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  • 京都からパワーアップ/歌と物語の絵(泉屋博古館東京)

    〇泉屋博古館東京企画展『歌と物語の絵-雅やかなやまと絵の世界』(2024年6月1日~7月21日)泉屋博古館、今度はやまと絵か、楽しみだなあ~とわくわくしながら見に行った。第1展示室、『石山切(貫之集下)』は記憶になかったもの。私の好きな定信の筆だが、薄紫の料紙に折枝文と、薄茶の料紙に飛鳥文がにぎやかすぎて、文字が読みにくいのが残念。『上畳本三十六歌仙絵切・藤原兼輔』の解説には「紫式部の曽祖父」の注記つき。まあそうだけど。よく肥えていて、首がない。続いて、松花堂昭乗の『三十六歌仙書画帖』(近世らしく親しみやすい風貌)と『扇面歌・農村風俗図屏風』を見て、あれ?と思った。この展覧会、2023年7月に京都の泉屋博古館で開催された同名の展覧会の巡回展(?)だったのである。まるで忘れていた。ただし、いま京都の展示リス...京都からパワーアップ/歌と物語の絵(泉屋博古館東京)

  • 「面白い」を追いかける/老後は上機嫌(池田清彦、南伸坊)

    〇池田清彦、南伸坊『老後は上機嫌』(ちくま新書)筑摩書房2024.6生物学者の池田清彦先生とイラストレーターの南伸坊氏の語り下ろし(おそらく)の対談。私は南伸坊さんの著作は、もう30年以上愛読しているが、池田清彦さんのことは初めて知った。生物学だけでなく、進化論、科学論、環境問題、脳科学などを論じた著作が多数あり、昆虫採集マニアでもあるという。お二人は1947年生まれの同学年で、今年76歳になる。老人どうしの対談だが、若い者や最近の世相にあまり怒っていないのがいい。他人と違っても、自分の好きなもの、「面白い」と思うものを追い続けていると、こうなるのかもしれない。実は、書店で試し読みをしているとき、南伸坊氏が澁澤龍彦について語っている箇所に行きあたって、本書を買うことに決めた。南さんは、高校生の頃、印象派の...「面白い」を追いかける/老後は上機嫌(池田清彦、南伸坊)

  • 解体される民主主義/「モディ化」するインド(湊一樹)

    〇湊一樹『「モディ化」するインド:大国幻想が生み出した権威主義』(中公選書)中央公論新社2024.5インドについては、ほとんど何も知らない自覚があったので、最近、近藤正規さんの『インド:グローバル・サウスの超大国』(中公新書、2023.9)を読んでみたばかりである。同書は、現在のインドの強み・急成長の理由を解き明かしつつ、山積する政治・社会問題の数々も指摘していた。ちょっとインドに(怖いもの見たさの)興味が湧いたところで、本書の存在がネットで話題になっていたので読んでみた。タイトルからも分かるとおり、本書はインドの「問題局面」にテーマを絞っている。「世界最大の民主主義国」と呼ばれてきたインドは、モディ政権のもとで、急速に権威主義化している。スウェーデンの民主主義の多様性(V-Dem)研究所は、2020年3...解体される民主主義/「モディ化」するインド(湊一樹)

  • 落川・浄光寺の十一面観音立像とギャラリートーク(東京長浜観音堂)

    〇東京長浜観音堂『十一面観音立像、薬師如来立像、阿弥陀如来立像(高月町落川・浄光寺)』(2024年5月18日~6月16日)令和6年度第1回展示の十一面観音立像を見てきた。一回り小さな薬師如来立像と、さらに小さな阿弥陀如来立像という、あまりない三尊形式だった。お寺の名前だけでは気がつかなかったが、お顔を見て、あ、これは!と思った。昨年、「観音の里ふるさとまつり」のバスツアーで拝観させていただいた観音様である。解説に「肉身部には肌色を塗り」とあるけれど、胡粉に朱でも混ぜているのだろうか。眉・目・髭を墨で描き入れ、唇は赤く、童子のような愛らしさがある。薬師如来と阿弥陀如来も黒目と髭が描き加えられており、生き生きと親しみやすい表情をしている。十一面の頭上面もなかなかよい。6月8日は、高月観音の里歴史民俗資料館の学...落川・浄光寺の十一面観音立像とギャラリートーク(東京長浜観音堂)

  • ひとつとや~で始まる/古美術かぞえうた(根津美術館)

    〇根津美術館企画展『古美術かぞえうた名前に数字がある作品』(2024年6月1日~7月15日)かぞえうたのように数字をたどりながら、気軽に楽しく鑑賞できる古美術入門編。近年、同館は、さまざまなかたちで古美術の魅力を紹介する展覧会を開催しているが、これはまた新機軸である。はじめは「姿や技法を示す数字」で陶磁器や漆工・金工が中心。『青磁一葉香合』に始まり、名前に含まれる数字が徐々に大きくなっていく。『染付二匹鯉香合』は、青色で鱗を描かれた鯉と白い鯉が上下にくっついているのだが、一瞬、腹のふくれたフグかと思った。『青磁三閑人蓋置』は、三人が外側を向いて背中合わせに手をつないでいるのが不思議。画像検索すると、外向きが一般的だが、例外的に内向きの三閑人もあるようだ。三角香炉→四方鉢→六角水注→八角鉢…と、角(かど)を...ひとつとや~で始まる/古美術かぞえうた(根津美術館)

  • 2024年6月パレスチナ・デー@東京ジャーミー

    代々木上原のモスク「東京ジャーミー」で開催された「パレスチナ・デー」に行ってきた。昨年12月に初めて参加して、珍しいパンやお菓子をGETできたので、またやらないかな~と思ってチェックしてみたら、今日6月8日(土)開催と分かったので、さっそく行ってきた。前回は行ったのが遅い時間で、売りものがあらかた捌けていて残念だったので、今回はお昼前に到着した。1階のバザーで食べものばかり購入。下段の大きなチーズパン(バジル入り)は、家に帰ってから今日のお昼にしたが、食べ応えがあった。上段左の肉まんを売っていたのはマレーシアの女性たちだったかな。ロビーではパレスチナに関する簡単な解説ツアーをやっていて、若者がたくさん耳を傾けていてよかった。前回は1階を見ただけで帰ってしまったのだが、あとで2階のベランダにもお店が出ていた...2024年6月パレスチナ・デー@東京ジャーミー

  • 金融業界の謀略戦/中華ドラマ『城中之城』

    〇『城中之城』全40集(中央広播電視総台、愛奇藝他、2024年)見たいドラマが少し途切れていたので、豪華な配役に惹かれて本作を見始めた。上海の陸家嘴金融貿易区という「金融城」を舞台に、銀行、証券、信託、投資、不動産等に関わる人々を描いたドラマである。陶無忌は、程家元ら同期とともに深茂銀行に入社し、銀行員生活のスタートを切った。彼の憧れは、同行副支配人の趙輝だった。就職活動中の恋人・田暁慧とともに、早くお金を稼いで家を買い、結婚することが目下の目標だった。突然、深茂銀行上海支店支配人の戴其業が、不慮の交通事故で亡くなった。葬儀で顔を合わせたのは、かつて大学で戴其業に金融学を学んだ四人の中年男性。四人のうち、趙輝、蘇見仁、苗彻の三人は、深茂銀行の同僚でもあった。出世頭は副支配人の趙輝だが、愛妻・李瑩を亡くして...金融業界の謀略戦/中華ドラマ『城中之城』

  • アイスショー"Fantasy on Ice 2024 幕張&愛知"

    ○FantasyonIce2023in幕張、初日(2024年5月24日17:00~)/in神戸、千秋楽(2024年6月2日13:00~、ライブヴューイング)アイスショーFaOI(ファンタジー・オン・アイス)、今年は久しぶりに幕張公演のチケットを取ることができた。調べたら、2019年、ゲストがToshl(龍玄とし)さんだったとき以来である。我が家からのアクセスもよいので、15時頃まで在宅で仕事をして、おもむろに幕張へ向かった。出演スケーターは、羽生結弦、ステファン・ランビエル、ハビエル・フェルナンデス、田中刑事、山本草太、アダム・シャオ・イムファ、デニス・バシリエフス、中田璃士、宮原知子、青木祐奈、上薗恋奈、パパシゼ(ガブリエラ・パパダキス&ギヨーム・シゼロン)、パイポ―(パイパー・ギレス&ポール・ポワリエ...アイスショー"FantasyonIce2024幕張&愛知"

  • 21世紀に続く戦後処理/日ソ戦争(麻田雅文)

    〇麻田雅文『日ソ戦争:帝国日本最後の戦い』(中公新書)中央公論新社2024.4日ソ戦争とは、1945年8月8日から9月上旬まで満州・朝鮮半島・南樺太・千島列島で行われた第二次世界大戦最後の全面戦争である。日本の敗戦を決定づけただけでなく、東アジアの戦後に大きな影響を与えた戦争であるにもかかわらず、実は正式な名称すらない。確かに「日ソ戦争」という名前は初めて聞いたような気がする。はじめに日ソ開戦までの各国の思惑を概観する。アメリカはソ連の参戦を強く望んでいた。スターリンは、ドイツを倒したら対日戦線に加わるとほのめかすことで、米英を対独戦に集中させた。そして、いよいよドイツ軍の主力が壊滅すると、ヤルタ会談においてソ連の参戦が確約される。ローズヴェルトがスターリンの参戦条件(戦後の利権)を飲んだのは、ソ連の参戦...21世紀に続く戦後処理/日ソ戦争(麻田雅文)

  • 訴訟社会の伝統/訟師の中国史(夫馬進)

    〇夫馬進『訟師の中国史:国家の鬼子と健訟』(筑摩選書)筑摩書房2024.4訟師とは、近代以前の中国で人々が訴訟しようとするとき、これを助けた者たちである。大半の読者にとって「訟師」とは初めて聞く言葉であろう、と著者は冒頭に述べている。確かに私も聞いた記憶がない。ただ、2023年制作の中国ドラマ『顕微鏡下的大明之絲絹案』(天地に問う)で程仁清という人物が「状師」を名乗っていたので、中国語のサイトで調べたら「状師。又称訟師」と出て来たことは記憶にあった。なので、実は本書を読みながら、ずっと脳内で訟師には程仁清(を演じた王陽)のイメージを当てていた。訟師の評判はよくない。真実を嘘とすり替え、無実の人に濡れ衣を着せ、必要のない訴訟を起こして大儲けをする社会のダニで、訴訟ゴロツキ(訟棍)とも呼ばれていた。しかし例外...訴訟社会の伝統/訟師の中国史(夫馬進)

  • 東京建築祭2024:丸の内+日本橋

    〇東京建築祭(2024年5月25日~5月26日)この週末、東京の多彩な建築を体験し、まちの魅力を再発見する「東京建築祭」が初めて開催された。うれしかったのは、有料のガイドツアーやイベントもあるが、25日・26日の週末には、多くの建築が無料・予約不要で特別公開されていたことである。私は25日(土)は大手町・丸の内・有楽町エリアを、26日(日)は日本橋・京橋エリアを歩いてみた。・25日:東京ステーションホテル~明治生命館~新東京ビルヂング~国際ビルヂング~堀ビル「特別公開」と言っても、一部区画のみのアッサリした公開もあるのだが、明治生命館は、資料・展示室もあり、会議室、執務室、応接室など文化的価値の高い主要室をじっくり見学させてくれた。実はふだんから土日に公開されていることを初めて知った。このエリアは美術館め...東京建築祭2024:丸の内+日本橋

  • 2024年5月関西旅行:日本の仮面(国立民族学博物館)他

    ■国立民族学博物館みんぱく創設50周年記念特別展『日本の仮面-芸能と祭りの世界』(2024年3月28日〜6月11日)関西旅行最終日は朝から万博記念公園へ。早めに着いたので「平和のバラ園」で色とりどりのバラを眺めてなごみ、開館時間と同時に特別展示館へ入場する。本展示では、仮面の役の登場が印象的な各地の芸能や祭りの様相を中心に、あわせて仮面の歴史、仮面と人間の関係などを紹介し、仮面と人々の多様なかかわりについて考える。1974年に創設された民博だが、東京在住の私が初めて参観したのは、1990年の『赤道アフリカの仮面』展ではなかったかと思う。以来、民博と言えば仮面、の印象がある。今回は日本の仮面なので、アフリカや東南アジアの仮面のような、解釈不能のインパクトはないかな、と思いながら見ていった。伎楽、能楽、神楽な...2024年5月関西旅行:日本の仮面(国立民族学博物館)他

  • 2024年5月関西旅行:空海(奈良国立博物館)

    〇奈良国立博物館生誕1250年記念特別展『空海KUKAI-密教のルーツとマンダラ世界』(2024年4月13日~6月9日)ホームページの開催趣旨は「空海の生誕1250年を記念して、奈良国立博物館の総力を挙げた展覧会を開催します」という宣言から始まる。え、奈良博がそこまで言い切る展覧会は珍しいのではないか。公式SNSも「かつてない空海展」を標榜し、見た人からは「すごい」「圧巻」「言葉にならない」という感想が次々に流れていたので、かなり期待を高めて見に行った。午前中は京博の『雪舟』を見て、昼食抜きで奈良へ移動。入館待ちだったら嫌だなあ、と思っていたが、並ばずに中に入れた。いつものように東新館の2階に上がって、展示室の入口を覗いたところで驚愕。いつもの展覧会では、ここに目隠しの壁があって、右方向の順路へ誘導される...2024年5月関西旅行:空海(奈良国立博物館)

  • 2024年5月関西旅行:雪舟伝説(京都国立博物館)

    〇京都国立博物館特別展『雪舟伝説-「画聖(カリスマ)」の誕生-』(2024年4月13日~5月26日)「※『雪舟展』ではありません!」というチラシの注意書きが話題を呼んでいるという記事を見た。そんな注意書きあったっけ?と思ったら、確かに裏面に書いてある。しかしオモテ面には平然と「みんなの憧れ、みんなのお手本」「大好き!雪舟先生!」とあるのだから、相変わらず京博の宣伝は巧い。本展は、主に近世における雪舟受容の様相を辿ることで「画聖」と仰がれる雪舟への評価がいかにして形成されてきたのかを検証する。雪舟の国宝6件(通期展示)を含め、雪舟筆/伝・雪舟筆作品が20件(展示替え有)、しかし本展の4分の3以上は、雪舟に影響を受けた後世の画家たちの作品で構成されているのだ。土曜の8:30頃に行ったら、入場待ち列がどんどん伸...2024年5月関西旅行:雪舟伝説(京都国立博物館)

  • 2024年5月関西旅行:龍谷ミュージアム、MIHOミュージアム、京都文博

    ■龍谷ミュージアム春季特別展『文明の十字路・バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰-ガンダーラから日本へ-』(2024年4月20日~6月16日)今年のゴールデンウィークは東京でじっとしていたので、そろそろ混雑の波も引いた頃かと思い、週末に金曜有休1日を足して、関西方面で遊んできた。初日は京都駅から、龍谷ミュージアムに直行。アフガニスタンのバーミヤン遺跡には多くの石窟と2体の大仏が残されていた。それらは2001年3月にイスラム原理主義組織・タリバンによって爆破されてしまったが、かつて日本の調査隊が撮影した写真や調査資料を基に、壁画の新たな描き起こし図が完成した。本展は、この新たな描き起こし図の完成を記念してその原図を展示し、中央アジアで発展した弥勒信仰が、東アジアへと伝わって多様な展開を遂げる様子を紹介する。『バ...2024年5月関西旅行:龍谷ミュージアム、MIHOミュージアム、京都文博

  • 2024万博記念公園・ローズフェスタ

    週末に有休1日を付けて、2泊3日で関西方面に出かけてきた。例によって、駆け足で滋賀~京都~奈良~大阪を大回り。今日は大阪の民博と大阪日本民芸館を見てきた。両館の間にあるのが「平和のバラ園」で、ちょうど花盛り!東京や横浜にもバラ園があるが、見たことのないような花の量に圧倒されてしまった。万博記念公園には何度も来ているのに、こんな場所があることを初めて知った。1970年の万博開催時、世界9か国から平和を願って贈られたレガシーのバラが発祥らしいのだが、ホームページに「2019年4月にリニューアルオープン」とあるのを見ると、整備されたのは最近なのかもしれない。バラ以外の植物もあり。小雨がぱらつく天気だったが、花は喜んでいたかも。「ローズフェスタ」は6月初旬まで続くそうだ。訪ねたところの記事は、これから少しずつ。2024万博記念公園・ローズフェスタ

  • 休館カウントダウン/復刻開館記念展(出光美術館)

    〇出光美術館出光美術館の軌跡ここから、さきへI『復刻開館記念展仙厓・古唐津・オリエント』(2024年4月23日~5月19日)冒頭の掲示を読んで、え!と衝撃を受けてしまった。特設サイト「出光美術館の軌跡ここから、さきへ」にも掲載されているとおり、「1966年秋、東京・丸の内の帝劇ビル9階に開館して以来、皆さまに親しまれてきた出光美術館は、ビルの建替計画に伴い、2024年12月をもって、しばらくのあいだ休館する運びとなりました」というのである。この特設サイトの公開は3月26日だが、全く気づいていなかった。同館は、今年4月から10月まで、美術館のこれまでの歩みを4つの展覧会に分けて振り返りながら、コレクションを代表する作品の数々を展示予定だという。本展は、1966年の開館記念展の出品作品と展示構成を意識しながら...休館カウントダウン/復刻開館記念展(出光美術館)

  • 2024年4-5月展覧会拾遺(その2)

    ■サントリー美術館コレクション展『名品ときたま迷品』(2024年4月17日~6月16日)「生活の中の美」を基本理念とするサントリー美術館コレクションの「メイヒン」を一堂に会し、さまざまな角度から多彩な魅力を紹介する。会場の冒頭に展示されているのは、本展のポスターにも写真が使われている『鞠・鞠挟』一組(江戸時代)。蹴鞠の鞠を漆塗の木枠に吊るしたものである。これは名品扱いか迷品扱いか不明だが、2019年の『遊びの流儀遊楽図の系譜』で見た記憶がある。『泰西王侯騎馬図屛風』(前期)『かるかや』『酒伝童子絵巻』など、屏風と絵巻は文句なしの名品揃い。光悦の『赤楽茶碗(銘:熟柿)』は、同館所蔵であることを忘れていたので、たじろいでしまった。和洋のガラス工芸も楽しかったが、薩摩切子には緑色が少ないという解説が気になった。...2024年4-5月展覧会拾遺(その2)

  • 2024年4-5月展覧会拾遺(その1)

    すっかり書き漏らしてしまったものも多いのだが、連休前後に行ったものを中心に。■根津美術館特別展『国宝・燕子花図屏風デザインの日本美術』(2024年4月13日〜5月12日)最終日の今日、ようやくチケットが取れて見て来た。恒例の国宝『燕子花屏風』の展示に加え、取り合わせにも選りすぐりの名品が並ぶ。伊年印『四季草花図屏風』はやっぱりいいなあ。草花の愛らしさ・美しさが完璧。ん?見慣れないものがある?と思ったのは『桜芥子図襖』(大田区龍子美術館)で、4面の金地襖の上半分は満開の桜の枝で覆われていいる。下半分には紅白の芥子のほか、アザミ、スミレ、タンポポなどの草花。伊年印、宗達工房の作品だが、川端龍子は妻子のための持仏堂と仏間の仕切りに用いていたそうだ。展示室5は「地球の裏側からこんにちは!-根津美術館のアンデス染織...2024年4-5月展覧会拾遺(その1)

  • 三味線の美音を浴びる/文楽・和田合戦女舞鶴、他

    〇シアター1010国立劇場令和6年5月文楽公演(2024年5月11日、11:00~)急に思い立って、5月文楽公演を見て来た。昨年10月末に国立劇場が休館になってから、東京の文楽公演は、さまざまな劇場を代替に使用している。今季は、昨年12月公演に続いて、シアター1010(せんじゅ)での開催。北千住駅前でとても便利な立地だった。1等席にあまりいい座席が残っていなかったので、2等席(2階の最後列)を取ってみた。視界はこんな感じ。文楽の舞台を「見下ろす」のは初体験で、どうなんだろう?と思ったが、音響は問題なかった。舞台の奥まで見えてしまう(舞台下駄を履いた人形遣いの足元とか、腰を下ろして待機している黒子さん)のは、もの珍しくて面白かったが、初心者にはあまりお勧めしない。ただ、舞台の上に表示される字幕が自然と視界に...三味線の美音を浴びる/文楽・和田合戦女舞鶴、他

  • これこそスタンダード/茶の湯の美学(三井記念美術館)

    〇三井記念美術館『茶の湯の美学-利休・織部・遠州の茶道具-』(2024年4月18日~6月16日)同館の「茶の湯」展覧会は、久しぶりのような気がして調べたら、2022年の『茶の湯の陶磁器~“景色”を愛でる~』以来、2年ぶりだった。大河ドラマ関連展や明治工芸もいいけれど、やっぱり、同館コレクションの深みと厚みを感じるには、スタンダードな「茶の湯」展が一番だと思う。本展は、利休・織部・遠州3人の美意識を、利休の「わび・さびの美」、織部の「破格の美」、遠州の「綺麗さび」と捉えて構成されている。展示室1の冒頭には、伝・利休所持『古銅桃底花入』。桃底(ももぞこ)は、細口で、耳がなく、高台がなく、畳付の部分が内側に丸く窪んだ、無紋のものをいうらしいが、ネットで検索した画像よりもずんぐりと小型で、首のまわりに簡素な雲紋が...これこそスタンダード/茶の湯の美学(三井記念美術館)

  • 民事警察の人びと/中華ドラマ『警察栄誉』

    〇『警察栄誉』全38集(愛奇藝他、2022年)中国の視聴者レビューサイト「豆瓣」で、2022年ドラマの最高得点を獲得した作品だが、なんとなく自分の好みでないような気がして手を出さずにいた。今年4月、『甘くないボクらの日常~警察栄誉~』のタイトルで日本向けのDVD-BOXが発売されたが、ラブコメ路線を想像させる宣伝ビジュアルに対して、いや、そういうドラマじゃないし、という不満のコメントをSNSで見かけた。それで、逆に興味が湧いて、視聴を始めたのである。舞台は架空の都市・平陵市(ロケ地は青島)、ほどほどに発展した地方の中級都市の設定である。八里河派出所に4人の新人警察官が実習生として配属された(日本でいう派出所より規模が大きく、食堂もあり、おそらく20~30人が勤務している)。王守一所長は、警察の伝統に従い、...民事警察の人びと/中華ドラマ『警察栄誉』

  • 地域の仏像、埴輪、近代洋画/令和6年新指定国宝・重要文化財(東京国立博物館)

    〇東京国立博物館・本館特別1-2室、11室特別企画『令和6年新指定国宝・重要文化財』(2024年4月23日~5月12日)連休の1日、特別展『法然と極楽浄土』を見ようと思って行ったのだが、会期の短いこの展示を優先することにした。「新指定国宝・重要文化財」の展示は、コロナ禍の近年、開催時期や展示室を変えていたが、以前の方式に戻ったようである(→令和5年の記事)。文化庁のホームページによれば、今年は、美術工芸品6件を国宝に、美術工芸品36件を重要文化財に、さらに1件の美術工芸品1件を登録有形文化財に登録することが、文化審議会から答申された(2024年3月15日)。本展は、この国宝・重要文化財指定予定品を紹介しるものである。本館1階、11室(彫刻)の入口に「令和6年新指定国宝・重要文化財」の大きな掲示が出ていたの...地域の仏像、埴輪、近代洋画/令和6年新指定国宝・重要文化財(東京国立博物館)

  • 蔵出し図録もお楽しみ/洋風画という風(板橋区立美術館)

    〇板橋区立美術館『歸空庵コレクションによる洋風画という風-近世絵画に根づいたエキゾチズムー』(2024年5月3日~6月16日)今日から始まった展覧会をさっそく見て来た。この春の板美は、いつもの江戸絵画ではなくて『シュルレアリスムと日本』展(2024年3月2日~4月14日)から始まったのだが、これは京都で見たので、東京展は見送ってしまった。さて本展は、歸空庵コレクションから選りすぐりの作品を展示し、近世絵画に新鮮な風を送り込み、これまでにない表現を切り拓いた洋風画の魅力に迫る。展示リストによれば、全73件のうち1件だけが板美の所蔵で、あとは歸空庵コレクション(同館寄託)である。うち19件は、新たに寄託されたものだという。私は何度も同館に通っているので、もちろん見たことのある作品が多かった。しかし滅多に見られ...蔵出し図録もお楽しみ/洋風画という風(板橋区立美術館)

  • 水道橋でイタリアンとワイン飲み放題

    今年の連休は遠出の予定が入っていないかわり、近場で友人と旧交を温めている。昨日はむかしの職場仲間と水道橋駅前の「ワイン処Oasi(オアジ)」へ。これまで和食ディナーを2回体験しているが、今回はイタリアンで3時間飲み放題つきのコースだった。自家製サングリア2種(赤と白)、ワイン、ワインカクテルなどをたっぷり楽しんだ。話題は「膝が痛い」「耳が遠くなった」「老後の生活資金をどうするか」など、完全に高齢者のお悩み談義。それでも趣味や推し活に励む余裕があるのは幸いである。5年後や10年後も、こうやって元気な仲間と楽しい時間を過ごせるといいなあ。水道橋でイタリアンとワイン飲み放題

  • 風俗画、肉筆浮世絵、春画まで/浮世絵の別嬪さん(大倉集古館)

    〇大倉集古館特別展『浮世絵の別嬪さん-歌麿、北斎が描いた春画とともに』(2024年4月9日~6月9日)本展は、いわゆる版画ではなく肉筆浮世絵に焦点をあて、17世紀の初期風俗画と岩佐又兵衛から始まり、菱川師宣、喜多川歌麿や葛飾北斎をはじめとした数々の著名な浮世絵師たちの活躍を、肉筆美人画を通じて幕末までたどる。また、艶やかで美しい春画の名品も合わせて紹介する。大倉集古館には、そんなに熱心に通っているわけではないが、浮世絵をテーマにした展覧会は珍しいように思う。いま「これまでの展覧会」のリストをざっと見てみたが、関連するのは2007年の『江戸の粋』くらいだろうか。実は、今回の展示先品(約90件)、「大倉集古館」と記載されているのは1件しかなく、あとは他館からの出陳でなければ「個人蔵」なのである。大倉家の私的な...風俗画、肉筆浮世絵、春画まで/浮世絵の別嬪さん(大倉集古館)

  • 受け継がれる美意識/王朝文化へのあこがれ(五島美術館)

    〇五島美術館春の優品展『王朝文化へのあこがれ』(2024年4月6日~5月6日)同館の春の優品展は、だいたい古筆や歌仙絵が中心で、大型連休に合わせて国宝『源氏物語絵巻』が展示される。近年、混雑は嫌で『源氏』原本の展示期間を避けていたのだが、今年は久しぶりに展示期間に訪ねてみた。今日は朝からお茶会もあって、第1展示室に入ろうとしたら、びっくりするほど混んでいた。幸い、第2展示室はまだ人が少なかったので、順番を変えて、こちらから見ることにした。同館が所蔵する『源氏物語絵巻』全点に復元模写も添えられて展示されていた。原本と復元模写を並べて見たのは久しぶりで、おもしろかった。柱や梁・縁側など家屋の描写が意外としっかりしていて狂いがないと感じた。「鈴虫」「夕霧」に描かれた男子は冠を被っているが、復元模写では額の部分が...受け継がれる美意識/王朝文化へのあこがれ(五島美術館)

  • 2024黄金週はじまる

    2024年の大型連休が始まった。コロナ禍も一段落して、久しぶりの海外旅行を計画しようかとも思っていたのだが、時機を逸してしまった。新幹線は全席指定だし、ホテルはどこも高いし、その上、1ドル=158円を突破する円高…。結局、連休はじっとして、5月の中旬以降の週末に、関西の展覧会めぐりに行ってこようと思っている。近所の小さな公園(臨海公園)の緑地帯の野草。亀戸天神のフジ。今日行ってみたら、花の残っている枝はわずかで、もう遅かった。ホームセンター「コーナン」江東深川店の垣根のツツジ。今日は衆議院補欠選挙の投票日で、私の選挙区・東京15区は、満足のいく結果で嬉しかった。このところ、うんざりするような選挙戦を見せられてきたが、終わりよければ全てよしと思うことにしよう。2024黄金週はじまる

  • 古墳、治水から現代の再開発まで/大阪がすごい(歯黒猛夫)

    〇歯黒猛夫『大坂がすごい:歩いて集めたなにわの底力』(ちくま新書)筑摩書房2024.4私は東京生まれで箱根の西には暮らしたことがないが、ときどき大阪の本が読みたくなる。著者は大阪南部、岸和田市育ちで、大阪に拠点を置くライター。60年以上、ずっと大阪で暮らしてきたという自己紹介を読んで、ああ、こういう人もいるんだなあ(むしろ、こういう人生が標準的?)と感慨深く思った。はじめに「水の都の高低差」では、7万年前の氷河期から、約7000年前の「縄文海進」を振り返り、生駒山地・大阪平野・上町台地・大阪湾など地形の成り立ちを確認する。上町台地の高低差を実感できる「天王寺七坂」は、今年の正月、生國魂神社そばの真言坂を歩いたことを思い出した。大阪平野を生み出した淀川は、古来、洪水で人々を悩ませてもきた。仁徳紀には「茨田堤...古墳、治水から現代の再開発まで/大阪がすごい(歯黒猛夫)

  • ゆるくて、やさしい中国/古染付と中国工芸(日本民藝館)

    〇日本民藝館『古染付と中国工芸』(2024年3月30日~6月2日)古染付とは、明代末期の中国・景徳鎮民窯で、日本への輸出品として作られたやきものを言う。だが、染付(そめつけ)という柔らかな和語の響きからも、私はこれが中国産であることを忘れてしまいがちだ。今回、玄関に入ると、左手の壁には「大空合掌」の泰山金剛経拓本と鄭道昭の山門題字。右手には殷比干墓、楊淮表記摩崖(なんのことやらメモだけ取ってきて、調べながら書き写している)。見上げると、大階段の2階の壁には『開通褒斜道刻石(かいつうほうやどうこくせき)』の拓本が左右に並ぶ。そうか、古染付って中国の工芸だったな、と気づいて、なんだか嬉しくなる。大階段の踊り場中央には、呉州赤絵(漳州窯)の『人物山水文皿』。赤いチェックのような文様で縁取られた中型の皿で、人物と...ゆるくて、やさしい中国/古染付と中国工芸(日本民藝館)

  • 現地調査から見えるもの/中国農村の現在(田原史起)

    〇田原史起『中国農村の現在:「14億分の10億」のリアル』(中公新書)中央公論新社2024.2著者の専門は農村社会学。20年にわたり、中国各地の農村に入り込んでフィールドワークを実践してきた経験をもとに本書は書かれている。中国の農民とは、どういう思考様式を有する人々なのか。はじめに著者は、歴史的経緯を振り返って言う。欧州では13世紀頃まで、日本は150年前まで封建制が存在していた。ところが中国は紀元前3世紀で「封建制」は終焉を迎え、皇帝が直接、民に向き合う「一君万民」的な政治体制が形成さあれた。皇帝の意思を代行するのは官吏である(建前としては実力があれば=科挙に合格すれば、誰でも「官」になれる)。官僚が派遣される最末端単位は「県城」で、周辺の農村を統括した。農民は県より上の政府に直に接する必要はない。ここ...現地調査から見えるもの/中国農村の現在(田原史起)

  • 虚構の遊楽世界/大吉原展(藝大美術館)

    〇東京藝術大学大学美術館『大吉原展』(2024年3月26日~5月19日)「江戸吉原」の約250年にわたる文化・芸術を、海外からの里帰りを含む美術作品を通して検証し、仕掛けられた虚構の世界を紹介する展覧会。備忘のために書いておく。私がこの展覧会の開催を知ったのは年末年始くらいだったかと思う。いまネットで検索すると、同館が2023年11月30日に公開したプレスリリースが残っている。おもしろそうだなと思う反面、ショッキングピンクのポスターとウェブサイト、「江戸アメイヂング」という軽いノリの副題には、やや不安を感じた。さらに2月1日付けのプレスリリースでは、花魁道中を見物できる「お大尽ナイト」というVIPチケットの発売が取り上げられている。これを知ったときは、かなり嫌な感じがした。遊郭文化の記憶が今も一種の観光資...虚構の遊楽世界/大吉原展(藝大美術館)

  • 地獄極楽図の隠れた名品/ほとけの国の美術(府中市美術館)後期

    〇府中市美術館企画展・春の江戸絵画まつり『ほとけの国の美術』(2024年3月9日~5月6日)3月に前期を見た展覧会、2回目は半額割引の制度を利用して、後期を見て来た。冒頭の京都・二尊院『二十五菩薩来迎図』が撤収かな、と勝手に思っていたら、ここはそのまま。次の一角、敦賀市・西福寺の『観経変相曼荼羅図(当麻曼荼羅)』など、地方に伝わった仏画の逸品が並んでいたところが、ガラリと展示替えになって、金沢市・照円寺の『地獄極楽図』18幅が、まさに所狭しと並んでいた。噂には聞いていたけれど、色鮮やかで(むしろケバケバしくて)圧が強い。作者も制作年も不明だが、江戸時代終わり頃の作と見られている。18幅の構成は、はじめに源信和尚図。数珠と尺(?)を持って斜め右向きに椅子に座る図は、典拠の図像があるようだ。黒い衣にやたら派手...地獄極楽図の隠れた名品/ほとけの国の美術(府中市美術館)後期

  • ICE STORY 2nd “RE_PRAY” TOURディレイビューイング

    〇「YuzuruHanyuICESTORY2nd“RE_PRAY”TOUR」宮城公演ディレイビューイング(2023年4月13日16:00~、TOHOシネマズ日本橋)土曜日、羽生結弦くんの単独公演をディレイビューイングで見てきた。見ていた時間だけ、魂が別世界に跳んでいたような気分で、感想がうまく言葉にならないのだが、書いてみる。プロに転向した羽生くんが「プロローグ」「GIFT」という単独公演を成功させてきたことは知っていた。私は、FaOI(ファンタジー・オン・アイス)をはじめ、彼の出演するアイスショーをずっと見てきたけれど、単独公演は、コア中のコアな羽生ファンのためのものだから、私はいいかな、と言う気持ちで遠慮していた。しかし今回、3度目の単独公演となる「RE_PRAY」ツアーは、そのキービジュアル(羽生く...ICESTORY2nd“RE_PRAY”TOURディレイビューイング

  • 同時代の日本画を見る/第79回 春の院展(日本橋三越)

    〇日本橋三越本店『第79回春の院展』(2024年3月27日~4月8日)先週末の話になるのだが、日本橋の三越デパート前を通りかかったら「春の院展」という大きなポスターが出ていた。私は小学生の頃、近所の絵画教室に通っていた。大きな画用紙(学校で使うものの倍サイズだった)にクレヨンで絵を描く教室だったが、先生は日本画家だった。私の祖母と、先生のお母さん(和装小物や裁縫道具を商うお店=糸屋を経営していた)の間に近所付き合いがあったこともあって、その後、先生が名古屋に引っ越してしまったあとも、ずっと「院展」の招待券をいただき続けた。日本美術院展覧会(院展)は、公益財団法人日本美術院が主催運営する日本画の公募展覧会である。むかしの院展は上野の東京都美術館で開催されていたのに、今はデパートが会場なのかしら、と思ったら、...同時代の日本画を見る/第79回春の院展(日本橋三越)

  • 「花だけ」と「人と花」/花・flower・華 2024(山種美術館)

    〇山種美術館特別展『花・flower・華2024-奥村土牛の桜・福田平八郎の牡丹・梅原龍三郎のばら-』(2024年3月9日~5月6日)この時期恒例となっている、花の名品を一堂に集めた展覧会。見慣れた作品が多いので、今年はこの作品がこの位置か、という会場構成の違いが、ひとつの楽しみになっている。今年はぱっと目に飛び込んできたのが小茂田青樹の『春庭』。振り返ると奥村土牛の『木蓮』(深い紫色が上品で美しい)があった。視界の端に土牛の『醍醐』が見えて、おや今年は会場の前半に展示なんだ、めずらしいな、と思った。ゆっくり見ていくうちに、今年は、春→夏→秋→冬という季節のめぐりに従って作品が配置されていることにやっと気づいた。夏のセクションには福田平八郎の『牡丹』(屏風)。大坂中之島美術館で見てきた中にも類似の作品があ...「花だけ」と「人と花」/花・flower・華2024(山種美術館)

  • 金屏風の四季と生きものたち/ライトアップ木島櫻谷(泉屋博古館東京)

    〇泉屋博古館東京企画展『ライトアップ木島櫻谷-四季連作大屏風と沁みる「生写し」』(2024年3月16日~5月12日)大正中期に大阪天王寺の茶臼山に建築された住友家本邸を飾るために描かれた木島櫻谷の「四季連作屏風」を全点公開するともに、リアルな人間的な感情を溶かし込んだ動物画の名品を紹介する。先週末は日本画が見たい気分だったので、とりあえずこの展覧会に来てみた。最初の展示室に入ると、ほの暗い空間の三方の壁に、金地彩色の六曲一双屏風が5作品。『雪中梅花』『柳桜図』『燕子花図』『菊花図』。ここまでが1917~18年に制作された「四季連作屏風」(冬-春-夏-秋の配置なのだな)で、さらに1923年制作の『竹林白鶴』が並んでいた。ほかに今尾景年の墨画淡彩の軸がひっそり掛かっていたけれど、実に贅沢な空間。木島櫻谷という...金屏風の四季と生きものたち/ライトアップ木島櫻谷(泉屋博古館東京)

  • 静養と密談の空間/戦後政治と温泉(原武史)

    〇原武史『戦後政治と温泉:箱根、伊豆に出現した濃密な政治空間』中央公論新社2024.1扱われている時代は終戦の1945年から1960年代半ばまで、主な登場人物は、吉田茂、鳩山一郎、石橋湛山、岸信介、池田勇人などで、そんなに古い話ではないのだが、なんだかとても奇妙な物語を読んだ気がした。この時代、首相たちは、箱根や伊豆などの温泉で、重要な政治的決断を下していたというのだ。想像したこともなかった。戦後、吉田茂は、大磯にあった養父・吉田健三の別荘を本邸とするとともに、御殿場の樺山愛輔別邸「瑞雲荘」を第二の本邸とし、マスコミを嫌って東京に戻らず、野党からも批判された。その後、吉田は箱根を気に入り、新町三井家の小涌谷別邸に滞在するようになる。三井別邸での面会を許されたのは、限られた政治家や学者、官僚、親しい女性だけ...静養と密談の空間/戦後政治と温泉(原武史)

  • 2024年3月関西旅行:東大寺~新薬師寺~大和文華館ほか

    ■華厳宗大本山東大寺(奈良市雑司町)関西旅行3日目は奈良スタート。早朝の奈良公園を大仏殿に向かう。廻廊の中門から中を覗くと、左(西)側の桜が、朝陽を受けてピンク色の雲のように輝いていた。大仏殿の北側の、のんびりした裏参道を歩いて二月堂に登る。ご朱印は「南無観」をいただいた。書いてくれた方が、隣りのページを見て「あ、仁和寺に行かれたんですか。僕は京都なんですけど行ったことがないんですよ」と気さくに話しかけてくれた。それから手向山八幡宮、若草山の脇を通り、春日大社の森の中を南下。高畑の住宅街に通じる「上の禰宜道」には、春日の禰宜(神官)たちが高畑の社家町から春日大社へ通った道だという案内板が立っていた。■新薬師寺(奈良市高畑町)久しぶりに来たくなって、寄ってみた。このあたり、一時期はもう少し観光客の姿があった...2024年3月関西旅行:東大寺~新薬師寺~大和文華館ほか

  • 2024年3月関西旅行:大覚寺~仁和寺~東寺ほか

    ■旧嵯峨御所大本山大覚寺(右京区嵯峨大沢町)新年度が始まったら、連日多忙で記事が書けていないのだが、これは先週末の関西旅行2日目の記録。京都駅から市バス28系統に乗って、大覚寺に向かった。あまり乗ったことのない路線で、四条通りをひたすら西へ進み、松尾大社前で北上して嵐電嵐山駅前を通り、大覚寺まで約1時間。車窓の観光が楽しかった。大覚寺を訪ねるのは久しぶりで、ブログ内検索をかけた結果では、2009年以来らしい。そんなに来ていなかったかな?お堂エリア・大沢池エリア・霊宝館に、それぞれ料金設定がされていたので、お堂と霊宝館をお願いした。霊宝館では春季名宝展『源氏物語と嵯峨野古典文学めぐり~王朝・雅人の世界』(2024年3月22日~4月22日)を開催中。「源氏物語」や「大鏡」などの江戸写本が展示されており、「花鳥...2024年3月関西旅行:大覚寺~仁和寺~東寺ほか

  • 2024年3月関西旅行:醍醐寺から山科散歩

    ■醍醐寺(伏見区醍醐)3月最後の週末に金曜有休をプラスして、関西へ2泊3日の花見旅行に行ってきた。当初の計画では、東京の開花を見届けてから関西へ赴くはずだったが、今年のサクラは全くの予想外れ。関西方面もあまり期待はできないかなあと思いつつ、京都へ向かった。JR山科駅から醍醐寺へ。拝観料は三宝院(庭園)・霊宝館・伽藍の3点セットで1500円。これは2018年と同じだった。まず露店の並んだ参道(桜馬場)の奥の伽藍に向かう。朱塗りの仁王門の前には、満開ではないが、ほどほどに花の開いた紅枝垂れ桜。よかった!仁王門を潜ると桜園なのだが、ここはまだ咲いていない。五重塔を見上げ、金堂、不動堂などに参拝し、納経所である観音堂に立ち寄る。観音堂の先にある大きな池のまわりには、色味の異なる数種類のサクラが重なり合って咲いてい...2024年3月関西旅行:醍醐寺から山科散歩

  • 練馬区立牧野記念庭園を初訪問

    今年度の有給休暇が余っていたので、3月最後の木金を休みにすることにした。今日は大横川のお花見クルーズでも楽しむか!と考えていたのだが、まだ桜が全く咲いていないので予定変更。気になっていた練馬区立牧野記念庭園を訪ねてきた。牧野富太郎博士の名前は、もちろん昔から知っていたが、強い関心を持ったきっかけは、昨年の朝ドラ『らんまん』である。牧野記念庭園は、牧野博士の邸宅跡地につくられたもの。想像していたより狭い印象だったが、少しずつ、たくさんの種類の植物が植えられている。草花だけではなくて、メタセコイヤやホオノキの大木もあって目を見張った。ウメやサクラも風情のある古木だった。ウメはもう花が終わっていて、サクラ「仙台屋」(高知市内にあった仙台屋という店から名づけられた)はまだ咲いていなかった。入口のオオカンヒザクラは...練馬区立牧野記念庭園を初訪問

  • 私にも作れます/あたらしい家中華(酒徒)

    〇酒徒『手軽あっさり毎日食べたいあたらしい家中華』マガジンハウス2023.10中華料理愛好家の酒徒(しゅと)さんの名前は、ときどきネットで拝見していた。特に印象深いのは、本書にも掲載されている「肉末粉絲」(豚ひき肉と春雨の炒め煮)の紹介を見つけたとき。醤油味でひき肉と春雨を炒めるだけの料理だが、これは食べたい!今すぐ食べたい!と思って、すぐにひき肉と春雨を買ってきた。できあがった味が「正解」なのかどうかはよく分からないが、美味しかったので満足した。本書には「塩の中華」「醤油の中華」「野菜の中華」「煮る中華」「茹でる中華」の5章に分けて、78種類の料理が紹介されている。どれも本当にシンプルで、食材は1~2種類。特別な調味料は要らない。一時期は毎年出かけていた中国旅行で食べた記憶がよみがえる料理もある。「西紅...私にも作れます/あたらしい家中華(酒徒)

  • 赤と緑の磁州窯(東博・常設展)

    東京国立博物館・東洋館(アジアギャラリー)の常設展から。5室(中国陶磁)を通りかかったら、なんだか可愛い皿や碗が並んでいた。赤や緑の華やかな色彩にゆるい絵。驚いたのは、これらに「中国・磁州窯」という注釈がついていたことだ。え?磁州窯といえば「黒釉刻花」「白地鉄絵」「白地黒掻落」など「黒と白のうつわ」ではなかったの?磁州窯には、北欧食器みたいなモダンなスタイリッシュなデザインがあることは知っていたが、これはまた意外なバリエーションだった。・五彩水禽文碗金~元時代・13世紀・三彩刻花双魚文盤金時代・12~13世紀・三彩刻花小禽文皿金~元時代・13世紀王侯貴族の食卓にあがったとは想像しにくい。ある程度富裕な庶民が使ったのだろうか?こういううつわを見ると、金~元時代って意外と楽しそうだなあと思ってしまう。赤と緑の磁州窯(東博・常設展)

  • 旅の仲間とその終わり/両京十五日(馬伯庸)

    〇馬伯庸;齊藤正高、泊功訳『両京十五日』(HAYAKAWAPOCKETMYSTERYBOOKS)早川書房2023.2-3馬伯庸の名前は、中国ドラマ好きにはすっかりおなじみであるが、彼の長編歴史小説が日本語に翻訳されるのは初めてのことらしい。遅いよ!全く!しかし待たされただけのことはあった。これまでドラマ化されたどの作品と比べても遜色なく、実に面白かった。物語は、大明洪煕元年(1425)5月18日に始まる。ほぼ1年前、洪煕帝(仁宗)が即位し、息子の朱瞻基(のちの宣徳帝)が太子に定められた。洪煕帝は国都を南京に戻そうと考えており、その露払いを命じられた朱瞻基の宝船は、まもなく南京に到着しようとしていた。太子歓迎の警備を指揮する呉不平は、息子の呉定縁を埠頭の向かいの扇骨台に派遣した。ところが埠頭に現れた巨大な宝...旅の仲間とその終わり/両京十五日(馬伯庸)

  • 2024桜はまだ咲かない

    門前仲町で暮らし始めて、もうすぐ丸7年になる。窓から大横川の桜並木を眺めることができるので、この時期は、朝起きて、カーテンを開けるたびにドキドキする。しかし今年の桜は遅い。いや、近年が早すぎたのかな。昨年は3月17日に開花を見つけたが、今年はまだ気配がない。ただ、門前仲町の交差点近くに、毎年、抜群に早く花をつける桜の木があって、今週のはじめには、こんな感じだった。今日の大横川の夜景。コロナ明けの気合いなのか、早くから照明が用意され、観光船の運航スケジュールもびっしり入っていたのだが、肝心の花が咲かないので、なんだか拍子抜け状態になっている。考えてみれば、もともと桜は四月の入学式につきものだった。今年は昭和の気分に戻って、ゆっくり楽しもう。2024桜はまだ咲かない

  • 生けるものの愛おしさ/ほとけの国の美術(府中市美術館)

    〇府中市美術館企画展・春の江戸絵画まつり『ほとけの国の美術』(2024年3月9日~5月6日)恒例・春の江戸絵画まつり。まだ桜は咲いていないが、さっそく見てきた。怖い絵、変な絵、かわいい絵(=図録のオビの宣伝文句)、来迎図から若冲まで「ほとけの国」で生まれた、美しくアイディアに溢れた作品を展示する。入口にはクリーム色の壁にキラキラ輝く金色の「ほとけの国の美術」の文字。そして、無地の壁に挟まれた細長い通路を進んでいくと、金身の菩薩たちが舞い踊る『二十五菩薩来迎図』17幅を掛け並べた空間が出現する。京都・二尊院に伝わる、土佐行広(室町時代)の作だという。二尊院には何度か行っているが、こんな作品を所蔵しているとは聞いたことがない。それもそのはず、あとで会場ロビーで関連ビデオを見たら、経変劣化のため、長らく展示がで...生けるものの愛おしさ/ほとけの国の美術(府中市美術館)

  • 8K映像で訪ねる/中尊寺金色堂(東京国立博物館)

    〇東京国立博物館・本館特別5室建立900年・特別展『中尊寺金色堂』(2024年1月23日~4月14日)上棟の天治元年(1124)を建立年ととらえ、中尊寺金色堂の建立900年を記念して開催する特別展。先月から参観の機会をうかがっていたのだが、来場者の波は減る様子がなく、先週末、建物の外に30分くらい並んで入場することができた。会場に入ると、展示物に進む前に大きなスクリーンで区切られた空間があって、金色堂の映像が映し出される。私は展覧会のイメージ映像や説明動画はスキップしてしまうことが多いのだが、これはちょっと様子が違うと思って立ち止まった。ゆっくり金色堂の扉が開くと、カメラは3つの須弥壇の全景を映し、さらにそれぞれの須弥壇に寄っていく。恐れ多くも須弥壇の上に乗って、中尊の阿弥陀仏と間近に正対するような視点で...8K映像で訪ねる/中尊寺金色堂(東京国立博物館)

  • 持つべきものは仲間/中華ドラマ『大理寺少卿游』

    〇『大理寺少卿游』全36集(愛奇藝、2024年)原作はマンガ「大理寺日誌」でアニメ版もあり、日本にもファンが多いことは伝え聞いていたが、私はこのドラマで初めて作品世界に触れた。舞台は唐・武則天の時代の神都・洛陽。刑罰と司法を所管する大理寺の面々が活躍する。大理寺の若きリーダー李餅(丁禹兮)は、マンガとアニメでは人間の衣服を着た白猫の姿で描かれる。ドラマ版の李餅は、基本的には人間の姿だが、猫のように動きは俊敏、猫並みの視力と嗅覚の持ち主。時々、猫の顔になったり、まれに完全に猫の姿に変身することもある。田舎育ちの陳拾は、生き別れの兄を探して上京し、洛陽城で不思議な猫に出会う。この猫こそ実は李餅。李餅は前の大理寺卿・李稷の息子だが、かつて何者かに父親を殺害され、葬儀のために故郷へ戻る途中、何者かに襲われ、気づい...持つべきものは仲間/中華ドラマ『大理寺少卿游』

  • アイスショー”notte stellata 2024”

    〇羽生結弦nottestellata2024(2024年3月10日、16:00~)先週日曜、羽生結弦さんが座長をつとめるアイスショーnottestellataを見て来た。2011年3月11日の東日本大震災から12年目になる2023年に彼が立ち上げたアイスショーで、宮城・セキスイハイムスーパーアリーナで3公演が行われる。昨年はチケットの抽選に敗れて行くことができなかったが、今年は千秋楽の日曜のチケットを取ることができ、日帰りで仙台に行ってきた。素晴らしい公演で大満足したのだが、やっぱり(分かっていたけど)ふつうのアイスショーとは少し違って、考えることが多くて、なかなか記事を書くことができなかった。日曜の仙台は、青空なのに時々細かい雪が舞っていて、東京よりかなり寒かった。2011年のあの日も、こんなふうに寒か...アイスショー”nottestellata2024”

  • 青磁、白磁、高麗茶碗/魅惑の朝鮮陶磁(根津美術館)

    〇根津美術館企画展『魅惑の朝鮮陶磁』+特別企画『謎解き奥高麗茶碗』(2024年2月10日~3月26日)今季の展覧会は珍しい二部構成で、展示室1は、主に館蔵品で朝鮮陶磁の歴史を概観し、その魅力を見つめ直す企画展。展示室2は、奥高麗茶碗(九州肥前地方、現在の佐賀県唐津市周辺で焼かれた、朝鮮陶磁の高麗茶碗を写した茶碗)の成立と展開を検証する特別企画である。展示室1、展示の90件余りは確かにほとんどが館蔵品(西田宏子氏寄贈・秋山順一氏寄贈が多い)だが、冒頭の陶質土器4件は「個人蔵」だった。特別古い、三国時代(5世紀)の土器が2件。伽耶のものだという『車輪双口壺』は、おもちゃみたいなかたちで面白かった。続いて、高麗時代(12~14世紀)の青磁。一目見て美しいと思った『青磁輪花承盤』には、王室向けの製品を生産した全羅...青磁、白磁、高麗茶碗/魅惑の朝鮮陶磁(根津美術館)

  • コレクション大航海(神戸市博)+竹中大工道具館

    ■竹中大工道具館企画展『鉋台をつくる-東京における台屋の成立と発展』(2024年3月2日~5月19日)+常設展先々週、仕事で広島に行った帰りに自費で神戸に1泊して、半日だけ遊んできた。目的の1つめは、以前から行きたいと思っていたこの施設を訪ねること。新幹線の新神戸駅を出て徒歩3分くらいの位置にある(ただし新神戸駅前の導線は慣れないと分かりにくい)。どこかのお屋敷みたいな門を入ると、ガラスの壁面に黒い瓦屋根を載せた、大きな平屋の建物が目に入る。地上は1階だが地下は2階まであって、天井の高い展示スペースが設けられている。床や天井には良質の木材が豊富に使われていて、木の匂いが心地よい。もとは神戸市内の別の場所にあったが、2014年に現在地(竹中工務店本社跡地)に新築・移転してきたとのこと。1階ホールでは「鉋台(...コレクション大航海(神戸市博)+竹中大工道具館

  • 2024木場の河津桜と日本橋のおかめ桜

    寒い日が続いていたが(金曜の朝はうっすら雪)今日は久しぶりによく晴れたので、木場の河津桜と日本橋のおかめ桜を見てきた。木場の大横川沿いの河津桜は、去年初めて見に行ったもの。永代通りの沢海橋から北側を眺めて、もはや見頃であることを確認。老婦人の二人連れが「花の下は歩けないのかしら」「もっと近づけると思っていたのに」と話しているのが聞こえたので、近づいて「もう少し先に行くと遊歩道になっていますよ」とお声がけする(去年は私もとまどったので)。やっぱり、この河津桜は真下に立って見上げたい。ピンクの雲のような、みっしりした花付きが圧巻。もう少し花色が薄い品種もあるが、とにかくみっしり咲いている。だいたい名所と言われるところのサクラは老木が多いので、樹は大きいが、こんな花の付き方はしない。だが、花のまばらな老木にも味...2024木場の河津桜と日本橋のおかめ桜

  • 信用調査に見る近世大坂の社会/三井大坂両替店(萬代悠)

    〇萬代悠『三井大坂両替店(みついおおさかりょうがえだな):銀行業の先駆け、その技術と挑戦』(中公新書)中央公論新社2024.2三井高利が元禄4年(1691)に営業を開始した三井大坂両替店は、両替店を名乗りながら両替業務にはほとんど従事せず、基本的に民間相手の金貸し業を主軸とした、大型民間銀行の源流である。本書は、三井に残る膨大な史料群を読み解くことで、江戸時代の銀行業の基本業務がどのように行われていたかを解明する。本書は、はじめに三井大坂両替店の店舗の立地や組織・人事の概要を示す。おもしろかったのは、奉公人の年齢構成・昇進・報酬などの分析である。少し前に読んだ、戸森麻衣子氏の『仕事と江戸時代』にも書かれていたが、奉公人は住み込みで独身の共同生活を強いられた。そこを辛抱すれば、退職金(元手銀)を得て、家庭を...信用調査に見る近世大坂の社会/三井大坂両替店(萬代悠)

  • コロナ・パンデミックを振り返る/感染症の歴史学(飯島渉)

    〇飯島渉『感染症の歴史学』(岩波新書)岩波書店2024.1コロナ下で読んだ『感染症の中国史』(刊行はもっと前)の著者の新刊が出たので読んでみた。はじめに新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的な流行)の「起承転結」を振り返り、この経験を感染症の歴史学に位置づける。2019年に中国武漢で発生した新興感染症COVID-19は、2020年初頭から世界に拡大し、3月、WHOが「パンデミック」を宣言した。「これほど長く、大きなパンデミックになるとは、ほとんどの人が予想できませんでした」と著者は書いているが、もっと短く終わると考えていたかといえば、私はそうでもなかった。この先どうなるかは全く予想できなかったけれど、マスクをして、人との接触を減らせば、命の危険は少ないというのは、そんなに受け入れがたい状況ではなか...コロナ・パンデミックを振り返る/感染症の歴史学(飯島渉)

  • 三浦半島の運慶仏巡り:浄楽寺、満願寺

    数週間前に3月のカレンダーを見て、3月3日が日曜に当たっていることに気づいた。関東在住の仏像ファンにとって、3月3日といえば、三浦半島・芦名にある浄楽寺のご開帳日である。私は20年くらい前に逗子に住んでいたこともあり、浄楽寺の収蔵庫改修のクラウドファンディングに寄付したご縁もあるので、久しぶりに行ってみたくなった。逗子駅から浄楽寺までは京急バスに乗る。時刻表では20~30分だったが、混雑の影響で倍くらいの時間がかかった。■金剛山勝長寿院大御堂浄楽寺(横須賀市芦名)揃いの法被(抱き茗荷紋?)のおじさんたちが参拝客の車を誘導していたが「こっちは満杯です」「この先の駐車場なら、1、2台入れるかも」と大変そうだった。門前には露店やキッチンカーも。まずは本堂に参拝。江戸時代の小ぶりな阿弥陀三尊像が安置されており、背...三浦半島の運慶仏巡り:浄楽寺、満願寺

  • 2024年3月食べたもの@広島

    今週は2泊3日で広島へ出張。ランチタイムに、昨年寄ったお好み焼・鉄板焼のお店を覗いたら、残念ながら満席で入れなかった。しかし、近くにあった、もう1軒のお店「ひなた」に入れたので、肉玉そばを注文。満足!21周年を迎えた歴史のあるお店とのこと。夜は、1泊目はひとりだったので簡単にカキフライ定食。翌日は同行の同僚と「和久バル」で牡蠣ざんまい。最初の土手鍋のあとは、グラタン、リゾット、(また)カキフライなど、写真を撮るのを忘れてしまったが、どれも美味しかった。牡蠣の土手鍋は広島の郷土料理。東京では、ほとんど食べた記憶がなかったが、気に入ってしまった。今度、家でつくってみよう!2024年3月食べたもの@広島

  • ヴェルディ歌劇の愉悦/METライブ・ナブッコ

    〇METライブビューイング2023-24『ナブッコ』(新宿ピカデリー)先日、東劇にシネマ歌舞伎を見に行ったら、MET(ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場)ライブビューイングのチラシが置かれていて、そういえば、オペラは(実演も映像も)久しく見ていないなあ、と思った。私の好きなヴェルディ作品、今シーズンは『ナブッコ』がエントリーされていた。写真を見ると演出もよさそうなので、思い切って、見て来た。作品のあらすじは大体知っていたけれど、全編通しで視聴するのは、たぶん初めてだったと思う。しかし全く問題はなくて、第1幕から(いや、序曲から)雄弁で美しい旋律をシャワーのような浴びせられ、幸福感に浸った。舞台は紀元前6世紀のエルサレム。神殿に集まったヘブライ人たちは、バビロニア国王ナブッコの来襲に怯えている。ヘブライ人た...ヴェルディ歌劇の愉悦/METライブ・ナブッコ

  • 古くて若い大国/インド(近藤正規)

    〇近藤正規『インド:グローバル・サウスの超大国』(中公新書)中央公論新社2023.9最近、政治や経済でも、エンタメでも名前を聞くことの多いインド。しかし私がこの国について思い浮かぶことといえば、堀田善衞の名著『インドで考えたこと』(1957年刊、高校の国語の教科書に載っていた)くらいである。さすがに少し認識をアップデートしようと思い、本書を読んでみた。本書は政治、経済、外交、社会などの切り口で、現在のインドの姿を分かりやすく解説している。知らないことが多すぎて、ファンタジー小説に登場する架空の国家の設定書を読むような面白さがあった。はじめに社会の多様性。インド人は「出身地、言語、宗教、カースト」という4つのアイデンティティで規定される。インドは世界最大の民主主義国家で、IT大国らしく、総選挙では9億人の有...古くて若い大国/インド(近藤正規)

  • 水道橋でワインと和食ディナー再び

    めずらしく友人との会食が続いた。半年ぶりに水道橋駅前の「ワイン処Oasi(オアジ)」で和食ディナー。旬の食材を使った上品なお料理を少しずつ。この日は赤出汁に筍の炊き込みご飯。前回はとうもろこしご飯だったことを思い出した。日本酒と自家製サングリアも美味で大満足~。水道橋でワインと和食ディナー再び

  • 秋葉原で雲南料理

    中華料理好きの友人と会食することになって、雲南伝統料理の「過橋米線秋葉原店」に出かけた。私も友人も、一度だけ雲南省に旅行したことはあるのだが、東京で雲南料理を食べるのは初めてである。9品の「元気促進コース」に飲み放題をつけてもらった。三七入り気鍋鶏。三七は三七人参かな?気鍋というのは、たっぷり時間をかけて水蒸気で作るらしい。アツアツでなかなか冷めないので、寒い日にはありがたかった。一気に身体が暖まった。スズキ魚の雲南風付け。実は中国ツアーの食事では、コースの終わり頃にこういう淡泊な魚料理がよく出た記憶がある。いつもお腹がいっぱいで食べ切れなかったのだが、この日は裏表とも、しっかりいただく。美味。千張肉。豚肉スライスの下には、角切りの豚肉と高菜みたいな漬物が詰まっている。これも蒸し料理。薬膳健美菜。このほか...秋葉原で雲南料理

  • 2024金沢散歩:兼六園、泉鏡花記念館、近江市場

    金沢半日観光の続き。■兼六園~成巽閣~白鳥路石川県立博物館から兼六園へ。随身坂口から入ると梅園が見ごろで楽しかった。幕末に13代藩主前田斉泰が母君・真龍院のために建てた隠居所・成巽閣も見ていく。1階では前田家ゆかりの雛人形・雛道具を展示中。2階の「群青の間」は、ウルトラマリンブルーの青とベンガラの赤、さらに襖の白(灰色)が、計算された空間美を作り出している。名物の雪吊りは、全然役に立っていなかったが、青空にそびえ立つ縄の三角錐は、どこか南方ふうな感じもして楽しかった。ほぼ初夏の日差しだったので、池・渓流・滝・噴水など、変化に富んだ水辺の風景が気持ちよかった。さすが大名庭園、贅沢でよいなあ。兼六園を出て、金沢城公園の脇の細道(白鳥路)を抜けていく。深い緑を背景に、さまざまな彫像が並んでいた。その中のひとつ「...2024金沢散歩:兼六園、泉鏡花記念館、近江市場

  • 2024金沢散歩:石川県立美術館、石川県立歴史博物館

    出張で金沢に行ってきた。昨年も同時期に出張があったのだが、全く自由時間がなく、今年も月火が仕事でいっぱいだったので、自腹で前泊をつけて半日だけ観光してきた。日曜のお昼頃、金沢駅に到着。昨年は駅前にも雪が残っていたが、今年は雪国の面影なし。特にこの日は初夏のような陽気。コートを丸めてバッグに突っ込んで、観光に出かける。金沢市内を観光するのは、30年ぶりくらいではないかと思う。■石川県立美術館コレクション展のみの期間だったが初訪問。第1展示室は「雉香炉の部屋」で、仁清の国宝『色絵雉香炉』が常設されている。写真撮影もOK。展示はオス・メス並んでいるのだが『色絵雉香炉』は華麗な色彩のオスを指し、茶色系の地味なメスは『色絵雌雉香炉』と呼び分けていた。第2展示室は「前田育徳会尊経閣文庫分館」で『天神画像と文房具』(2...2024金沢散歩:石川県立美術館、石川県立歴史博物館

  • ブロマンス古装劇?/シネマ歌舞伎・アテルイ

    〇シネマ歌舞伎『歌舞伎NEXT阿弖流為〈アテルイ〉』(東劇)2015年7月に新橋演舞場で上演された作品で、シネマ歌舞伎(映像作品)としての公開は2016年6月だという。ただし、いま調べて思い出したのだが、もとは2002年に劇団☆新感線が上演した舞台劇である。私は題材に興味があって、舞台劇のときも歌舞伎になったときも、見たいと思いながら果たせなかった。シネマ歌舞伎になってからも、上映予定ないかな~と、時々チェックしていたのだが、先日サイトを見たら、久々の上映が2/15(木)で終わっていた。え!?と慌てたが、幸い、東劇では上映延長になっていたので、さっそく見てきた。面白かった!!!10年越し、いや20年越しの大願成就だが、実は、具体的にどんなストーリーなのかは全く調べていなかったので、新鮮な気持ちで見ることが...ブロマンス古装劇?/シネマ歌舞伎・アテルイ

  • 北斎サムライ画伝(すみだ北斎美)+鳥文斎栄之展(千葉市美)

    ■すみだ北斎美術館特別展『北斎サムライ画伝』(2023年12月14日〜2024年2月25日)北斎(1760-1849)や門人たちがサムライを描いた作品を集めた展覧会。私は浮世絵に対して、そんなに関心が高いわけではないのだが、描かれたサムライという着眼点に、歴史・伝奇好きの性癖をくすぐられて見に行った。はじめは、北斎が実際に見ていた「江戸のサムライ」の姿。同時代の世態風俗を描いた浮世絵には、刀を差していることでそれと分かるサムライたちが描き込まれている。ぶらぶら物見遊山をしたり、酔っ払ったり、旅をしたり、登城するサムライたち。まあ今のビジネスマンか公務員程度には、ふつうに身の回りにいたわけである。一方、理想化された「名うてのサムライ」も描かれた。時代順に、坂上田村麻呂、俵藤太秀郷に始まり、頼光、義家、為朝、...北斎サムライ画伝(すみだ北斎美)+鳥文斎栄之展(千葉市美)

  • 2024向島百花園の梅

    そろそろ梅の季節なので、「梅まつり」(2024年2月10日~3月3日)を開催中の向島百花園を見てきた。私は両親ともに東京の下町生まれなので、向島(むこうじま)という地名にはなじみがある。子供の頃、百花園に連れてきてもらって、萩のトンネルを喜んだ記憶もある。大人になってから、一度だけ来てみたのだが、なんだか手狭な庭園で、子供のときの感動が得られなくて、それきり何十年もご無沙汰していた。確かに広くはない庭園だが、梅の木はかなり多い。マスクを外して香を楽しむ。萼や花芯まで純白の印象が強い「白加賀」という品種が目立っていた。白梅は一輪を楽しむのもよし、遠目に見る樹の姿も、なつかしい人に出会うような気持ち。人はいさ心も知らずふるさとは花ぞ昔の香ににほひける(紀貫之)である。紅梅はまた、華やかでよいけど。向島百花園は...2024向島百花園の梅

  • 茶碗と書跡と謡本/本阿弥光悦の大宇宙(東京国立博物館)

    〇東京国立博物館特別展『本阿弥光悦の大宇宙』(2024年1月16日~3月10日)「始めようか、天才観測。」という(東博にしては)しゃれたキャッチコピーが一部で話題になった特別展。本阿弥光悦(1558-1637)が確固とした美意識によって作り上げた諸芸の優品の数々を紹介し、大宇宙(マクロコスモス)のごとき光悦の世界の全体像に迫る。会場に入ると、いきなり本展のメインビジュアルになっている『舟橋蒔絵硯箱』が単立ケースで展示されていた。玉子寿司とか磯辺焼きとか言われているもの。インパクトのある造型であることは確かだ。舟橋の表現に鉛板を用いたのは、光悦が家職として刀剣の鑑定にかかわり、金属の特質・見せ方を知悉していたからだという研究があること(Wikiに記載あり)をぼんやり思い出した。その関連か、はじめに文書資料等...茶碗と書跡と謡本/本阿弥光悦の大宇宙(東京国立博物館)

  • ついに完結/中華ドラマ『大江大河之歳月如歌』

    〇『大江大河之歳月如歌』全34集(東陽正午陽光影視、2024年)2018年公開の第1部、2021年公開の第2部に続く第3部。おそらくこれが完結編になるのだろう。1993年、宋運輝は東海化工を追われ、彭陽という田舎の農薬工場勤務を命じられる。新しい同僚たちからは暖かく迎えられるが、工場の経営は振るわず、やがて停業命令が下る(国営なので政府から)。東海化工に呼び戻されかけた宋運輝は、別れ際に中年女性の技術者・曹工から託された資料に目を通すうち、彭陽工場を救う希望を見出して戻ってくる。それは、竹胺という物質を用いた新しい安全な農薬を製造することだった。最終的に、屋外の農地で使用する農薬としては成功できなかったものの、家庭用の殺虫剤として製造ラインに乗せる見通しが立ち、彭陽工場は存続を認められる。この竹胺プロジェ...ついに完結/中華ドラマ『大江大河之歳月如歌』

  • 織田長好の魅力/織田有楽斎(サントリー美術館)

    〇サントリー美術館四百年遠忌特別展『大名茶人織田有楽斎』(2024年1月31日~3月24日)有楽斎(織田長益/おだながます、如庵、1547-1622)は織田信秀の子、織田信長の弟として生まれ、武将として活躍し、秀吉、家康にも仕えた。2021年に400年遠忌を迎えた織田有楽斎という人物を、いま一度総合的に捉えることを試みる。私は有楽斎のことは、名前くらいしか知らなかったので、軽い気持ちで見に行ったら、意外とお客さんの姿が多く、みんな地味な古文書を熱心に眺めていたので感心した。有楽斎の風貌を伝えるのは、僧形の坐像(江戸時代)。温和だが意志の強そうな四角い顔である。有楽斎が再興したことで知られる正伝院の流れを汲む建仁寺塔頭・正伝永源院に伝わった。同寺院からは、ほかにもたくさん書状や文書、ゆかりの品が出陳されてい...織田長好の魅力/織田有楽斎(サントリー美術館)

  • 民藝の王道/鈴木繁男展(日本民藝館)

    〇日本民藝館特別展『柳宗悦唯一の内弟子鈴木繁男展-手と眼の創作』(2024年1月14日~3月20日)鈴木繁男(1914-2003)は、柳宗悦の唯一の内弟子として1935年に入門、陶磁器、装幀、漆絵など多岐な分野にわたる作品を残した。没後20年に合わせ、工芸家・鈴木繁男の手と眼による仕事を顕彰する。というのは、本展を見たあとに、あらためて確認したもの。実は、鈴木繁男の名前もよく知らずに、ふらりと見に行った。玄関を入ると、階段の壁には大きな藍染の布が2枚。暴れ熨斗と熨斗に菊散らしの文様でどちらもめでたい。踊り場の箪笥の上と、階段下の左右の展示ケースには螺鈿、漆絵、卵殻貼などの漆工芸品。なんだかとても懐かしい感じがした。同館は、中世ヨーロッパの木製椅子とか、アフリカや中南米の工芸品など、幅広い収蔵品を誇るけれど...民藝の王道/鈴木繁男展(日本民藝館)

  • 説話と史料から/地方豪族の世界(森公章)

    〇森公章『地方豪族の世界:古代日本をつくった30人』(筑摩選書)筑摩書房2023.10先日、久しぶりに神保町に行って、三省堂の仮店舗をのぞいた。ふだんと違う書店に入ると、ふだんと違う本が目につくもので、本書が気になって手に取ってみた。そうしたら、読みかけの『謎の平安前期』に出て来た春澄善縄の名前に出会ってしまったので、運命を感じて買って帰った。本書は、著者の専門である地方支配・地方豪族の様相の探究をふまえて「これまでの名言・名場面や人の動向ではほとんど取り上げられていない人物」30人を紹介したものである。神話・伝承の時代から奈良時代末までが15人、平安時代末までが15人、地方豪族が主題なので、坂東武士のような中央からの土着者は除く。著者は、女性の事例が少ないことを遺憾としているが、思ったよりも女性が混じっ...説話と史料から/地方豪族の世界(森公章)

  • 桓武王朝の試行錯誤/謎の平安前期(榎村寛之)

    〇榎村寛之『謎の平安前期:桓武天皇から『源氏物語』誕生までの200年』(中公新書)中央公論新社2023.12今年の大河ドラマ『光る君へ』が紫式部を取り上げていることもあって、平安時代に関する書籍がけっこう注目を集めているように思う。平安時代は平安京遷都の794年から12世紀末期まで約400年間、我々がイメージする、なよやかで上品な貴族たちの時代は、だいたい後半の200年間であるが、本書はそこに至るまで、奈良時代に導入された律令制がこの国の実体に合わなくなり、いろいろ試行錯誤を繰り返して、ひとまずの安定したシステムを作りあげるまでの200年間を論じている。制度的な要点は、序章に挙げられた「徴兵制による軍団の廃止」「私有地開発の公認」「地方官の自由裁量権の拡大」になるだろう。大きな政府(律令国家)から小さな政...桓武王朝の試行錯誤/謎の平安前期(榎村寛之)

  • 歴史の証拠と修正と/異国襲来(鎌倉歴史文化交流館)他

    ■鎌倉歴史文化交流館企画展・文永の役750年『異国襲来-東アジアと鎌倉の中世-』(2023年12月16日~2024年3月9日)久しぶりに鎌倉に行ってきた。お目当ては、この展覧会。1206年に建国されたモンゴル帝国は、文永11年(1274)と弘安4年(1281)に日本へ侵攻する。本展では、絵巻研究の進展や元寇沈没船の発見により明らかになりつつある、モンゴル襲来の実像に迫るとともに、当該期を経て花開いた鎌倉の文化的側面を紹介する。鎌倉市教育委員会と鎌倉の諸寺が所蔵する資料と、長崎県松浦市教育委員会の元寇沈没船資料の組合せで構成されているが、なぜか後者は1月19日から展示だったので、揃ったところを見計らって参観してきた。たいへん満足である。元寇沈没船が見つかったのは、長崎県の伊万里湾に浮かぶ鷹島の南岸地域で、2...歴史の証拠と修正と/異国襲来(鎌倉歴史文化交流館)他

  • 漆器と伊万里大皿/うるしとともに(泉屋博古館東京)

    〇泉屋博古館東京企画展『うるしとともに-くらしのなかの漆芸美』(2024年1月20日~2月25日)住友コレクションの漆芸品の数々を、用いられてきたシーンごとにひもとき、漆芸品を見るたのしみ、使うよろこびについて考える。私は漆工芸を見るのが好きなので、いそいそと出かけた。メインはやっぱり茶道具かなあ、あるいは蒔絵の手箱や硯箱。という私の予想は、最初の展示室「シーン1.宴のなかの漆芸美」で大きく裏切られる。並んでいたのは、明治~大正時代の住友家で用いられていた膳椀具。『扇面謡曲画会席膳椀具』の丸盆は、漆黒の地に閉じた扇と開いた扇が描かれ、開いた扇は「留守模様」で、それとなく謡曲の演目を暗示する。刀と烏帽子と千鳥で「敦盛」とか、紅葉と鱗文で「紅葉狩」という具合。ただ、本当に控えめな絵柄で、少し離れて見ると、扇が...漆器と伊万里大皿/うるしとともに(泉屋博古館東京)

  • 扇面図流屏風の源氏絵など/大倉集古館の春(大倉集古館)

    〇大倉集古館企画展『大倉集古館の春~新春を寿ぎ、春を待つ~』(2024年1月23日~3月24日)令和6年の春を祝し、干支や吉祥、花鳥風月をテーマとした絵画を中心に展観する。かなり見応えのある作品が揃っていた。宗達派の『扇面流図屏風』はいつ以来だろう?左右が別々のケースに展示されていた。波間を不安定に漂う扇面には、金・紺・碧・白など少ない色数で、メリハリのある草花などが描かれ、よく見ると細い筆で古今和歌集の歌が添えられている。さらに扇の間に小さな源氏絵の色紙が貼られているのだが、もとは波と扇面だけが描かれており、後の時代に源氏絵が貼り付けられたと見られているそうだ。源氏絵の主題は《右隻》(1)葵(2)須磨(3)薄雲(4)常夏(5)空蝉(6)玉蔓(7)柏木《左隻》(8)花宴(9)夕顔(10)若紫。すぐに分かっ...扇面図流屏風の源氏絵など/大倉集古館の春(大倉集古館)

  • もうすぐ休館・山の上ホテル

    お茶の水の山の上ホテルが老朽化対応を検討するため、2024年2月13日から長期休館になるというので、見てきた。私は通学・通勤で、長いことお茶の水を使っていたけれど、山の上ホテルを使ったことは、数えるほどしかない。こんなことなら地方にいて東京に出張するとき、1回くらい泊まっておけばよかった。バー「ノンノン」に友人と来たのは、もう20年くらい前かもしれない。頑丈そうでおしゃれな鉄製の装飾。あまり広くないロビーの窓際には、スウェーデンの陶芸デザイナー、リサ・ラーソンのライオンが置かれていた。いつか休館が明けたときも、この子たちに会えるといいな。併設の「山の上教会」も開放されていたので見学することができた。ガラス越しに青空が見える素敵な教会!こういう教会の結婚式に立ち会ってみたかった。もうすぐ休館・山の上ホテル

  • 歴史を掘り、人に会う/京博深掘りさんぽ(グレゴリ横山)

    〇グレゴリ横山『京博深掘り散歩』(小学館文庫)小学館2023.11お正月に京博に行ったら、ミュージアムショップに本書が積まれていた。京博のウェブサイトに2021年4月から2023年3月まで「グレゴリ青山の深掘り!京博さんぽ」のタイトルで連載されていた漫画エッセイに加筆・改稿したものだという。京博のサイトにはさんざんお世話になっているのに、この連載の存在を全く知らなかったので驚いた。刊行は2023年11月12日とあるが、私が昨年最後に京博に行ったのは、ちょうどその頃で、タッチの差で陳列を見逃したのではないかと思う。ちなみに東京の書店では、全く見かけた記憶がない。地域差?ウェブサイト公開時の順番はよく分からないが、本書の内容は「敷地と建物」「京博で働く人々」「文化財を守る人々」の三部構成に整理されている。京博...歴史を掘り、人に会う/京博深掘りさんぽ(グレゴリ横山)

  • 2024年1月展覧会拾遺(東京の展覧会から)

    正月以降、見てきた展覧会をまとめて。■静嘉堂文庫美術館『ハッピー龍(リュウ)イヤー!〜絵画・工芸の龍を楽しむ〜』(2024年1月2日~2月3日)初春にふさわしく、今年の干支・龍をモチーフとする絵画・工芸を集める。刀装具、印籠、茶釜など、さまざまなジャンルの作品が並ぶが、やはり見どころは、龍の本場である中国の工芸品だろう。景徳鎮官窯の青花や五彩の大皿や大瓶、螺鈿や堆朱も、旧蔵者の財と権力を想像させる、堂々とした姿のものが多かった。面白かったのは『紺地龍"寿山福海"模様刺繍帳』で、清朝皇帝の龍袍を、茶室の入口に掛ける帳(とばり)に仕立てたものだという。同様のリフォーム品には『紫地龍文錦卓掛』(色合いが好き、ビロードふうの蝦夷錦)や『紅地龍獅子楼閣模様金入錦帳』(短足で豚鼻の獅子がかわいい)もあった。また「文庫...2024年1月展覧会拾遺(東京の展覧会から)

  • 雇用労働の多様な発展/仕事と江戸時代(戸森麻衣子)

    〇戸森麻衣子『仕事と江戸時代:武士・町人・百姓はどう働いたか』(ちくま新書)筑摩書房2023.12歴史的に見れば、絶えず変化してきた人々の働き方。本書は、現代日本人の働き方の源流を江戸時代に求める。その前提として、中世においては、人々が自ら選んだ仕事に従事し、その労働に対して報酬を受け取るという働き方は一般的ではなかった。ある程度の裁量権を持つ自立的な商人・職人・農民は生まれていたが、給金や現物による報酬を介することなく、力による支配を受けて種々の労働に従事する人々が多かった。江戸時代には、人身売買や隷属関係が縮小し、貨幣制度の発展によって、本格的な雇用労働の時代が始まる。以下、本書は諸身分における「働き方」を順番に紹介していく。はじめに武士階級の旗本・御家人の場合。旗本の上層部は知行取で領地を与えられた...雇用労働の多様な発展/仕事と江戸時代(戸森麻衣子)

  • 中年刑事の再生/中華ドラマ『三大隊』

    〇『三大隊』全24集(愛奇藝、2023年)1998年、寧州市警察の「三大隊」は、凶悪犯の王大勇と二勇の兄弟を追っていた(三大隊は隊長の程兵のほか6人の刑事チームとして描かれている)。住民を巻き込んだ路上の大乱戦の末、ついに二勇を捕まえたが、王大勇は逃してしまう。程兵による尋問の最中、二勇は容態が急変して死亡。程兵は責任を問われ、傷害罪で11年の懲役刑に服することになる。2007年秋(刑期を9年6か月に短縮されて)程兵は出獄。しかし妻の劉文芳は娘の桐桐を連れて離婚し、別の男性と再婚していた。三大隊はすでに解散。刑事を続けていたのは最年長の老馬と最年少(女子)の林頴だけで、老馬は停年を迎えていた。ほかの4人は刑事を辞めて転職していた。程兵ら三大隊の面々が師父と慕う七叔は、脳梗塞で倒れて老妻の介護を受けていた。...中年刑事の再生/中華ドラマ『三大隊』

  • 古装SF・ホラー・アクション/中華ドラマ『天啓異聞録』

    〇『天啓異聞録』全12集(愛奇藝、2023年)年末年始に楽しませてもらったドラマ。明の天啓年間、錦衣衛の一員である褚思鏡は、山海関を超えて、雪の積もる遼東地方に赴いた。この地方で奇妙な疫病が流行っており、感染した者は妖魔の餌食になるという噂を確かめるためである。褚思鏡は寧遠城で楊公公に拝謁したあと、韃官(モンゴル系)の伯顔とともに沿岸の寧海堡に向かう。寧海堡の周辺には、烏暮島の島民が出没していた。彼らの動きを怪しんだ褚思鏡と伯顔は、夜の海を泳いで烏暮島に渡る。島で二人が見たものは、皮膚が鱗化する奇病に苦しむ島民、長老とその弟子、黒衣の集団、謎の少女、そしてクモ形の怪物…。長老と島民たちは、島の秘密が外に伝わることを恐れ、伯顔を捉えて幽閉する。褚思鏡は、謎の少女・沈淙の助けを得て、舟で海上へ逃れる。その褚思...古装SF・ホラー・アクション/中華ドラマ『天啓異聞録』

  • 2024洗濯機買い替え

    年末から挙動が不安定だった洗濯機が、とうとう年明けに壊れてしまった。いつまで待っても脱水が完了せず、蓋のロックが外れなかったので、最後は蓋を壊して中の洗濯物を取り出した。日立のNW-500MXという機種で、ネットで調べたら、2012年1月発売だという。そうだとすると、2013年4月に札幌に転任したのを機に購入したのではないかと思う。札幌の宿舎では、風呂場の蛇口から給水するしか設置場所がなくて、風呂場のドアが閉められない状態で2年間暮らした。つくばの宿舎は、洗濯機専用の給水口があったが、設置場所が室内だったので、振動音に悩まされた。今の住まいは、設置場所がベランダで、雨風に晒されっぱなしだったので、寿命を縮めてしまったかもしれない。壊れた洗濯機がリサイクル回収で搬出されていくのを、なんだか寂しい気持ちで見送...2024洗濯機買い替え

  • 原作改変の二作品/文楽・平家女護島、伊達娘恋緋鹿子

    〇国立文楽劇場令和6年初春文楽公演第3部(2024年1月6日、17:30~)2年ぶりに初春文楽公演を見た。大阪で見る文楽、特に初春公演は格別。いつものお供え餅とにらみ鯛。大凧の「辰」の揮毫は、京都・壬生寺の松浦俊昭貫主による。そういえば、12月に同劇場で壬生狂言の公演があったのだ。壬生狂言、見たことがないので一度見たいと思っている。・『平家女護島(へいけにょごのしま)・鬼界が島の段』名作なので何度か見ている。前回は2018年の初春公演で、俊寛僧都は今回と同じ玉男さんだった。前回の記憶は曖昧だが、舞台に登場した俊寛のたたずまいにすぐに引き込まれた。11月の文楽公演のプログラムに玉男さんのインタビューが掲載されていて、聞き手が「近年ますます、初代玉男師匠に似てこられたように感じます」と話を向けていたのを思い出...原作改変の二作品/文楽・平家女護島、伊達娘恋緋鹿子

  • 2024年1月関西旅行:京都・佐々木酒造あたり

    先週の三連休は関西で遊んでいたので、今年の大河ドラマ『光る君へ』の第1回放送は京都・二条城近くのビジネスホテルのテレビで見た。最終日は早めに東京に帰ろうと思って、ふと考えたら、紫式部の夫・藤原宣孝役の佐々木蔵之介さんの実家「佐々木酒造」が近くにあることを思い出した。朝イチで、ぶらぶら歩いて寄ってみることにした。場所は丸太町通の北側。このへんは観光寺院がないのでほとんど来たことがない。ふつうの住宅街の路地に入ると、瓦屋根の木造家屋の前に黄色いケースを積み上げた搬入スペースがあって、その先に店舗の入口が見えた。杉玉の隣りには、京都風の簡素な正月飾り。とてもよい。角を曲がると、絵に描いたような造り酒屋の蔵が続く。煙突。調べたら、昔は酒米を蒸したり火入れをしたりするための燃料として石炭や木炭を使っていたため、燃焼...2024年1月関西旅行:京都・佐々木酒造あたり

  • 2024年1月関西旅行:辰づくし(京都国立博物館)他

    今週は軽井沢出張が入ってブログが書けていなかった。関西旅行の記録続き。2日目は京都周遊。■京都国立博物館新春特集展示『辰づくし-干支を愛でる-』(2024年1月2日~2月12日);特別企画・特集展示『弥生時代青銅の祀り』(2024年1月2日~2月4日);修理完成記念・特集展示『泉穴師神社の神像(2024年1月2日~2月25日)私は常設展モードの京博が大好きなので、お正月はとてもいい。3階の「陶磁」は京焼の色絵の名品がお正月らしく華やか。中国磁器の磁州窯や青花蓮華文盤も彩りを添える。三彩馬俑、男子立俑、鎮墓獣なども(明器だけど)晴れやかな雰囲気。2階「絵巻」は京都の寺院に伝わる江戸時代の縁起絵巻が3件。続く『辰づくし』には、濃いオレンジ色の『龍袍(金黄地綴織)』が出ていた。金黄(金杏)色は貴妃や皇子が着る色...2024年1月関西旅行:辰づくし(京都国立博物館)他

  • 2024年1月関西旅行:女流画家たちの大阪(大阪中之島美術館)他

    新年の三連休は関西方面で遊んできた。このところ、春夏秋は京都のホテルがほとんど取れなかったので、とりあえず宿泊を確保したところで安心して、ギリギリまで計画を立てるのをサボっていた。年明けに、慌てて新春文楽公演のチケットを取って、初日は大阪観光からスタートすることにした。■大阪中之島美術館『決定版!女性画家たちの大阪』(2023年12月23日~2024年2月25日)約百年前の大阪では、島成園、木谷千種、生田花朝など多くの女性日本画家が活躍していた。当時の美術界は、東京と京都がその中枢を担い、制作者は男性が大多数を占めていたが、女性日本画家の活躍において大阪は他都市と肩を並べており、その存在は近代大阪の文化における大きな特色のひとつとなった。本展は、50名を超える近代大阪の女性日本画家の活動を約150点の作品...2024年1月関西旅行:女流画家たちの大阪(大阪中之島美術館)他

  • 和紙舗と生活の美/HAIBARA Art & Design(三鷹市美術ギャラリー)他

    年末年始休み(今日まで)に見てきたもの。あとで書こうと思うと溜まってしまうので、今年はまとめて書いていくようにする。■三鷹市美術ギャラリー『HAIBARAArt&Design和紙がおりなす日本の美』(2023年12月16日~2024年2月25日)日本橋に店舗を構える和紙舗「榛原(はいばら)」の仕事を紹介する。榛原は1806(文化3)年、初代須原屋佐助(中村佐助)が小間紙屋を開業したのが始まりと言われている。須原屋?と思ったら、書物問屋の須原屋茂兵衛の店で支配人をしていた人らしい。18世紀の終わり頃から生産が開始された熱海製の雁皮紙の販売で評判を得る。本展の展示品は、おもに明治から昭和初期にかけて製作された和紙や紙製品。河鍋暁斎、梶田半古、川端玉章、竹久夢二などの有名どころが千代紙のデザインをしていることに...和紙舗と生活の美/HAIBARAArt&Design(三鷹市美術ギャラリー)他

  • 新しい古典の誕生/映画・ゴジラ-1.0

    〇山崎貴監督・脚本『ゴジラ-1.0(マイナスワン)』(TOHOシネマズ日本橋)年末年始休暇のうちに映画館で映画が見たくなって、大晦日の朝に見てきた。事前に私が仕入れていた情報は「敗戦後すぐが舞台」「朝ドラ『らんまん』の主役コンビ、神木隆之介くんと浜辺美波さんが主演」「神木隆之介くんは元特攻隊員」「ゴジラが怖い」くらいだったが、とてもおもしろかった。大戦末期、特攻隊として出撃した敷島浩一(神木隆之介)は、搭乗機の故障のため、大戸島の守備隊基地に不時着する。しかし整備兵の橘(青木崇高)は故障個所を見つけられず、敷島が特攻逃れのために故障を偽ったのではないかと疑う。その晩、基地は巨大な怪獣「呉爾羅(ゴジラ)」に襲わる。橘は敷島に、零戦に装着されている20ミリ砲でゴジラを撃つよう懇願するが、敷島は恐怖で撃つことが...新しい古典の誕生/映画・ゴジラ-1.0

  • 2024初詣・深川七福神巡り

    明けましておめでとうございます。去年の正月は喪中だったので、2年ぶりに新年の賀詞を唱えてみる。今年は、毎日なるべく歩こうと決めたので、元旦から深川七福神巡りに出かけた。門前仲町の住人になって2回目のお正月、2019年にも一度巡っている。当時は生活圏が極端に狭かったので、清澄白河も森下もよく分からなかったが、今はすっかり地元感覚である。2019年と同じ、深川不動堂~恵比須神(富岡八幡宮)~弁財天(冬木弁天堂)~福禄寿(心行寺)~大黒天(円珠院)~毘沙門天(龍光院)~布袋尊(深川稲荷神社)~寿老人(深川神明宮)というコースで回った。2019年の記事を読んでみたら、冬木弁天堂では「小さなお厨子の中に、木目込み人形のようにきれいな錦の着物を着た、かわいい弁天様」と書いているが、今年はそのほかに、大きくて美麗な弁財...2024初詣・深川七福神巡り

  • 後に残る者たちへ/中華ドラマ『一念関山』

    〇『一念関山』全40集(檸檬影業、愛奇藝、2023年)架空の王朝を舞台にした武侠劇。中原では、安国・梧国という2つの強国が覇権を争っていた。戦いに敗れた梧国皇帝は安国の捕虜となり、安国は梧国に対して、十万両の身代金を携えて迎帝使として皇子を寄こすよう要求する。迎帝使の人選に苦慮した梧国宮廷は、皇帝の異母妹で、母親の身分が低かったため、冷宮で育った公主の楊盈を皇子礼王と偽って送り出すことにした。梧国の秘密警察組織である六道堂の堂主・寧遠舟は、礼王の護衛として旅に同行することになった。一行には、六道堂の仲間たちのほか、寧遠舟の表妹を名乗る謎の美女・任如意が加わっていた。如意はもとの名を任辛と言い、安国の秘密警察・朱衣衛の左使をつとめた伝説の刺客だった。しかし7年前、敬愛していた安国皇后が何者かに殺害される事件...後に残る者たちへ/中華ドラマ『一念関山』

  • 日本人と日本文化の起源/縄文人と弥生人(坂野徹)

    〇坂野徹『縄文人と弥生人:「日本人の起源」論争』(中公新書)中央公論新社2022.7本書のオビの表面には、縄文人と弥生人の復元模型の顔写真を並べて、大きな赤字で「日本人とは何者か?」と書かれていた。裏面には「縄文人と弥生人はいかなる人びとであったのか?」とも。私は、この種の疑問には関心がなかったので、本書をスルーしていた。しかし著者の関心は、より正確には「日本人(縄文人と弥生人)はいかなる人びとと考えられてきたのか?」という論争史にあると分かって、俄然、興味が湧いて読んでみた。日本における近代的な人類学・考古学はモースの大森貝塚発掘(1877年)に始まるというから、150年足らずの歴史しかないが、研究は大きな進展を遂げてきた。そもそも当初は、縄文式土器と弥生式土器の先後関係も明らかではなく、異なる集団の文...日本人と日本文化の起源/縄文人と弥生人(坂野徹)

  • 晴れの日の装い/繍と織(根津美術館)

    〇根津美術館企画展『繍(ぬい)と織(おり):華麗なる日本染織の世界』(2023年12月16日~2024年1月28日)初代・根津嘉一郎の蒐集品を中心に、法隆寺や正倉院伝来の上代裂、袈裟や打敷などの仏教染織、唐織や縫箔といった能装束、そして江戸時代の小袖まで、幅広い時代の染織品の中から、織と刺繡の技が光る作品を紹介する。私は染織工芸には、あまり積極的な関心を持っていないのだが、同館では、何度か興味深い展示に出会ったことがある。たとえば、2022年の企画展『文様のちから技法に託す』や、2021年の『国宝燕子花図屏風』展にあわせて、3階の展示室5で開催されていた「上代の錦繍綾羅(きんしゅうりょうら)」などである。本展は、はじめに上代裂を特集。経錦(たてにしき)と緯錦(ぬきにしき)とか、夾纈(きょうけつ)・臈纈(ろ...晴れの日の装い/繍と織(根津美術館)

  • 2023東京ジャーミーから笹塚へ歳末散歩

    今夜はクリスマスイブ。机の上には去年、ロフトで買った安物のツリー。アラブ・トルコのお菓子をデザートにいただく。昨日、代々木上原のモスク(東京ジャーミー)の「パレスチナ・デー」と題したイベントに行って買ってきたもの。訪ねたのが午後の遅い時間だったので、すでに品薄だった。機会があったら、次はもっと早い時間に行こう。スイカのブローチ(木製)も買った。スイカがパレスチナへの連帯のシンボルとして使われていることは知らなかったけど、その色彩(赤、緑、黒、白)を見たら、すぐに分かった。この日は、代々木上原から笹塚までぶらぶら歩いてみた。私はこの近辺に10年くらい住んでいたことがあるのだが、職場と自宅を往復するだけの日々で、通勤経路を外れた街歩きを楽しむこともなかったなあ、と振り返る。笹塚では、以前にも一度来たことのある...2023東京ジャーミーから笹塚へ歳末散歩

  • 2023年8-12月展覧会拾遺(東博の展示から)

    東京国立博物館の展示から。■東洋館8室特集『中国書画精華-日本におけるコレクションの歴史』(前期:2023年10月31日~11月26日)(2023年11月28日~12月24日)毎年恒例の特集展示。今年は前期・後期とも、伝来の時期による「古渡り」「中渡り」「新渡り」の分類に従って展示されていた。前後期とも見に行ったが、特に後期は、根津美術館の『北宋書画精華』とつなげて見ることで味わいが増したように思う。後期は、金大受筆『十六羅漢図』3幅など、仏教道教に関するあやしい人物画がたくさん出ていた。『天帝図軸』(元~明時代)は、玉座に玄天上帝(足元に亀と蛇の玄武)、その周りに四人の武神、関元帥(関羽)、趙元帥、馬元帥、温元帥を描く。所蔵先は文京区の霊雲寺で、徳川将軍家の祈願寺だという。地理的に、私は近くを通ったこと...2023年8-12月展覧会拾遺(東博の展示から)

  • 2023年8-12月展覧会拾遺

    書き洩らし展覧会レポートの振り返り。■泉屋博古館東京特別企画展『日本画の棲み家-「床の間芸術」を考える』(2023年11月2日~12月17日)明治時代以降、西洋に倣った展覧会制度の導入は、床の間や座敷を「棲み家」とした日本絵画を展覧会場へと住み替えさせた。一方、同館の日本画コレクションは、むしろ邸宅を飾るために描かれたもので、来客を迎えるための屏風や床映えする掛軸など、展覧会を舞台とする「展覧会芸術」とは逆行する「柔和な」性質と「吉祥的」内容を備えている。本展は、かつて住友の邸宅を飾った日本画を紹介しながら「床の間芸術」を再考する。この言葉、時代によって、あるいは画家によって、否定的にも肯定的にも使われているのが興味深かった。木島桜谷の金屏風着色『雪中梅花』の美しさ!これは毎年でも見たい。■町田市立国際版...2023年8-12月展覧会拾遺

  • 陶磁器あれこれ/青磁(出光美術館)、古伊賀(五島美術館)他

    レポートを書きそびれた展覧会が溜まっているので、思い出せるものから書いてみる。■出光美術館『青磁-世界を魅了したやきもの』(2023年11月3日~2024年1月28日)青磁の誕生前夜の灰釉陶器から、漢時代に成熟し始める越州窯、日本人が愛してやまない龍泉窯青磁など、中国における青磁の展開を中心に取り上げながら、高麗や日本、さらには東南アジアなどの青磁も紹介し、世界の人々を魅了した青磁の魅力に迫る。展示件数116件、ほとんどが同館のコレクションだが、徳川美術館や根津美術館からの出陳もあり。東博の青磁輪花茶碗『馬蝗絆』も来ていた。青磁は、もと南方で誕生したが、南北朝の時代に南北の文化交流が進むと、華北でも生産が始まった可能性がある、という解説を読んで、こんなところにも南北の多元性が!と興味深かった。あらためて認...陶磁器あれこれ/青磁(出光美術館)、古伊賀(五島美術館)他

  • 中国の多元性/物語 江南の歴史(岡本隆司)

    〇岡本隆司『物語江南の歴史:もうひとつの中国史』(中公新書)中央公論新社2023.11「江南」は、一般的には長江下流部の南方を指す用語だが、本書ではもう少し広く、中国語の「南方」の意味で使っている。北方=中原がまさに「中国」であるのに対して、南方=長江流域と沿海部は、中国を成り立たせると同時に「一つの中国」を否定し、中国の多元性を体現してきた地域なのである。春秋時代、中原の諸侯が連合して「中国」を名乗ると同時に、長江流域には楚・呉・越の諸国が起こり、北方と不可分にかかわる「江南」の歩みが始まる。以下、本書は「江南」を「長江上流(四川・重慶)」「長江下流(江蘇・浙江・安徽・江西)」「沿岸・海域(福建・広東)」「長江中流(湖南・湖北)」に分けて紹介していく。これらの地域が歴史に立ち現れるのが、この順序なのであ...中国の多元性/物語江南の歴史(岡本隆司)

  • 鳥取土産「白バラのシュトーレン」

    鳥取土産、大山乳業の「白バラのシュトーレン」を開封。表面にはシュガーパウダーがたっぷり!生地は、たぶんドイツ伝統の焼き方に比べると、軽め、やわらかめ。スパイスやラム酒の風味もあまり強くない。日本人の好みに寄せた「和風」のシュトーレンという印象。最初の1切れは紅茶でいただいたが、緑茶でもいけそうである。鳥取、名古屋の連続出張を終えて、あとは年末までのんびりの予定。鳥取土産「白バラのシュトーレン」

  • 日中近代史の記憶/偉人たちの邂逅(大倉集古館)

    〇大倉集古館企画展・大倉組商会設立150周年『偉人たちの邂逅-近現代の書と言葉』(2023年11月15日~2024年1月14日)明治6(1873)年の大倉組商会設立から150年を数えた本年、創設者・大倉喜八郎と、嗣子・喜七郎による書の作品とともに、事業や文雅の場で交流した日中の偉人たちによる作品を展示する。この秋、根津美術館の『北宋書画精華』には、色とりどりの料紙を貼り継いだ『古今和歌集序』が出ていたし、東博の『やまと絵』第4期(記事は書いていない)では、久しぶりの『随身庭騎絵巻』を見た。所蔵の名品を惜し気もなく他館に貸し出しているわりには、自館の展示がずいぶん地味で苦笑したが、歴史好きには興味深かった。1階は中国関係でまとめている。冒頭には黄色い縦長の料紙に七言の書。署名はなく、右肩に朱角印。温和でバラ...日中近代史の記憶/偉人たちの邂逅(大倉集古館)

  • 国宝と天体望遠鏡/皇室のみやび、他(皇居三の丸尚蔵館)

    〇皇居三の丸尚蔵館開館記念展『皇室のみやび-受け継ぐ美-』(第1期:三の丸尚蔵館の国宝)(2023年11月3日~12月24日)三の丸尚蔵館は、皇室ゆかりの文化財等を展示・公開する施設である。私は、ずっと昔から(戦後すぐくらいから)存在した施設のように思っていたが、調べたら、昭和天皇の崩御をきっかけに皇室の財産の整理が行われ、国有財産となった美術品類を適切な環境で保存研究し、一般に公開する目的で1993年に設置された。コロナ禍で全く気づいていなかったが、2019年12月から新施設への移行準備のため、しばらく休館していた。今年1月、新棟の第1期工事が完了し、開館記念展が開催される運びとなったのである。さらに大きな変化は、2023年10月1日付で、管理・運営が宮内庁から独立行政法人国立文化財機構へ移管されたこと...国宝と天体望遠鏡/皇室のみやび、他(皇居三の丸尚蔵館)

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