思い出の連載小説『<おれ>という獣への鎮魂歌』(40)
その夜、隣人は帰ってこなかった。何があったのだろうと考えて、おれの眠気も吹っ飛んでしまった。明け方になって、とろとろと眠ったようだったが、なんとも不快な気分で目覚まし時計に起こされた。梅割り焼酎のげっぷが突き上げてきた。二日酔いというほどではないが、胃の調子が悪いのは確かだ。湯で薄めた牛乳と共に、胃腸薬を飲んで家を出た。しばらく顔を合わせていなかった紺野が、新たな事務所開設の挨拶を兼ねて、昼前にやってきた。万世橋に格安の貸事務所を見つけたとのことで、紺野はご機嫌だった。もともとの神田一帯のお得意さんにも近いし、秋葉原の電機街から上野周辺までカバーできるということで、前途洋々の展望を語ってひとり悦にいっていた。おれは、内心そんなに旨くいくかよと、紺野の見通しの甘さをあざ笑っていた。いくら場所が好いといっても...思い出の連載小説『<おれ>という獣への鎮魂歌』(40)
2023/08/31 00:33