サディアスがベッド端に腰掛けたので、アリアはその隣に並んで座った。 「博愛主義を貫かねば、と思っていたが」 唐突にサディアスが話しだす。 「口うるさくそう言う者たちはもう、いなくなっていた。幼少期の刷り込みにこだわっていた己が馬鹿らしい」 サディアスは自身の膝に片肘をついてうなだれ、手のひらで顔の半分を覆ってちらりとアリアを見やる。 「そのことに気がついていれば、きみともっと早…
メイドたちに「これがなんに見える?」と訊いても「ブタ」や「イヌ」と言われ続けてきたが、ようやく、だれに訊いても「ネコ」だと言ってもらえるようになった。 真っ白なハンカチの片隅に黄色い糸で刺繍した模様をアリアはあらゆる角度から確認した。 (うん、大丈夫!) これならどこからどう見ても、猫だと認識できる。豚や犬だとは言われまい。 (いつお渡ししよう……?) アリアは刺繍したハンカチ…
湖のほうばかり眺めていたせいで、その人がすぐうしろに来ていたことにまったく気がつかなかった。 ドンッ、と痛いくらいに背中を押されてふらつく。 両足は自分自身を支えきれず、斜め前へと倒れ込み、湖のなかへ落ちた。 溺れるというような事態に陥らなかったのは、湖畔は底が見えるほど浅いおかげだ。 「つめたくて気持ちがいいでしょう?」 高らかな声が頭上から降ってくる。 シンディはアリアを見…
ロイドの眉間に皺≪しわ≫が寄る。そのいっぽうで、シンディの顔は真っ青になった。ルークはというと、信じられないというような目でシンディを見ている。 「ルーク殿もシンディ様とご関係がおありでしょう? そうでなければ、僕の不在の隙をついてアリアを伯爵領に送り、手筈≪てはず≫よく迎え入れるというような愚行は成立しない」 厳めしい形相でパトリックが言及すると、ルークはすぐに「おっしゃる通りです」…
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