マシロの帆

マシロの帆

マシロが望む場所にマシロの個室を用意してやるよ、と兄は言った。でも。(ここは最悪)と、揺れの収まらないベッドの上で体を丸めて硬く瞑っていた目から涙が流れる。感情的なものではなく、生理的な現象だ。初めて乗った船は最悪に居心地が悪かった。村から出て慣れない道を歩いて兄についてきたマシロを悩ませたのは疲労よりも深刻な人酔い、さらにそれを超えて辿り着いた船で船酔い。(だから村の外なんか嫌い。何にも良いことなんかなかった)知っていた。自分は知っていたのに、それでも兄がいてくれるなら大丈夫かも知れない、と思ってしまったのは、おそらく先に弟のセイランが村から出たから。自分より年下のセイランはその学力を認められて世界的に有名な学園へ入学するのだという。村ではその話題で盛り上がり、普段マシロとすれ違っても挨拶程度しかしない...マシロの帆