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  • 【2777冊目】夏目漱石『こころ』

    こころ (新潮文庫)作者:漱石, 夏目Shinchosha/Tsai Fong BooksAmazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン100冊目。夏に始まった100冊読破企画も、秋の終わりを迎え、やっとこさ終わりました。記念すべき100冊目は、言わずと知れた定番中の定番、近代日本文学の代表作のひとつです。とは言ってもこの本、ずいぶん前に読んだきり、ずっと読み返せないでいました。初読の印象がなんとも「痛かった」ので、なかなか再読する気が起きなかったのです。特に「先生の遺書」は読んでいて辛かった。そして再読したのですが、なんとも不思議な小説だったという印象です。前半の「私」はど…

  • 【2776冊目】一木けい『1ミリの後悔もない、はずがない』

    1ミリの後悔もない、はずがない (新潮文庫)作者:一木 けい新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン99冊目。過去と現在が交錯する連作短篇集。著者のデビュー作とのことですが、信じられない完成度です。冒頭のシーンから、イカを捌いていたら中から魚が丸ごと出てくるところが生々しく描かれていて驚かされます。イカのぬめりや内臓の感触まで感じられそうな文章です。実際、この人の文章は読む人の肌感覚にまで食い入ってくるようなところがあります。忘れられないのは、夫の実家での鍋のシーンです。各自が皿に取った具材を鍋にぼとぼとと戻し、ご飯を入れて雑炊にする気持ち悪さに、夫の実家での妻の…

  • 【2775冊目】町田そのこ『コンビニ兄弟 テンダネス門司港こがね村店』

    コンビニ兄弟―テンダネス門司港こがね村店―(新潮文庫nex)作者:町田そのこ新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン98冊目。フェロモン全開でファンクラブまである超個性的な店長がいるコンビニ「テンダネス門司港こがね村店」が舞台の連作短篇集・・・・・・と言って、食指が動く人がどれくらいいるでしょうか。私も正直「新潮文庫の100冊」に入っていなければ、手に取ることはなかったかもしれません。でも、この小説はとてもいい。コミカルですが人の人情の機微に触れるものがあり、短いながらそれぞれの登場人物のドラマがあります。女子高生、30代のパート主婦、中年男性、定年を迎えた初老の…

  • 【2774冊目】重松清『ハレルヤ!』

    ハレルヤ! (新潮文庫)作者:重松 清新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン97冊目。学生時代にバンドを組んでいた5人が、人生の後半を迎えてバンドの再結成に向けて動き出す・・・・・・というような話じゃなくて、安心した。本書で描かれているのは、人生の折り返し点に立った5人がつかのま交錯し、それぞれのステージで後半戦をはじめるさまなのだ。「終章」に書かれた作者の独白のようなものを読むと、もともとは別の物語を構想していたのが、キヨシローこと忌野清志郎の死で全部ぶっ飛んでしまい、そこから始まった「何か」を書くことにした、と書かれている。なるほど、確かにこの小説は、とても…

  • 【2773冊目】湊かなえ『豆の上で眠る』

    豆の上で眠る(新潮文庫)作者:湊かなえ新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン96冊目。失踪した姉が2年ぶりに帰ってくるが、妹だけは姉が偽物だと思えて仕方がない・・・・・・という話なのですが、実は半分以上が、姉の失踪期間中の出来事で占められています。姉を探すため「変質者探し」でスーパーに張り込み、小学生の妹をダシに怪しい家の家探しまでさせる母の描写がエグいです。子どもが行方不明になって半狂乱になる気持ちは理解できますが、妹があまりにもその犠牲になりすぎていて、なかなかに読むのが辛いものがありました。姉が帰ってきてからの、妹だけが偽物だと疑い続けるところもスリリング…

  • 【2772冊目】湯本香樹実『夏の庭』

    夏の庭―The Friends (新潮文庫)作者:香樹実, 湯本新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン95冊目。名作です。平成4年の刊行ですから、定番の名作が多い児童文学としてはかなり「新しい」作品ですが、おそらく本書は、はこれからもずっと読み続けられるでしょう。それほどの小説です。ズッコケ三人組を思わせる小学生3人が「死」に興味をもち、近所のおじいさんが死ぬまでを観察しようと集まります。しかし、思いがけずおじいさんと交流するようになった3人は、さまざまなことをそのおじいさんから学ぶのです。おじいさんが教えてくれるのは、どれも3人が親から教えてもらったことのない…

  • 【2771冊目】住野よる『か「 」く「 」し「 」ご「 」と「 』

    か「」く「」し「」ご「」と「(新潮文庫)作者:住野よる新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン95冊目。高校生5人が主人公の連作短編です。章ごとに語り手が変わります。変わっているのは、それぞれが相手の心の中を覗ける特殊能力をもっていること。その内容は、喜怒哀楽がトランプのマークの形で見えたり、数字で見えたり、気持ちの向きが矢印で見えたり、とさまざまです。ただ、この能力以外の点では、本書は仲良し5人組の気持ちの交錯を描いた、ふつうの青春小説です。むしろこの小説のトーンからすれば、能力は果たして必要なものだったのか、よくわかりません。著者は、人の感情が分かってしまうこ…

  • 【2770冊目】瀬尾まいこ『あと少し、もう少し』

    あと少し、もう少し (新潮文庫)作者:瀬尾 まいこ新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン94冊目。中学駅伝に挑む6人を主人公とした作品です。いい作品でした。まず構成がいい。1区から6区まで、それぞれの区間の走者を語り手に、同じ時間に起きた出来事を6通りに語ります。だから、同じ出来事でもまったく違う捉え方になるし、周囲からの見え方と本人の思いが大きく違う、ということも。そして、どの章も駅伝のシーン、次の走者にタスキをつなぐシーンで終わるのです。登場人物がいい。いじめられっ子の設楽、乱暴者の大田、気取り屋の渡部、盛り上げ役のジロー、素直な後輩の俊介、部長でリーダー役…

  • 【2769冊目】伊予原新『月まで三キロ』

    月まで三キロ(新潮文庫)作者:伊与原新新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン93冊目。珠玉の短篇集です。どれくらい素晴らしいかというと、図書館で借りて読み始めたにもかかわらず、最初の作品を読んですぐ本屋に走ったくらい。こういう出会いがあるから、読書はやめられません。どの作品にも、さまざまな過去や鬱屈を抱えている人が登場します。ある人と出会うことで凝り固まった感情がほぐれたり、人生が大きく変わるのですが、ユニークなのはそこに、月科学、化石、火山といった「科学」が介在していること。それも、単に知識上の小道具として出てくるのではなく、科学自体のありようが、人に大きく影…

  • 【2767・2768冊目】芦沢央『許されようとは思いません』『火のないところに煙は』

    許されようとは思いません(新潮文庫)作者:芦沢央新潮社Amazon 火のないところに煙は(新潮文庫)作者:芦沢央新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン91•92冊目。100冊中に複数作品がエントリーされていたのは、芦沢央のほかには重松清だけ。その割に名前くらいしか知らなかったので、興味津々で読んでみた。いずれも短篇集なのだが、『許されようとは思いません』は意外な結末が魅力のミステリ仕立て。絶妙なシチュエーションと心理描写の巧さがとにかく際立っている。「目撃者はいなかった」の営業マンが、ミスを隠蔽しようとするうちにどんどん追い込まれていくさまは、自分のことのように…

  • 【2766冊目】米澤穂信『儚い羊たちの祝宴』

    儚い羊たちの祝宴(新潮文庫)作者:米澤 穂信新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン90冊目。舞台は現代のはずなのに、スマホもゲームもSNSも出てこない。裕福な旧家の屋敷や召使いたち、どこか病んでいる登場人物、まるで横溝正史か江戸川乱歩の世界。短編集である。バベルの会という読書会が共通して出てくるが、最後の作品を除けばほとんど名前のみ。そして、どの作品も女性の一人語りであって、ギョッとするラストが用意されている(「山荘秘聞」はそこを逆手にとっているが)。本書の独特の雰囲気は、その語りのうまさにある。やはりどこか江戸川乱歩を思わせる。まあ、それだけといえば、それだけ…

  • 【2765冊目】津村記久子『この世にたやすい仕事はない』

    この世にたやすい仕事はない (新潮文庫)作者:記久子, 津村新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン89冊目。ちょっと風変わりな「お仕事小説」。風変わり、というのは、お仕事小説の多くは「一つの仕事を通じて人間が成長していく」プロセスを描くが、本書は、一人の女性がいろんな仕事を転々としていく連作短編なのだ。しかもその仕事が、どれも、どこか変わっている。ある小説家をひたすら監視。バスの広告アナウンスの原稿づくり。菓子袋の裏のプチ情報作成。ポスターの貼り替え。そして最後は、広大な森林公園にある小屋でひたすらチケットにミシン目を入れるという、ほとんどコナン・ドイルの「赤髪…

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