ポケット一杯のラブ。 プロローグ
公立中学校の二年生になるとほんのわずかの間だが世の中に出て大人たちの職場で実際に働いてみる機会がある。社会科見学より一歩ふみこんだもので、この学習に対して異論はむろんあった。しかし、図書館や郵便局といった公共機関が選ばれているうえ、思春期をむかえた子どもにとって意義あるものらしく、もう数十年続いている。M子は学区内にある小さな郵便局で、この体験学習に参加した。ある日のこと、誰に頼まれたわけでもないのだが、大人がやっているのだから、自分にもできそうだと、封筒やら手紙やらの郵便物が一杯つまった大きな袋を、力まかせに持ち上げようとした。そのとたん、腰の辺りがくきっと鳴った。M子にとっては初めて耳にする音で、少し痛みをともなう。彼女はその場にへなへなとしゃがみこんだ。「おい、誰かみてやれ。ちょっとむちゃなことやっ...ポケット一杯のラブ。プロローグ
2024/02/29 23:34