマスケーキの投稿をしたのは、札幌にいたときとつくばにいたときで、東京に引っ越してからは一度も投稿していなかった。 今年は「江東区お買い物券」が余っていたこともあって、昨日は在宅勤務の昼休みに、近所のケーキ屋さんで、自分のためのケーキを買ってきた。 「パティスリーアッケ」と言って、店の名前はご主人の出身地、北海道厚岸町にちなむのだという。北海道、2年しか暮らしていないが、第二のふるさとみたいに思っているので懐かしい。 明日は仕事納めだが、広島へ日帰り出張。泊まってきてもよかったのだが、なぜ日帰りにしたかというと、明後日から2泊3日で年末台湾旅行に出かけるためである。年…
〇弥生美術館 生誕120周年記念『伊藤彦造展~美剣士の血とエロティシズム~』(2025年9月20日~12月21日) 最後の週末に滑り込みで見てきたもの。伊藤彦造(1904-2004)は、大正末期にデビューし、昭和40年代まで活躍した挿絵画家である。いま、この紹介を展覧会の公式サイトからコピペしてきて、2004年までご存命だったのか!と驚いてしまった。伊藤彦造の名前と作品は、弥生美術館や野間記念館の展覧会で時折、見かけていて、ずっと気になる画家ではあった。弥生美術館は、過去にも6回、伊藤彦造展を開催したことがあるそうで、過去のポスター3点も展示されていたが、私はどれも見ておらず、まとまった数の作…
今年の大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺(つたじゅうえいがのゆめばなし)〜』を1年間楽しませてもらった。序盤からずっと面白くて、台東区民会館にできたという大河ドラマ館にいつ行こうか、迷っていたのだが、夏が暑すぎたり、秋以降仕事が忙しかったりして、結局、最終回を見届けたあとの先週末になってしまった。ちなみに私が大河ドラマ館を訪ねるのは、2017年の『おんな城主直虎』が初めて、2022年の『鎌倉殿の13人』が2回目、今回が3回目である。撮影できる展示物が多かったので、ばしばし写真を撮らせてもらった。ありがた山! 今作の好きなところはたくさんあるが、登場人物(特に男性)の衣装に味があって、とてもよ…
〇『唐朝詭事録之長安』全40集(愛奇藝、2025年) 人気シリーズの第3季。今季も面白かった! 老獪な頭脳派の蘇無名と、頑固な武闘派青年・盧凌風のバディを中心に、おなじみの仲間たちが、さまざまな怪事件を解決していく。今季は「康国的金桃」「成仏寺的哭声」「白澤的蹤跡」「諾皐記」「旗亭画壁」「去天尺五」「借齢者」「盛世馬球」の8つのエピソードで構成されている。 「康国的金桃」:盧凌風一行は、長安への帰途、西域の康国(サマルカンド)から献上された金桃を移送してくる。皇帝は金桃を臣下に分け与えるための祝宴を開くが、謎の怪鳥が飛来し、金桃を食べた人間を襲う。金吾衛大将軍の陸仝は片目を失い、長公主の護衛だ…
〇『羅小黒戦記2(ロシャオヘイせんき2):ぼくらが望む未来』(2025年) 2019年に公開された中国アニメ映画『羅小黒戦記』の第2作である。お?続編が制作されたんだ?と思ってぼんやりしていたら、日本のアニメ・映画ファンの「面白い」「素晴らしい」「大好き」という声が次々にSNSに流れてくるので、慌てて見てきた。かなり期待度を上げて見に行ったのだが、それを余裕で上回って面白かった(見たのは字幕版)。 作品世界には、人間のほかにたくさんの妖精が住んでいる。両者はこれまで平和的に共存してきたが、あるとき、妖精たちの拠点の1つ・流石会館が襲撃され、「若木」という秘宝が持ち去られる。若木は太古から受け継…
〇荏原畠山美術館 新館開館1周年記念『「数寄者」の現代-即翁と杉本博司、その伝統と創造』(2025年10月4日~12月14日) 冷たい雨の中、最終日に駆け込みで見てきた展覧会。現代の「数寄者」とも呼ぶべき美術作家・杉本博司の作品と同館コレクションとのセッションをとおして、数寄の精神と茶の美を問う。なぜ杉本博司?と思ったら、荏原畠山美術館新館の基本設計を担当したのは、杉本氏が主宰する新素材研究所なのだそうだ。 第1展示室は畠山即翁のコレクションから、1954年冬の「新築披きの連会」の茶道具を中心に展示する。これが大変よかった。私はむかし、茶の湯というのは女性の嗜みだと思っていたが、徐々に、むしろ…
〇田所昌幸『世界秩序:グローバル化の夢と挫折』(中公新書) 中央公論新社 2025.9 子供の頃からなんとなく、世界は試行錯誤しつつも望ましい方向に進んでいくように思ってきたのだが、この10年くらい、期待が裏切られることが多くて、悲観的になっている。では、世界はこれからどうなっていくのか。本書は「グローバル化」(広域的秩序)をキーワードに人類の歴史を振り返り、来たるべき世界の可能性を考察する。 最初に紹介されるローマ帝国は、地中海沿岸に広域的秩序を打ち立てた。しかしオリエントにはペルシャ帝国があり、最盛期(紀元2世紀)を過ぎると、ゲルマン民族が大量に流入して帝国領内に独自の王国を作り、地中海世…