「でもね、アリア。殿下のことを狙っている女性はたくさんいると思うの。アリアは殿下とどうなりたいの?」 向かいのソファに座るバーサに見つめられる。 サディアスのことを頭のなかに思い描くと、心臓の脈動が強くなった。そういうふうに感じた。 「サディアス様のことが好き。できるなら、結婚したい」 バーサはわざとらしく「ええっ?」と訊き返す。 「できるなら、で……いいの?」 彼女はとき…
野菜を売りながら王都へ着く頃にはすっかり陽が暮れていた。 人生ではじめての野菜売りは楽しかったが、板張りで揺れの激しい荷台での旅路は思いのほか辛く、お尻が痛んで仕方がなかった。 アリアは汚れたドレスの尻をさすりながら歩き、リトルフ侯爵邸を訪ねる。 自邸には帰れない。兄のパトリックが不在のいま、邸へ戻ったところでレヴィン伯爵のもとへ送り返されてしまうに違いない。 「夜分にごめんなさい……
——だめだ。なにを言っても聞き入れてもらえそうにない。 アリアは頭を抱えてへなへなとソファに座り込んだ。 メイドたちが「お加減が優れませんか」と声を掛けてくれる。 「平気よ、ありがとう。あの……伯爵様は、もしかして……」 「はい。好色でいらっしゃいます」 彼女たちの主だというのにずいぶんはっきりと言うものだ。よほどひどい女好きなのだろう。そしてそのことを、メイドたちはよく思っていな…
それに、帰りたくても手段がない。王都まで歩いていたら何日かかるかわからないし、馬車を使おうにも手持ちの金がない。 (伯爵は、執務が立て込んでいると言っていたわね……) このぶんでは今日じゅうに王とへ帰るのは難しそうだ。 陽が暮れた頃、レヴィン伯爵が部屋を訪ねてきた。 「ようこそ我が邸へ、レディ・ロイド。挨拶が遅れて済まなかった」 レヴィン伯爵は想像していたよりも若々しい男性だっ…
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