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  • 【2764冊目】三浦綾子『塩狩峠』

    塩狩峠 (新潮文庫)作者:綾子, 三浦新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン88冊目。読み終えて、いろんなことを考えさせられました。特に、キリスト教というもの、信仰というものと、そろそろ正面から向き合わなければなるまい、という思いが強くなりました。自分の命を犠牲にして列車を止めるという信夫の行動自体は、彼自身の気高さ、人間的な高み、ということで説明がつくのかもしれません。しかし、それをかたちづくったのは間違いなく、キリスト教の信仰であったことを考えるとき、そのことを抜きにして信夫の行動だけを称えるというのは、やはりある種の欺瞞ではないかと思うのです。歴史を見れば…

  • 【2763冊目】伊坂幸太郎『ホワイトラビット』

    ホワイトラビット(新潮文庫)作者:伊坂幸太郎新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン87冊目。誘拐ビジネス。たてこもり。死体隠しに、オリオン座に「レ・ミゼラブル」。う〜ん。並べてみても、まったくもって意味不明ですね。でも、この小説はこれ以上の解説が難しいので、致し方ありません。とにかく予想外の展開の連続で、しかも話が行ったりきたりするので、ややこしいことこの上ない。でもその分、全体像が見えてきた時の快感は、ちょっと比類がありません。まあとにかく、伊坂幸太郎の真骨頂とでもいうべき、トリッキーな展開に変わり者の登場人物のオンパレード。関係ないと思っていたオリオン座の蘊…

  • 【2762冊目】江國香織『号泣する準備はできていた』

    号泣する準備はできていた (新潮文庫)作者:香織, 江國新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン86冊目。「前進、もしくは前進のように思われるもの」「じゃこじゃこのビスケット」「熱帯夜」「煙草配りガール」「溝」「こまつま」「洋一も来られればよかったのにね」「住宅地」「どこでもない場所」「手」「号泣する準備はできていた」「そこなう」の12篇が収録されています。今更ですが、江國香織はタイトル名人ですね。上に挙げたタイトルも、それぞれに見事で、内容が気になります。その内容もまた、素晴らしい。大きな事件が起きるわけではありません。夫の実家に行ったり、デパートで買い物をした…

  • 【2761冊目】王城夕紀『青の数学』

    青の数学(新潮文庫nex)作者:王城夕紀新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン85冊目。数学と情緒を結びつけて語ったのは岡潔ですが、この小説では、数学と叙情が結びついています。細かい説明よりも、独特の空気感に包まれて読む小説です。描かれているのは、数学をめぐる、高校生たちの戦いと青春ですが、雰囲気はまるでスポーツ青春ドラマのよう。それも、ガチのスポ根モノというより、少女マンガ要素が入ったさわやかスポーツ青春モノなのです。実際、この小説は、マンガになったものを読んでみたいと思いました。叙情に流されがちな文章も、マンガであれば同時に背景を描き込むことで説明が足りる。…

  • 【2760冊目】谷崎潤一郎『春琴抄』

    春琴抄(新潮文庫)作者:谷崎潤一郎新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン84冊目。再読ですが、何度読んでもヤバい小説です。「愛している」と、言葉で言うのは簡単です。それなりの行動で示すことも、あるでしょう。でも、ここに出てくる佐助のような行動を「愛のために」取れる人はいるでしょうか。盲目の春琴は、佐助にとって三味線の師匠であって、圧倒的な崇拝の対象でした。ところが、あるトラブルが原因で、春琴は顔面に熱湯をかけられ、その美貌が損なわれてしまいます。醜くなった自分の顔を見ないでくれ、と願う春琴。そこで佐助は、春琴の願いを叶えつつその傍らにいるために、自らの眼を針で突…

  • 【2759冊目】ハリエット・アン・ジェイコブズ『ある奴隷少女に起こった出来事』

    ある奴隷少女に起こった出来事 (新潮文庫)作者:ジェイコブズ,ハリエット・アン新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン83冊目。当初はフィクションと思われて忘れられていたが、実話とわかるや否やベストセラーになったといういわくつきの一冊です。確かにノンフィクションとしての迫力やリアリティはものすごいですが、小説だからといって忘れられるというのは、いささか腑に落ちません。小説だとしても、本書のもたらす感動は十分なものだと思うからです。むしろこれは、刊行された1861年という時代が影響しているのではないかと思います。なにしろこれは、南北戦争が始まった年なのです。奴隷制が…

  • 【2758冊目】小川糸『あつあつを召し上がれ』

    あつあつを召し上がれ (新潮文庫)作者:小川 糸新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン82冊目。実ははじめての小川糸作品。前から気になっていた作家さんではあったのですが。短篇集です。どの作品も、食べ物が登場し、重要な役割を演じています。味や香りの記憶は、人を過去に引き戻したり、失った人を思い出させてくれます。父親が愛してやまなかった中華屋のぶたばら飯。母が作り方を教えてくれた味噌汁。記憶の中にだけ息づくコロッケ、いや「ハートコロリット」。一番良かったのは「季節はずれのきりたんぽ」でした。亡き父がこだわったきりたんぽを再現しようとする母と娘。料理を作るうちに生き生…

  • 【2757冊目】佐藤多佳子『明るい夜に出かけて』

    明るい夜に出かけて(新潮文庫)作者:佐藤多佳子新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン81冊目。大学を休学し、コンビニの夜勤バイトで生活する富山は、実はひそかに深夜ラジオにネタを投稿しています。実は、以前は別の名前で頻繁に投稿していた有名な「ハガキ職人」だったのですが、とある出来事がきっかけでバッシングされ、心が折れてしまったのです。本書は、そんな富山がバイト先の先輩でネットの「歌い手」である鹿沢、深夜のコンビニに登場するエキセントリックな女子高生の佐古田、性格にかなりクセがあり、富山の過去を知っている友人の永川と関わるなかで、少しずつ精神を回復していく物語です。…

  • 【2756冊目】宮沢賢治『銀河鉄道の夜』

    新編 銀河鉄道の夜 (新潮文庫)作者:賢治, 宮沢新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン80冊目。「よだかの星」「オツベルと象」「猫の事務所」「セロ弾きのゴーシュ」など定番の名作揃いですが、やはり表題作「銀河鉄道の夜」が一頭抜けています。圧倒的にせつなく美しい物語世界は、日本のすべての小説の中でも最高峰でしょう。たとえば次のような描写は、ほかのどんな作家にも書けないものだと思います。「するとどこかでふしぎな声が、銀河ステーション、銀河ステーションと云う声がしたと思うといきなり眼の前が、ぱっと明るくなって、まるで億万の蛍烏賊(ほたるいか)の火をいっぺんに化石させて…

  • 【2755冊目】寮美千子編『空が青いから白をえらんだのです』

    空が青いから白をえらんだのです ―奈良少年刑務所詩集― (新潮文庫)新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン79冊目。少年刑務所の受刑者が書いた詩を集めた一冊です。巻末にある編者の文章「詩の力 場の力」を最初に読むことをオススメします。詩を書くこと、書いた詩を褒められることを通して、罪を犯した少年たちがどのように変わっていったかが書かれています。いつもふんぞり返っていたのに、俳句を褒められたことがきっかけで、身を乗り出すような姿勢で話を聞くようになったO君。自傷傾向があり精神的に不安定だったけど、妄想や空想をノートに書くことで落ち着き、人の相談を受けるまでになった…

  • 【2754冊目】乃南アサ『しゃぼん玉』

    しゃぼん玉 (新潮文庫)作者:アサ, 乃南新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン78冊目。親から愛されず育ち、何をやっても長続きせず、ひったくりで生活している翔人が、ひょんなことから山深い村で老婆の世話になり、人間性を取り戻していく・・・という、あらすじだけ読むと、なんともベタな物語ですが、これが実に良い小説で驚きました。特に翔人が村に戻っていくラストには、小説では滅多に泣かない私がうるっときてしまいました。翔人は、村で厳しく叱られたり、指導されたわけではありません(「シゲ爺」には叱られたり、はたかれたりしてましたが)。手作りのおいしい食事、「ぼうは、良い子」と…

  • 【2753冊目】恩田陸『夜のピクニック』

    夜のピクニック(新潮文庫)作者:恩田 陸新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン75冊目。実は、恩田陸の小説はちょっと苦手。なので、本書もなんとなく敬遠していたのですが、読んでみたら予想外の素晴らしさにびっくり! 読むうちに夢中になってしまいました。全校生徒が丸一日、80キロを歩き通す「歩行祭」。本書は全編が、そのイベントの中で展開されています。ひたすら歩き、語るだけなのに、そこで起こるすべてがなんとみずみずしく、懐かしく、そして輝いていることか。そして、400ページ以上にわたって歩きつづけるだけなのに、次々に場面や話題が切り替わり、一瞬たりとも飽きさせず、むしろ…

  • 【2752冊目】コナン・ドイル『シャーロック・ホームズの冒険』

    シャーロック・ホームズの冒険 (新潮文庫)作者:コナン ドイル新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン74冊目。言わずとしれたシャーロック・ホームズの第一短篇集。「ボヘミアの醜聞」「赤髪組合」「花婿失踪事件」「ボスコム谷の惨劇」「オレンジの種五つ」「唇の捩れた男」「青いガーネット」「まだらの紐」「花嫁失踪事件」「椈屋敷」が収められている。小学校の図書室にあった江戸川乱歩の「少年探偵団」シリーズから入り、シャーロック・ホームズにハマり、そこからクリスティ、クイーンに進むという王道ルートでミステリを読み始めた人間としては、本書のラインナップはなんとも懐かしい。同時に、…

  • 【2751冊目】谷川俊太郎『ひとり暮らし』

    ひとり暮らし (新潮文庫)作者:俊太郎, 谷川新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン73冊目。著者は詩人だが、本書は詩集ではなくエッセイ。日常のつれづれやいろいろな思いをやさしい言葉で綴っているが、その奥はとても深い。そのあたりは、エッセイとはいえさすが谷川俊太郎、というべきか。生と死をめぐる文章が面白い。著者は葬式について「結婚式に行くのよりずっといい」と書く。なぜかというと、結婚式にはどうしても「未来」がつきまとうが、未来には心配や不安がつきものだ。だが葬式には「未来というものがない」。だから気楽なのだという。だいたい、みんな「死」のことばかり心配するが、実…

  • 【2750冊目】角田光代『さがしもの』

    さがしもの (新潮文庫)作者:光代, 角田新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン72冊目。「本」にまつわる短篇集です。「旅する本」「だれか」「手紙」「彼と私の本棚」「不幸の種」「引き出しの奥」「ミツザワ書店」「さがしもの」「初バレンタイン」の9編に、「あとがきエッセイ」がついています。どの作品にも、本が登場し、「本を読む人」が登場します。古本屋に売った本に旅先で再会する「旅する本」、本を共有した彼との別れを本と一緒に振り返る「彼と私の本棚」など、読むほどに、本は本だけでは存在しないこと、そこにはかならず本を手に取り、読み、本棚に差す「人」がいることが感じられ、そ…

  • 【2749冊目】H・P・ラヴクラフト『インスマスの影 クトゥルー神話傑作選』

    インスマスの影 :クトゥルー神話傑作選 (新潮文庫)作者:H・P・ラヴクラフト新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン71冊目。創元推理文庫の全6巻(現在は全7巻)、黒一色に不気味なイラストの『ラヴクラフト全集』にハマったのは、中学生から高校生の頃でした。他のどんな小説とも違う、独特すぎる世界観とそれを支える異様な文章は、自分を特別だと思いたくてしょうがなかった当時の自分にぴったりだったのでしょう。本書に収録された「インスマスの影」や「クトゥルーの呼び声」を読むと、当時のことをいろいろ思い出します。ちなみにその頃はクトゥルーは「クトゥルフ」、ヨグ・ソトホートは「ヨ…

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